軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

775:北の地へ

アルトリウスと――いや、『キャメロット』と『MT探索会』による共同声明は、あっという間にプレイヤーの間に周知された。

中身は単純で、プレイヤーに対し北の地の探索を推奨するものである。

北部を探索し、クエストを発見すること。その情報の内容次第で、彼らは報酬を支払うことになっている。

とはいえ、デマの情報の可能性もあるため、きちんとした報酬が支払われるのは『MT探索会』による調査が済んでからなのだが。

また、クエスト以外にもモンスターの情報や、遭遇した悪魔の情報、これらについても報奨金が設定されている。

「つまり、プレイヤーの強化と敵の精査、これらを人海戦術で行おうって話だな」

「彼にしては珍しい方針よね。いつも自分の組織内でやってたことでしょう?」

アリスの言葉に、軽く肩を竦めて頷く。

これまで、そうした調査活動は『キャメロット』が独力で行っていた。

無論、情報の精査や検証は『MT探索会』も絡んでいたようではあるが、今回のように組織外のプレイヤーにまで協力を募るようなことは無かったのだ。

いったいどのような心境の変化なのか――まあ、想像はつかないでもないが。

「形振り構っている場合じゃないってのが一つ、もう一つは北のエリアが広すぎることだろうな」

「大公との戦いで危機感バリバリですね」

「どう考えても、今の状態じゃまともに大公と戦うことはできない。『キャメロット』のメンバーだけでなく、他のプレイヤーも強化しようって魂胆だろうよ」

プレイヤーをどれだけ強化すれば、あの怪物たちと戦いうるものになるのかは正直分からない。

しかしながら、今の状況ではまともな戦いにならないことは紛れもない事実だろう。

アルフィニールと違って、他の大公は更に容赦がないものだと思われる。

それらを相手に、今の状態で戦うことができるのか――正直、かなり厳しいというか、恐らく不可能であると俺は考えている。

俺が認識している範囲で、エインセルは非常に容赦のない悪魔だった。個としての能力がどれほどなのかは知らないが、軍としての能力はアルフィニールと比較にならない。

今のままでは、エインセルと直接相対することも不可能だろう。

「どれだけ強化すれば奴らとまともに戦えるのかは分からないが――取れる手は全て取っておいた方がいい。アルトリウスの選択はそういうものだ」

「本当に上手くいくかしら?」

「どちらにせよ、やらざるを得ないってだけだ。防御しているだけじゃ、敵を上回ることはできないだろうからな」

そういう意味では、今はかなり都合のいいタイミングだ。

どちらの大公とも直接は相対しておらず、ドラグハルトの陣営も立て直しには時間がかかる状況。

俺たちがあまり制限を受けずに動けるのは今ぐらいしかない。

この状況で、できる限り味方を強化しておくことが必要なのだ。

「まあ、どっちにしろ俺たちのやることは変わらんさ」

「今回の話があろうとなかろうと、北には向かっていたでしょうからね。でも、どこに行きます?」

「向かう先は、特に指定は無いがな。敵が強い、稼げる方面へ向かって、何か見つけたら調べてみる程度でいいだろうさ」

どこに何があるのかも分からない状況だ。

ある程度目算を付ける程度はできるだろうが、具体的な目標など今の状況では立てようもない。

とにかく適当に歩き回り、目ぼしいものに手を出していく程度だろう。

「何があるかは分からんからな。とりあえず、行けるところまで行くとするか」

北限まで到達できるかどうかは分からないが、時間の許す限り動き回ってみるとしよう。

それでどこまで力を高められるかは分からないが、少なくとも次の戦いで無様を晒すわけにはいかない。

急ぐつもりで、魔物たちを狩っていくこととしよう。

* * * * *

「……まさか、これほどとはな」

「一体どれだけ溜め込んでたんですかね、アルフィニール……」

拠点を出て北へ向かうことしばし。

当然、街道も整備されていないこの北の地においては、幾度も魔物と遭遇することになるわけだが――その度、俺たちのレベルは上昇することになったのだ。

具体的には二回。これはつまり、アルフィニールがそれほどまでに多くのリソースをため込んでいたという事実を示していた。

大公という存在の本質を知っていれば納得はできるものの、それでも驚かずにはいられない話だ。

「レベルが上がることはいいことだが、改めて差を実感させられるな」

「本来だったら、むしろもっと上がっていてもおかしくないとは思うんですけど……あれだけの数のプレイヤーで分け合っていたから仕方ないんですかね?」

「ドラグハルト達もいたからな……分割されていること自体は仕方あるまい。上がった分は上がった分として、素直に喜んでおくさ」

今の目的にはレベル上げも含まれているのだ。

目的の一部も果たされたのだから、それに関しては文句の言いようもない。

特に、今回のクエスト報酬は経験値ジェムと交換しただけだったので、スキルやアイテム的な面での強化は無かったのだ。

レベルだけでも上げておきたいところなのである。

「しかし、今回はあまり新しいテクニックや呪文の習得にはならなかったな」

「でも、先生は出てますよね、新しいの」

「まあ、それはそうなんだがな……」

俺は今回のレベルアップで、三魔剣がそれぞれレベル90に到達した。

節目のレベルであり、期待通りに新たなテクニックは出現したのだ。

今回習得したテクニックは、それぞれ同じ【専心】というテクニック。具体的には【練命専心】、【奪命専心】、【蒐魂専心】である。

「上手く使えば強いことは分かるんだが、扱いづらいんだよな。タイミングが難しい」

「他のテクニックが使えなくなるんですよね? 通常使用とか《三魔剣皆伝》の組み合わせは?」

「そこまではできるが、主体となるテクニックは制限される。切り替えればいいと言われればそこまでだが……流石に、面倒が多いな」

この【専心】のテクニックは、使用した三魔剣の性能を大きく向上させるというものなのだ。

上昇幅は中々に大きく、十分に活用可能な威力向上だと言えるだろう。

問題は、それ以外の三魔剣のテクニックを使えなくなってしまう、ということなのだが。

単純にスキルとして使用するだけだったり、《三魔剣皆伝》のテクニック合成までなら使用可能であるため、完全に使えなくなるわけではないのだが……やはり、それでも制限は大きいと言えるだろう。

「私みたいに一つしか三魔剣を取っていないなら単純なメリットだけですけど、先生はその場で使い分けてますからね」

「とはいえ、火力は三割ぐらいは増しているようだからな……これは流石に無視できん」

一応上書きはできるため、【専心】を使い直せばテクニックを使用できるようにはなる。

しかし、この【専心】にも長くは無いとはいえクールタイムは存在しているため、連続して切り替えられるというわけではないのだ。

それでも、三割も威力が上昇するこのテクニックは無視しがたい性能だ。

どうにかして上手く扱えないものかと頭を悩ませるが、流石にそうそうすぐには案は出て来そうにない。

「必要性が高いのは《練命剣》だが、《奪命剣》には特殊な性能があるテクニックが多いし、魔法を防ぐためには《蒐魂剣》も必要と……本当にどうしたもんかね、これは」

「それって、テクニックの解除はできないの?」

「それは……できるみたいだな」

「クールタイムの問題は解決しないけど、最悪使ったらすぐに解除すればいいんじゃない?」

アリスの言う通り、【専心】を解除さえしてしまえば他のテクニックは使用可能になる。

少しの間は同じ【専心】を使うことはできないが、多少は扱い易くなるだろう。

問題は、その発動と解除のタイムラグが、高速戦闘の間では致命的になりかねないことだが――

(そこは自分で何とかするしかないか)

軽く嘆息し、気を取り直す。

使いづらいとはいえ強化は強化、それも中々に大きな代物だ。

大公と戦うためにも、上手く活用していくこととしよう。