軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

922:久遠源十郎

ジジイの出現という、あまりにも衝撃的な事態の発生から一夜明け。

俺は、エレノアとアルトリウスという、関係者を集めた会議に参加することになった。

俺は緋真を、そしてアルトリウスは軍曹を連れてきている――これは要するに、ジジイの関係者ということだろう。

シャンドラの城の一室で待っていたアルトリウスと軍曹は、何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。

「少し遅れたか?」

「いえ、時間には間に合っていますよ。始めましょうか」

「ところで一つ気になるのだけど、聖女様を連れてきて良かったのかしら?」

声を上げたエレノアの隣には、彼女の言う通り聖女ローゼミアが座っている。

恐縮した様子の彼女は、胸に小さな金のドラゴンを抱えたまま、会釈するように小さく頭を下げていた。

あれは、この間卵から生まれた真龍だろうか。意外にも、それなりに育成はされているらしい。

「今後のことに関わりますので、ローゼミア様には出席していただきました」

「邪魔にはならないようにするつもりですので……」

「ああ、別に反対しているわけじゃないのですよ。ただ……ちょっと、込み入った話になりそうだったので」

そう口にしたエレノアは、ちらりとこちらの方を見てくる。

まあ、ジジイが出てきた以上はこちらの 世界(サーバ) の話にならざるを得ないだろう。

それに関して、聖女にはどのように説明すればいいのかは難しいところだが――まあ、なるようにしかならないか。

どの道、ここから先は互いの 世界(サーバ) に関する話は避けられないのだから。

「まずは、状況の確認と共有から行きましょう。エインセルを討伐してから後の話です」

アルトリウスの前置きに、とりあえず頷く。

エインセル自体についてもまとめておきたい部分はあるのだが、今はそれほど重要ではない。

必要となるのは、その先の情報なのだから。

俺たちに異存がないことを確認して、アルトリウスは話を続ける。

「大公エインセルの討伐後、竜心公ドラグハルトの勢力下にある悪魔たちは、揃って自害をし、そのリソースをドラグハルトへと結集しました。その力を以て、ドラグハルトは大公ヴァルフレアへと挑戦、これを打ち破っています」

「詳細に見ることができたわけじゃないが、あそこまでしても純粋な力の総量ではヴァルフレアが上だったようだな。だが、それでも戦闘はドラグハルトが上回った」

「正直、この状況ではヴァルフレアに勝って貰いたかったところではありますが……そこはひとまず置いておきます」

まあ、ヴァルフレアに関しても脅威であることに間違いはないのだが、行動方針的には明らかにドラグハルトの方が厄介だった。

とはいえ、首の皮一枚で何とか繋がったことも事実であるし、今は置いておくことにしよう。

「ヴァルフレアのリソースを奪い取ったドラグハルトは、その足で金龍王に戦いを挑み、これを撃破。その力を以て女神に戦いを挑もうとしたタイミングで、あの方が……久遠源十郎氏が現れました」

「……」

その言葉に、俺と軍曹は揃って沈黙する。

そしてちらりと目配せをし――互いが抱いている感覚が、間違いでないことを実感した。

「クオンさん、お聞きしたいのですが……あの方は、紛れもなく本物でしたか?」

「ああ、間違いない。あれは俺の祖父、久遠源十郎だ。あのジジイの他に、あんな剣を振るえる人間がいる筈がない」

あの時に見た、寒気がするほどに鋭い一閃を思い出す。

次元の精霊の助力を得ていた様子ではあるが、だからこそジジイの刃はドラグハルトの命脈を一撃で立ち斬ってみせた。

だが、それも当然と言えば当然だろう。大公たちの性質から考えて、ジジイの剣は奴らにとっての弱点であると言っていい。

何故なら――ジジイはやろうと思えば、全ての剣閃に『唯我』の性質を持たせることができるからだ。

このタイミングでそんな存在が現れたことについては、ドラグハルトに同情しないでもなかったが。

「俺はシェラートみたいに体の動きでそれを判断するのは無理だが、あの話口調に違和感はなかったな。紛れもなく、俺たちのヒーローのサムライマスターだったぜ」

「お二人の様子からして、間違いなくご本人ではありそうですね」

「久遠神通流については私も情報を集めさせて貰ったけど……久遠家の先代当主という話以外にはあまり出てこなかったわね」

「しばらくは海外で活動していたからな、それは仕方あるまい。だが、歴代で最も強い剣士であるという評価は、誇張ではないと思ってる」

ただ一人で久遠神通流を興した祖にすらも匹敵、或いは凌駕するのではないか――久遠源十郎は、それほどの怪物なのだ。

問題は、そんな怪物が今や俺たちの敵となっていることなのだが。

エレノアがうちの家系を調べていたことについては、まあ特に言及することもない。

彼女の経歴からすれば当然の行動ではあるだろう。

「で……そんな人物が、何だって貴方たちも知らないところでこの計画に参加して、あろうことか敵の手に落ちているのかしら?」

「俺に聞かれても困る。あのクソジジイ、俺に家のことを押し付けて出奔しやがったからな」

「僕は……こちらの方でも調べてみましたが、情報は出て来ませんでした。ですがあの様子からして、恐らくお爺様に接触したのではないかと」

「お爺様、逢ヶ崎竜一郎氏と? それは……」

箱庭計画に最初期から関わっていた 逢ヶ崎竜一郎は、ある意味マレウス・チェンバレンのライバルとも言える存在だ。

彼がその争いに勝利したからこそ今の 箱庭(サーバ) の姿があり、そしてマレウスがMALICEの首魁として君臨しているのである。

経歴はともあれ――竜一郎氏は、確かに移住計画に関わっていたとしても不思議ではないだろう。

「アルトリウス、竜一郎氏から話は聞けないのか?」

「お爺様は会長ではありますが隠居してしまっていて、もう会社の経営にはほぼ関わっていません。連絡を取ろうとしたのですが、それも通じませんでした」

「うちのジジイみたいに出奔したわけでもあるまいに、直接接触はできなかったのか?」

「はい。邸宅でも姿が見当たらず……元々、隠居ということで自由にされていたんですが、まさか足取りさえ掴めなくなるとは」

あちら側の 世界(サーバ) で接触できれば色々と話も聞けるだろうが、うちのジジイにしろアルトリウスのところにしろ、何とも勝手なことをしてくれるものだ。

ともあれ、今の状態ではそちら経由で情報を得ることはできないと考えた方が良さそうだな。

「分かった範囲で、ですが……どうやら源十郎氏は、東の大陸で悪魔を相手に戦っていたようです。向こうの大陸は精霊との交流が盛んなようで、そこで時空の精霊と協力関係を結んだのかと」

「あの剣と転移はそれか」

「それで、向こうで四体目の大公と相討ちになったという話だったかしら?」

「ええ、これに関しては喜ばしいことですが、お陰で大公四体は既に倒されたことになります。最後に彼という障害が残ってしまった形にはなりますが」

率直に言って、大公級悪魔を単騎で倒せるクソジジイが敵対した方がより厄介であるとも言えるのだが。

とはいえ、真に恐ろしいのはあのジジイが自由に動き回っている状況だ。

あの時の口ぶりからして、ジジイは北の地で待ち構えている。おかげで、その心配をする必要は無かった。

「マスターが遊撃や暗殺に動いていないのは幸いだったな。マレウスもよほど人手不足と見える」

「まあ、残りの公爵級も僅かだからな……ローフィカルムがどう動くのかは不明だが」

知る範囲では最後の公爵級悪魔であるローフィカルムは、果たしてどのように動くのか。

正直、あの婆さんについては謎が多すぎる。

素直にマレウスに従って動くのかどうかも分からないところであった。

「ともあれ――大公級四体、そしてドラグハルト。これらが排除されたことにより、魔王マレウスへと挑むための条件は整いました。北にある彼女の居城、そこにいるマレウスを倒すことが最終目的となります」

「しかし、その前にあのクソジジイが控えている、と」

「そういうことになりますね」

普通に考えれば、人間一人いたところでプレイヤーの前線力を止められる筈がないのだが、相手があのジジイだからな。

しかも効率的に運用しようとすれば、条件次第では無類の強さを発揮する。

果たして、あのジジイはどのような形で待ち構えているのか。

潜り抜ける方法があるなどと、楽観するべきではないだろう。

困難であることの認識はあるのか、アルトリウスも硬い表情のままに続ける。

「ドラグハルトの言葉を真に受けるなら、源十郎氏はこれまでに得たリソースの大半を刀に収束している状態にあるようです」

「よく分からんのだが、それで相手の攻撃を相殺していたのはどういう理屈だ?」

「ありゃ、グレネードの爆発をミサイルの爆発で受け止めてるようなもんだぜ、シェラート」

「……要するに力業か」

軍曹の言葉に、思わずため息を零す。

つまりジジイの持つ天狼丸は、俺たちの持つ武器とは比較にならないほどの攻撃力にまで高まっており、その威力を利用して相手の攻撃を消し飛ばしていたということか。

あまりにも強引すぎる力業である。

(攻撃を回避できず、防げば上から叩き斬られるか。自分の厄介さをよく理解していやがる)

戦に関しては相変わらずと言わざるを得ないクソジジイの性質に、俺は思わず嘆息を零していた。

「……とりあえず、僕たちにとっては大きな障害であると言わざるを得ません。対策が必要でしょうが、まずは情報を集める必要がありますね」

厄介ではあるが、結論を出すには情報が足りなさすぎる。

今この場で結論を急がず、情報を集めてからにするべきだろう。

事実の確認までで話を切り上げ、アルトリウスは改めて声を上げる。

「それでは、次に――源十郎氏が出現したことによる影響について、話をしましょうか」