軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

778:曇天の窪地

あそこから北へと向かうほどに、周囲の天気は下り坂となって行った。

このゲームの世界にはきちんと天気の概念があり、晴れの日もあれば雨の日もある。

エリアによってはほぼ晴れのみだったり、雪が振っていたりということもあるのだが、それでも急に天気が変わるということは稀だ。

今回の場合、出発したころは快晴だったというのに、現在は今にも降り出しそうな曇り空である。

これは通常の天気の変化なのか、或いはこのエリア特有の現象なのか――初めて訪れる以上は判断できないが、どちらにせよ進んでいくほかに道は無い。

何となく天気の不安を覚えつつも、俺たちは緩やかな下り坂となっている道を進んでいった。

「この辺りは盆地というか……窪地みたいな地形になってるんですね」

「山間ってわけでもないし、単純に地面が低いようだな」

この辺りは東側と違って山があるわけではない。

明確にエリアが仕切られていないため、エインセルと違いヴァルフレアとは接触してしまいかねない危険性はある。

まあ、その辺りは不必要に近付き過ぎないようにすれば問題は無いだろうが、注意はしておくべきだろう。

ともあれ、この辺りの地形がすり鉢状になっていることは確かのようで、かなり広い範囲で地面が下がっているようだ。

いかなる由来の地形なのかは知らないが、こういう特徴あるエリアには何かしらの要素があるかもしれない。

そう思い、俺たちはこのエリアに侵入してきたわけである。

「今のところは魔物の出現パターンに変化はありませんけど、何か特別な魔物とか出て来ませんかね?」

「或いは、何かしらのクエストとかな。面白そうなものなら挑戦してみても悪くない」

クエストは千差万別だ。物によっては、強力な敵や貴重なアイテムが見つかる可能性もある。

それが俺たちにとって有用であるかは分からないが、発見したなら一度体験して、その上で報告すればいいだろう。

そんな会話をしながら坂道を下っていたその時、頭上を飛んでいたルミナがこちらへと声をかけてきた。

「お父様! あちらの方に小屋が見えます!」

「ほう? ここで人工物か……近くに街があったか?」

「んー、マップ的にはあってもおかしくはなさそうだけど、この窪地のエリアに街は作らないわよね?」

「そういう街もあり得はするだろうが、労力を考えたら普通は平地に作るだろうな」

斜面や岩壁をそのまま利用した街というものも存在はするだろうが、近くに平地があるこのエリアでそのような建築をする必要性は薄い。

恐らく、少し離れた場所に街があったのだろう。

飛び回れば見つかるかもしれないが、とりあえずはその小屋とやらを調べてみるのが先決か。

「人は……流石にいないでしょうね」

「だろうな。僻地と言うほど離れているわけでもないし、ルミナがすぐに見つけられたってことはそこそこ視界も通っている。悪魔共が見つけられない理由がない」

「小屋が破壊されてなかっただけ良かったわね」

生き残りの人間がいる可能性は低いし、直接詳細な情報を得ることはあまり期待しない方がいいだろう。

何かしらの書類でも残っていればそれだけでも御の字だ。

期待を込めながらルミナが指し示した方向へと足を進め――見えてきたのは、破壊の痕跡は見られない小さな小屋であった。

その横にあるのは、大きな丸い物体。あまり馴染みのない物体であるが――

「あれは……製錬炉か?」

「炉ですか? じゃあ、あそこって鉱山か何かなんですかね?」

俺も断定はできないが、近くにあるレールとトロッコを見れば、鉱山である可能性が高いと予想できる。

現在も利用されていた鉱山なのかは分からないが、入ってみれば何かしら鉱石は手に入るだろう。

「ふーん……ダンジョンになってると思う?」

「可能性はあると思いますよ。坑道なんてよくあるシチュエーションですし」

「ダンジョンなぁ……狭いところはシリウスが暴れづらいんだよな」

残念ながら、俺たちはそういったダンジョンは苦手としている。

シリウスはサイズを縮めることができるが、狭いところで暴れ回るのは苦手だろう。

更に言えば、馬よりはデカいセイランはさらに窮屈な思いをすることになる。

最悪、外で待たせるか従魔結晶に戻すか……何にせよ、閉所のダンジョンは俺たちには相性が悪いのだ。

「鉱山に入るかどうかはともかく、あの小屋は調べてみるか」

「ですね。何か残ってたらいいんですけど」

あまり大きな期待はせずに、小屋へと接近する。

遠目に見てもそうだったが、やはり大きな破損をしている様子は無く、ここは悪魔に襲撃されなかったと思われる。

とはいえ、やはり人の気配は無く、しばらく使用された形跡もない。生存者を発見することはできなさそうだ。

「扉に鍵はかかっていないな。無いとは思うが、アリス」

「罠の警戒ね。流石に必要ないとは思うけど、注意しておくわ」

《超直感》のスキルを手に入れたアリスは、今では俺と同等かそれ以上に鋭い感覚を有している。

トラップの類も、彼女なら見逃すことは無いだろう。

ティエルクレスのスキルがあまりにも強力過ぎることには思うことがありつつも、この場は頼りにさせて貰うこととする。

アリスが軽く様子を確認して開いた小屋の中は、特に生活のことは考えられていない作業場となっていた。

「物置兼、軽い休憩スペースってところか。製錬作業自体は外だけで行っていたのかね」

「インゴットはありますけど、普通の金属ですね。レア金属は……ここにはなさそうな感じ」

「そもそも、ああいう魔法的な鉱石ってここで精錬できるのかしらね?」

「フィノにでも聞いてみればわかると思いますけど、とりあえずここでは見当たらなさそうですね」

ああいうレアな素材は、加工そのものにも特別な技術が必要となる。

フィノならば問題なく行えるだろうが、現地人でも誰もが行えるようなものではないのだろう。

残念ではあるが、見つからなかったものは仕方ない。

他に何かが無いかと探索し――棚の中に見つけたのは、一冊の日誌であった。

「ふむ、作業日誌か。報告形式になってるし、個人ではなく事業としての採掘だったようだな」

「ってことは、やっぱり近くに街があるんですかね?」

「だろうな。坑道だけで出稼ぎするなら、この辺りに宿泊できる施設が無けりゃおかしい。ルミナがそれを発見できなかったってことは、街から直接来られる距離ってことだろう」

まあ、その坑道の中に寝泊まりできる施設を作っていたなら話は別だが、流石にそんな環境で長時間暮らすこともないだろう。

それに、金属を運搬するために近場の拠点はまず間違いなく存在する。

もし坑道がダンジョン化しているのであればリスクは高いし、内部よりもその街を探した方が何かしらの手掛かりにはなるだろう。

尤も、そこでクエストが発生する保証は一切ないのだが。

そんなことを考えながらページをめくっていた俺は、ふと気になる記述を発見した。

「持ち出し厳禁……『アースグロウ鉱石』?」

「ここで採れる鉱石ですかね? 聞いたことが無い名前ですけど」

「この坑道で採れるものであることは事実のようだが、どうやら坑道内から絶対に持ち出してはならんらしい」

「使えない鉱石だから捨てるって言うなら分かるけど、持ち出し禁止……?」

首を傾げるアリスに、こちらも首肯して返す。

使えないというだけなら、わざわざ禁止するような理由は無い。

厳禁とまで書いているなら、それ相応の危険な理由がある筈だ。

「あまり詳しくは書いていないが……メタリックビーストが寄ってくるらしいな」

「エサなんですかね? いや、あれってゴーレムですけど」

「エサというか、成長素材とでも呼ぶべきなのかしら。でも、逆に言えばそれがあればメタリックビーストを誘き出せるんじゃない?」

「確かに、それは便利かもな」

現状、メタリックビーストの討伐数は目標に届いていない。

もう少し、こいつらから素材を集めたいところだったのだ。

しかし、奴らは狙って遭遇することが難しく、中々思うように集められなかったのである。

そういう意味では、奴らを誘き寄せられるアイテムの存在は中々有用だった。

「もう少し稼ぎたいところだったし、コイツを利用してみるか?」

「いいんじゃないですか? 来ると分かっていたら、討伐もやり易いでしょうし」

緋真は俺の言葉に同意、アリスも特に不満は無いようだ。

であれば、少しだけ坑道内部を確認し、手に入ったならばその効果を確かめてみるとしよう。