作品タイトル不明
899:黒き黄金
どこか、懐かしい気分であった。
俺とジジイが刀を担いで先行し、敵の拠点なり基地なりを混乱に陥れる。
別に銃器を持って行かなかったわけではないのだが、すぐに弾切れになるため効率が悪いと感じ、予備の弾倉はあまり持って行かなかったのだ。
まあ、敵からしても意味の分からない状況だっただろう。刃物を担いだ二人組が、銃で武装した戦闘部隊を片付けて周っていたのだから。
俺たちの対応に集中すれば、後から侵入してきた軍曹たちに蹂躙される。軍曹たちの攻撃を警戒すれば、俺たちが手薄な警備を突破して中央にまでダメージを与える。
本来であれば無茶にも程があるその作戦は、俺たちにとっては鉄板の手段と化していた。
(その動きに、今は緋真を付き合わせているとはな)
感慨深いようなその想いに、思わず苦笑を零す。
かつては俺が学ぶ立場だったが、今は教える立場だ。
尤も、あの時のように一撃を受ければ命にかかわるような、緊迫した状況というわけでもないのだが。
しかし、エインセルの力によって外傷の回復が阻害されている今、戦場はかつての戦争に少しだけ近付いていいる状況だった。
「ちょうどいい機会だ。緋真、とにかく自分に向けられている意識に集中しろ」
「いつもの感じと一緒じゃないんですか?」
「普段は俺任せにしている部分があるだろう。今回は回復もしづらいんだ、より集中しなけりゃ後ろに下がることになりかねんぞ?」
「……分かりました」
この場に於いて、後方に下がらなければならないというのは屈辱以外の何物でもない。
気を引き締め直した緋真は、真剣な表情で周囲の気配へと集中し始めた。
ここのところ、索敵は俺やアリスに任せていた部分もあり、この分野はあまり大きくは伸びていない。
こうしておくのも、いい刺激になることだろう。
尤も、ここで敵の耳目を集めているのはシリウスとベルの二頭になるため、そこまでこちらに注目されるということもないだろうが。
「グルルルルルルッ!」
超重量級の巨体を持つシリウスは、一軒家程度の建物なら、文字通り踏み潰しながら進めてしまう。
多少の建物程度では障害物になるようなこともなく、強引に突破しながら前へと進んでいた。
当然、注目を集めたシリウスは、敵からの集中攻撃を受けている。
しかしながら、単純な爆発物程度で、シリウスの動きを止められる筈もない。
飛来する短距離砲の砲撃をものともせず、シリウスはそのまま先へと進んでいた。
そして、シリウスが作り出した道を改めて制圧しているのが、ベルを始めとしたテイムモンスター達だ。
シリウスに向かった攻撃から位置を割り出し、的確に反撃を加えているのである。
『そこですね、他愛もない』
特に、ベルの放つ攻撃は、アークデーモンやグレーターデーモンですらあっという間に倒し切ってしまう。
防御、反撃がしづらいタイミングを見逃さないそのテクニックは、確かに歴戦の風格を漂わせていた。
「……それにしても、アークデーモンやグレーターデーモンも増えてきたか」
「本部所属の精鋭部隊とかですかね?」
「どういう扱いかは分からんが、これまでのデーモンほど容易くは無いだろうな」
面倒なのは、デーモンたちと違って耐久力がそこそこに高い点だろう。
何度か攻撃を当てないことには、こいつらを倒し切ることは難しい。
――その筈だったのだが、ベルの手にかかるとそれらもさほど時間をかけずに倒せる程度の相手でしか無かった。
空中に浮かべられた光の球体。広範囲に展開されたそれらへと向けてベルが光線を放つと、幾度となく反射しながら敵を撃ち貫いていくのだ。
いかなる方向から飛び出してくるか分からないその攻撃は、的確に悪魔たちの急所を撃ち抜いていたのだ。
(あまり消耗しすぎるようなら止めなけりゃならなかったが……これでも強力なスキルは使っていないんだよな)
これでも、ベルは消耗を抑えて戦っているのだ。
本気を出せば、もっと多彩で強力な攻撃を繰り出すことができるだろう。
エインセルを前にすれば、何も抑えることは無くなるだろうが。
と――その瞬間、戦闘を歩いていたシリウスの体が揺らいだ。
「っ!? シリウス!」
「グル……ッ!」
これまで、まるでダメージを受けた様子もなかったシリウスが、衝撃に体を傾かせたのだ。
咄嗟に《不毀》を発動させたらしいシリウスは、連続した攻撃にそれ以降ダメージを受けることは無かったが、MPが削られ始めるようになってしまった。
だが、そのMPの減りは微々たるもの。先ほど受けた衝撃の大きさに対し、ダメージ量が少なすぎるのだ。
その奇妙な攻撃を放ってきたのは――
「あれは……?」
建物の上に姿を現した、黒い影。
人型の影としか形容できないその姿は、その内側に金色の輪郭を湛えていた。
そして、瞳に当たるであろう部分に浮かんでいるのは、一つだけの金色の光。
その輝きは、間違いなくシリウスの姿を捉えていた。
黒い影が手にしているのは、これまでに目にしたことのない兵器だが――俺の視線からすると、それはロケットランチャーのように思えた。
『む……!』
その黒い影は、程なくしてベルの光線によって貫かれる。
その一撃によって体に風穴が空いた影は、何か反応を示すようなこともなく、霧散して消滅してしまった。
あれは一体何だったのか、それは不明だが、それ以上に今の攻撃が何だったのかが気になっていた。
《不毀》によるMPダメージ的に、今の攻撃の攻撃力はそれほど高くない。
だというのに、奴の攻撃はシリウスの防御力を突破してダメージを与えてきたのだ。
あの攻撃は、全て防御無視の効果を持っているということなのだろうか。
「シリウス、ダメージは問題ないか?」
「グルッ!」
シリウスも再生系のスキルは持っている。
そのため、傷を負ったとしても回復することは可能なのだ。
エインセルの力の影響下にあるため、そのスピードはかなり落ちてしまっているが、しばらくすれば元通りになるだろう。
問題は、あの黒い影がどこまで出てくるか不明であるという点だが。
「緋真、あれに関する目撃例はあったか?」
「いえ、聞いたことが無いですね。恐らくは初見の情報です」
「となると、この内部でだけ出てくる可能性が高いな」
正体不明の敵。防御力を突破する性質を持った武器。
ここに来て、不明な要素が増えてしまった。
可能な限り情報を集めたいところではあるが――流石に、この場でのんびりと観察しているのは時間の無駄だ。
「ベル、今の敵は速攻で潰してくれ」
『了解です。エインセルの手によるものでしょうから、叩き潰すことに異存はありません』
光の玉を更に広く展開し、ベルは目に殺意を宿しながら告げる。
脅威であると認識すると共に、エインセルの手札を悉く否定しようとする意志が感じられた。
不明な点があまりにも多いが、何にせよ前に進むしか道はない。
「シリウスをここで消耗させたくはない。ベル、なるべく先手を取ってくれよ」
『ええ、お任せください。ここから先、あれらが攻撃をすることはありません』
流麗な姿に獰猛な戦意を湛え、ベルはシリウスの背中を押す。
後押しを受けたシリウスは、再び前を向いて先へと進み始めた。
(しかし、あの武器……)
あの影と同じように、黒い靄に包まれていた武器。
まるで魔法のような、付与効果を付けられた逸品なのだろうか。
だが、敵の防御力を無視するのは、フィノですら付与できないような強力な効果だ。
それを、ただの兵器に――それも、使い捨てのような武器に付与できるものだろうか。
「……どこまでも、得体の知れない野郎だ」
見上げた先、断続的な爆発を受けているレヴィスレイトの巨体。
もしも、あの攻撃が全て今の性質を備えているのであれば、あの悪魔もそれなりに追い詰められているのかもしれない。
どのみち、あの戦場はもうすぐそこだ。その場で、全てが明らかになることだろう。
小さく溜め息を零し、俺はシリウスの後を追って走り出した。