軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

888:背後に回り込んで

クソ金髪女(ブロンディー) ――ファムの考えていることは、今のところは理解できる範囲内だ。

つまり、ドラグハルトに協力する形で、俺の配置をより有利な場所に変えたということだ。

ルミナたちテイムモンスターがアルトリウスたちに随行していることにより、エインセルは俺があちらの軍勢の中にいると認識していることだろう。

行軍中の戦闘では、俺はあまり目立つ戦い方はしない。基本的に、注目を集めているのはシリウスだろう。

そうなれば、敵は自然と、シリウスのいる場所に俺もいると誤認してくれるはずだ。

「そのためにあの若造たちを利用するってのも、何とも複雑な気分だが……」

俺個人の感情としては、あのドラグハルト側に付いたプレイヤーたちには特に敵意も何もないのだ。

あれも一つの、ゲームの楽しみ方ではあるだろうから。

まあ、それに伴ってこちらが侮辱されれば相応の対処は取るのだが、ああやって挑んでくる分にはむしろ好ましい対応だった。

だからこそ、それを利用するファムのやり口が気に入らないのだが、それは今に始まった話でもない。

ともあれ、こちらはこちらで、やるべきことをこなすとしよう。

「とはいえ……どうやって潜入するかだな」

木々に身を隠しながら、その都市の姿を観察する。

恐らくは、アドミス聖王国で再建されているシャンドラにも引けを取らないほどの規模だろう。

高く堅牢な城壁と、その上に見えている兵器の数々。

恐らくは、元々あった都市を更に改造したものがこれなのだろうが、正しく難攻不落と呼ぶべき堅牢さだ。

マトモに攻略しようとするだけ馬鹿を見る代物だろう。

(壁はかなり高いし、登るのは非現実的。鎖を使って何とかってところだが、敵の視界を逃れるのはまず不可能だな……)

特殊な種族スキルである獄卒変生は、できる限り隠しておきたい手札だ。

クールタイムも長いし、一度使ってしまったら手札が一つ減ることになってしまう。

できる限り、ここでは使わずにおきたいところなのだが……しかし、それしか方法が無いならしようも已む無しだろう。

「……まず、最優先事項は外壁、或いは門の破壊。アルトリウスたちが通れるだけの道を作ること」

これだけの強固な外壁に包まれているとなると、突破にはかなりの手間がかかることになる。

エインセルが兵器を運用して戦う以上、弱い悪魔の攻撃すらも馬鹿にはならない。

全力で防衛に徹せられれば、かなりの被害を受けることは免れないだろう。

そのためにも、アルトリウスたちが接敵するよりも早く、この都市の外壁を破壊しておきたいのだ。

(門は破壊しやすい代わりに、防衛設備が揃ってる。可能なら外壁を破壊した方が被害は少なくなるだろう。問題は、ベルの力を借りても難しいってことだが)

ちらりと、視線を抜いたままの餓狼丸へと落とす。

新たな発見ではあるが、一応戦闘状態が解除されても発動を維持することはできるらしい。

黒く染まったままの餓狼丸の刀身は、いつでも解放を行うことが可能な状態だ。

ひょっとしたら、ブロンディーの狙いはそこにもあったのかもしれない。

俺がすぐに完全解放可能な状態であれば、よりスムーズに外壁の破壊を狙うことができるだろう。

「つまり、ここで切り札を切れってわけか」

俺があのプレイヤーたち相手に解放を使わなかったらどうするつもりだったのか。

或いは、俺に餓狼丸を抜かせるだけの実力はあると判断していたのか。

まあ、あの女の考えはこの際どうでもいい。気に入らなかろうと、作戦を成功させるうえで効率的であることは事実なのだから。

壁を破壊するために、完全解放を行う必要があることも構わないだろう。ジェムを使えば再度解放可能な状態には持って行けるのだから。

問題は――侵入するために解放を使ってしまったら、流石に南側の壁を破壊するまで持たないということだ。

(あの女、どちらかというと侵入のための手段を用意しておけよ……)

内心で舌打ちしつつ、大要塞の観察を続ける。

堅牢とはいえ、流石にこちら側の警備は少ない様子で、監視の隙間を見出すことは難しくない。

恐らく、西側や南側に意識を取られているということだろう。

それについては助かるのだが、だからと言って侵入できる場所があるかと問われればそれは否なのである。

「ベルに小さくなって貰って飛んで入る……のは目立つよな。通用口を探して侵入するのは、可能性はあるがそもそも捜索に時間がかかる。となると――」

やはり、獄卒変生を使って侵入するしかないのか――そう考え始めた、直後だった。

都市を挟んで、遥か遠方。そちら側の空が、夕暮れの様にオレンジに染まり始めたのは。

「……何だ?」

時間を確認しても、夕方にはまだまだ遠い。

というか、太陽が真上にあるので夕日などあり得るはずがない。

であれば、あの色は一体何なのか。何かに照らされたかのような、あの橙色は――

「いや、違う。あれは……金色?」

空を染め上げる、金色の光。

そして、まるで波のように迫りくる、膨大な魔力の波動。

理解する。理解できてしまう。この圧倒的で強大極まりない魔力、その正体は。

「ドラグハルト、お前は……ッ!?」

――その言葉を口にするより早く、俺はその場に身を投げ出していた。

木の陰で、地に体を伏せ、耳と目を塞ぎ口を開く対爆発姿勢。

そして、その直後。耳を塞いでなお響く大音声と共に、膨大な魔力のエネルギーが解き放たれた。

瞼の上から目を焼かんばかりの閃光、そして衝撃と共に周囲を蹂躙する突風。

その勢いに吹き飛ばされぬよう、何とか地面にしがみつき――その嵐が過ぎ去ってから、俺はようやく目を開いた。

「…………マジか」

言葉もない、とはまさにこのことだろう。

堅牢極まりない大要塞、エインセルの居城。その巨大な都市に、文字通り風穴が開いていたのだから。

今のは間違いない、ドラグハルトのブレスによる一撃だろう。

だが、その破壊力は以前に見た、アルフィニールにとどめを刺した時のものよりも更に強大だった。

込められていた魔力の量は、とてもではないが前哨戦で消費するようなものではない。

(今このタイミングで全力を出し尽くして、エインセルとの戦いはどうするつもりだ……?)

ドラグハルトの考えは、全く想像もつかない。

だが、今の一撃が、紛れもなく全身全霊であることは確信していた。

本来であれば、エインセルに対して確実に当てられる状況で切るべき切り札だ。

それを、要塞の攻略に使ってしまうとは。

「……分からん、全く想像できん。が――」

ドラグハルトの思惑はともかくとして、この状況が俺にとって都合が良いことは確かだ。

あの極大のブレスが大要塞を貫通したおかげで、こちら側の壁も一部崩壊している状態となっている。

この状態なら、俺も楽に侵入することができるだろう。

石材が融解していて足場には苦労しそうだが、高い壁を超えるよりは遥かに楽だ。

(ドラグハルトが何を考えているのかは知らんが、こっちはこっちの仕事をこなすとするか)

とりあえず、これでドラグハルト側は大要塞への侵入が可能な状態となっていることだろう。

当のドラグハルトはしばし参戦できないだろうが、他の公爵級二体については問題なく戦闘可能な筈だ。

あまりゆっくりしていると、奴らがエインセルに接敵しかねない。

あらゆる意味で、奴らだけに戦わせるのは避けたいところであるし、こちらも急がねばならないだろう。

「よし、急ぐとするか」

地を蹴り、崩壊した外壁へと向かって駆けていく。

できる限り見つからないように、しかし急いで南西側へと向かわなければ。

ここから先は時間との勝負。迅速に、こちらの仕事をこなすこととしよう。