軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

836:慎重な闇討ち

作戦を伝えた後、アリスは再び姿を消した。

今のアリスを捉えるには、相当にレベルの高い《看破》系統のスキルが必要となる。

ただの悪魔程度に発見されるような恐れは無いだろう。

どちらかと言えば俺の方が問題だが、今は積極的に動く場面ではないし、静かに息を潜めていれば見つかることもない。

(さて……どの程度の広さがあるのやら)

坑道の全体像を把握するためには、アリスが一人で動く必要がある。

果たして、この坑道はどれだけ広げられているのか。正直、ここが坑道だと分かっていたら俺たちだけに仕事を任せるということもなかっただろうに。

建物の制圧だけならまだしも、坑道の制圧にはもっと多くの人員を使うべきだ。

尤も――慎重に、発見されることなく仕事をこなすという意味では、この方が良かったのかもしれないが。

(デーモンはいい、よほどのことが無い限りは一撃で仕留められる。問題は、あのゴーレムだ)

カーゴのような形状のゴーレムと、採掘用の機器と思われるゴーレム。

どちらも悪魔によって制御されている様子ではあるが、ある程度は自律的に行動している。

果たして、あのゴーレムたちは、俺たちが悪魔に攻撃した時にどのような反応を示すのか。

最高なのは、支配者がいなくなり機能を停止すること。更に言えばこちらで制御できるようになるなら言うことはない。

まだ許容範囲であるのは、ゴーレムたちがこちらに襲い掛かってくること。面倒ではあるが、破壊すれば済む話である。

最悪なのは、敵対した瞬間に自爆することだ。この閉所で自爆されれば俺とて無事では済まないし、この坑道も崩落する可能性が高い。

「破壊が面倒なんだよな、あの手の奴は……」

音が響かぬように小さく毒づきながら、悪魔たちの観察を続ける。

カーゴの内の一体は、そろそろその中身が満タンになる頃だ。

程なくして、あれは地上へと移動を開始するだろう。

果たして、その時に悪魔はどのような動きを見せるのか。

(アリスが戻って来るには……まだしばらく時間が必要か)

この坑道がどの程度の広さなのかは分からないが、調べ切るにはまだまだ時間が必要だろう。

流石に、あのカーゴが上がってくるまでに調査が終わるということはあるまい。

つまり、最初の敵については俺だけで対処する必要がある。

「……」

さて、果たしてあのゴーレムはどのように動くのか。

様々なパターンを想定しながら、奴らが動き始めるタイミングを待つ。

そして――程なくして、標的たる悪魔たちは動き出した。

(カーゴ一体、そしてデーモンが二体か。ちょうどいい塩梅だな)

悪魔を片付けるのに苦労することは無いだろう。

問題となるのはカーゴのみ――だがまずは、あの二体の悪魔を反応を許さずに片付ける。

ぶら下げていた小太刀を緩く握り、俺は岩陰に身を潜める。

息を殺し、気配を殺し、心音すらも低く留めるように。

故に俺の耳には、悪魔たちの歩く音が、五月蠅いほどに響いて来ていた。

(三体以外の気配は無し。荷運びと荷降ろしの役か? まあいい、殺せばそれで済む相手だ)

ガタガタと音を立てながら、足の生えたカーゴが進む。

その少し後ろを進む悪魔が、俺の潜む岩陰の横を通り過ぎる。

刹那――

斬法――柔の型、断差。

交差する二振りの小太刀が、悪魔の首を鋏のように斬り飛ばす。

溢れる緑の血が黒い塵となる、その時間すらも置かずに再び地を蹴った俺は、次の瞬間にはもう一体の悪魔へと肉薄していた。

悪魔の赤い瞳がこちらの姿を捉えるが、もう遅い。

俺の振るう刃は悪魔の喉を割き、心臓を穿つ――そのダメージで瞬く間に絶命したデーモンは、既に首を切断されていたもう一体とさほどタイムラグを置くこともなく、黒い塵となって消失した。

(あとは、このカーゴ……!)

指示を出していた悪魔が死んだことで、カーゴは動きを止めている。

カーゴの前面部には球体の頭部と思われるパーツが付いており、そこにはめ込まれたカメラのような瞳がこちらを捉えた。

「――『生奪』」

ゴーレムは感情を読めないが故に、攻撃行動への意向が察知しづらい。

いかなる兆候をも見逃さぬよう注意深く観察し――しかし、それ以上ゴーレムが動き出すことは無かった。

どうやら、指示役である悪魔を殺したことで、動きが止まったらしい。

ひとまずは最悪の可能性を避けられたことに安堵し、周囲に気付かれていないかどうか気配を探る。

幸い、下で作業をしている悪魔たちの動きに変化はない様子であった。

発動させていたスキルを霧散させつつ、改めてこのゴーレムの様子を観察する。

(自意識は持たず、あまり自律行動はできないタイプのゴーレムなのか……?)

そもそもゴーレムに詳しいわけではないので、どのようなタイプがあるのかすら知らないのだが。

ともあれ、コイツは単体では悪さをすることは無いようだ。

しかし――

「どうやって動かせばいいんだ、コイツ」

動きを止めているこのカーゴを、ここで置いておくことは都合が悪い。

せめて地上まで行ってくれないと次に来た連中が異常を察知してしまうのだが。

最悪、地上まで行かなくても目に付きづらい場所には移動して貰いたいところだ。

「あー……地上へ進め」

小さく声をかけてみるが、ゴーレムのカメラはただこちらを見つめるだけだ。

俺の言葉に反応する様子もなく、ただその場に立ち尽くしている。

言葉で指示を出すことはできないのか、それとも受け付けている言語が異なるのか。

しかしながら操作に利用できそうなボタンも端末も見当たらないため、動かす手段がまるで見つからない状況だ。

正直、あまりこちらに集中しているわけにもいかないため、長々と観察するのは避けたいところなのだが。

「うーむ……」

あまり変に動かして、警報でも鳴らされるのも困るのだが。

ぐるりと全体を確認し、やはり使えそうな場所が無いことに眉根を寄せる。

鉱石を満載したロボットなど、力ずくで移動させられるようなものではない。

いっそのこと破壊した方がいいだろうかと悩み始めたちょうどその時、こちらへと近づいてくる気配に気が付いた。

「……アリスか、状況はどうだ?」

「こっちの台詞なんだけど。とりあえず、奥の方でサボってた悪魔は何体か片付けたわ」

相変わらずの素早い仕事に感心しつつ、視線でゴーレムの姿を示す。

状況は察していたらしいアリスは、ウロウロとその周りを動きながらゴーレムのことを観察し始めた。

どうやら、言わずとも用件は伝わったらしい。話が早くて何よりである。

「どうだ?」

「この手のは《鑑定》系統のスキルじゃないと良く分からないのだけど……」

アリスの持っている《看破》系統の識別スキルは、隠れている効果を発見するには向いているものの、対象の詳細情報を把握できるわけではない。

それでもある程度の情報は読み取れるだろうという期待を込め、アリスの仕事を観察する。

彼女はしばしカーゴの様子を眺め――やがて、魔力を帯びた手でその背面を触れた。

瞬間――

「……動いたわ」

「マジか、よく分かったな」

「まあ、何か回路っぽいものがあったから、何となく」

ゆっくりと向きを変え、外へと向けて歩いて行くカーゴ。

どうやら、背面に魔力を注ぎながら命令することが必要だったらしい。

よくもまあ、そのような仕組みを暴くことができたものだ。

「とりあえずは何とかなったけど、この後は?」

「もう一度ぐらいは来た奴を片付ける。だが、流石にそれ以上は侵入に気付かれるだろうからな。そうしたら中の連中に襲撃を仕掛けるぞ」

「了解」

話もそこそこに頷いて、アリスは再び姿を消す。

下にいる連中の殲滅は、こちらにとっても厄介な仕事だ。

まずは数を減らし、万全の態勢で挑むこととしよう。