軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

074:キャメロット

イベントの開催、一日前。俺がログインしてまず確認したのは、フレンドによるメッセージだった。

アルトリウス、或いはフィノ。どちらも新しいメッセージを送ってきている可能性はあったが――メッセージボックスの中には、そのどちらも存在していなかった。

どうやらアルトリウスからの追加の連絡は無く、またフィノの装備もまだ出来上がっていないらしい。

装備に関しては少々残念に思いながらも、特に焦ることは無く、俺は従魔結晶からルミナを呼び出していた。

「おはようございます、お父様」

「ああ、おはよう。今日の予定は分かっているな?」

「はい。あの、アルトリウスという男性に会いに行くのですね」

「その通りだ。果たしてどんな話になることやら……」

俺は、アルトリウスを評価している。

あれは才ある人物であり――同時に、 戦う男(・・・) だ。と言っても、それは俺のように戦場慣れしているという意味ではない。

アルトリウスからは、いかなる理由か目的か、そして手段や形式も分からないが――常に闘争を続けている気配を感じたのだ。

現代人としては、とても珍しいその目と気配。彼が、果たしていかなる戦いに身を置いているのか……俺は、それに興味を持っていた。

小さく笑みを浮かべ、俺は『キャメロット』の本拠地へと向けて歩き出し――

「――先生! ちょっと待ってくださいってば!」

「……緋真。お前、向こうでも言ったと思うが、お前が付いてきてどうするんだ?」

「だって気になるじゃないですか。イベントじゃ一緒に動けないんですから、せめてどんなことをするのかぐらいは聞きたいんですよ!」

慌てた様子でログインしてきた緋真に引き留められていた。

若干呆れた視線を向けたものの、緋真の主張も分からないではない。

元々、俺も戦場では緋真を隣に立たせ、普段は見せられぬような術理を披露してやろうと思っていたのだ。

それが叶わなかったことは、残念であると言わざるを得ない。

「……まあ、向こうが許可を出したらいいだろう。しかし、許可が下りなかった場合は――」

「分かってますよ、そこまで無理を言うつもりはありません」

「それならいいが……今回の場合、功を競い合っていると言っても、直接的に他のクランと戦うわけではないようだし、そこまで大きな問題はないか」

もしもこれが、互いの動きを秘匿し合う必要があるような戦場であったならば、アルトリウスも許可を出すことは無いだろう。

だが、今回は競い合っているものの。クラン同士が直接ぶつかり合うわけではない。

お互いの作戦を知られたところで、そこまで大きな影響はないのだ。

『キャメロット』のクランハウスへと向けて歩き出しながら、俺はそのアルトリウスのことについて思考を巡らせていた。

どこか浮世離れした気配のある、あの男。あの闘争の気配こそが、気配の乖離の原因であると思うが――

「……緋真。お前、アルトリウスのことについてはどれぐらい知ってるんだ?」

「アルトリウスさんのことですか? たまに話をすることはありますけど、身の上話をするわけじゃないですからね……」

腕を組み、眉根を寄せて、緋真はしばし黙考する。

アルトリウスは極めて有名なプレイヤーだ。そうでありながらあまり実情が現れてこないというのは、中々に珍しいことでもある。

果たして彼は、いかにしてあのような実力を得るに至ったのか。そして何故、それをこのゲームの中で振るおうと思ったのか。

そのヒントを探るため、緋真の言葉に耳を傾ける。

「私と同じく、β版からのプレイヤー。クラン『キャメロット』のマスターで、《聖剣騎士》の二つ名称号を持つ人物。ここまでは、先生も知っていますよね」

「ああ、簡単な噂話程度は聞いているからな」

「それから、そうですね……『キャメロット』には十二人の幹部がいて、部隊長と呼ばれています。それぞれの部隊長が特定分野のプレイヤーをまとめ上げて、個別に指揮を執っているようですね」

「アルトリウスはその部隊長をまとめ上げているということか」

「そうですね。一応、近衛部隊と呼ばれるアルトリウスさん直属の部隊もいるみたいですけど」

何やら、思った以上に組織立ったクランだ。

形式ばっていれば、それだけ不満を抱く人間も多くなると思うのだが、それを上手く回しているのもアルトリウスの手腕なのだろう。

「特に初期から、というかアルトリウスさんがプレイを始めた直後からいたのは、部隊長の中でも数名です。確か、ディーンさんとデューラックさん、それからKさんは初期から一緒にいるのを見かけたことがありますね」

「ふむ。現実での知り合いかね」

「友達、っていう感じじゃないですけどね。何だか、素でアルトリウスさんのことを敬っていた感じがありました。あれはロールプレイにしては自然過ぎましたし」

アルトリウスが現実で何をやっているのかは分からないが、ゲーム以外の所でも、何らかの団体を率いているのかもしれない。

そしてその団体を率いて、このゲームをプレイしているということだろうか。

さすがに本人にそれを尋ねるわけにもいかないが……想像の通りであるとすれば、随分と変わった身の上の人物だ。

まあ、俺も人のことは言えないのだが。

「……つくづく、不思議な男だな。実力を伴っていることは間違いないようだが」

「β版のイベントは、パーティを組んで迷宮攻略のタイムアタックをするという内容だったんですが……後でアルトリウスさんの攻略動画を見たんですけど、凄まじく的確でしたね。私は強引に力技で突破しましたけど、効率よく攻略してたあの人には勝てませんでした」

「その場で対応方針を決めたのなら、アドリブも利くタイプか。何でも出来る奴だな」

身のこなしから考えて、何かしらの武術は学んでいた様子だ。

個人での戦闘も並み以上にこなせて、その上組織運営能力も高い。

天は二物を与えずと言うが、あまり当てにならない言葉のようだ。

「……余計に謎が深まった気もするが、まあ話を聞いていれば見えてくるものもあるか」

「お父様、あそこが……」

「ああ、アルトリウスの本拠地。『キャメロット』のクランハウスだな」

大通りからは外れているが、規模は非常に大きい屋敷だ。

敷地の広さを優先したのか、建物はあまり新しいものではないようだが、それも生産職のプレイヤーによって改築が進んでいるようだ。

というか、大工仕事ができるスキルもあったんだな。生産職というのも中々奥が深いようだ。

門は開かれており、敷地内には自由に入れるようである。そのまま中へと足を踏み入れていけば、庭で作業をしていた男性プレイヤーがこちらに声を掛けてきた。

「ん? お、おお!? 《緋の剣姫》ってことは、アンタがクオンって人か!」

「……ああ、その通りだが」

「やっぱりか! 話は聞いてるぜ、案内するよ!」

何やらやたらと気のいい様子の 地妖族(ドワーフ) である。

どうやら、彼は庭で作業をしているプレイヤーたちを指揮している人物であるらしく、近場にいた他のプレイヤーに軽く引継ぎを行った後、こちらへと近づいて来ていた。

ずんぐりとした体格に浅黒い肌というのは 地妖族(ドワーフ) の特徴であるが、彼もその特徴を備えた人物だ。

豪快そうな人柄ながら、その黒い瞳には知性的な光が見て取れる。

「俺っちはボーマンってんだ、よろしくな」

「ああ、俺はクオンだ。こっちはルミナで……緋真については知っているか」

「ほほう、それが例の精霊のテイムモンスターって奴かい。こりゃあ別嬪さんじゃあねぇか」

ボーマンと名乗った男の言葉に、彼の案内に続きながら、俺は僅かに視線を細める。

《光翼》を展開していないルミナは、殆ど人間と変わらない姿をしているのだ。

それを一目で人間ではないと判別することは難しい。しかし、《識別》を行った様子も無いし……その情報を知っていたという可能性が高いだろう。

どうやら、『キャメロット』はある程度、俺に関する情報を掴んでいるようだ。

「ボーマンさんって……ひょっとして、調達部隊の部隊長の?」

「ははは、よく知ってるじゃないか、剣姫のお嬢」

「『キャメロット』の幹部は……まあ、噂程度には。確か、素材収集専門なんでしたっけ?」

「正確に言えば、生産のための原料調達だな。物資の運搬やら回収、それから農耕。現地調査とかもあるぜ?」

どうやら、仕事としては裏方に面している人物であるようだ。

しかし、それを悔やんでいるような様子も無く、むしろ堂々と、それが自分たちの誇りであると胸を張っていた。

正しく縁の下の力持ち、と言った所だろう。

「原料調達か。今は忙しそうだな」

「全くだ! まあ、Kの奴の生産部隊の方が忙しいだろうけどな!」

「Kさんは……『キャメロット』内部での生産活動を取り仕切っている人です。さっきも言いましたけど、初期からいる幹部の人ですね」

「ふむ……調達と生産を別個に指揮しているのか」

上手く回せば効率が良くなるだろうが、逆にここの連携が取れていなければ全体が回らなくなる。

だが、今の忙しい状況であろうとも、彼らはある程度余裕をもって作業しているように見えた。

それぞれの部隊長が、部隊を上手く動かしている証拠だろう。

建物の中に入れば、ランベルク邸と同じような質素な内装が続いている。

まあ、まだそこまで金を掛けている余裕が無いということだろうが。

クランハウスを購入してからそれほど時間も経っていないだろうし、仕方のないことでもあるだろう。

「よし、ここだ。入るぜ、マスター」

『おや、ボーマンさん。どうぞ、入ってください』

屋敷の中ほどまで到達し、ボーマンがその内の一室の扉を開く。

その中にあったのは――円形の机と、そこに着いた数人のプレイヤーの姿。

最も奥にある椅子に腰かけているのは、他でもないアルトリウスだった。

「マスター、お客さんだ」

「ああ、ありがとうございます、ボーマンさん」

「いいってことよ。そんじゃ、俺っちは作業に戻るぜ。明日まで時間がねぇからな!」

「こちらのことも考慮して納品してくださいよ、ボーマン。原料があっても、完成品を作る時間が無かったら意味が無いですから」

「ふん、分かってるっつーの。じゃあな、クオン殿」

小人族(ハーフリング) の、皮肉を交えた言葉に対し、ボーマンは一笑に付しながら退室する。

その姿を見送ったのち、俺は改めてアルトリウスの方へと向き直っていた。

「お待ちしていました、クオンさん。どうぞ、席についてください」

「いいのかい? こいつは、アンタたちの幹部の席なんじゃないのか?」

「ええ、今この場に全員を呼んでいるわけではないですから」

この場の長であるアルトリウスがそう言うのであれば、問題は無いのだろう。

彼の言葉に首肯して、俺は彼の正面になるように席についていた。

「ふむ。緋真さんも一緒だったんですね」

「予想していたようだが? わざわざこちら側の席を三人分空けていたんだ」

「ははは、否定はできませんね。まあ、聞かれて困る話をするわけでもありませんし、問題ないですよ」

寛容に受け入れるアルトリウスの言葉を聞いて、若干遠慮気味だった緋真もおずおずと席に着く。

『キャメロット』側のプレイヤーは、アルトリウスを含めて六人。

このメンバーが、今回のイベントで中核を成すメンバーということか。

それぞれ特徴的であるのだが、目を引くのはやはり、アルトリウスの両脇を固める二人だ。

金髪を逆立たせた、灰色の瞳の大柄な男。そして、銀髪を伸ばした湖面のような瞳の優男。

この二人は、どちらもが実力者だ。恐らく、緋真とも互角に争えるだけの腕があるだろう。

「では、改めて……『キャメロット』の円卓会議へ、ようこそ。此度の議題は、ワールドクエスト《悪魔の侵攻》に対する対策。今回の戦いにおける、大まかな作戦方針を決めることです」

「……ふむ。少々意外な話だな。既に決まってるものだと思っていたんだが」

アルトリウスならば、部隊の動かし方を既に決めていてもおかしくはないと考えていた。

俺としても、こいつらの方針さえ聞けば、それを邪魔せぬように動けばいいと考えていたのだが。

そんな俺の言葉に、先程ボーマンと話していた 小人族(ハーフリング) が首肯しながら追随する。

「それは私としても疑問でしたよ、アルトリウス。一体、君は何を考えている?」

「簡単な話だよ、K」

どうやら、この眼鏡をかけた 小人族(ハーフリング) がKという幹部であるらしい。

少々気難しそうな彼の言葉に対し、アルトリウスは鷹揚に笑いながら答えていた。

「今回の戦い。僕は、貴方の方針を聞いてから動きを決めるつもりなんですよ、クオンさん」