軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

742:融解せし愛の檻 その3

シリウスが破壊した横道に入ったが、正直なところあまり大差はない状況であった。

むしろ道が狭くなった分、攻撃の頻度は多くなってきている。

流石に俺も、常に全方位から狙われ続けるという経験は無い。似たような戦いはあったが、それでも流石に頭上と足元までは無かったはずだ。

「アルフィニールめ、とことんまで面倒なことを……!」

道の広さは車線一本分程度。戦う分にはそれほど困らない広さであるが、敵からすればこちらを狙い易い状況である。

通常状態のシリウスは大きすぎるため少しサイズを下げたのだが、その分だけカバーできる範囲も減っている。

あのどうしようもないほどの大規模攻撃を回避するためとはいえ、横道に入ったのは早計だったか。

しかし、俺たちだから何とかなっているのだが、果たして他のプレイヤーは無事なのだろうか。

(アルトリウスは少しずつ制圧しながら進むと言っていたが……これに制圧なんて概念があるのか?)

先ほど少し試してみたのだが、アリスの状態異常攻撃は通じなかった。

どうやら、魔物や悪魔という分類ではなく、単純なステージギミックと化しているらしい。

つまり、先程のような『即死』による解決も通じないということになる。

いくら破壊しても無限に再生し続けるステージギミック――果たして、これを制圧する術があるというのだろうか。

まあ、その先陣を切っている俺たちが気にしていても仕方のない話かもしれないが。

「焼いておけば多少は再生が遅いんですけどね……流石にMPが足りませんね、これは」

「数に余裕があるとはいえ、流石にここでポーションを使いすぎるのもね」

緋真の場合は、紅蓮舞姫を解放しておくという手が使えないこともない。

しかし、先行きが見えない現状では、あまり安易に手札を切るのも危険だ。

せめて、中央に到達するまでに目途が立てばいいのだが。

「しかし、不自然な道だな。あの中央は分かりやすくて良かったんだが」

「建物の位置関係とか、変わってそうですよね。というかリアルタイムに動いてますね」

「だな……シリウス、ぶっ壊せ」

「グルァアアアアッ!!」

あからさまに前方の建物が移動し、俺たちの行く手を阻もうとしながら砲口を発生させる。

無論、それを黙ってみているつもりもなく、俺は早々にシリウスをけしかけた。

正面から突撃したシリウスは、放たれた砲弾を全て弾き返しながら体当たりを敢行、肉で出来た建物をズタズタに引き裂いて崩壊させる。

シリウスのお陰で、大した消耗もなく道を無視できるのは大きなメリットだろう。

俺たちが建物を破壊しようとした場合は、そこそこに消費を余儀なくされるからだ。

「っと。どこに行ってもちっとも大人しくならんな、コイツらは」

「後続の人たち、付いて来れてるんですかね?」

「一応、入ってすぐ辺りはまだ大人しかったと思うけど……」

多少慣れてきてはいるが、それでも上下左右全方位から攻撃を受ける状況には辟易する。

拘束しようと狙ってくる触手は回避して斬り落とし、ついでにこちらに噛みつこうとしてきた丸太のような太さの触手は逸らした上で緋真が焼き斬る。

絶え間なく、というほどではないのだが、それでも攻撃の頻度は非常に高い。

シリウスがいなければ、常に剣を振り続けていたことだろう。そのシリウスはと言えば、次々と攻撃に被弾しながらそれを破壊して、強引に道をこじ開けながら先に進んでいるわけだが。

「《不毀》のせいでそろそろMPが削れてきたな……ルミナ、シリウスにポーションを渡してくれ」

「はい、分かりました」

鱗の破損を防ぐ《不毀》は非常に強力なスキルなのだが、ダメージを受ける度にMPを消費してしまう。

こう、ずっと攻撃を受け続ける環境では、少しずつではあるがMPを削られてしまうのだ。

元々の防御力が高すぎるために、削られるMPも微々たるものではあるのだが、この環境では塵も積もれば山となってしまう。

自分では回復アイテムを使えないシリウスの補給は、専らルミナの仕事であった。

と――シリウスの口にMPポーションを放り込んできたルミナが、急いだ様子でこちらへと舞い戻ってくる。

「どうした、ルミナ。何か発見したか?」

「はい。この先ですが、侵食を受けていないエリアがあるようです。少しずつですが、本来の石畳が見えています!」

「ふむ? 悪魔が融合していないのか」

正体は分からないが、融合していないエリアがあるなら、周囲の地形からの攻撃を受けることはない。

アルフィニールが用意した攻略のための救済措置なのか、或いは他に理由があるのか。

何かは分からないが、ここに来て現れた変化要素だ。確認しておいて損は無いだろう。

「そちらに向かうぞ。一応警戒はしておけ」

「了解」

俺の言葉に頷き、アリスが姿を消す。

どうやら、スキルを発動した状態で先行したようだ。

一応、姿を消しているアリスが攻撃を受けたことはないため、身隠し系のスキルはここでも効果はあるらしい。

まあ、俺や緋真が気配を殺しても攻撃は飛んできたため、スキルにしか効果は無い様子であるが。

「侵食を受けてないエリアってことは、休憩ポイントですかね?」

「ログアウト可能な場所の気もするけど……」

「大公なんて連中が、そんな配慮をするもんかね」

大公ということは、悪魔共の中でも最もマレウス・チェンバレンの思想に近い連中だろう。

奴らは確かに、ルールに従った戦争はしている。だが、その根底にある思想は唾棄すべき汚泥のようなものだ。

奴らに配慮やら忖度やらの言葉は無い。破れないルールがあるから最低限それに従い、その上でこちらを試しているに過ぎないのだ。

攻略させるつもりなど無く、しかして攻略されることを期待している。

――本当に、心の底から気に入らない。

「お、ホントに石畳が残ってますね。疎らですけど」

「ふむ。やっぱり前方からの攻撃頻度は減ってきてるな」

事実として、前方が侵食をあまり受けていないことは間違いないようだ。

最初はぽつぽつと石畳が残っている程度だったのが、むしろ肉の方が少なくなり、やがて完全な地面と悪魔に融合されていない建物の姿が目に入る。

どうやら、あの周辺から円形――というか放射状に侵食されていないエリアが広がっている様子である。

『クオン、辺りを見てみたけど敵影は無いわ。それに、中央の建物には一切の侵食がないみたい。それにログアウトも可能――というか、街中の判定みたいね』

「成程。その部分だけ本来の街が残っているような状況か。どういう仕組みなんだかな」

だが何にせよ、安全圏を確保できたことが重要だ。

建物に近付くと周囲からの攻撃も全て止み、奇襲が飛んでくる気配も消える。

とりあえずシリウスの大きさを最小まで縮めつつ、俺は周囲の様子を観察した。

「射撃攻撃は届きそうな距離だが、それも無しか。意外だが、本当に安全地帯のようだな」

「ワンチャン、安全に見せかけた奇襲とかして来そうですしね」

流石に、そんなことをしてきたら悪質なんてものではないが。

ともあれ、一息吐くことができるエリアがあったことは僥倖だ。

いくら俺たちとはいえど、絶え間なく攻撃を受け続けるのは勘弁してほしいところだったのだから。

「……戻ったわ。どうやら、あれが原因だったみたいね」

「ん、どれの――あの壁に突き刺さってる黒い石か?」

姿を現したアリスが、建物の外壁を見上げながら指をさす。

その先を視線で辿ると、そこには壁に埋め込まれているような黒い石の存在が見て取れた。

小さなもので、恐らくは《超直感》が無ければアリスでも気づけなかっただろう。

果たしてあれは何なのかと、俺と緋真は首を傾げ――そこに、ルミナが声を上げた。

「女神様の力です。あれは……破壊された石碑かと」

「ほう? つまり、アルフィニールがぶっ壊した石碑の欠片があそこに突き刺さっていたと」

どうやって破壊したのかは知らないが、破壊されてもなおその効果を残し、かつ悪魔の侵食を防ぐことができたのだろう。

女神の力であるというのなら信用できる。ここは、ひとまずの安全地帯と見ていいだろう。

「ということは、他にもこういうエリアはありそうだな。アルトリウスは既に情報を得てるだろうが……」

「でも、マップに安全圏をピンできるのはいいことですよね」

恐らく、アルトリウスは既にほかの安全圏を発見していることだろう。

そして、その情報を集積して味方に共有している筈だ。

安全圏を発見し、それを足掛かりとしながら奥へと進んでいく。

それが、このワールドクエストを攻略するための方法ということだ。

「とりあえず、アルトリウスに報告してから周辺を探索だな」

「他の安全圏を探しながら進む感じですかね?」

「ああ。手がかりも無しに探索することになるが……休憩できる場所があるだけさっきよりはマシだな」

まずは、この場所を中心として中央に近付く方向で探索をすることとしよう。

今のところ、周囲環境からの攻撃は受けるものの、個体としての悪魔の姿は無い。

だが、いつまでもこのような状況が続くとも思えないし、覚悟はしておくべきだろう。

まだまだ、アルフィニールとの戦いは始まったばかりなのだから。