軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

807:火口へ向けて

溶岩に熱せられた火山の中、焼けるような気温の中を淡々と進んでいく。

正直、耐熱ポーションの効果が無ければとてもではないが耐えられない環境だ。

ポーションの効果切れには十分注意しなければならないだろう。

「ここは……外れだったか」

「やっぱ、説明的にもうちょっと下じゃないとダメですかね」

目的の素材の一つである『炎王結晶』は、溶岩の中に生じるという逸話があるという。

故にこそ、この素材を手に入れられるのはもっと下層の、溶岩に近しいエリアになると考えられる。

無論、それだけ危険度の高い場所であるため、細心の注意は必要となるだろうが。

ひょっとしたら、俺たちの持つ《採掘》のスキルレベルが低いことが原因となるかもしれないが、その場合は数をこなすほかに道は無い。

そういった素材回収をメインとするプレイヤーもいるらしいが、そんな人物を紹介して貰うために戻ったら、今度こそ赤龍王と戦う羽目になりかねない。

「まあ、地道に探していくしかないか」

幸い、真龍たちは不干渉でいてくれている。

お陰で、セイランとシリウスを出して飛行させていてもそれほど問題は無かった。

まあ、単純な暑さに辟易している様子ではあったため、こちらも耐熱のポーションは出しておいたが。

「魔物は出て来ませんね。あの時のガーゴイルは試練用だったんでしょうか?」

「さあな。どちらにせよ、この場所で戦闘せずに済んで良かったさ」

ある程度道幅があるとはいえ、広々と戦闘を行えるレベルではない。

ここでは戦うこと自体がリスクであるし、このまま戦わずに進めておきたいところだ。

この辺りで見つかる採掘ポイントは、黒曜石のような黒い石の塊の形となっている。

赤龍王の言葉ではどうやら結晶のような形になっている印象を受けたため、この見た目のものからは手に入らないのかもしれない。

「ポーションのお陰で何ともないですけど、効果が切れたら火が付きそう……」

「流石にそこまでじゃないと思うが、残り時間には気を付けておけよ」

「ポーションが無かったらシリウスの鱗で目玉焼きができるわね」

胡乱なことを言っているアリスの言葉はスルーしつつ、次なる採取ポイントを目指して降りてゆく。

目的ではない素材はどんどん手に入っているのだが、目標はまだまだ遠そうだ。

(一応、これでも使えることは使えるんだろうけどな……)

手に入った素材の中には、火属性の鉱石や原石がいくつか混じっている。

一応、これでもフィノが作ろうとしている鞘は作成可能なのだろうが、性能が目標に到達しないことは間違いないだろう。

面倒ではあるが、ここは踏ん張りどころである。

と――辟易としながらも決意を新たにしたそのタイミングで、弾かれるようにルミナが顔を上げた。

「ん……お父様」

「どうした、精霊の気配を発見したか?」

「発見というより、一瞬だけ感じ取れました。場所は分かりませんが、もっと下だったかと」

「ふむ。どちらにしろ、このまま降っていく必要はあるわけか」

具体的な情報を得られなかったことは残念ではあるが、存在が確認できただけでも朗報だろう。

いなかったら精霊石を手に入れる手段も無かったかもしれないし、運が良かったと思っておこう。

ともあれ、下まで行けばある程度期待できることは分かったし、回収はそこそこにどんどんと降って行かなければ。

とはいえ――

「普通に降りるだけでも命懸けなんですよねぇ」

「……まあ、そうだな」

ぼやくように呟く緋真の言葉には反論できなかった。

足を踏み外せば一巻の終わりだが、元々人が通ることなど考えられていないため、崩れているところも多々ある。

そういった場所を飛び越える時に失敗すれば、溶岩まで真っ逆さまに落下することになるだろう。

仮にも赤龍王の住まう場所なら、もう少し整備して欲しいところだ。

「……ふぅ。熱には耐えられても、息苦しいな」

「毒性のガスが無いだけでもマシだけどね」

今や全員が空中ジャンプができるため、多少のジャンプ移動程度ならばそれほど問題は無い。

あのイベントの時、赤龍王の試練に挑んだ際と比べれば、大層成長しているものだ。

だからこそ、赤龍王との本気の勝負は勘弁してほしいところなのだが。

あの時は加減されていたが、今度はそうはいかないだろう。

(しかし、ここのところ精霊と接触する機会が多いな)

時の綻びでは時空の精霊と、そしてこの火山では炎の精霊と。

今回はまだ出会っているわけではないのだが、気配がある以上は接触することになるだろう。

精霊たちは女神の眷属であるため、基本的に味方ではある。

だが、あまり詳細な意思疎通をした経験は無く、その真意がどこにあるのかはよく分かっていなかった。

(味方ではある。時空の精霊はエルダードラゴンに協力していたようだし、真龍たちとも協力関係にはあるんだろう)

ここは赤龍王の住まう場所であるし、そこに炎の精霊が棲んでいたとしても不思議ではない。

しかしながら、彼らがどのような関係にあるのかは不明だ。

時空の精霊はエルダードラゴンに協力し、ラーネアを封じるという仕事に従事していた。

精霊たちが真龍の仕事を手伝っているというのなら、赤龍王はそもそもどのような仕事をしているのか。

「ルミナ、精霊は真龍に積極的に協力しているのか?」

「真龍も詳細に見れば精霊に近しい存在です。ただ、龍王は女神様から直接の命を受けて動く方々ですので、精霊がその働きに協力することは当然と言えます」

「龍王たちって、外敵の排除以外にも仕事があるの? あんまり自分たちの拠点を離れられないみたいだけど」

結局、赤龍王は以前のイベント以来ほとんど顔を出していない。

帝国を居住地としているプレイヤーは度々銀龍王と接触できるそうだが、プレイヤーが顔を合わせられる龍王などその程度だった。

生憎と、ルミナも真龍の仕事は知らないのか、その疑問については首を横に振るだけだ。

外敵の排除が仕事なら悪魔の討伐にも積極的に出て欲しいところではあるのだが、拠点からあまり離れられない理由もあるのだろう。

「だが、精霊は精霊王の配下だったな? 真龍たちとは命令の流れが違う筈だ」

「そうですね。精霊たちを統べる者は、あくまでも精霊王様です」

その辺がどうにも複雑化している原因だと思われる。

精霊王は昔から名前は出ていたものの、接触したという話は一向に聞かない。

その存在の意向を確認できないからこそ、精霊たちの存在は謎に包まれているのだ。

そう考えると、ある程度精霊の方針を知っているルミナがいるだけでも、俺たちは情報収集で有利に立っているのだろう。

「とはいえ、情報が少ないことは事実か……今回の精霊は、言葉で意思疎通できる相手ならいいんだがな」

火口を降り、溶岩湖が近付く中でそう口にする。

火口の中央にある巨大な岩場は、赤龍王の領域に入るための入口だ。

あそこに向かうためには上空から飛び石を伝っていく必要があるため、ここからでは向かうことができない。

今回はあくまで、そこではなく外周の探索だ。

「赤龍王は結晶と言っていたから、それっぽいものを探すか」

「足元には注意してくださいよ。普通に溶岩が流れてますし」

耐熱ポーションの残り時間を確認しつつ、溶岩にはなるべく近付かないよう注意しながら先へと進む。

足場が危険であるだけに、採掘ポイントを探すことも一苦労だ。

と――そこで、溶岩湖の方をじっと見ていたルミナが、鋭く声を上げた。

「お父様、精霊の気配です! あちらから、近付いてきます!」

「ほう、向こうから来てくれるのか。探す手間が省けて助かるが……敵対のつもりじゃないんだよな?」

少なくとも戦意は感じていないが、先程赤龍王を相手にしてきただけに、その警戒を拭うことができない。

ある程度近付いて来れば俺もその気配を察知することはできたが、どうやら件の精霊は溶岩の湖を泳いで移動しているようだ。

そもそも生物としての枠組みが最初から異なっている相手だが、果たしてどんな精霊なのやら。

――溶岩の湖面が盛り上がったのは、そう考えた直後であった。

『――ようこそ、お客様。歓迎するわ』

響き渡る、エコーのかかったような魔力に満ちた声。

それを発したのは、溶岩の湖から体を乗り出して頬杖を突く、溶岩で体を構成された巨大な女性であった。