軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

086:戦端開くは剣鬼の咆哮 その7

ようやく辿り着いた、北の戦場の中心地。

そこでは、俺が先ほど戦っていた東とはまるで異なる光景が広がっていた。

幾重にも張られた柵や、城壁に備え付けられた遠距離攻撃用の兵器。

そして、鼻につくこの臭いは火薬だろうか。エレノアの奴は、一体何を考えているのやら。

「ま、この爵位悪魔との相性は悪かったようだが」

先ほど殺した悪魔の胸から小太刀の一振りを回収し、拭って鞘に納めてから、俺はゆっくりと前に進み出る。

相対するは、黒い全身鎧と大盾、そして大剣を装備した悪魔だ。

身長は2メートルを超えているだろう、その巨躯は確かに、中々に威圧感のある姿であると言える。

見るからに防御を固めた姿。攻撃能力の面で見るとどうしても劣るエレノアたちにとっては、厄介な相手なのだろう。

とは言え――

「で、馬鹿弟子……お前、何をこんな亀野郎に負けてやがる」

「いやいや、本当に厄介なんですよ、そいつ……盾が特殊な装備っぽいんです。バリア張ったり、自動でこちらの攻撃に反応したりするんですよ!」

疲れた様子ながらも必死に弁明する緋真の言葉に、俺は眉根を寄せる。

成程、確かに妙な力を持った装備であるようだ。

その言葉を肯定するように、黒い鎧の悪魔はくつくつと笑みを零しながら身を震わせる。

「然り、我が盾は貴様らのいかなる攻撃も防ぐ。貴様がいかに優れた剣士であろうとも、この盾は斬り裂けまい」

「……そういえば、お前には盾を持った相手に対する対処は教えていなかったか。現代だとあまり出番が無いからな」

鎧を纏った相手に対する対処は、久遠神通流の理念からしてどうしても避けては通れない道だ。

だが、盾の相手というのは中々限定的な状況である。

優先度からも、緋真にはこちらはあまり教えていなかったのだが、それが凶と出た形か。

軽く嘆息し、太刀で肩を叩きながら、俺は失笑と共に告げていた。

「ならばここで覚えていけ、二人とも。盾など、有ろうが無かろうが大差はない」

「……何だと?」

そもそも、久遠神通流は防御を固めた相手をいかに効率よく殺すかを突き詰めてきた武術だ。

相手を盾の上から殺す方法も、相手の盾を利用する方法も、盾を掻い潜る方法も、存在しない筈がない。

まあ、現代ではほとんど使われない術理ばかりであるため、俺もそれほど習熟しているわけではないのだが……それでも、他に応用できるものであれば十分扱える。

この悪魔が装備している盾はどうやら随分と特殊なものであるようだが、幾らでもやりようはあるというものだ。

「盾を構えて安全だと思っている奴ほど、精神的な隙は大きい。その突き方を教えてやるよ」

「言うではないか、人間。ならばこの我を――男爵級64位、バーゼストを打倒してみせよ!」

仰々しく宣言し、黒鎧の悪魔――バーゼストがその大剣を振りかぶる。

身の丈ほどもありそうな大剣を片手で振るうその膂力は、確かに高威力であるだろう。

とは言え、握りが甘ければそう脅威であるとも思えないのだが。

斬法――柔の型、流水。

振り下ろされた大剣の腹にこちらの一閃を合流させ、その軌道を逸らす。

両手で振るっているならばそう簡単にはいかないだろうが、この重量を片手で支えようとすればどうしても無理が出る。

その揺らぎを突いてやれば、攻撃を逸らすことなどそう難しくはない。

派手に地面を叩いた大剣を尻目に、俺はバーゼストへと接近するが――その行く手を阻むように、不自然に動いた盾が道を塞いでいた。

(成程、これが自動防御とやらか)

本人の意思とは関係なく、盾が勝手に動いて攻撃を防ぐ。

随分と便利なものではあるが――同時に、何とも 使えない(・・・・) アイテムだ。

小さく失笑しつつ、俺はその盾へと右の掌を触れさせていた。

打法――侵震。

右の掌より叩き付けられた衝撃が、余すことなく漆黒の盾へと――そして、その裏側にある悪魔の左腕へと伝えられる。

侵震は、元より鎧の上からその内側にある体へとダメージを与えるための術理だ。

隔てられているという意味では、鎧も盾も大差ない。

むしろ、盾を保持するために密着している分、衝撃は伝えやすいのだ。

「ぐ……ッ!?」

衝撃を受けたバーゼストは、左腕を反らせながら一歩後退する。

たたらを踏んだ悪魔は、声の中に驚愕を滲ませながら構え直していた。

「何だ……貴様、今何をしたのだ!?」

「見ての通りだが? 盾で防がれるなら、盾を貫く攻撃をすればいいだけだ」

これほど巨大な盾ならば、むしろ狙いやすいというものだ。

しかも自動防御となれば、自分から盾を差し出してくれるのだ。

いくらでも打ち放題、というものである。とはいえ、この盾の上から何度も侵震を打つのも効率が悪い。

この盾が残っているのも面倒であるし、そろそろ手放して貰うとしよう。

小さく嘆息し、俺は若干腰の引けたバーゼストへとさらに踏み込んでいた。

「ッ……オオオオオッ!」

斬法――柔の型、流水・浮羽。

俺を近寄らせまいとするように、その大剣を横薙ぎに振るう。

俺はそれに対して更に前に出ながら、攻撃の勢いに乗るようにしてバーゼストの背後へと移動していた。

そして体を縮め、自動的に構えられた盾へと己の左肩を押し当てて――

打法――侵震・盾落。

肩からの体当たりで侵震を放ち、その直後に突き出した右手にてもう一度侵震を叩き付ける。

その瞬間、盾の内側から、ゴキッという鈍い振動が響いていた。

「ぐ、アアアアアアアッ!?」

あらぬ方向へと曲がった左腕に、悪魔は大きく悲鳴を上げる。

侵震・盾落とは、肩での体当たりと手での打撃、その両方で侵震を放つ業だ。

一度目の攻撃で相手の腕を痺れさせ、力の抜けた無防備な状態を作り出す。その直後に放つ二度目の侵震によって、力の抜けた腕の骨をへし折るのだ。

侵震をある程度習熟すればできるようになる、比較的簡単な盾対策であった。

「この通り、盾を持つ腕をへし折っちまえばそれまでだ。ついでに、この阿呆は態々自分から動く盾を持ってきてくれてるんだろう?」

にやりと笑いながら、俺はバーゼストの背後へと移動しつつ刃を振るう。

当然ながら、盾の自動防御が発動し、俺の一閃を受け止めるが――それはつまり、折れた腕を無理やり動かされることに他ならない。

「づッ!? おのれ、貴様は――!」

「そらそら、盾を手放さんと、腕が使い物にならなくなるぞ?」

幾度となく移動しながら刃を振るい、その度に盾へと衝撃を走らせる。

これだけの重量物を無理やり動かせば、折れた腕には大層響くことだろう。

フルフェイスの兜であるためその表情は窺えないが、苦痛に歪んでいることは想像に難くない。

その痛みに耐えかねたのか、バーゼストは悲鳴にも近い呻き声を零しながら、振るい落とすように巨大な盾を手放していた。

「ぐっ……はぁッ、っ……やってくれたな、人間……!」

「はん、装備の力頼りの半端者がよく言う。その剣は飾りか? 盾が無ければ何もできないか、お前は?」

「笑止ッ! 我にはまだこの剣がある! 我が剛剣で叩き伏せてくれるわ!」

「剛剣ねぇ……片腹痛いにも程がある」

斬法――柔の型、流水。

正面から放たれた一刀を受け流しつつ、俺は相手の姿を観察する。

頑強な全身鎧ではあるが、動きはそれなりに軽快だ。そこは中身の身体能力の影響も大きいだろうが、この鎧そのものが余り動きを阻害しないつくりであることも事実だ。

つまるところ、こいつの鎧にはいくつもの隙間が存在している。それは鎧である以上仕方のないことであり、同時に俺にとっても都合のいい話であった。

とは言え――

(この音……流石に鎖帷子は着ているか)

返す刃を再び流水で受け流しながら、俺は僅かに視線を細める。

相手が帷子を纏っているならば、選択肢は二つ。剛の型で無理やり突破するか、射抜を使って貫くかだ。

ふむ……では、その両方を見せてやるとしようか。

バーゼストの鎧の首元に着いた傷を見て、俺は小さく笑みを浮かべ――一度後退し、太刀を納刀していた。

「な……貴様、何のつもりだ」

「思った以上に退屈なんでな。少し手加減してやろう」

告げて、俺は白鋼の小太刀を抜き放つ。

ここに来るまでにかなり使用したため耐久度はそれなりに減少しているが、それでも一度の戦闘程度なら問題はない。

雑な扱い方さえせねば、折れることは無いだろう。

対するバーゼストは、俺の言葉に対して身を震わせている。どうやら、随分とプライドを傷つけたようだ。

「ッ……ならば、その細い剣ごと真っ二つにしてくれるわッ!」

怒号を上げたバーゼストは、痛みを忘れたかのように大きく体を動かし、その大剣を大上段から振り下ろす。

俺の脳天へと落ちてくるその一閃に――俺は、小さく笑みを浮かべながら前へと出ていた。

同時、俺は刃を横薙ぎに振るう。小太刀を両手に持ち、振るった刃の柄尻を大剣の腹へと叩き付ける。

斬法――柔の型、流水・指削。

そして、軌道を反らした刃の内側へと、小太刀の刃を走らせる。

その刹那、《生命の剣》を発動し――俺の一閃は、正確に剣を握る右手の親指を斬り落としていた。

「な――ぐあああああああああああっ!?」

「狙うのは鎧の継ぎ目だ――ま、それは言われずとも分かってるだろうがな」

ガランと音を立て、大剣が地面に転がる。

反射的に右手を押さえようとしたバーゼストは、左腕を動かしたことで二重の痛みに身を硬直させていた。

そして、この距離で動きを止めてくれるならば、それを狙わない理由もない。

するりと肉薄した俺は、バーゼストの脇腹へと小太刀の切っ先を当て、その柄尻へと右手を突き出していた。

斬法――柔の型、射抜。

撃ち出された小太刀は鎧の下にある鎖帷子を強引に貫通し、その鋭い刃を体内へと埋める。

内臓を貫きダメージを与えただろうが――流石に、これだけで死ぬほど軟ではないようだ。

「ご、が……このような、ことが……」

地面に片膝を突き、だらりと両腕を下げた状態で呆然と呟くバーゼスト。

その姿に嘲笑を浮かべながら、俺はゆっくりと太刀を抜き放っていた。

「さて、これで最後だ。お前たちには一つ、面白いものを見せてやろう」

「先生……?」

「よく見ておけ、緋真、ルミナ。これが、久遠神通流の求めた一つの答え――馬鹿馬鹿しい術理を追い求めた先の、ある種の到達点だ」

告げて、俺は太刀を大上段へと構える。

狙う場所は、膝を着き狙いやすい場所まで降りてきた、バーゼストの鎧の首元。

そこに付けられた小さな刀傷へと向けて、俺は意識を集中させる。

斬法・奥伝――

――それは、あまりにも馬鹿馬鹿しい答え。

具足を纏う敵を前にして、いかに効率よくその相手を殺すか。

久遠神通流が追い求めたその問いに対する答えとして、最も単純で最も難しい、一つの結論。

即ち――

「――その鎧ごと、叩き斬る」

――剛の型、鎧断。

ギィン、と――甲高い金属音が、響き渡る。

俺の放った一刀は、鎧に付いていた傷へと正確に食い込み、そこから縦一直線にその鎧を両断する。

漆黒の鎧には縦に斬れ込みが走り、その内側にあった鎖帷子までも綺麗に斬り裂く。

そして――その隙間から、まるで噴水のように緑の血が噴き出していた。

「――ばか、な」

噴き上がる血の中、巨体の悪魔はゆっくりと仰向けに倒れ――そのまま、二度と起き上がることは無かった。

その姿に、俺は血を払いながら率直に告げる。

「だから言っただろう、亀野郎。防御を固めたお前は、面白いぐらいに隙だらけだったぞ」

『男爵級悪魔バーゼストが、プレイヤー【クオン】によって討伐されました』

『一定範囲内の悪魔の軍勢が弱体化します』