軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

784:地中からの襲撃者

退避してくる作業員たちの合間をすり抜けて、その魔物の方へと向けて走る。

お陰でシリウスは大層進みづらそうだが、敵の数は二体だけで、俺たちだけでも抑えることは可能だろう。

出現した魔物は、『アースイーター』と呼ばれる巨大なワームの魔物だった。

三つに裂けて開くような口は非常に巨大で、人間ならば一呑みにできてしまいそうな大きさである。

しかしミミズのような外見とは裏腹に、その外皮は硬く頑丈そうだ。体の性質からして打撃にも強そうだが、かと言って刃を通すことも中々に大変だろう。

そんなアースイーターであるが、今は作業員たちが投げたボールを受けて一時的に動きを止めている。

どうやら、痺れ薬のようなアイテムをあらかじめ準備していたようだ。

「用意が良いようで何よりだな」

この様子なら犠牲者はいなさそうだ。

折角悪魔から逃げ延びたというのに、こんなことで死んでしまっては浮かばれない。

早急にあの化け物共を引き受けることとしよう。

歩法――間碧。

作業員たちの合間を一気に駆け抜け、アースイーターへと肉薄する。

痺れ薬の効果は解けかけているようだが、構うこともない。

魔法で強化を施しつつ、俺は距離の近い個体へと向けて餓狼丸の刃を振り下ろした。

鋭い刃はアースイーターの頑丈な外皮へと突き刺さり、その身へと刃を食い込ませる。

「……重い」

予想していたことではあるが、中々に体が頑丈だ。

外皮が非常に頑丈であることに加え、その筋肉の密度も高い。

斬れないことは無いが、そのまま刃を通すことは中々骨が折れるだろう。

尤も、魔法強化だけで刃が通るようになるのであれば、そこまで苦労することもないだろうが。

「――――ッ!」

「っと!」

麻痺から解放されたアースイーターは、発声器官は無いのか、鳴き声を上げることなくこちらへと襲い掛かってくる。

大口を広げ、頭からこちらを飲み込まんと迫ってきたそれを跳躍して回避し、再びその胴へと刃を叩き込んだ。

ただし、今度は更なる強化を加えて、ではあるが。

「『生奪』!」

斬法――剛の型、輪旋。

黄金に漆黒を纏わせた餓狼丸は、大きく弧を描きながらアースイーターの胴へと突き刺さる。

先ほどよりも大きく切れ味を増したその一閃は、人体を斬るのとさほど変わらない程度の抵抗感でその身を斬り裂いて見せた。

やはり頑丈ではあるが切れない程ではない。一方で、体力の総量はそれなりに多いらしく、今のダメージもそれと比較すると大したものではなかったようだ。

しかも、与えた傷は徐々に回復してきている。この頑丈さに加えて、再生能力まで持ち合わせているようだ。

(中々に面倒ではあるが、頭は良くないようだな)

地に伏せたアースイーターは、横薙ぎに体を振るってこちらを轢き潰そうと迫ってくる。

長い体を使った攻撃は範囲が広く、跳躍して回避しようにも体の幅もそれなりに大きい。

これを回避することは中々に困難だろう。

斬法――柔の型、流水・浮羽。

横薙ぎに迫ってきた体当たりに、俺はタイミングを合わせながら横へと跳躍する。

接触の衝撃を完全に受け流し、勢いに乗る形で回避することとなったが、流石に大きく距離を開けることにはなってしまった。

範囲内にいた場合、今の攻撃は中々に厄介だ。今回は受け流す形にしたが、どちらかといえば根元に向かって走った方が楽かもしれないな。

「とはいえ、もうそこまでの出番は無いか」

横目で見れば、作業員たちの避難が完了したことが確認できた。

それはつまり、彼らの避難に巻き込まれて動き辛かった、シリウスが前に出られるようになったということだ。

地響きを立てながらアースイーターへと向かって行くシリウスの姿に、何故か作業員たちが後方で歓声を上げている。

彼らの素性を鑑みればわからないではないのだが、もう少し安全なところまで避難しておいてほしいところだ。

これで他の個体が突然現れて襲撃されても、こちらの責任にされたら堪ったものではないのだが。

「仕方ない……シリウス、引っこ抜いてやれ!」

「グルルルルルッ!」

獰猛な唸り声を上げるシリウスは、体を振り回した直後のアースイーターを、爪を突き刺すようにむんずと掴み取る。

鋭い爪の先端はアースイーターの胴体に食い込み、その巨体は逃れようと暴れ回るが、シリウスの力から逃れられるほどのものではない。

とはいえ身体が頑丈であることも事実であり、流石にそのまま引き千切れるほど容易い相手ではなかった。

であれば――

「シリウス、そのまま取り押さえておけ」

「グルッ!」

俺の言葉に頷いたシリウスは、その強靭な膂力を以てアースイーターの巨体を押さえ込む。

それに合わせ、俺は餓狼丸へと生命力を収束させながら地を蹴った。

「《オーバーレンジ》、『命呪閃』」

収束する生命力に黒い呪いを纏わせながら、餓狼丸を蜻蛉の構えに掲げて飛び込む。

頑丈な外皮、強靭な筋肉、それらを備えた柔軟な体――普通であれば、これを斬り裂くことは困難だ。

しかし、物理的に動きを封じられ、体を固定された今ならば。

「しッ!」

鋭い呼気と共に右足を踏み込み、その勢いの全てを刀身へと伝達させる。

白輝にも近い、全身運動を用いた神速の撃ち込み。

伸びた生命力の刃は、身動きの取れないアースイーターの胴体へと突き刺さり――その体を、輪切りにするように両断した。

斬り裂かれて尚ビチビチと動いている体であったが、最早脅威になるような相手ではなく、シリウスによって踏み潰されることで沈黙する。

残った動体の部分もまだ残っていたが、そちらもシリウスが引っ張り出すことで地上へと姿を現した。

「……どうやって潜っていたんだろうな、コイツは?」

「グル?」

地面から引っこ抜かれたアースイーターの胴部であるが、驚いたことに、それが抜けたあとの地面が窄まるようにして埋まってしまったのだ。

その跡を足で叩いてみたが、特に穴が開いているような音の反響は存在しない。

どうやら、本当に奥まで埋まっているようだ。

「専用の魔法でもあったのか、それともスキルか……魔法を無効化してやったら地面の下で潰れたりしないもんかね」

一応、付与されている魔法を解除する方法もあるのだが、果たして通用するものかどうか。

まあ、それはそれで素材の回収には向かなさそうであるし、通用するにしても数が多い時ぐらいにしか使い道は無いだろう。

それよりは、シリウスに強引に引っこ抜いて貰った方がまだ経済的だ。

ともあれ、こちらの戦闘は終了。もう一体を請け負った緋真たちも、殆ど同じタイミングで戦いを終わらせていた。

向こうは解体することでアースイーターの巨体を消滅させたようだが、向こうの穴も同じように消えてしまったようだ。

「魔物ってのはいちいち生態が良く分からんな」

ガリガリと頭を掻きつつ、こちらもアースイーターを解体する。

まあ、これから開発しようとしている場所が、この巨体が通り抜けられるような穴ぼこだらけになるのは防げたらしい。

防衛については問題なく成功と考えていいだろう。

尤も――

「……あの連中はどうしたものかね」

問題は、後方から熱い視線を向けてきている 地妖族(ドワーフ) の集団だろう。

その視線は間違いなく、俺に付き従うシリウスの方へと向けられている。

理由など確かめるまでもないだろう。 地妖族(ドワーフ) の彼らにとって、シリウスの体は全身が極上の素材なのだから。

一部はセイランの方にも向いているようであったが、その大半はシリウスに集中している様子だ。

安全が確保されたと判断したのか、こちらへと向かって走ってくる彼らの姿に、思わず深いため息を零したのだった。