軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

885:実力

さて、敵の出鼻を挫くことには成功した。

であれば、この混乱が冷めやらぬ内に、可能な限り殺しておくことが吉だろう。

歩法――陽炎。

【咆風呪】の闇が薄れ始める中、俺は敵陣の内部に身を滑り込ませる。

相手も俺の接近には気付いているものの、同士討ちを恐れて攻撃がまばらになっている状態だ。

この程度であれば、俺の陽炎を捉えられる筈もない。

掬い上げるような右の小太刀の一閃。急加速したことによってこちらの位置を誤認していたプレイヤーは、その一閃に斬られて炎に包まれる。

突然の状況に混乱したプレイヤーは反射的に火を消そうと視線を外し――その胴へと、俺は鋭く回し蹴りを叩き込んだ。

ロクに構えられてもいない場所に打ち込まれた一撃は、容赦なくそのプレイヤーを後方へと吹き飛ばし、他の者達を巻き込んで薙ぎ倒した。

「《練命剣》、【命輝一陣】」

そのまま、倒れた連中へと向けて生命力の刃を飛ばす。

時間が勿体ない。体勢を立て直される前に、少しでも敵を削っておくべきだ。

特に、タンクに復帰されると面倒であるし、素早く片付けるに越したことは無いだろう。

歩法――縮地。

倒れた連中を援護しようと、俺から視線を外したプレイヤーへと肉薄する。

残念だが、そのような隙を見逃すことはあり得ない。

音もなく接近したことで、そいつは俺に気付くこともないまま、心臓と首を貫かれて地に伏せた。

「くそっ……体勢を整えろ! もう一度、タンクで道を塞ぐんだ!」

後方から響く、シズクの声。

その判断は間違いではない。相変わらず、タンクたちに塞がれれば戦いづらいことは事実なのだ。

しかし――

歩法――烈震。

「無防備なのはいただけないな」

移動中、タンクたちは場所ばかりに意識が向いており、こちらへの注意がおろそかになっていた。

そんな隙を見逃すような理由もなく、俺は即座に地を蹴り、移動中のタンクへと肉薄する。

俺の接近に気が付いたタンクは、戦慄した表情で盾を構え――

打法――侵震・盾落。

盾を構えたその腕を、内部に浸透させた衝撃によってへし折った。

そしてあらぬ方向へと曲がった腕をどかし、盾の内側にまで潜り込む。

こちらを見下ろす、恐怖を交えた視線。それを感じながら、俺は相手の脇腹へと二振りの刃を突き刺した。

燃焼と凍結、まるで入れ替わるように二つの状態異常が発生したタンクは、刃を引き抜くと共に崩れ落ちて消滅した。

同時に突き刺すとああなるというのは新たな発見である。

(強制的な状態異常発生ってのも、どのぐらい強いのかはあまり実感が無かったが……思ったよりも強力だな、これは)

状態異常そのものはありふれたものだが、少し触れただけでも効果を発揮するという性質は強力だ。

これは、思ったよりも良いものを貰ったかもしれないな。

崩れ落ちるタンクを尻目に、次の一人へと接近し――そこでふと、耳元に声が響いた。

『ちょっと先生、大丈夫ですか!?』

「緋真か。済まんが、ちょっと取り込み中だ」

どうやら、向こうも俺の異常に気が付いたらしい。

まあ、これからまさに作戦を開始しようとしている状況で、俺の姿が無くなれば混乱もするだろう。

とりあえず無事であることは伝えつつ、敵の防御をすり抜けながら灼咆の刃を振るう。

『そっちは何が起こってるんですか?』

「強制的に転移させられて、ドラグハルト陣営のプレイヤーに囲まれてる最中だ。文句はファムに言っとけ」

刃が触れただけで炎に包まれる、その性質は徐々に理解され始めている。

だが、強制的に状態異常を発生させるという性質は、そもそも無効化するような装備でもない限り避けることはできない。

分かっていても防ぐことが難しい――これは、そういった類の武器だ。

斬法――柔の型、流水・細波。

銀嶺で敵の攻撃を受け流し、灼咆がその腕の内側を斬り裂く。

接近した俺を何とかしようとするが、生憎と雑に振るわれた程度の攻撃など警戒するに値しない。

逆に利用し、体勢を崩させればいいだけだ。

『何で、そんなことを……』

「さてな。とにかく、こっちはこっちで対処しておく」

『……先生、何か楽しんでません?』

「何のことやら?」

小さく笑いつつ、潜り込んだタンクの胸元で肩を押し当てる。

強く地を踏みしめ、放つのは鎧の内部を打ち砕く極大の衝撃だ。

打法――破山。

下から掬い上げるように、重力によって衝撃を内部に押し留めるような一撃。

鎧の内部を内側からシェイクされ、血を吐きながら膝を落とすタンク。

その喉笛から、灼咆の刃が脳天を貫いた。

『それで、ルミナちゃんたちはどうするんですか?』

「そっちに置いたままでいい。おおよそ、あの女の考えていることは分かってきた」

現状、ルミナ、セイラン、シリウスは向こうの拠点に置いたままだ。

あいつらは賢いから、別段俺の指示が無くても動くことは可能だし、今のスキルなら離れていても呼び出したままにできる。

尤も、こちらに呼び出そうと思えば呼び出せるし、そうすればこいつらを蹂躙することなど容易い仕事だ。

だが、あいつらはエインセルの軍勢と戦う際に必要不可欠。こちらに呼び出してしまっては、アルトリウスの想定に影響を及ぼしてしまうだろう。

まあ、今のところベルは呼び出していないため、やろうと思えばベルの助力を得ることもできるのだが。

「《オーバーレンジ》、『命餓閃』」

斬法――剛の型、輪旋。

大きく押し広げた一閃が、体勢を崩したタンクごと後衛のプレイヤーを叩き斬る。

生命力の刃ではあるが、振るったのが灼咆であるため、その付与効果自体は発動するようだ。

ただ、先程の【命輝一陣】では発動しなかった当たり、何らかの制限はあるようだが。

崩れ落ち、燃え尽きていくプレイヤーの数々。それなりに削ることには成功したが――流石に、このまま終わるということは無いだろう。

「ともあれ、こっちはこっちで動く。心配するな、後で帳尻は合わせるさ」

『……いやまぁ、心配はしていないですけれども。了解ですけど、遅れないでくださいね?』

「さて……どちらが遅れることになるのかは、分からんぞ?」

ブロンディーがやろうとしていることについては、ある程度想像はできている。

というか、俺をここに送り込んだ時点で、目的の大半は達成できていると言ってもいいだろう。

全くもって無茶なことをしてくれたものだが、俺の予想が正しければ、エインセルに対して大きな手札となり得るだろう。

それを確かめるためにも、こいつらは片付けて先に進まなければ。

「さてと……」

近場にいた連中はある程度片付いたが、ある程度距離があったプレイヤーはそこから逃げ出し、既に体勢を立て直しているようだ。

仕切り直しというには中々に戦力を削られているかと思うが――まあ、現状ではそうするしかないだろう。

ともあれ、ある程度状況は落ち着いてしまった。

やろうと思えばもう一度同じ状況を作れるだろうが、エルダードラゴンの力はしばらく使えないし、龍爪の出力もかなり落ちる。

であれば、どうするべきか――

「そうだな……それじゃ、そろそろ本気で戦ってやるとしようか」

小手調べは終わり。新たに手に入れた武器の性能確認も、ここまでやれば十分だろう。

ならば――後は、正面から彼らの挑戦に応えるだけだ。

そう決意し、俺は餓狼丸の刃を引き抜いた。

「【オリハルコンエッジ】、【武具神霊召喚】、【エンハンス】。さて、お前の思惑に乗るのは癪だが――そろそろ、終わりにするとしようか」

「っ……陣形はこれでいい。もう一度、遠距離攻撃で攻めるぞ!」

シズクの判断は決して間違ったものじゃない。

遠距離からの波状攻撃は、俺が最も苦手とするタイプの戦闘方法に間違いないだろう。

だが、もしそれが苦手だからと言って、何も対処できないようであるならば――俺はとっくの昔に、あの戦場でくたばっていたことだろう。

「サービスだ、見せてやろう――貪り喰らえ、『餓狼丸』」

その言葉と共に、餓狼丸が唸りを上げる。

【咆風呪】とは異なる黒い闇。溢れ出すそのオーラの中で刃を構え、俺は再び地を蹴ったのだった。