軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

762:融解せし愛の檻 その23

デューラックの完全解放の効果により、アルフィニールの攻撃速度は大幅に減少している。

変異による攻撃、魔法による攻撃、どちらも目視可能なスピードへと変わり、大幅に対処がしやすくなった。

一方で、ドラグハルトの悪魔たちもその効果の影響を受けている状況であり、あまり積極的には攻めて来なくなっている状況だ。

そのためこちらに対する攻撃密度は高くなっており、完全に戦い易くなったとは言えない状況であった。

とはいえ、先程よりマシであることは事実。降り注ぐ攻撃の群れを捌きながら、こちらも接近を試みる。

「『生魔』!」

歩法――陽炎。

こちらを狙ってきた魔力の刃のうち、命中しそうなものを斬り裂きながら、それでも足を止めずに走り抜ける。

雨のように降り注いでくる鋭い触手の群れは、たとえスピードが落ちていたとしても脅威であることに変わりはない。

その全てを斬り裂き、打ち落して――足元に広がった魔力の気配に、回避を余儀なくされた。

「チッ……当然それもできるか」

奴の前方を這うようにして、地面が赤く染まっていく。

それを確認した俺は、急いでそのエリアからそれるように進路を変更した。

見逃す筈もない変異の前兆。先ほどまでは攻撃魔法に伴って発生していた現象だったが、やはり直接出現させることもできたらしい。

その赤い膜を破るように現れる異形の怪物。腕が巨大なハンマーの形状になり、顔面はトカゲのような様相だったが、それ以外は人型といっていい化け物だ。

咆哮を上げながら這い出てきた化け物に、正面から相対するのは突撃してきたシリウスである。

「グルルルルッ!」

「ギョギガガガッ!」

巨大な鉄槌による一撃を鱗で弾き返し、反撃に放つのは鋭い爪の一閃。

相応にリソースを注ぎ込まれているのか、化け物の方も中々に頑丈な様子ではあったが、それでもシリウスだけで十分対処しきれる相手のようだ。

化け物の相手はシリウスに任せつつ、俺はそのまま横へと向けて走り抜ける。

俺のいる位置を狙って鋭い肉の槍が次々と降り注いでくるが、命中しそうなものは斬り落としながら回避を続けるしかない。

(攻撃の数が多すぎる……!)

味方からも接近できるプレイヤーは増え、後方からは魔法や遠距離攻撃による援護が飛んできているものの、無尽蔵に放たれるアルフィニールの攻撃を相殺しきるには至らない。

先ほどよりも攻撃の量が増しているので、多少は消耗させられているかもしれないが――何にしても、このままでは奴の首には届かないだろう。

そう考えていた瞬間、視界の端、しかも上方で動くものの姿を捉えた。

「……!」

銀色の長髪を、まるで翼のように広げて空を舞う剣士。

蒼く揺らめく剣を構えたデューラックが、上空を不規則な動きで飛び回りながら、飛来する触手の群れを水の壁で逸らしていたのだ。

あれは飛行魔法ではないだろう。そもそも、飛んでいるのではない。

デューラックは、水と化したこの空気の中を泳いでいるのだ。

(相手の動きを鈍らせながら、自分の機動力は向上させるのか。中々に意地の悪い……!)

デューラックの成長武器は、やはり攻撃性はあまり高くはない。

だが、相手の行動を阻害しながら自分の能力を向上させる性能は、十分に有用なものだ。

それが、大公という怪物相手にも通じるとなれば、尚更である。

どうやら周囲の水を任意に操れるらしいデューラックは、それによってアルフィニールの攻撃を捌きつつ、本体へと攻撃を繰り出していた。

泡を発しながら収束する水の刃や、瞬間的な水流。特異な攻撃というわけではないが、周囲の水から突如として放たれるのは察知が困難だ。

物量に優れるアルフィニールでも、これは防ぎ切れるものではないらしい。

「し……ッ!」

歩法――間碧。

襲い来る触手の隙間を縫うように駆け抜けながら、餓狼丸の刃を滑らせて斬り落とす。

デューラックの攻撃は直撃しているものの、アルフィニールに目立ったダメージは見受けられない。

というより、どれだけ攻撃を当てても次の瞬間には再生してしまっている。

HPが見えないため、果たして本当にダメージを与えられているのかどうかも分からない。

――それでも、こちらは攻撃を重ねるしかないのだ。

「《オーバーレンジ》、『呪命衝』ッ!」

斬法――剛の型、穿牙。

僅かに見えた隙間、それを縫うようにして漆黒の槍を解き放つ。

一直線に伸びた穂先は、デューラックの攻撃によって僅かに体勢を崩したアルフィニールへと襲い掛かり、その胸を貫く。

俺はそれを確認した瞬間にテクニックを解除し、即座に回避行動へと移った。

俺がいた場所を押し潰すように殺到する触手の群れに、思わず顔を顰めつつも足を動かす。

間違いなく急所を射抜いたはずだが、アルフィニールは余裕の笑みを浮かべているだけだ。

生命力を奪ってはいるし、手応えもある。だというのに、攻撃が届いている気がしない。

「クソ……ッ」

思わず、悪態が口を突いて出る。

この状況では、まだ切り札を切るわけにはいかない。アルフィニールを確実に追いつめるための方法が見えていないのだ。

せめて、奴に有効なダメージを与えられるという確信さえ持つことができれば。

向かってきた魔力の刃の掃射を《蒐魂剣》で斬り払いながら、一度跳躍して距離を取る。

何にしても、やれることは攻撃を重ねることだけ。隙を見つけ、攻撃を叩き込むしかない。

一で足りなければ十を、十で足りなければ百を、それでも足りなければ、千でも万でも攻撃を重ねるしかないのだから。

その決意と共に地を踏みしめて――その瞬間、鋭い銃声と共にアルフィニールの頭が僅かに揺れた。

(狙撃……軍曹か、そのチームか)

いつの間にポイントを確保したのかは知らないが、どうやらアルフィニールを直接狙える位置を確保したらしい。

脳天を撃ち抜かれたアルフィニールは、しかし僅かに仰け反っただけで傷らしい傷は見受けられなかった。

必殺になる筈がないタイミングでの攻撃――そこにどのような意図があるのか、生憎と考えている余裕はない。

軍曹らしくは無いその行動には何らかの理由があるのだろうが、今はその僅かな空白を活かす以外の選択肢はないのだ。

アルフィニールが僅かに怯んだ隙を使って触手の群れの中から抜け出した俺は、【命輝一陣】を放って牽制しつつ状況の推移を観察する。

軍曹が攻撃を始めたならば、一発撃ち込む程度で行動が終わる筈がない。

――その答えは、アルトリウスからの全軍通知という形で判明した。

『――距離を取って下さい! 砲撃支援を開始します!』

一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

俺たちにとっては耳慣れた単語。砲撃支援後に敵拠点を制圧に向かったことは何度もある。

だが、このゲームの世界において、その言葉を耳にすることがあるとは思わなかった。

とはいえ、アルトリウスの言葉だ。素直に従ってアルフィニールから距離を開ける。

どうやら、今の軍曹の攻撃は一種の合図であったようだ。

周囲の瓦礫の山などから一斉に降り注ぐ、榴弾の雨。

それらは、アルフィニールが展開した触手の群れに弾かれ――接触した瞬間に爆発し、相殺するように触手を焼く。

それだけにはとどまらず、後方からの遠距離攻撃が密度を増し、アルフィニールの防御態勢を確実に削ぎ落していった。

確かに、一時的には奴の防御を剥がすことは可能だろう。だが、物量に優れるアルフィニールが相手では、本当に一時的なものにしかならない。

果たして、どのような意図があっての攻撃なのか――

『先生、私の方にアルトリウスさんから連絡がありました。私が、この後に仕掛けます』

「何? お前の方に、か?」

不意に、パーティチャットで届いた連絡に、思わず眉根を寄せる。

俺ではなく緋真に攻撃を指示した、その理由、その真意。

咄嗟には理解できないものではあったが――その答えを示すものは、今まさに上空から、アルフィニールの頭上から降り注ごうとしていた。

「あら……?」

次々と触手を召喚し、前方からの攻撃を防いでいたアルフィニール。

――その頭上に、黄金の輝きが発生した。