軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

075:アルトリウスの真意

「それは、どういう意味ですかアルトリウス様! まさか、一人のやり方にこちらが合わせるとでも――」

「スカーレッドさん」

すっと、アルトリウスはその声を上げた人物――赤いラインの入ったローブを纏う少女へと、制止するように手を掲げる。

その動きに、スカーレッドと呼ばれた少女は、不満げな表情ながらも言葉を留めていた。

激昂した様子だったというのに、よくあれだけで抑えられるものだ。

とは言え、不満があることは間違いないだろう。声こそ上げていないが、他の幹部たちも思う所はあるようだ。

しかしそんな中で、相変わらずにこやかな表情を崩さぬアルトリウスは、先程と変わらぬ調子で声を上げていた。

「さて……まずは紹介をしておきましょう。クオンさん、ここにいるメンバーは、今回のワールドクエストで直接戦闘指揮を行うメンバーの一部です」

「……色々と言いたいことはあるが、まずはそこが必要ですかね。クオン殿、私はK。『キャメロット』においては、生産部隊の部隊長を務めています。同時に、アルトリウスの補佐官もしていますので、私に話を通せば、アルトリウスにも伝わるでしょう」

「噂には聞いている。よろしく頼む」

眼鏡をかけた 小人族(ハーフリング) の男は、俺の返答に対して堅苦しい表情のまま首肯する。

どうにも、彼は中々に堅物であるらしい。とは言え、アルトリウスの補佐をしているというのであれば、それだけ有能な人材なのだろう。

気難しそうな男ではあるが、道理さえ通せば話は通じやすい印象だ。

ある意味では、かなり常識的な人物であるのだろう。

「では、次は私ですね。私はディーン、前衛攻撃部隊、第一隊の部隊長です」

「第一、ということは第二もあるということか」

「ええ。私の部隊は、主に物理攻撃主体のメンバーで構成されています。貴方と近い戦闘形態ですね」

続いたのは、アルトリウスの隣に座る金髪で大柄な男だ。

豪快な見た目の割には、中々礼儀正しい態度である。

佇まいは芯が通っているように真っすぐであり、体幹のぶれも見られない。武術を身に付けていることは間違いないだろう。

「次は私が。先日ぶりですね、クオン殿。私はデューラック……前衛攻撃部隊、第二隊の部隊長です」

「ふむ……アンタの部隊は、第一隊とは別の特色があるのか?」

「ええ、第二隊は所謂魔法剣士……武器と魔法を併用して伸ばしているタイプです。貴方の弟子であるレディと近いビルドになりますね」

ディーンに続いたのが、アルトリウスを挟んだ反対側に座っている銀髪の優男だ。

先日から緋真の戦い方を見ていたので、魔法を併用しながらの戦いというものもイメージは分かる。

火力的にはかなりのものになるだろう、殲滅力は期待できるはずだ。

だがそれ以上に、彼は純粋な剣の腕という意味でも優れているらしい。場合によっては、緋真にも匹敵するだろう。

部隊長という呼び名に恥じぬ、確かな実力の持ち主のようだ。

「……僕は高玉。射撃部隊の部隊長。よろしく」

「後方の攻撃支援か。よろしく頼む」

次に声を上げたのは、口元を覆面で覆った 獣人族(ハーフビースト) の男だった。

どうやら狼の獣人であるらしい彼は、その背に大型の弓を背負っている。

少々無口で陰気な印象のある男だが……この場にいるのだ、実力は確かなのだろう。

「私はスカーレッド、魔法攻撃部隊の部隊長です……」

「成程、大規模戦闘の花形だな」

「ふ、ふん。分かってるじゃないですか」

最後の一人は、先程抗議の声を上げていた 魔人族(ダークス) のスカーレッドだ。

魔法は殲滅能力に優れている。敵の数が多いと思われる今回の戦闘では、その実力は十分に発揮されるだろう。

不満げな表情をしていたものの、少し褒めただけで照れた様子を見せる辺り、見た目通りの子供なのだろう。

この場にいるメンバーについてはこれで全部のようだ。

「他にも、回復部隊や支援部隊、防御部隊もいますが……今は準備に忙しいので、それはまた今度にしましょう。さて、それでは本題です」

アルトリウスの言葉に、俺は居住まいを直す。

さて、ここからが本番だ。果たして、アルトリウスは何を考えているのか。

その真意を問うために、俺は彼の瞳を見つめ返していた。

アルトリウスは――相変わらずの淡い笑みを浮かべ、続ける。

「建前ばかりでは納得できないでしょうし、分かりやすく言ってしまいましょう。部隊長の皆さんは、まずは口を挟まずに聞いてください」

「……了解です」

「では……クオンさん。僕は、貴方が戦場の主導権を握るのが好ましいと考えています」

「何故だ? お前さんほどの指揮能力があるならば、それをわざわざ手放す気が知れない」

緋真も保証していたが、アルトリウスの指揮能力は本物だろう。

であれば、戦いにおける主導権を――リズムを作る技術は一級品の筈だ。

それをわざわざ俺に渡してくる理由が知れない。その疑問に、アルトリウスは瞑目し、まるで焦らすようにしながら口を開いていた。

「クオンさん。僕は、二年前のあなたの戦いを知っています」

「――どこで聞いた」

声が凍る。まるで凍てつき、罅割れるように、俺の内側から溢れ出したものが空間を支配する。

緋真は息を飲み、ルミナが体を震わせ――『キャメロット』の部隊長たちは、その表情の内に僅かな恐怖を滲ませながら腰を浮かせていた。

だが、アルトリウスはそれでも涼しい顔のまま、笑みを絶やすことなく声を上げる。

「戦時の貴方の話をしてくれたのは二人。うち、一人は貴方のお爺様ですよ。あの方とは、懇意にさせていただいています」

「ああ? あのクソジジイ、まさかお前の所にいるのか?」

「いえ、最近一度だけ顔を出されましたが、それ以降は」

「……そうか、まあいい。それで、もう一人ってのは?」

「貴方が活動していた部隊の方です。彼はこのゲームをプレイしていますから、後々話ができますよ」

「あの部隊か……成程、俺の戦い方を聞きたいというのはそういうことか」

嘆息し、殺気を霧散させる。軽く眉間を揉み解しながら椅子の背もたれに身を沈め、そして改めて胡乱げな視線をアルトリウスへと向けていた。

俺は18歳の頃……高校を卒業した直後から、クソジジイに連れられて海外の戦場を巡っていた。

その時に世話になっていたのが、国連軍のとある部隊だったのだ。

あの部隊の人間がいるというのなら、アルトリウスの考えも納得ができる。

何しろ、俺とジジイが散々戦場を引っ掻き回したのだ。おかげで、とりあえず俺たちを突っ込ませたのちに混乱した敵を掃討するという作戦がメインになっていた。

「……しかし、あの話を聞いた上で俺をフリーにさせようとはな」

「貴方の全力をこの目で見ておきたい、という理由もあります。それに――」

一拍おいて、アルトリウスは視線を細める。

怜悧な美貌の内側に、確かな意志を込めて。

「――貴方の動きを最大限生かせるよう、僕が合わせる。それが、最も効率がいいでしょう?」

「――――はっ」

その視線を真っ直ぐと受け止め、俺は口元に笑みを浮かべていた。

何故なら、挑戦的なその視線の内側には、確かな覚悟と戦意が燃え上がっていたからだ。

ああ、全く――この男は、予想以上に面白い!

「くく、くははははははははははははははッ!」

「ッ――何が可笑しい! アルトリウス様がこれほど譲歩されているというのに!」

「これが笑わずにいられるか! くく……俺に合わせる、合わせると言ったか! 国連軍の連中でさえ、それができるようになるまで数か月かかったものを……最初から、ただの一回で!」

「ええ、やってみせましょう」

スカーレッドの怒号は無視し、俺はアルトリウスに視線を返す。

ああ、これほど愉快なのは久しぶりだ。俺のことを知り、ジジイのことを知りながら、この発言。

だが、それは大言壮語ではないと、それを成せるだけの自信があると、アルトリウスはその表情で告げていた。

ならばいいだろう、久遠神通流の全力を以て、その期待に応えてやるとしよう。

「――俺は、敵軍に対して正面から突撃し、敵陣を真っ二つに斬り裂いて大将首を狙いに行く」

そう告げた俺の言葉に、アルトリウス以外の全員が絶句していた。

久遠神通流の何たるかを知る緋真にとってすら、それは常識外の一言であっただろう。

案の定、上がったのは否定の言葉だった。

「馬鹿な……あり得ない、できるはずがない! 無双ゲーじゃないんですよ、これは! そんなことをすれば、敵に飲まれてあっという間に終わりだ! 貴方一人でやるならまだしも、我々を巻き込まないでいただきたい!」

「無茶だと思うのは仕方ない話ではあるが……俺は、アルトリウスにどうするのかと問われて、それに答えただけだぞ? 別に、アンタたちに付いてこいと言っているわけじゃない」

「……アルトリウス。君は、これでもなお彼に合わせると?」

「うん、そのつもりだ。と言うより、そうなるだろうと思っていたよ」

アルトリウスが語ったその言葉に、抗議の声を上げていたKは今度こそ言葉を失い、椅子に腰を落としていた。

まあ、信じられないのは無理も無いだろう。というより、今の発言は俺も驚いた。

「……まさか、あのジジイはそこまで説明していたのか?」

「仕組みまでは聞いていませんが、大群相手に有効な手段というものについては聞いたことがありますよ」

クソジジイめ、あの技術は久遠神通流の中でも秘伝中の秘伝、下位の門下生たちは存在すら知らないものだろうに。

まあいい、知ったからと言って真似できるようなものではない。というか、今現在ではジジイと俺以外に扱える者がいないのだ。アルトリウスも、そうそう言いふらすような人間ではないだろう。

今回の戦いで派手に使うつもりであるし、存在を知られる程度ならば別に問題は無いのだ。

「ともあれ、俺の行動方針はそんなところだ。お前さんがそう言った以上、遠慮するつもりは無いぞ?」

「……ディーン、デューラック。君たちは、それでいいと言うのか?」

未だに納得しきれていない様子のKは、その表情のまま残る二人の幹部へと問いかける。

先ほど、俺の殺気に当てられて動揺していた彼らではあるが、落ち着きを取り戻した今では、どっしりと構えて頷いていた。

「驚きはしましたが、マスターがそうすると決めたのであれば、それを全力で支えることこそが私の仕事です」

「ディーンの言葉と意見は同じですねぇ。それに、あながち不可能ではないと思っていますよ。歴史に伝わる、久遠神通流の使い手であるならね」

デューラックの返答に、俺はピクリと眉を跳ねさせる。

どうやらこの男、ジジイから以外でも何らかの方法で久遠神通流の情報を得ているようだ。

久遠一族の歴史が古いことは事実であるし、歴史書に名前が残っていてもおかしくはないとは思うが――さて、一体いつの話をしているのやら。

「……全く、この脳筋共め。アルトリウス、君も前線に出るつもりでしょう」

「その通り。流石に、クオンさんが掻き回した戦場では、後ろからの指示では間に合わないだろうからね」

「はぁ……了解です。私が後方支援の指揮を担当しますよ」

このKという男、口煩くはあるが、常識人故の苦労人にも見える。

俺としても無茶なことを言っている自覚はあるし、彼には苦労を掛けてしまうだろうが――まあ、そこは『キャメロット』内部の話だ。

苦労を掛けてしまうだろうが、頑張って貰いたい所である。

「方針はこんな所だ。何か質問はあるかい?」

「いいえ、特には。明日が楽しみですよ」

「それは俺もだな。見事に合わせてくれること、期待してるぞ」

告げて、俺は席を立つ。

そして、アルトリウスと一度笑みを交わし、円卓の間から踵を返していた。

果たして、アルトリウスたちはどのような戦いを見せてくれるのか。慌ててついてくる緋真たちを待ちながら、俺はこの会議室の扉を開き――

――突如として感じた殺気に、小太刀を引き抜いていた。