軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

078:準備完了

「いらっしゃーい、待ってたよー」

「お待ちしておりましたわ! さあさあ、こちらへ!」

『エレノア商会』に辿り着き、いつものフィノの作業場へと案内されれば、そこには目を爛々と輝かせたフィノと伊織の姿があった。

どうやら二人とも、突貫で作業を終わらせてきた様子である。

疲労困憊、といった状態ではあるものの、その目は爛々と輝いていた。

「随分無理をさせてしまったようだが」

「いいからいいから、はい見て見て」

若干ふらふらとしている様子のフィノに背中を押され、俺たちは部屋の奥にある台の前まで案内される。

そこに置いてあるのは、刀や羽織、そして篭手や足甲――それに加えて、ルミナの装備一式だった。

どうやら、こちらの注文をきっちりと仕上げてくれたらしい。

「……お前さんの腕を見込んでいたとはいえ、驚いたな。流石に難しかったんじゃないのか?」

「ん、ちょっと驚かされたけど、蟻酸鉱の加工自体は慣れれば何とかなった。女王蟻の方はちょっと大変だったけど」

「わたくしの方は、フィノの加工した女王蟻の甲殻を縫い付けただけだったのに、かなり苦労しましたからね。大変な素材でしたわ」

やはりあの女王蟻は、今の段階で倒すような敵ではなかったらしい。

とはいえ、倒せてしまったものは仕方ない。こうして上手いこと加工できただけ上々と言った所だろう。

何にせよ、完成品がこうして目の前にあることに変わりはない。思わず口元を笑みに歪めつつ、俺は装備を一つ一つ検分していた。

■《武器:刀》蟻酸鋼の太刀

攻撃力:29(+3)

重量:16

耐久度:120%

付与効果:攻撃力上昇(小) 耐久力上昇(小) 腐食

製作者:フィノ

■《武器:刀》蟻酸鋼の打刀

攻撃力:25(+3)

重量:13

耐久度:120%

付与効果:攻撃力上昇(小) 耐久力上昇(小) 腐食

製作者:フィノ

■《武器:刀》蟻酸鋼の小太刀

攻撃力:21(+3)

重量:10

耐久度:120%

付与効果:攻撃力上昇(小) 耐久力上昇(小) 腐食

製作者:フィノ

まずは武器であるが、どうやら白鋼に比べると少々攻撃力は落ちるらしい。

しかしながら、材料の頃からあったように、腐食という付与効果が増えている。

どうやら、これが蟻酸シリーズの効果であるようだが――

「フィノ、結局の所、腐食ってのはどういう効果だったんだ?」

「簡単に言うと、接触した武器や防具の耐久度の減少。つまり、この武器で打ち合った相手の武器や防具は普通よりも早く破損する」

「……武器・防具破壊の劣化版、って感じだね。まあ、一合で相手の装備を壊すようなものは出ないでしょうから、これが限度なのかもしれないけど」

思い起こされるのは、女王蟻と戦った時に苦しめられた、あの酸の体液だ。

多少予想はしていたが、やはり蟻酸鉱には、あの体液と同じような効果があったらしい。

とは言え、フィノの口ぶりからするに、即効性のある効果というわけではないだろう。

長期戦になった場合に効果を発揮するかどうか――或いは、相手にこの効果を伝えた上で、相手に打ち合いを避けさせるという使い方もできるか。

何にせよ、白鋼の武器とは異なる使い方が可能な代物であると言えるだろう。

「ふーん……まあでも、純粋性能でも鋼より上だし、いいんじゃないですかね、先生」

「だな。まあ、最初は白鋼の方を使うとするか」

一応、左腰に二振り携えることも難しくはない。白鋼の耐久が危険になったら切り替えればいいだろう。

ただし、ルミナについてはあまり重量を持たせると動きに影響が出るかもしれないため、こちらについては一旦預かっておくことにする。

「一度性質を理解してからは簡単だったけど、それまでは苦労した……これを加工してると、ハンマーも金床もどんどん耐久値が減っちゃってねー」

「これの効果って、加工中まで現れてたんだ。それってどうやって対応したの?」

「腐食耐性を持ってるアイテム、いっぱい売ってくれたでしょ?」

「ああ……成程な。ルークの素材を使って、まずハンマーと金床を作ったわけか」

それはまた、随分と苦労を掛けてしまったようだ。

あの素材についていた腐食耐性の効果は、防具に付与するものだとばかり思っていたが、そのような使い道もあったとは。

やはり、モノ造りをする連中の発想には驚かされるものだな。

「さてと……次は防具ですわね!」

「おう、お前もテンション高いな」

やたらと張り切っている伊織が、胸を張りながら己の作った装備を指し示す。

彼女が軍曹の孫だと思うと、少し複雑な感情を抱いてしまうのだが――俺が彼の関係者だと語るのは流石にNGだ。

少し扱いに困りつつも頷き、俺は彼女の示した装備へと目を通していた。

ルミナ用の着物については、昨日購入した俺や緋真用のものと性能の変化は無いようだ。ただ、色が異なっているだけである。

俺のが黒、緋真のが赤を基調としているのに対し、ルミナのそれは緑を基調としているらしい。

全体的に薄緑の、袖へ向かうにつれて白くグラデーションがかかっている着物と、幾分か濃い緑の袴。

このカラーリングは、ルミナが妖精だった頃に着ていたドレスのそれに近い。どうやら、あの頃の姿を参考にしたようだ。

「いいじゃないか。早速着てみるか、ルミナ?」

「ん、えっと……」

俺の問いに対し、ルミナは若干迷った様子で、チラチラと着物へ視線を向ける。

だが、それをぐっと堪えると、首を横に振りながら声を上げていた。

「いいえ、他の防具を確認してからにします。私も身に着けるものですから」

「そうか、なら他のを先にするとするか」

いやはや、この間まで子供だったというのに、いつの間にかそんな我慢ができるまで成長していたか。

急激に育ちすぎてしまったせいか、正直な所対応に困るところがある。

一応、門下生の一人として扱ってはいるのだが、果たして子供と思えばいいのか大人と思えばいいのか――そんな悩みを抱きつつも、俺は改めて自分の防具へと視線を向けていた。

■《防具:装飾品》魔絹の羽織・金属糸加工・装甲付与(白)

防御力:18(+3)

魔法防御力:12(+2)

重量:6

耐久度:100%

付与効果:防御力上昇(小) 魔法防御力上昇(小) 斬撃耐性 腐食耐性(全)

製作者:伊織

■《防具:頭》女王蟻の鉢金

防御力:12(+3)

魔法防御力:5(+1)

重量:3

耐久度:100%

付与効果:防御力上昇(小) 魔法防御力上昇(小) 腐食耐性(全)

製作者:伊織

■《防具:腕》白鋼の篭手・装甲付与

防御力:16(+3)

魔法防御力:4(+1)

重量:6

耐久度:100%

付与効果:防御力上昇(小) 魔法防御力上昇(小) 腐食耐性(全)

製作者:フィノ

■《防具:足》白鋼の脛当て・装甲付与

防御力:17(+3)

魔法防御力:6(+1)

重量:7

耐久度:100%

付与効果:防御力上昇(小) 魔法防御力上昇(小) 腐食耐性(全)

製作者:フィノ

一通り目を通して、思わず唸る。

これはまた、随分と強化されたものだ。

羽織に関しては、着物と同じく金属糸加工をすることで防御力、斬撃耐性の付与が成されている。

さらに、両肩の部分に細長い形に切り出した女王蟻の甲殻を重ね合わせるように張り付けてある。

まるで、肩の部分にのみ鎧を纏っているようであるが、この重ね合わせの形状が腕の動きを阻害しないよう設計してあるらしい。

どうやら女王蟻の甲殻の使い方は他の装備でも同じらしく、通常の装備の上から削り出した甲殻を張り付ける形を取っているようだ。

「少し意外だったのは、女王蟻の甲殻を使った防具は、装甲部位だけではなく防具全体に腐食耐性の効果が出ることですわね。ルークの方でも試してみましたけど、あちらは全体に効果が出ることはありませんでしたわ」

「ふむ、成程……今は防具全体に、腐食を軽減する効果が付いているわけか」

「だねー。甲殻自体もかなり頑丈だよ。単純な強度だけ見れば白鋼よりも上だしね。その分、加工にはかなり苦労するけど」

「やはり、素材のランクとしてはかなり上だったか」

「ん、おかげで《鍛冶》のスキルレベルがもりもり上がったよ」

疲れた様子を見せてはいるものの、フィノも伊織も満足そうな面持ちだ。

貴重な素材を扱えたうえに、それを形にして、さらに成長することができたのだ。

フィノにも伊織にも、満足な結果ということだろう。

「よし、じゃあ早速装備するとするか」

「っ、はい!」

やはり楽しみにしていたのか、ルミナはいそいそと装備を手に取っていく。

その様子に苦笑しつつも、俺は受け取った装備を身に纏っていた。

デザインや大きさは以前と変わりはないが、やはり少しだけ重さは増しているようだ。

まあ、動きを阻害されるほどではないので、少し慣らせば問題なく動けるようになるだろう。

どちらかと言えば、新たに追加された肩の装甲の方が気になるものだ。

服の中に金具で肩部分を固定する留め具を作ってあるようで、その部分に肩を嵌めればぴたりと装甲の位置が固定される。

その状態で腕を上げてみれば、蛇腹のようになった装甲が縮まり、腕の動きを阻害することはなかった。

成程、上手く作られている。この工夫には、思わず感嘆と感謝の念を覚えていた。

「流石だな、二人とも。大したものだ」

「ふふん」

「お褒めに与り光栄ですわ」

この形状に加工するには、かなり緻密な計算が必要になるだろう。

ただでさえ加工しづらい素材を、そこまで計算して手を加えてくれたのだ。これには感謝の念が堪えないものである。

一通り体を動かし、刀の位置をチェックして――動きに問題が無いことを確認し、俺は満足して頷いていた。

「よし、これなら十分だ。感謝する、二人とも」

「うんうん、敵に塩を送るみたいだけど、活躍を期待してるよー」

「クオンさんは別陣営ですからねぇ。活躍が見られないのは残念ですわ」

ここまで協力して貰って手助けできないというのは少々心苦しくはあるが、それもまた商売だ。

今回は、俺とルミナの戦う姿を二人に披露することはできないだろう。

一応緋真はいるのだから、そちらだけで勘弁してもらうしかないだろう。

「あ、あの、お父様! どうでしょうか!」

「うん? ルミナか」

背後から声を掛けられ、そちらへと視線を向ける。

そこには、新たな装備を身に纏ったルミナの姿があった。

その新たな立ち姿を目にして、俺は小さく笑みを浮かべる。

頬を僅かに紅く染め、胸に手を当てながらこちらを見つめるその姿は、実に初々しく――とても、美しく映えていた。

「ああ、よく似合っている。綺麗になったものだな、ルミナ」

「あ……ありがとうございます、お父様」

ルミナは金髪で白い肌の、西洋人然とした容姿をしている。

そんな彼女であるが、淡い色の着物は色素の薄いルミナに意外なほどに適していた。

長い髪に関しては今の俺と同じようにポニーテールに纏め、その姿はどこか大正の雰囲気を彷彿とさせる。

作り手である伊織自身も金髪であるため、イメージはし易かったのだろうが、これは中々眼福だ。

「ちょっと先生、私に対しての感想は無いんですか?」

「お前はほとんど変わってないだろう。色合いも一緒だし」

「ぐぬぅ……」

「似合っているんだから、そうしかめっ面をするな」

苦笑しながら緋真の頭を軽く叩き、その顔を起こさせる。

何にせよ、これで装備は完成。明日の準備は――悪魔共と戦うための準備は、十分に整った。

「……先生?」

「どうかしたか、緋真」

「いや、何だか――楽しそうですね?」

軽く口元を押さえ、そこが笑みの形に歪んでいたことを自覚し、苦笑する。

ああ、否定はできまい。楽しみであることは紛れもない事実なのだ。

久遠神通流の力を戦場で発揮する機会が――そして、この胸に燻る怒りを燃え上がらせる機会が。

それは、俺にとって――

「……ああ、楽しみだからな、本当に」

――何よりも、待ち望んでいたものなのだから。