軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

847:痛み分け

『レベルが上昇しました。ステータスポイントを割り振って下さい――』

残された悪魔たちを全員片付けたところで、レベルアップの通知が入る。

どうやら、公爵級と直接相対したことで、かなりの経験値を得られたようだ。

まあそれはそれで構わないのだが――問題は、あの採掘拠点を落とされてしまったことだ。

「チッ、『キャメロット』の護衛がいてもこれか……これだから転移魔法ってのは厄介だな」

いかなる呪文を用いたのかは不明だが、要所に直接出現されてしまうのではどうしようもない。

たとえ襲撃したのが下位の悪魔であったとしても、破壊工作をする程度なら十分ということか。

直接の戦闘能力だけではなく、こういった搦め手も得意とする公爵級悪魔――正直なところ、ディーンクラッドやデルシェーラよりも数倍厄介な相手という印象だ。

「先生、あの拠点って確か――」

「……一応、アルトリウスに連絡するぞ」

ともあれ、拠点が落とされたことについてはアルトリウスと共有する必要がある。

既に連絡入っているかもしれないが、こちらもローフィカルムに関する情報を共有しなくてはなるまい。

そうしてかけた通話は、まるで待ち構えていたかのようにすぐさま応答があった。

『お待ちしていました、クオンさん。採掘拠点の件ですね?』

「既に話が入ってるってことは、やはり落とされたか?」

『攻め落とされた、というよりは破壊工作を受けましたね。坑道が崩落しています。何人かが巻き込まれましたが……まあ、そこは帰還のスクロールで何とかなりました』

やはり、ローフィカルムは大部隊を送り込んだわけではなかったようだ。

最低限の戦力だけで事を成したのはそれしか動員できなかったのか、或いはそれだけで成功させられる自信があったからか――どちらにせよ、事実はローフィカルムの優秀さを示していた。

「はぁ……とりあえず、 問題は無いんだな(・・・・・・・・) ?」

『はい。あの拠点が落とされることは想定通りです。尤も、予想よりも時期は早かったですが』

そう、アルトリウスは最初から、あの拠点を防衛できるとは考えていなかったのだ。

考えるまでもない話ではあるが、俺たちの支配地からは飛び地となっており、しかも一方的にエインセル側に有利な立地である。

更に言えば、坑道は破壊工作が容易い場所だ。とてもではないが、エインセルの攻撃を防ぎ切れるようなものではない。

だからこそ、アルトリウスは最初から腹案を用意していたのである。

「しかし、山の反対側から掘るなんて本当にできるのか?」

『はい、地属性魔法やギガンティックモール……モグラのテイムモンスターなど、色々と方法がありますので』

アルトリウスの案はひどく単純で、エインセルの領地側ではない山の反対側から穴を掘って坑道を作ってしまおうというものである。

確かに、それならエインセルからも攻撃を受けづらく、防衛のための対策も取りやすいだろう。

本当にそんなことができるのか、という懸念を除けばであるが。

しかし、アルトリウス曰く可能であるということなので、無茶な挑戦というわけではないのだろう。

「まあ、上手く行くならそれでいいんだがな。エインセルの目を逸らすこともできただろうし」

『はい、ひとまずは問題ないかと思います。ところで、クオンさんの方は……例の悪魔と遭遇したんですね』

「やはり、今回の襲撃を主導していたのはあの悪魔――公爵級第五位、ローフィカルムだったようだな」

公爵級悪魔ともあろう者が、わざわざ俺たちの足止めのためだけに出てくるのもどうかとは思ったが……まあ、転移魔法を扱う関係上、距離的な制約もあったのだろう。

ともあれ、今回の襲撃はローフィカルムの手によるものであったことは間違いない。

奴が最後に残した、『義理は果たした』という言葉も気になるが――ともあれ、あの悪魔については今後も警戒が必要だろう。

「容姿についてはこの間話した通りだが、ローブや三角帽子を纏った老婆の悪魔だ。転移魔法や支援魔法で名無しの悪魔を強化して戦ってきた。おかげで、情報はほとんど手に入らんかったがな」

『やはり、公爵級悪魔でしたか……しかし、直接戦いに来ないとは』

「理由は分からんがな。しかし、当人が弱いってことはなさそうだぞ。あの悪魔、シリウスを簡単に無力化しやがった」

奴が姿を消したころには、シリウスは完全に地面に陥没してしまっていた。

空間ごと断ち斬るシリウスの《 不毀の絶剣(デュランダル) 》は奴にも通用するとは思われるが、ああも容易く行動不能にさせられてしまうのではどうしようもない。

『クオンさんのブレイドドラゴンを、ですか……公爵級とはいえ、第五段階に至った真龍を一蹴するというのは信じがたいですね』

「恐らく、重力を増やす魔法なんだろうな。元々比重の重いシリウスには、よく効く魔法だったようだ」

『【グラヴィティ】……闇属性の魔法も使いますか。月属性とは聞いていましたが、やはり前提属性も扱えるようですね』

そうなると、光属性の回復や補助も……そして強力な時空属性の魔法すらも扱えると思われる。

というか、俺の攻撃を防いでいた防御魔法は時空属性の可能性が高い。

空間ごと遮断する時空属性の防御魔法は、通常の手段では突破不可能だ。

「だが、奴はシリウスを行動不能にするだけで、そのまま仕留めてこようとはしなかった。奴は魔法に秀でた悪魔だ、やろうと思えばシリウスを倒し切ることもできただろうに」

シリウスの体は頑強で、高い体力を持っているとはいえ、その防御性は物理攻撃に偏っている。

魔法に秀でたローフィカルムならば、動けないシリウスを仕留めることは容易かったはずだ。

しかしながら、あの悪魔はシリウスの動きを止めるだけで、その後に追撃を行おうとはしなかった。

そもそも、あまり殺気も抱いていない様子だったローフィカルムは、果たしてどのような思惑を持っていたのだろうか。

『……言いにくいですが、公爵級悪魔はその気になれば、クオンさんたちとて対抗するのは難しい筈です。それほど用意周到な悪魔なら、尚更に』

「そうだな、それは否定しない」

『単純に時間稼ぎをするという意味では、ローフィカルムはクオンさんたちを仕留めても問題は無かったはず。だというのに、その悪魔は本気で戦おうとはしなかった、ということですね』

「……ああ、そうなるな」

改めて言葉にすると不可解で、思わず眉根を寄せる。

ローフィカルムの力を考えれば、わざわざ配下の悪魔など使わずとも、俺たちと戦うことはできた筈なのだ。

一体何故、ローフィカルムはあのような手段を取ったのだろうか。

その疑問に、アルトリウスはゆっくりと考えを巡らせながら言葉を重ねた。

『すぐに思いつく可能性としては、自身の手札をなるべく見せないようにするためかと思われます。配下の悪魔たちに戦わせることで、ローフィカルム自身の手札は最低限しか見せていない形になりますので』

「確かに、それはあるだろうな。奴が使う魔法の属性は分かったが、どんな攻撃をしてくるのかはさっぱりわからなかった」

ローフィカルムが使った攻撃魔法はシリウスの動きを止めた重力魔法程度で、他に攻撃らしい攻撃はしてこなかった。

尤も、転移魔法だけでも十分すぎるほどに厄介なのだが――ローフィカルムの性質を見切れたとは、とてもではないが言えなかった。

『それほどまでに情報の秘匿を考えているのは、逆に恐ろしいですね。これまでの悪魔には考えづらかった性質です。しかもそれが、公爵級悪魔とは』

「そうだな……あとはあの悪魔、最後に『義理は果たした』と言い残していったぞ。ここまで来るとブラフの可能性も否定はできんがな」

『ふむ……分かりました。それを含めて情報を整理しておきます』

果たして、ローフィカルムはどのようなスタンスでいるのか。

正直なところ、エインセルとの戦いの中で、その本丸と同時に相手にすることは避けなければならない。

だがあの様子を見るに、ローフィカルムだけを釣り出して戦うことも困難だろう。

その有利を、奴が自分から放棄するとは考えづらかった。

『ともあれ、しばらくはこちらで動きます。しばらく拘束してしまって済みませんでした』

「いや、構わんさ。こちらはこちらで、しばらく動いておく」

『はい、恐らく近い内に、エインセルとの戦いが進展します。その時は、またよろしくお願いします』

畏まった様子のアルトリウスとの通話を終了させ、軽く息を吐き出す。

さて、余計に頭の痛い事態となってしまったが、とにかく動かざるを得ない。

まずは、エインセルとの戦いに備える必要がある。

気を取り直し、再び修行に動くこととしよう。