軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

810:敵軍の動き

かつて、公爵級悪魔デルシェーラによって支配されていた都市。

氷漬けになっていたためか、逆に損傷は少なく、 異邦人(プレイヤー) たちの前線拠点となっている場所だ。

北の地を探索するための足掛かりにもなっているし、ここを奪われることは致命的とまでは言わないが、俺たちにとっては大きな痛手となるだろう。

故にこそ、エインセルもこの拠点を狙ってきたのだろうが、その動きは決して素早いものではなかった。

フィノから篝神楽の鞘を受け取り、急いでここへと移動してきた俺たちが目にしたものは、未だ争いの様子は見えない都市の姿だったのだ。

「ふむ? エレノアのことだし、誤報ってことは無いと思うんだがな」

「まだここまで来てないんですかね? その割には、焦ってる人も見当たらないですけど」

多くのプレイヤーがクエストの探索に出かけているということもあるが、それにしても慌ただしく動き回るプレイヤーの姿は見えない。

どうやら、話に聞いていたほど緊急事態という状況ではないようだ。

とはいえ、エレノアが何の根拠もない曖昧な情報を持ってくるとも考えられない。

エインセルが動いたことは事実なのだろう。その動きが、まだ緊急と呼ぶべきレベルには達していないということか。

「知ってそうな人に聞くしかないかしら?」

「まあ、まずは状況の確認だろうな。『キャメロット』の奴でも捕まえるか」

何にせよ、エインセルの動きがあるとすれば街の北側だろう。

そちらへと向けて移動しつつ、馴染みのある意匠の鎧姿を捜索する。

今回の方針で、『キャメロット』のプレイヤーたちも多くがクエストの捜索へと向かっている筈だ。

それでも、最前線に当たるこの都市にはある程度人員が残っているはず。

そう考えながら北門まで向かった俺の目に入ってきたのは、小柄な人影が動き回っている姿だった。

「K、アンタは残っていたのか」

「っ、クオン殿か! ちょうどいい、こっちに来てください!」

慌ただしそうに指示を飛ばしていたため、挨拶程度のつもりだったのだが、Kは俺の姿を認めるなり横手へと向けて走り出してしまった。

どうやら、外壁工事用に建てられた臨時の階段で外壁の上へと登ろうとしているらしい。

上にもプレイヤーの気配はあるし、どうやら防衛の準備は整えているようだ。

とりあえず、《空歩》を使って空中を足場としながら、壁の上まで一気に駆け上がる。

わざわざ階段を使わなくても、そのまま上まで登ってしまえば手軽というものだ。

「はぁ、はぁ……それは流石に反則では?」

「いや、あの狭い階段をぞろぞろ登るのもどうかと思ってな。こっちの方が手軽だろう?」

木で仮組されている仮設階段は、ほとんど一人が登る程度の幅しかない。

擦れ違う羽目になったら確実に通り辛いし、直接昇り降りできるならその方が楽だろう。

――とまれ、移動手段など今は気にするべき用件ではない。必要なのは、今の状況を把握することだ。

「それで、俺たちはエインセルが動いたとしか話を聞いていないんだが、一体何があったんだ?」

「それは直接見て貰った方が早いでしょう。あちらの方角です」

言いつつ、Kは俺へと双眼鏡を差し出してきた。

中々にレトロな見た目であるが、プレイヤーの手による作品だろうか。

Kの指し示した方角では、肉眼で見てもぼんやりと何かが行われていることは確認できる。

その正体が何であるか、双眼鏡の視界はすぐさま明らかとしてくれた。

「……陣地の設営か」

「そのようですね。山脈を越えてきたらしいエインセルの軍勢は、あそこに拠点の設営を開始しました」

双眼鏡が映し出したのは、何体もの悪魔が動き回り、防塁や塹壕を作り出している光景だった。

緋真に双眼鏡を手渡しつつ、俺はその動きの意図を考える。

何故今になってエインセルが動き出したのか――それはまず間違いなく、アルフィニールが斃れた影響だろう。

何かしらの制限があるのかは分からないが、タイミングとしてはそれ以外に在り得ない。

まあ、そのタイミングそのものについては何でもいい。どうせ、アルフィニールの次にはいずれかと戦う予定だったのだ。

しかし――

「……クオン殿、見解を聞かせて貰っても?」

「むしろ軍曹に聞いた方がいいと思うぞ、これは。だが、あれはどう見ても対兵器を想定した防衛陣地だろう」

防塁と、塹壕――即ち、銃撃や爆発物に対しての対策と取れる。

つまり、あれは防衛または野戦を想定した陣地だと考えられる。そしてその場合、仮想している敵戦力は何なのか。

通常の活動において、あの位置に陣地があったとしても、俺たちに困ることは無い。

たとえ邪魔なエリアがあったとしても、迂回すれば済むだけなのだから。

だが、奴らは防衛に向いた陣地を敷こうとしている。それは即ち、あの向こう側に進ませたくないのだ。

「奴らの本命は、むしろあの陣地よりも奥にあるんだろうな」

「偵察は出していますが、近付くことは困難な状況ですね」

「だろうな。だが、想像はつく」

都市からギリギリ目視可能な位置、その更に奥にある何か。

距離的にはかなり厳しいとは思うが、目的が本格的な攻撃ではないのならば納得できる。

「あの奥には、恐らく迫撃砲か、それに類するような砲撃兵器があるんだろうな。アウトレンジからこの都市を攻撃するつもりだろう」

「っ……都市の結界は稼働させました、が――」

「元の石碑じゃなく、プレイヤーの造った石板だろう? 性能はまだ届かんだろうな。完全に防ぎ切れるかどうかは厳しいところだ」

それに、攻撃を開始してきてからの方が厄介だ。

何しろ、奴らは防御陣形を整えた上で砲撃を行ってくることになる。

即ち、迫撃砲を無力化しようとしても、その陣地から放たれる銃撃の嵐の中を潜り抜けなければならないのだ。

まあ、流石に機関銃や地雷の類まで作っているとは思わないが、魔法やら兵器やらで一方的に狙い撃ちにされることは間違いないだろう。

「あの陣地はこちらも迫撃砲を使ってくることを想定しているのかもしれんな。となると、エインセルはかなり慎重な性格だ」

「実際のところ、こちらはまだ実用化には至っていませんからね」

「余計に不利ってことだがな……仕方ない」

俺の想像が当たっているのかどうかは分からないが、あの陣地を放置するという選択肢は無い。

少なくとも、あの場所に陣を敷かれることに関し、こちらのメリットなど皆無なのだから。

であれば、奴らは早急に叩き潰さねばなるまい。

「やるぞ、緋真。あそこは跡形も残さず均してやらんとな」

「それは賛成ですけど……どうやって攻撃するんですか?」

「方法はいくつかあるが、それはまだ向こうの出方が分かっていないからこそ適当なことが言えるってだけの話だ」

単純に考えるなら、航空戦力で潰すのが最も楽だろう。

塹壕だろうが防塁だろうが、地上戦力に対する防衛能力が高かったとしても、空中に関してはそうもいかない。

テイムモンスターたちの戦力で空中から攻撃してやれば、一網打尽にすることも可能だろう。

尤も、それは相手が対空攻撃能力を持っていなかった場合の話だ。

それらが準備されていた場合、流石にルミナやセイランが危険だろう。シリウスに関しては何とかなるかもしれないが。

「つまり……私の出番ってことかしら?」

「そうだな。結構な重労働になると思うが……頼めるか?」

こちらを見上げながら笑みを浮かべるアリスに、こちらも頷き返す。

まずは、敵の能力を把握することが必要だ。

あの防衛陣地の奥で、果たして奴らは何をしようとしているのか。まずは、それを確かめる必要がある。

「アリスが調査している間、俺たちは奴らの目を引き付ける。ついでに、奴らの見せ札を確認しておこうと思うが――K、そっちはどうする?」

「そうですね……クオン殿に、同行できればと。対応方針を決めるまでの間、野戦で情報を集めるとしましょう」

行き当たりばったりではあるが、とりあえずの方針はこんなところか。

もっと有効な作戦があるかもしれないが、その辺りはアルトリウスや軍曹が戻ってきてから考えるとしよう。