軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

088:戦いの後で

『――――《刀》のスキル進化が可能です』

『称号《悪魔の宿敵》を取得しました』

『称号《一騎当千》を取得しました』

どうやら、今回のイベントではレベルアップ処理は一気に行われる設定になっていたらしく、悪魔の群れを殺して溜め込んだ経験値は一気に消化されたようだ。

ステータスを確認してみれば、一気に3レベルも上昇している。

レベル1の時に決闘で得た経験値でもレベルは1ずつ上がっていたため、こうやって一気に複数レベルが上がるのは初めてだ。

しかし、レベルアップの処理については普段と変わるところはない。いつも通りにステータスポイントを割り振って、それで終わりだ。

レベル30になったことだし、増えたスキル枠には《魔力操作》を取得しておくことにしよう。

それよりも――

「スキルの進化とな。それに称号スキル……《一騎当千》は分かりやすいが《悪魔の宿敵》ねぇ」

とりあえず、スキルの進化とやらについては後で緋真に聞いておくことにしよう。テイムモンスターのもそうだが、進化させたら戻せない可能性が高い。

今は先に、称号スキルの方を確認しておくことにする。

千体もの敵を倒していたかどうかは分からないが、とにかく目に付く限りの悪魔を殲滅したことは事実だ。

そのおかげで、使用している武器は全て破損寸前まで持っていかれてしまった。

流石に、鬼哭を使うとどうにも攻撃が雑になりがちだ。

あれは制御をミスると武器を壊すどころか自分の体まで壊すからな。だからこそ扱いの難しい、使い手の少ない技術であるのだが。

合戦礼法はどれも便利だから、せめて師範代ぐらいは使えるようになってほしいのだが――そう胸中で呟きつつ、俺は称号スキルの効果について確認を行っていた。

■《一騎当千》

一度の戦闘において、千体もの敵を屠った者の証。

称号所有者は現地人から畏敬を抱かれるようになる。

この称号スキルをセットした場合、敵を倒すごとにHPが5%回復する。

こちらの称号については、やはり名称の通りであったようだ。

流石に千体も倒していたとは思わなかったが、確かにこれほどの数を殺したのは初めてだった。

今後も似たようなイベントが起こるのかどうかは知らないが、定期的に楽しめるなら最高だ。

セット時の効果は、敵を倒した時のHP回復だ。

回復量は大したものではないが、塵も積もれば山となるというものだ。

まあ、俺のHPは自分のスキルで頻繁に上下しているため、正直な所自分の体力という印象はすっかり薄れているのだが。

どちらかというと、攻撃用のゲージのようにも思えてしまう。

今後は避け辛い攻撃や範囲攻撃も増えてくるかもしれないし、その辺りは気を付けておいた方がいいだろう。

「便利だが、そこまで強力というわけでもない……緋真のイベント称号とはやはり異なるか」

いや、HP回復は中々強力なのかもしれないが、流石に緋真の称号ほどのインパクトは感じない。

便利は便利であるため、たまに使うかもしれないが……そこは状況次第だろう。

正直、単純にHPを回復するならば《収奪の剣》で事足りるしな。

「で、もう一つの方は、と――」

■《悪魔の宿敵》

悪魔と戦い、そして対等な敵として認められたことの証。

称号所有者は悪魔から攻撃対象にされやすくなり、同時に現地人から信頼を得やすくなる。

この称号スキルをセットした場合、悪魔に対するダメージ量が10%上昇する。

名前から察するに、ロムペリアから宿敵として認定されたことが取得の原因だろう。

対悪魔と考えるならば、中々に有用な称号だと言える。

まあ、俺としては《一騎当千》の方が便利そうであるし、そちらをセットしておくことにするが。

しかしあの女、王がどうたら言っていたが、一体何を考えているのやら。

奴は、俺を宿敵だと、打倒すると口にしていた。奴の方が圧倒的にステータスが高く、今は確実に奴の方が強いにも関わらず、だ。

王――恐らくは、魔王とでも呼ぶべき存在。そいつは果たして、ロムペリアに何を伝えていたのか。

今は分からないが……厄介な相手に目を付けられたことは間違いあるまい。

だが――

(――あの女は、他の悪魔共とは違う。面白い 敵(・) だ)

思わず歪んだ口元を、手で覆い隠す。

人間に対する敵意は、憎悪はあった。人間に存在する価値などないと、そう断じているかのような凍った瞳を持っていた。

だが奴は、種族的な感情ではなく、己自身の意志と決意を以て俺への宣戦布告を口にしていたのだ。

であれば、奴は俺の敵だ。俺が倒すべき、俺が殺すべき敵なのだ。

(ああ、どうやって斬ってやろうか。今はまだ届かない。奴を倒すにはもっと力が必要だ)

倒すべき敵、倒すべき目標――俺にとって、それは常にジジイだけだった。

ロムペリアはあのクソジジイには届くまい。だが、今手が届かないという点において変わることなどない。

ならば必ず届かせる。この刃を、奴の臓腑に突き立てる。

いいとも、テメェがそう言うのであれば――

「俺が必ず殺してやるよ、ロムペリア」

口元に浮かんだ笑みを消し、俺は刃を拭って納刀する。

一つの大きな節目とはなったが、まだまだやりたいことが多すぎる。

嗚呼、全く――本当に、このゲームは面白い。

「先生? 何をぼーっとしてるんですか?」

「……いや、ステータスの割り振りをしていただけだ。戻るとするか」

死体の片付けでもやらされるかと思っていたが、幸いそれは全てロムペリアが回収していったようだ。

ならば最早、この戦場には用はない。燃え上がっていた狂気を封じ込め、俺は弟子たちを伴って王都の方へと歩き出す。

その視線を向けた先に、見覚えのある二人の人物の姿があった。

今回は随分と忙しかったであろう、大クランのクランマスター二人だ。

「……お疲れ様、クオン。救援、助かったわ……ありがとう」

「ご協力、ありがとうございました、クオンさん」

「エレノアはともかく、お前さんはここにいていいのか、アルトリウス?」

「今は打ち上げですから。街に被害が出ていたら、色々と動かなければならなかったですが」

「成程、上手くやったようだな」

若干の呆れを交えてそう告げれば、アルトリウスはどこか得意げな笑みを浮かべる。

予想通り、最初からそこまで読んだ上での作戦であったようだ。

どっちにしろ、被害が出ないに越したことはない訳であるし、それに関しては特に言及することも無いのだが。

「それで、わざわざ俺たちの所まで来たってことは、二人とも何かしらの用事があるんだろう?」

「ああ、私の方は大した用事じゃないから、後でいいわよ。装備の修理の話だから」

「……了解だ、それは後で頼む」

防具については篭手ぐらいではあるが、刀はどれもボロボロだ。

フィノの修理が無ければ、これ以上の戦闘は難しいだろう。

我ながら、未熟を感じずにはいられない。あのクソジジイならば、武器の助けがあるにせよ、一振りでこの戦場を潜り抜けていたことだろう。

小さく嘆息し、その憂鬱を振り払う。今届かないならば、更に練り上げればいい、ただそれだけの話なのだから。

「なら、お前さんの話が先か。それで、何の用事なんだ、アルトリウス」

「労いの言葉を、というのも事実ですが――ひとつ、提案があって来ました。エレノアさんにもですよ」

「私にも? ……了解よ、聞きましょう」

「……緋真、ルミナ。お前らはちょっと離れていろ」

「え? は、はい」

アルトリウスの言葉に、エレノアは僅かに目を見開き、その佇まいを直す。

面食らいはしたものの、アルトリウスが無駄な話をするとは考えられなかったのだろう。

その姿に爽やかな笑みを浮かべたアルトリウスは、その表情を引き締めて声を上げていた。

「クオンさん、そしてエレノアさん。お二人に対する、同盟の申し入れです」

「同盟だと? 『キャメロット』と『エレノア商会』と、そして俺とでか?」

「ええ、その通り。クランごとであることが望ましいですね」

真剣な表情で告げてくるアルトリウスに、俺は視線を細める。

これは以前のような、断られることが前提の勧誘ではない。

アルトリウスは真剣に、それも本気で、俺たちに提案を投げかけていた。

だが、だからこそ解せない。いったいこの男は何故、このタイミングでそれを切り出してきた?

「グランドクエスト――つまり、この【Magica Technica】というゲームの最大目標が提示されました。つまりこれは、これからがこのゲームの本番であることを示しています」

「それに向けた、協力体制を作っておく……という話か?」

「ええ。具体的な取り決めは、時間をかけて行うつもりです。ですが――」

「ここでその約定は手に入れておきたい、っていうわけね」

そう告げるエレノアの言葉は、どこか冷ややかで――同時に、内側に燃え上がるような熱を感じるものだった。

これはあまりにも大きな案件だ。決断力のあるエレノアであろうとも、安易に結論を口にすることはできないだろう。

「貴方の目的がグランドクエストだけであるならば、正直この同盟は正気とは思えないわ。わざわざする必要性を感じないのに、リスクを抱えることになるんだもの」

「……アルトリウス。お前さんの『キャメロット』は、計算された体制が構築されている組織だ。外付けで何かを付け加えようとすれば、バランスを崩すことになりかねん。ましてや――組織対個人の同盟だと? お前、それを納得させられるのか」

「無論、それは分かっていますよ。 だからこその(・・・・・・) 、今回の共闘だったのですから」

――その言葉に、俺は背筋が粟立つ感覚を覚え、目を見開いていた。

今回、こいつが俺と同盟を結んだのは、素早く戦場を制して動くためだと考えていた。

だが、アルトリウスはそれは単なる副産物に過ぎないと語ったのだ。

本当の目的は――

「……クオンの本当の実力を、『キャメロット』と『エレノア商会』に知らしめるため……そのために、彼を焚きつけたって言うの?」

「クオンさんの実力は、一個人の枠に留まるものではありません。僕はこの方のPTを、一つの組織であるものとして計算しています」

俺と緋真、ルミナの三人で倒した悪魔の数は、果たしてどれほどになっただろうか。

そしてその数は――他のクランと比べて、どれほどの差があると言うのか。

成程、確かに。それが周知の事実となれば、俺の立場は変わってくるだろう。

それはあの頃と、あの戦場を渡り歩いていた頃と同じ、一つの兵器としての認識だ。

「僕の提案は、組織同士で対等な立場での同盟締結です。技術、情報、戦力の提供――それら全て、対等な立場でのやり取りを望みます」

「……無茶なことを言うもんだな。そんなことができるってのか?」

「『キャメロット』と貴方だけの同盟では難しかったでしょう。しかし、そこに『エレノア商会』が加わればその限りではありません」

「……私たちがいれば、クオンを独占しようとする動きに対する抑止力になると。そして逆に、私たちもクオンの独占はできなくなる」

「元々、エレノアさんはビジネスライクな関係を構築していたようですが、距離が近くなればそのようなこともあるでしょうからね」

そして二つの組織が牽制し合っている状態ならば、俺の自由が奪われることはほぼなくなる。

俺を拘束して利用しようとする動きがあれば、巨大なクラン二つによる潰し合いに発展しかねない――アルトリウスは、それだけの価値をこの戦場で示させたのだ。

そしてそのような抗争は、エレノアとアルトリウスの望むところではない。であればこそ、俺の自由は保障せざるを得ないということか。

「……メリットがあることは否定せんが、リスキーだな。そこまでする必要があるのか?」

「ええ。正直な所、まだ全てを読める訳ではありませんが……あの悪魔の言葉が真実であるならば、グランドクエストでは国家レベルでの悪魔との戦いになります。ですが、今のままでは国家という規模に対抗するのが難しい」

「大クランの足並みを揃えることが目的、という訳ね。なら、他のクランは誘わないの?」

「将来的にはそのつもりですが、流石に僕でもこの規模の調整は難しいので……まずはテストケースとして同盟を結び、大同盟の下地を作るつもりです」

……この男、一体何がどこまで見えているのやら。

うすら寒い気配すら感じながらも、俺はアルトリウスの言葉を吟味していた。

エレノアもそれは同じだったのだろう。硬い表情で、彼女は声を上げていた。

「……この場での確約はできないわ。持ち帰って検討する」

「ええ、構いません。この場ですぐに判断できるとは思っていませんから」

「全く……クオン、こちらの話が纏まったらまた話しましょう。貴方は貴方の思うように動いておいてくれればいいわ」

「……そうか? まあいい、進んだら話してくれ」

流石に、組織レベルの話には口出しできない。というより、何を口出しすればいいのか分からん。

その辺りは、この二人に任せておけばいいだろう。

俺は、俺の自由さえ制限されなければ問題ない。

俺とエレノアは揃って嘆息を零し、その場から離れていた。

今日は流石に疲れた。フィノに装備を預けたらとっととログアウトするとしよう。

――なお、アルトリウスの話のおかげで、スキルの進化のことは頭からすっぽりと抜け落ちていた。