軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

917:急転直下

「悪いな、アルトリウス。奴らを止めきれなかった」

『いえ……今の状況では仕方のない話です。しかし、ドラグハルトが勝ちましたか……』

空を駆けるドラグハルトを全力で追いながら、アルトリウスへと通話を繋ぐ。

俺の話を聞き、アルトリウスは声音に苦い色を滲ませていた。

こちらにとってみれば、ドラグハルトの勝利は想定の内ではあるものの、最悪の方向性に向かっていると言ってもいい。

ヴァルフレアが勝利していれば、まあ状況が悪いことに変わりはないのだが、それでもまだ時間的な余裕はあったのだから。

『僕らは金龍王の浮遊島に向かっています。もうじき到着はしますが……』

「そっちはそっちで、スキルは使い果たしている状態だろう?」

『クールタイム一時間クラスは何とかなりますが、それ以上のスキルは厳しいですね』

ドラグハルトの動きは電撃作戦であると言ってもいい。

あまりにも展開が早すぎて、こちらが追い付けていない状況だ。

辛うじてその場に居合わせているだけでもギリギリであると言える。

後手に回っている今の状況をひっくり返すのは至難の業だろう。

「……何か手立てはあるのか?」

『正直に言いますと、厳しいです。しかも、ドラグハルトの行動でプレイヤーの間にも動揺が広がっています』

「暴走やバグを疑われているのか?」

『ええ、普通に考えて、敵であるドラグハルトが突然ワールドクエストを攻略するというのは無茶苦茶にも程がありますから』

それに関しては、誰も否定はできないだろう。

ゲームとして見れば、ドラグハルトの動きはどう考えても暴走している。

こちらは背景情報まで知っているため納得もできるのだが、一般的なプレイヤーはそうもいかないだろう。

アルトリウスはそちらの面倒まで見ないとならないのか。この忙しい状況では、流石にそうも言っていられないだろうに。

『まあ、そちらは僕の方で何とかします。クオンさんは、なるべくドラグハルトから遅れないようにお願いします』

「今はとりあえずそれしかないか……だが、ドラグハルトを迎撃する手段があるのか?」

『……計算上、僕ら全員が万全の状態で、その上で金龍王たちと協力して対処して、ようやく五分です』

「つまり、今は無茶にも程があるってわけか」

事前の準備も行えていない、既に全力を発揮しきって息切れした状態。

今のドラグハルトどころか、元のドラグハルトが相手でも勝ち目はないと言えるレベルだ。

そんなドラグハルトを止めることができるのかどうか。

不利どころの話ではないが、それでも対処しないわけにはいかないのだ。

「とにかく、こっちはドラグハルトを追いかけている状況だ。奴の方が先に着くのは間違いない。何とか迎撃の方は頼むぞ」

『分かっています。ですが、クオンさんの戦力なしではまず勝ち目もありませんから、できる限り急いでお願いします』

アルトリウスにしては中々直截な言葉に、苦笑しつつも事態の深刻さを実感する。

あまりにも唐突に、事態が動き始めてしまった。

もし仮に、ドラグハルトが金龍王を倒してしまった場合、奴は女神の許へと向かう力を手に入れてしまう。

果たして、女神にドラグハルトを排除する力があるのか。そして、マレウスはその事態に対してどのように動くのか。

未だ状況は不透明なままではあるが――その結果は、遠からず示されることとなるだろう。

* * * * *

クオンとの通話を切り、アルトリウスは騎獣の上で小さく溜め息を零す。

向かう先は金龍王の浮遊島。普段から動き回っているが、アルトリウスは既にその位置を把握していた。

大公との戦いが本格化する前に、一度接触をしていたが故に。

「……まさか、あのような賭けに出ようとは」

ドラグハルトの行動は、まさに賭けであったと言っても過言ではないだろう。

戦いの序盤から全力を発揮して、エインセルとの決戦を早める。

その状態で戦いを部下に任せ、 異邦人(プレイヤー) たちとの共同戦線でエインセルを打倒する。

さらに、そのリソースを得た状態で部下たちのリソースをすべて回収し、己を極限まで強化した状態でヴァルフレアへと挑む。

最終的に単独でヴァルフレアに勝利することで、大公の持つリソースを全て独占する――

(一つでも失敗すればこの状況になることはなかった。ドラグハルトは、賭けに勝ったんだ)

かつて、公爵級悪魔ディーンクラッドとの決戦でも確認された、配下の悪魔たちによるリソースの提供行為。

その可能性について、アルトリウスは考えが及んでいなかったわけではない。

しかし、王として配下を従えていたドラグハルトが、その行動をとるとは考えていなかったのだ。

(ドラグハルトの執念を甘く見ていたのか、それとも根本的に前提が異なっていたのか――今となっては、それを考えても遅いか)

ドラグハルトの選択は、あまりにも分の悪い賭けだった。

しかし、竜心公ドラグハルトはその賭けに勝って見せたのだ。

失敗すれば取り返しのつかない敗北となる。そのリスクを負ってでも臨んだ戦いに、ドラグハルトは見事勝利した。

「恐らく、アルファヴェルムがエインセルの性質を解析したのだろうね」

「……マリン」

「目立たなかったけど、あれで強かなタイプだよ。もしも、ただリソースを捧げるだけであったなら、ドラグハルトはあそこまで強化されてはいなかっただろうね」

隣に並んだマリンから掛けられた言葉に、アルトリウスは目を細める。

普段の韜晦するような様子のない、直接的なマリンの言葉。

故にこそ、状況の厳しさを再確認して、アルトリウスは他の誰にも聞こえぬように小さく溜め息を零した。

「ドラグハルトは……勝利の確信があったと思うかい?」

「いや、幾らなんでもそれはないんじゃないかな。それでも、最終的な勝利を得るためにはそれが必要だと判断したんだろうさ」

「つまり……正攻法で僕らやヴァルフレアと相対するのでは、いずれ敗北すると考えたのか」

「きっかけは……恐らく、アルフィニールとの戦いかな。大公を倒す方法を、彼が示してしまった。自分たちには難しい方法をね」

ドラグハルトは、賭けに出ざるを得なかった。

そうしなければ、いずれは 異邦人(プレイヤー) 側に上回られると、そう考えていたのだろう――マリンは、そう告げる。

その言葉を受け止めて、アルトリウスはしばし沈黙を返した。

ドラグハルトの考えを見抜けなかった自分たちに失敗があったのか。

しかし、状況的にエインセルとの戦いは避けられなかった。或いは長期戦を選んでいれば別の可能性はあったのかもしれないが、どちらにせよ自分たちにはあまり余裕はなかったのだ。

「……何にしても、この状況が変わるわけじゃない。今、できることをしなければ」

「そうだね、まずは金龍王と接触しないと――」

『ああ、わざわざ顔を出す必要は無いぞ、勇者よ』

浮遊島へと差し掛かった、その瞬間。

周囲へと響き渡ったのは、他でもない金龍王の声であった。

島の中央へとアルトリウスが視線を向ければ、そこには本来の姿である巨大な黄金のドラゴンが鎮座していた。

アルトリウスたちの方へと視線を返している金龍王は、未だ距離のある異邦人たちへと直接声を届けている。

『状況は理解しておる。どうやら、竜心公にしてやられたようだの』

「はい、閣下。彼は今こちらに向かってきています。何とか迎撃を――」

『分かっておるであろう、勇者よ』

対策を取らなければならない。しかし、それを説明しようとするアルトリウスの言葉を遮り、金龍王は告げた。

『お主らが全力を発揮した上で、我らが援護すれば可能性はあるだろう。しかし、それで我が一族が無事に済むと思うか?』

「それは……」

『無論、女神の危機である以上、この身を捧げることに否はない。しかし……残すべきものは、残さねばならぬ』

もしも準備の時間があったなら、真龍たちを避難させることもできただろう。

その上で、他の龍王たちを招集することも可能だったはずだ。

しかし、それは叶わなかった――故にこそ、金龍王は告げる。

『何、策はあるとも。最後の手段ではあるがの……妾に任せておくが良い』

この状況下であろうとも、金龍王はどこまでも落ち着いた様子であった。

果たして、彼女は何をするつもりなのか――アルトリウスは一抹の不安を覚えつつも、金龍王の浮遊島へと足を踏み入れたのだった。