軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

819:種族クエストの実態

結局、周りにいた俺たちには状況を把握することはできず、アリスはいつの間にか湖の畔へと戻ってきていた。

無事で済んだことは幸いなのだが、何が何だか分からないうちに終わってしまったという感想である。

だが、当のアリスは中々に満足した様子であり、それなりに手応えのあるクエストであったようだ。

「リドル系ですか……私たちは戦闘系のクエストばっかり請けてましたから、珍しいですよね」

「リドル、謎解きか。その手のはあまり興味が無かったからな」

頭脳労働担当がいるならともかく、俺たちだけでその手のものに挑むと無駄に時間がかかってしまう可能性がある。

幸い、今回はアリスだけでも何とか攻略できたようだが、挑む必要があるなら準備をしておきたいところだ。

そんな俺たちの言葉に、アリスは軽く肩を竦めつつ声を上げた。

「リドル系と言っても、襲ってくる敵を捌きながらだからね。頭脳だけだと結構大変だと思うわよ」

「そもそもこのクエストに挑む人そのものが少なそうですし、どんな人がやって来るのかは分からないですけどね」

闇月族(エクリプス) は条件こそはっきりしていないが、恐らくはマーナガルムの称号と月属性魔法が条件であると考えられる。

ただ、あれらがどのようなプレイヤーにとって相性のいい能力であるかと聞かれると、正直よく分からないのだ。

闇月については転移やステータス異常を操る、使い所の難しい能力が多い。

そして対となっている天月については全くの謎だ。

それらを取得するプレイヤーの傾向など、何一つ理解できていないのである。

「……まあいいんだが、どうする? 後続のためにこの情報は公開するのか?」

「場所については公開していいと思うけど、内容は黙っておこうかしら」

「リドル系だと、答えが分かってたらあっさりクリアできちゃいますからね」

「まあ、問題が一つしかないのかどうかは知らないけど」

出題された問題については、既にアリスから話を聞いている。

マーナガルムの正体とは、また随分と抽象的な話だが――よく敵に襲われながらの状態で、その答えに至れたものだ。

アリスの出した答えも、改めて言われれば納得できるものではある。

人類と悪魔、どちらの味方でもない、月光そのものの化身。

何ともまた概念的な存在だが、だからこそ人類と悪魔どちらの勢力にも興味が無いのだろう。

「敵にならないのなら別にいいんだが……他にもこういう存在がいるのかね?」

「さあ? それこそ、私たちの種族クエストとかにも絡んでくるかもしれませんし」

「よく考えたら、あの仙人とかも似たようなものか」

あそこにも何かしらの種族クエストがありそうな気がするが、とりあえず俺たちには関係ないだろう。

ともあれ、アリスも今回のクエストの情報は詳細を公開するつもりは無いらしい。

それは同じ苦労を味わってほしいという悪戯心か、或いはクエストとして楽しんでほしいという心遣いか。

何にせよ、この場に於ける用事はこれで完了だと言えるだろう。思ったよりは、あっさりと用事が済んだものだ。

「それで、どんな風に強化されたんだ?」

「種族スキルが一つ増えたようね。魔眼は据え置きで」

「既存のスキルが強化されるんじゃなくて、新しいスキルが生えるんですか」

緋真は目を丸くしつつ、そう呟く。

確かに、強化クエストとしては既存のスキルが強化される方が分かりやすいだろう。

《闇月の魔眼》は効果は限定的なれど、決まりさえすれば十分に強力なスキルだ。

強化されて使い勝手が良くなるならばそれで十分だと思っていたが、どうやら他の形で力が与えられたようだ。

「新しいスキルは、《月光祭壇:闇月》。効果は……え、これマジで言ってる?」

「どうした?」

普段は見ないような呆気にとられた表情で絶句しているアリスに、思わず興味を惹かれて問いかける。

どうやらアリスは、スキルの効果説明文を何度も読み返しているようだ。よほど信じがたい内容だったのだろう。

しかし、それでも解釈は変わらなかったのか、アリスは溜め息を零しつつもそのウィンドウを俺たちへと公開した。

俺と緋真は、それを覗き込むように確認し――同じように、言葉を失い立ち尽くすことになるのだった。

* * * * *

「ああ、種族強化クエスト――真化種族クエストはかなり重要だと考えられる。だから、手がかりがあるならさっさと当たりたい」

『情報は頂いたのでそれは構いませんが、まだ確証は取れていませんよ?』

マーナガルムの森から帰還した俺は、今回のアリスの情報を対価として、教授に交渉を持ちかけることとした。

必要な情報は言うまでもなく、俺や緋真のような鬼人族系の種族強化クエストだ。

生憎と、『MT探索会』ですら明確な答えと言えるような情報は仕入れられていない。

それでも、ある程度の目星はついているのなら、それだけでも確かめてみる価値はある。

『先ほどもお話ししましたが、クエストそのものの確認はできていません。ある可能性が高い、というだけですね』

「それなら、俺たちが行ってみれば確認が取れるんじゃ?」

『クオン殿たちは特異点のようなものですからねぇ』

何ともな言われようであるが、突出していることは否定できないため口を噤む。

だが、アリスがクエストを請けられた以上、絶対に受注できないということは無いはずだ。

「しかし……そこに鬼人族のプレイヤーが行ってもクエストは請けられなかったと?」

『ええ、他のプレイヤーが訪れた時とは異なる反応があったため、可能性はあると思われるのですが……今のところ、条件が分かっていません』

「ふむ。レベルか、ステータスか、それとも……?」

その反応の違いがヒントになっているのであれば、『MT探索会』はとっくの昔に検証していることだろう。

それでも分かっていないとなると、何かしら複雑な条件でもあるのだろうか。

今のところ心当たりはないが、とにかく色々と試してみるしかないだろう。

「まあとにかく、やるだけやってみるさ。成功したなら情報は提供する」

『ありがたいですが、今回のリドルの件は情報を頂けないのですか?』

「クエストを請けた当人の意向だよ。答えの分かっている問題なんぞ、そっちには面白くないだろう?」

『ふむ……致し方ありませんな』

頭脳労働という点については俺たちよりもよほど向いているだろうし、『MT探索会』の面々ならばそこまで苦労することもないだろう。

いや、マーナガルムの攻撃を対処し続けることに苦労するかもしれないが、そこは頑張って貰うしかない。

何しろ、あれだけ強力なスキルを習得できるのだ。多くのプレイヤーが取得しておけば、それだけ悪魔と有利に戦えるだろう。

「それで、その心当たりのある場所っていうのはどこに?」

『地図は後程送りますが、場所はミリス共和国連邦ですね』

「ミリス? というと……」

アドミス聖王国から南東部、俺たちは訪れたことが無い場所だったか。

確か、かつては後発のプレイヤーたちがクエストに参加するための場所となっていた地域で、うちの門下生たちも活動していたエリアだったはずだ。

あまり具体的な話までは聞いていないのだが、中々に厄介な悪魔が支配していた場所だと聞いている。

後発のプレイヤー向けの場所であったため、俺たちは足を踏み入れたことは無かったのだが――

「まさか、そんなところにあったとはな……」

『そこの更に東、海岸に近いエリアですね。その辺りに、日本風の建築様式のエリアがあります。そして目的の場所ですが、そのエリアにある寺社です』

「ミリスという国は、和風の文化が入ってきている場所だと?」

『どうやら、東の大陸との交易で入ってきた文化のようですね。鬼人族のルーツそのものは東の大陸にあるようです』

「……流石に、海を渡れと言われると困るな」

交易をしているのだから不可能ではないのだろうが、流石に勘弁してほしいところだ。

どれだけの長期間の移動になるのか、分かったものではない。

『そもそも、余所者は交易船に乗れないようですがね……ともあれ、その場所にクエストがある可能性は高いです。発見したら、是非我々に情報提供を』

「勿論、承知している。有力な情報提供、感謝するよ」

あまり確信を得られるような情報ではなかったが、とりあえずの目標にはなるだろう。

和風のエリア、果たしてどのようなものがあるのか――まずは、国境を超える必要があるし、さっさと移動することとしよう。