軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

745:融解せし愛の檻 その6

現れたのは、悪魔ではなくプレイヤーの集団であった。

見覚えはある――というより、つい数時間前に見た顔だ。

月影シズク、哀れにもファムによって焚きつけられた一般人。だが、その戦い方については決して悪いものではないと認識していた。

少なくとも、ただの一般人と同列に扱うべきではない。怨敵ではなく、道を阻む障害――その認識と共に、俺は餓狼丸を肩に担ぎながら声を上げた。

「ご苦労だな。しかし悪いが、ここはお前たちには明け渡せん」

「《剣鬼羅刹》のクオン……何の権利があって、そんなことを主張している!」

「権利? そんなもんは無いさ。ただ、先に来たから場所取りをしているだけだ」

シズクの言葉に、思わず苦笑を零す。

確かに、正当性なんてものは無い。金を払ったわけでもなければ、システム的にこの場所を支配しているわけでもないのだから。

俺たちはただ、勝手にこの場所を通行止めにしているだけだろう。

――しかし、この場所を明け渡す理由もまた存在しない。

「先を攻めるにはこの場所が必要。俺たちの目的は、俺たちの手でのアルフィニールの討伐だ。なら、お前たちを通さないのは当然だろう?」

「なら……こちらが強引に奪い取っても構わないんだな?」

「構わんさ、それを止める権利もこちらには無い。尤も――それが、できるならな」

セイランの影に隠れていたアリスが姿を消す。

その気配を見送りながら、俺は肩に担いでいた餓狼丸を持ち上げた。

俺の動作に、シズクの周りに集まっていたプレイヤーたちがざわめく。

どうやら、俺の動きを警戒しているようだが、それでも逃げる気配は無いようだ。

最初から、そのつもりで来たということだろう。

「ここを確保したいなら、俺たちをどかすことだ。それができないなら、尻尾を巻いて帰るんだな」

「っ……上等!」

俺の言葉に、ドラグハルト側に付いたプレイヤーたちはいきり立つ。

俺たちを前にしても折れぬ胆力は見事であるし、しばらく目にしなかった光景だ。

しかし、だからと言って手加減をしてやる道理はないが。

(正面で目立つように立ちながら、周囲にプレイヤーを展開してくるか。やはり、小規模な作戦の動きはできるようだな)

シズクは正面で俺たちの視線を集めつつ、見えない場所で俺たちを囲むように戦力を展開している。

恐らくはプレイヤーだけの戦力だろうが、きちんと統制できているのは驚くべきことだろう。

クラン『 竜の爪牙(ドラグオーダー) 』――寄せ集めの軍団かと思っていたが、予想以上に統制が取れている。

それは恐らく、シズクの実力によるものなのだろう。

(人を先導する――或いは扇動する才能か。惜しいな)

向こう側に付かなければ、それなりに活躍させられる場面もあっただろうに。

尤も、コイツは反アルトリウスの勢力と言ってもいい立場である以上、こちらに協力することもまたなかったのだろうが。

「――シリウス」

「グルルルッ」

俺の声に、シリウスは唸り声を上げながら体を持ち上げる。

その動きだけで、連中の中には一歩後ずさる者も出るほどであった。

まあ、この威圧感の前では無理もないだろうが、だからと言ってこちらも油断するべきではない。

シリウスの情報はかなり周知されている。弱点も、ある程度は把握されていることだろう。

「無駄に殺す趣味は無い。適度なところで撤退することだな」

「っ……上等!」

盾を構え、シズクが前へと出る。

だが、決して出すぎることはなく、周囲からフォローが可能な位置を保ちながら距離を詰めてきている。

どうやら、前回の敗戦から作戦を練り直したらしい。

周囲からの多数のバフを受け取りながら、彼はこちらをじっとこちらを睨み据えている。

「ガァッ!」

しかし、攻撃行動に移れば当然ながらシリウスが反応することになる。

こちらへと向かってきたシズクへと向け、シリウスはその巨大な腕を振り下ろした。

強靭な爪は、盾と鎧ごと彼の体を引き裂こうと迫り――

「――《コンバットパリィ》!」

――その一撃は、シズクの盾によって弾き返された。

圧倒的な体重差のある一撃を弾き返したことに、思わず眼を見開く。

あまりにも現実感のない光景であったが、それもまたスキルの効果なのだろう。

攻撃を逸らされたシリウスは僅かに体が泳ぎ――その瞬間、爆発系の魔法が複数同時に着弾、衝撃によって後方へと押しやられた。

「ほう……」

あらかじめ立てていた作戦なのだろう。

シリウスを脅威と認識し、それを僅かな間でも排除しておくための作戦か。

シリウスを後方へと押しやったその瞬間、射撃攻撃が俺へと向けて殺到してくる。

遠距離からの波状攻撃、それは俺が最も苦手とするタイプの戦法だ。

成程、どうやら――

「よく勉強してきたようだな」

歩法――陽炎。

急加速、それによって俺を捉え切れなかった魔法が空を切る。

右手側の攻撃密度が薄い。それは彼らの不手際ではなく、敵と見るや行動を開始していた暗殺者の手によるものだろう。

手早い彼女の仕事によって、俺を殺すための包囲網には既に穴が開いている。

(月影シズクはタンク型の構成。一撃で殺すには急所を穿つ必要がある)

だが、盾を構えている正面からでは、それを崩すためには最低でも二手必要だろう。

そしてそれだけの時間があれば、後ろに控えて槍を構えている連中が攻撃してくる。

単独で前に出れば同じ結果になると、そう学習しての判断だろう。

情報を分析し、対策を打つ。実に堅実な戦い方だ。

(セイランを相手には対空攻撃と地面設置型の魔法、ルミナはシリウスのフォローのために前へ出づらくさせる。俺たちの戦力を一人ひとり分析し、対策してきたってわけだな)

不意の遭遇のような形ではあったが、この場で戦うことも想定していたということだろう。

尤も――出回っておらず、ついでにあのクソビッチも知らない情報については、対策のしようもないだろうが。

「ドラゴンを自由にさせるな! とにかくあそこで足止めしろ!」

そう、シリウスに自由を与えれば、軍勢など容易く崩壊する。

だからこそ、体勢を崩させるために衝撃の強い炎の魔法を使うのも間違いではないだろう。

多少は通る魔法による攻撃、そして衝撃による拘束――どちらも、シリウスに対する攻撃としては間違いではない。

――そこに緋真がいなければ、の話であるが。

「まさか、こんな風に使う機会が来るとはね!」

シリウスへと向かってくる炎の魔法、その正面へと割り込んだ緋真は、左に握った小太刀を振るう。

篝神楽による一閃。それは、あらゆる炎を散らして吸収する赤き龍王の権能。

巨大な炎が冗談のように消滅する姿は、少なからず彼らに衝撃を与えたようだった。

攻撃を受けることが無くなったシリウスは、怒りに牙を剥き出しにしながら前に出る。

そして――

「ルァアアアアアアアッ!!」

空間を割らんとするほどの、巨大な咆哮が響き渡った。

《バインドハウル》――強敵を相手にしてすら動きを鈍らせることが可能なその叫びは、プレイヤーたちにとっては十分すぎる効果を持つスキルであった。

歩法――烈震。

動きを止めたその刹那に、一気に加速する。

狙うのは後方で控えているプレイヤー。魔法によってシリウスを攻撃していたプレイヤーたちを一気に薙ぎ払う。

「《オーバーレンジ》、『呪命閃』」

斬法――剛の型、輪旋。

黒を纏う生命力の一閃が、無防備を晒していた魔法使いたちを斬り裂いた。

防御していたならまだしも、素の状態で俺の攻撃力を受け止められるはずもない。

【ファントムアーマー】に似た対策を打っていた者もいたようだが、それは返す刀の一撃で沈むこととなった。

そして、シリウスを留めるための手が減ったならば、シリウスが黙っている筈もない。

「グルルルルルッ!!」

一度はやり込められた怒りに燃え、唸り声を上げながらシリウスが駆ける。

その巨体の接近に、『 竜の爪牙(ドラグオーダー) 』の面々はあっさりと瓦解することとなった。

シズクは最後まで踏ん張り、シリウスの一撃を再び弾いていたが、後ろの連中までそれに付き合えるわけではない。

戦力が減れば、シリウスを留められる手もまた減る。戦線が崩壊した状態では対処しきれないと判断し、彼もまた撤退を選択した。

「ガァアッ!」

「シリウス、追う必要はない。そこで止まれ」

「グルル……?」

その背を追って駆け出そうとしたシリウスであるが、俺の言葉に足を止めて振り返った。

少々不満そうな様子ではあるが、ここで追撃を仕掛ける必要はない。

俺たちの目的はあくまでも拠点防衛であり、しかもできるだけプレイヤーの死者は減らしたいところなのだ。

下手にアルフィニールへリソースを注いでやる必要もない。斬るべき相手は斬るが、皆殺しにする必要は無いだろう。

「中々面白い趣向だったが……さて、まだ来るかどうか」

「面白いで済まされるんだから可哀想ですよね」

「何か言ったか?」

「別に、何でもありませんけど?」

視線を逸らす緋真の言葉に苦笑して、再び広場の方へと戻る。

これで諦めるならよし、そうでないなら迎撃するだけだが――流石に、一度だけで諦めることはないだろう。

その期待を込めて、俺は彼らが去って行った方向を眺めていたのだった。