軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

736:異形都市

飛来し始める融合悪魔。端的に言えば、飛行に特化した悪魔と戦闘に特化した悪魔を融合させた個体が向かってきている。

流石に、地上に比べれば数は多くは無いのだが、高い機動力を有する悪魔の存在は実に厄介であった。

通常の悪魔たちに紛れながら高速で接近してくるその姿に、思わず舌打ちを零す。

あいつらは、そう容易く落とすことはできない。相応に時間を取られることだろう。

(だが、地上の連中に攻撃を向かわせるわけにはいかない)

地上部隊にも融合悪魔が到達しつつあるが、アルトリウスたちはまだ前進を続けられている。

だが、頭上からの攻撃が及べばその限りではないだろう。

制空権は、確実に維持し続けなければ。

「ルミナ、セイラン……!」

「戦乙女の戦列をここに!」

「ケエェッ!」

召喚系のスキルで手数を増やし、空を駆ける。

亡霊を収束させたデコイを撒き散らし、奴らの目を欺きながら、前へ。

巨大な翼を手に入れた融合悪魔、奴らの機動力はかなり高いと言えるだろう。

だが、それでも――

「お前に追いつけるはずがない、やれ!」

「クェエエッ!!」

俺の言葉に呼応するように、セイランは勇ましく鳴き声を上げる。

それと共に加速したセイランは、雷を纏いながら悪魔の群れへと飛び込んでいく。

純粋なスピード、機動力。そのどちらを取っても、大空を翔るセイランを捉えられる悪魔などいはしない。

たとえ俺たちという重りを背負っていたとしても、その事実に変わりなどないのだ。

急加速したセイランの動きを捉え切れず、それでも辛うじて躱そうとして首を半ばまで断たれた融合悪魔は、飛翔する戦乙女によってその身を貫かれる。

(あのスピードでも一応回避行動は取れるか……厄介な)

やはり、複数の悪魔の長所を引き出すことができる融合は、アルフィニールの強力な手札だ。

既にその性質を何度も晒しているものの、弱点らしきものは融合中の防御力不足程度しか見えてこない。

足止めを準備し、十分な時間を取って融合を行っているのであれば、奴らは恐ろしい軍団と化すだろう。

「《オーバーレンジ》、『煌餓閃』」

とはいえ、やることは変わらない。今はただ、とにかく前へと進むしかないのだ。

こいつらと、残る融合悪魔を片付けることができれば、都市に肉薄することが可能だ。

アルフィニールとの戦いは、そこからが本題となるのだから。故に――

「こんなところで、無駄に消耗はしてられん」

斬法――柔の型、筋裂。

大きく広がった生命力の刃が、こちらを捉え切れていない悪魔たちをまとめて薙ぎ払う。

しかし、狙っていた融合悪魔は身を躱し、その片足を切断するに留まった。

ダメージにはなったが、倒し切るには至らない。その衝撃によってバランスを崩しているが、まだ健在だろう。

――しかし次の瞬間、その背には一本の矢が突き刺さった。

「このスピードで良く当てるな」

「テクニックを使わないと流石に無理だけどね……それより、あいつの動きは止めたわ」

「毒か? いい仕事だ」

どうやら、アリスは麻痺毒を付与した矢であの融合悪魔の動きを止めたようだ。

辛うじて墜落せずに保っているようだが、それでも素早く動き回ることはできないだろう。

そうなれば、仕留めることなどあまりに容易い。ふらふらと空中に浮いているだけの融合悪魔は、無造作に振るわれたシリウスの爪によって引き裂かれた。

(ある程度の攻撃はシリウスに向かってるが、やはりヘイト操作のスキルが無いと集めきるのは不可能か。まあ、それは仕方のない話だが――ちょいと厄介だな)

こちらを狙ってきた攻撃に、セイランは急制動を駆けることで回避する。

上に乗っている俺たちはかなりの衝撃を受けることになるが、何とかHPが減らない程度の勢いで済んだ。

お返しにと放った生命力の刃は回避されてしまったが、その回避先へは緋真の放った炎の槍が突き刺さる。

そして、その爆炎を黒い嵐が塗りつぶし、雷と風の刃がとどめを刺した。

「次……!」

こちらの行く手を阻もうとする範囲魔法を《蒐魂剣》で斬り裂いて、道を作った先にシリウスを突撃させる。

敵陣を混乱させたうえで、強力な駒を各個撃破する――そうしなければ、こちらの手が足りない。

厄介なことこの上ないが、強引にでも戦線を前進させなければ地上が攻撃対象になってしまうだろう。

幸い、シリウスにはまだまだ余裕がある。機動力の高い敵は捉え切れないが、適当に暴れるだけでもグレーターデーモンはある程度仕留められている状態だ。

あのまま目立ってくれれば、こちらとしても戦いやすい。

突進したシリウスに注意を向けていた融合悪魔に、今度こそ攻撃を命中させて翼を斬り飛ばしながら、僅かに見えた地上の様子に舌打ちする。

(悪魔の融合がもうすぐ終わる……大型の融合体は一体だけか。だが、それでも足止めは避けられない)

倒し切れないような戦力ではない。だが、それでも足は止めざるを得ないだろう。

その間に、アルフィニールが新たな手を打ってくる可能性は高い。

直接戦闘が始まる前に《 不毀の絶剣(デュランダル) 》を当てておきたいところだが、果たしてその余裕があるかどうか。

近場にいる悪魔を斬り捨て、融合体の一部の足を止め――遠方に見える異常が目に入った。

「……っ!? 何だ、地上が……?」

遠くに見える、広範囲に亘る土煙。

そして、戦闘中であるため確認しづらいが、何か地響きのような音まで発生しているようだ。

何か、大きな異常が発生しようとしている。だが生憎と、今目の前の敵から視線を逸らすことはできない。

「アリス、地上の様子を確認してくれ。何かが変だ!」

「……ええ、それなら確認する必要もないわね。一目瞭然だわ」

硬く、緊張した様子のアリスの声。

迫る魔法攻撃を《蒐魂剣》で破壊しながら、辛うじて見える周りの景色を確認し――アリスの言わんとする言葉の意味を理解した。

巨大な、触手のような形状の融合悪魔。アリスたちが先程、何とかして『即死』させた規格外の怪物。

天を衝くばかりの大きさのそれが、七つ。アルフィニールの都市を包囲する様に、地面の下から出現していたのだ。

(全方位を、あれでカバーしていた……!?)

一体、どれだけの量の悪魔が存在すれば、そんな巨大な融合体を構成することができるのか。

本来であれば、八つで全方位を警戒していたということなのだろう。

俺たちが先程接近した時に引っかからなかったのは空中から接近したためか、或いは運よくその隙間に入ることができたからか。

何にしても、奴の戦力はまだまだ大量に残っていると考えるべきだろう。

「チッ……何をするつもりだ、アルフィニール」

斬法――剛の型、輪旋。

大きく振るった刃で悪魔たちを両断し、迫ってきた悪魔を相手にはセイランの雷が迎撃する。

その忙しい戦場の中ですら、巨大な融合悪魔たちはこちらに構わず動きを続けていた。

天を衝くほどに屹立した、巨大な融合悪魔。それらは隣接しながら徐々にその体を傾け――やがて、都市全体を覆い隠すように接触した。

――それはまるで、巨大な花の蕾であるかのように。

「いや、本当になんなんだアレは!」

「さあ、分からないけど……アルフィニールも、ついに本気になったってことなんじゃないの?」

蕾のような形状と化した都市であるが、俺たちの正面については穴が開いている状態だ。

流石に、消滅した一本をカバーすることはできないらしい。

ともあれ、あの大公がようやく見せた、新たな動きだ。どのような意図があるのかは分からないが、その変化を見逃すことはできない。

しかしながら、今目の前にいる敵をスルーできないこともまた事実。今はとりあえず、この悪魔たちに対処せねばならないだろう。

「アリス、何か変化があったら教えてくれ。ありゃ、絶対にロクでもないことになるだろ」

「間違いないでしょうね。貴方は目の前に集中してて」

「ああ、ここはさっさと終わらせよう」

今の相手も面倒ではあるが、少々足を鈍らされている程度だ。

早急にこいつらを突破し、そして地上の融合悪魔に対処しなければ。

未だ被害らしい被害は無し、しかし拭いきれぬ嫌な予感に、俺は舌打ちを零しながら刃を構え直したのだった。