軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

863:襲撃と反撃

【咆風呪】による闇に包まれた戦場へと飛び込み、刃を振るう。

触れただけでHPを奪い取って行く黒い風は、デーモンたちにとっては著しく強力な毒だ。

その状況では、俺の攻撃に耐えられる筈もなく、防塁の後ろでグレネードランチャーを構えていた悪魔の首は一撃で刎ね飛ばされる。

設置型、大型タイプのグレネードランチャー。【フェイズムーン】の後で【咆風呪】を使っていなければ、俺たちに向かって放たれていたことだろう。

警戒すべきは――

『――――!』

「チッ……!」

耳慣れない言語で放たれた言葉に、俺は即座に反応して地を蹴った。

次いで、何か金属質な物体が転がる音。そして――数秒後に響く、爆発音。

何とかその範囲外に逃れつつ、今の攻撃が手榴弾であることを理解した。

どうやら、ある程度攻撃位置を制御しやすい手榴弾ならば、この暗闇の中でも使ってくるようだ。

(誤爆防止のための掛け声はあり、というのが唯一の救いだな。丁寧なもんだ)

その辺りはエインセルによる指導なのか、案外と規律に則った行動を行っているらしい。

お陰で反応しやすいことは助かるが、この状況ですら爆発物を使えるだけの訓練を積んでいることは脅威だった。

ともあれ、そのことには注意しつつ、グレネードを投げたであろう気配の方向へと向けて走る。

どうやら塹壕の中で、こちらから隠れて狙っているようだ。

「『生奪』」

躊躇うことなくその気配の方向へと向けて走り、塹壕の中へと飛び込む。

グレネードランチャーを抱えるようにして身を潜めていた悪魔――その首筋へと、俺はすぐさま餓狼丸の切っ先を振り下ろした。

斬法――柔の型、襲牙。

鋭い刃の先端は、肩口から悪魔の体へと潜り込み、その肉体を破壊する。

相手が絶命したことを確認した俺は、すぐさま《空歩》を使ってその場から離脱した。

数秒後、空気の抜けるような音と共に、俺のいた場所へとグレネードが撃ち込まれる。

その状況に、俺は思わず舌打ちを零した。

(二回とも同じタイミングでの攻撃……ただの偶然か?)

敵を倒した、その瞬間での反撃。

それがただの偶然なのか、或いは何か仕掛けがあっての結果なのか。

今のタイミングだと判断はできない。故に――

歩法――烈震。

地面に着地すると共に、一気に加速する。

狙うは、今の攻撃を撃ち込んできた相手だ。グレネードランチャーを使ってきたようで、少し距離は離れているものの、気配は明確に捉えられている。

その気配へと向けて一気に距離を積めれば、肉薄したその段階に至って、ようやく悪魔は反応した。

ほぼ反射的な反応で、こちらへと銃口を向けてくるが――

斬法――剛の型、鐘楼。

神速の振り上げが、敵の銃口を跳ね上げて上へと逸らす。

体勢が泳いだその刹那、踏み込みと共に方向を変えた餓狼丸の刃は、その肩口へと向けて突き刺さった。

斬法――剛の型、鐘楼・失墜。

肉を食い破り、骨を断ち斬り――悪魔の身であろうとも、容赦なく両断する。

肩口から体を裂かれた悪魔は、そのまま斜めにずり落ちるように絶命し、暗闇の中で塵へと還って行く。

その瞬間、俺は再び、周囲から殺気を向けられたことを察知した。

「やはりか……!」

先ほどと同じように《空歩》を使って離脱しつつ、抱いていた懸念が確信に変わることを感じる。

どうやらこの悪魔たちは、何らかの方法でお互いの状態を察知しているらしい。

味方が絶命した瞬間、その状況が周囲の敵へと伝わるのだろう。

そして、そこに生存している味方がいないならば、爆発物を撃ち込んでも問題は無いということだ。

混戦に於いて味方の誤爆を避けるための方策ということなのかもしれないが、まさかそのような方法で解決してこようとは。

(俺たちの奇襲に対する対策として持ち込んできたのか? 最初からあったならもっと前に使っていたはずだ)

度重なる奇襲を受けたことによる対抗策の一つがこれならば、実に厄介なことではある。

エインセルはこの戦争の最中ですら、こちらの行動に対する対策のために新たな戦術を編み出し、それを軍へと普及させているのだから。

「……悪魔を倒したら、周囲の悪魔に攻撃を察知される仕組みがあるようだ。そっちも同じ状況か?」

『ああ、そうっぽい感じですね。気のせいかと思いましたけど……』

『こっちは明確に攻撃されたわね。《超直感》が無かったら反応が遅れてたわ』

広範囲を薙ぎ払っている緋真には実感しづらいようだが、アリスには分かりやすい性質だったようだ。

特に、アリスにとっては厄介なものだろう。一体を殺した時点で、襲撃そのものは察知されてしまうのだから。

普段ならば、数体を殺すまでは気づかれないであろう彼女も、一体殺した時点で存在を感知されてしまうということだ。

「厄介な技を持ち込んで来てくれたものだが……今このタイミングじゃ、効果的とは言えんな」

これが山間の襲撃であれば厄介な性質だっただろうが、今は正面からの激突だ。

互いが攻撃していることなど百も承知。察知されたところで、そこまでの問題は起こり得ないのだ。

むしろ、あらかじめこの技術の存在を知ることができて良かったとも言えるだろう。

内心でそう呟きながら、頭上にて高まる魔力の気配に視線を上げる。

馴染み深い、荒々しく爆ぜるような魔力の高まり。それを纏いながら舞い降りてくるのは、闇の中で尚銀色に輝く姿を見通せる、巨大な真龍の姿だった。

「グルァアアアアアッ!!」

何発もの砲撃を受けながら、その衝撃を一切無視して着陸したシリウス。

手に握っていたワイバーンを放り捨てて威勢よく咆哮を上げた彼は、即座に《龍王気》のスキルを発動させた。

周囲にスリップダメージを発生させる銀色の魔力は、敵の陣地を飲み込んでシリウスの支配下へと置いていく。

この刺々しい魔力の気配を、悪魔たちは無視することはできないだろう。

「さて、どう出るか」

シリウスの登場と《龍王気》の展開に、悪魔たちの意識がそちらへと逸れる。

その存在は間違いなく、奴らにとって最大の脅威だろう。

エインセルの作り上げた兵器は、あくまでも物理攻撃だ。シリウスにはそれほどダメージを与えられるものではない。

故にこそ、この場所へシリウスが降り立ったならば、奴らは最大限の警戒をせざるを得ない。

(何も対策していない、なんてことは無いだろう?)

ここまで散々、エインセルの軍とは戦闘を繰り広げてきたのだ。

当然、奴らもまたシリウスの性質を理解している筈だ。

兵器による破壊が通用しない、強靭なその肉体。エインセルが、その存在を警戒していないとは思えなかった。

当然、罠は仕掛けられていると考えているし――シリウスならば、それを正面から食い破れると信じている。

その鋭い爪を、尾を用いて暴れ始めるシリウスへ、悪魔たちもまた動き始めているようだ。

「『生奪』……!」

まあ、向こうに気が逸れているのなら、こちらはこちらで自由に動かせて貰うだけだ。

敵を殺したことが周囲に伝わるならば、足を止めずに殺し続ければいい。

シリウスへと注意を向けていたため反応が遅れた悪魔の首を落としつつ、そのまま駆け抜けて次の標的を狙う。

その中で俺の視界の端に映ったのは、回転式の銃座――否、大型のバリスタのような代物だった。

台座ごと回転するそれは、機関銃ならば大層使い易そうな代物ではあったが、備え付けられているのは巨大な弓である。

しかしながら、そこに装填されているものは、先端に丸い球体の付いた奇妙な代物であった。

(たんぽ槍……なわけがないか。何だアレは?)

見た目は訓練用の槍のような代物であったが、そんなものが武器になるはずがない。

だが、それがシリウスに向けられている以上、何かしらの対策であることは間違いないだろう。

気にはなるが、放置しておくような理由もない。

「《練命剣》、【命輝一陣】!」

バリスタの照準を合わせていた悪魔へと、生命力の刃を飛ばす。

シリウスの方に集中していたらしい悪魔はそれに反応できず、飛来した刃によって斬り飛ばされた。

しかし――連中の備えもまた、それ一つではなかったらしい。

ここ以外にもあった様子のバリスタから、先端の丸められた矢が数本、シリウスへと向けて射出された。

的が巨大なシリウスは、それを避けることなく受け止めて――槍の先端は弾け、白い液体をシリウスの体に付着させた。

「グル……ッ!?」

流石にそれは予想していなかったのか、シリウスは困惑した様子で体を見下ろす。

粘着質な、白い物体。シリウスはダメージを受けている様子は無いし、毒性のものではないのだろう。

その白い液体は――程なくして、半透明の塊へと変化し、シリウスの体を固着してしまった。

「……粘着剤とはまた、味な真似を」

シリウスを倒すことは困難と考え、まずはシリウスの動きを封じようとしたのだろう。

何とも強引な方法ではあるが、理にはかなっている。

倒せないなら動きを止めるというのは、決して間違った選択肢ではない。

尤も、動きづらくなった程度で止まるようなシリウスではないのだが。

それに――

「ようやく来たか」

集団で走る軍靴の音。

こちらに近付いてくるその気配に、小さく笑みを浮かべる。

俺たちと、シリウスの作り上げた混乱。それを利用して、アルトリウスたちがようやくここまで到着したようであった。