軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

729:前哨戦

アルトリウスの依頼を受け、軍勢の前方へと向けて飛翔する。

流石に空中からでは戦いづらいため着陸したが、果たしてどの程度までなら離れても大丈夫か。

正直、ある程度までの戦力であれば俺たちだけで対処できてしまうため、すぐに駆け付けられるほどの距離である必要性は薄いだろう。

というわけで、そこそこの距離を離して地面に降り立った俺たちは、そのまま軍の進行方向へと向けてさらに足を延ばした。

「距離的には、もう支配領域には入ってるはずなんだがな」

「今までみたいに、短絡的には襲ってこないみたいですね」

アルフィニールの悪魔たちは、基本的に連鎖的な反応を見せる。

一体に見つかれば、その周囲の悪魔たちが一斉に襲い掛かってくるのだ。

正直、その動きは昆虫じみており、不気味さを感じていたものではあったが――こうしてその動きが見えなくなると、それはそれで不安を感じる。

「ドラグハルトの対処で戦力が減っているのか、或いは一気にぶつけるために戦力を集めているのか……」

「融合する性質を見ると、雑魚を散発的に送り付けるよりは全部合体させた方が強そうよね」

「融合中は弱いが、終えてしまえば伯爵級クラスの能力を発揮できるようだからな。万全の準備をされていると流石に厄介だ」

今の俺たちならば、伯爵級を相手にも苦戦するようなことはないだろう。

だが、確実に足止めはされてしまう。流石に、一息に倒し切れるほど弱い相手ではないのだから。

故に、こうして襲撃が無い状況そのものが厄介であると言えるのだ。

それだけ、アルフィニールが万全の準備を整えている可能性があるということなのだから。

「奇襲が可能なら奇襲の方が良かったんだろうがな。まあ、無理なものは仕方がない」

「迎撃準備をしているアルフィニールの悪魔を、正面から突破しろと……流石に大変ですね」

「まあなぁ……戦力の幅を予想しきれないのが厄介極まりない」

尤も、敵の戦力が俺たちを上回っていることは間違いない。

そして、どうしても挑まなければならない現状からして、こちらは可能な限り万全の状態で臨む以外に方法は無いのだ。

そういう意味では、下手な小細工は無いだけに楽であるとも言える。

指揮官であるアルトリウスにとっては、頭の痛い事実だろうが。

「……よし、距離はこの程度でいいだろうな。後は、敵とぶつかったら倒しつつ、対処しきれなければアルトリウスに報告して後退――なんだが」

「敵、まだ出て来ませんねぇ」

アルフィニールの悪魔がこれまでの性質を見せていないことは分かっていた。

だが、ここまで突出していれば、流石にある程度は向かってくるものかと思っていたのだが、今のところその姿は全く見えない。果たして、その理由は何なのか。

「普通なら、こちらに回す戦力が無いと考えるところだが……アルフィニールに限って、それは無さそうだしな」

「アルフィニールが、末端の悪魔まで統制してるとか?」

「その可能性は十分にありますけど、考えたくない可能性ですよね」

アリスの意見に、緋真は顔を顰めながら頷く。

もし、アルフィニールが末端の悪魔の動きまで細かく制御できるならば、奴はこれ以上ないほどの総司令官だ。

まあ戦術、戦略面の知識がどこまであるのかは分からないが、末端の兵士すら完璧に統率できる能力があるならば危険極まりない。

もしそれが奴の能力であるならば、それを阻害する方法は無いものか。

「うーむ……ルミナ、一応上空から見張っておいてくれ。俺たちを迂回して後ろを狙おうとする可能性はある」

「了解です、お父様。何かあればすぐに報告します!」

ルミナとセイランは上空で警戒。もしもアルフィニールが悪魔の動きを細かく統制しているならば、俺たちを迂回するという可能性も否定はできない。

その時は、横から襲い掛かって敵の戦列を乱してやることとしよう。

「アリス、擬態というか融合している悪魔は?」

「ぽつぽつ姿はあるから、見つけたらマークはしているわ。都度本隊の方に報告もしてる」

「上出来だが、ぽつぽつと言うと数が増えてるのか?」

「ええ、割合は増えてる気がするわね。近場だったら破壊してもいいと思うけど、離れているといちいち手を出すのが面倒な程度には」

その言葉に、俺は眉根を寄せる。

敵の陣営に近付いて行けば潜んでいる割合が増える。それは、納得のできる事象ではあった。

だが、同時にますます敵の目的が見えてこない。

それだけの戦力を潜ませているのに、そしてそれらを潰されている状況だというのに、どうして何の動きも見せないのか。

アルフィニールの目的は、果たしてどこにあるのか――

「……待って」

「ん、どうした?」

ぴたりと、アリスが足を止める。

小さく、しかし鋭いその声は、彼女が本気で警戒していることを示していた。

そんな彼女の様子に、俺もさらに神経を研ぎ澄ませるが、周囲に動くものの気配は感じ取れない。

悪魔は勿論だが、魔物の姿も――

「……ッ!? アリス!」

「分かってる、ちょっと待って! 場所を特定しきれないのよ!」

悪魔の気配がない程度ならまだいいだろう。

だが、他の魔物はおろか、普通の動物の気配すらも感じ取ることができない。

後方の軍勢の足音が、ここまで聞こえてくるほどの静かな道。

ここには何もない――それこそが異常なのだ。

「アリス、お前にはどう見えて、どう感じ取れてる? 情報をまとめなくていい、そのまま教えてくれ」

「情報は見えてない。ただ、《超直感》が何かに反応し続けてるのよ。でも、場所を特定しきれない。とにかく、その辺一帯に反応を示してるわ」

「周囲一帯……前方ですか?」

「ええ、主に前方よ。でも、横の辺りにも何かあるみたい」

前の方に何かがある。横の方にもその一部がある。

だが、周囲に隠れられるような物体は無く、また悪魔が融合していそうなオブジェクトもない。

そもそも、そんな分かりやすいものがあるならば、アリスがとっくの昔に気付いていたことだろう。

《超直感》のスキルは、感覚を鋭敏にするが具体的な情報を示してくれるわけではない。

ただ何となく、その辺に何かがありそうな気配を感じる――アリスの言葉通りなら、情報はそれだけだ。

(何かが潜んでいる可能性は高い。だが、潜むものもないし、透明化していたとしてもアリスなら気付ける。なら……)

――どこにいるのかが分からないのであれば、とりあえずその辺りを吹き飛ばしてしまえばいい。

乱暴な結論であるが、時間を無駄にしている暇はない。

方針を決意し、俺はシリウスへと告げた。

「シリウス、前方へとブレスを放て。なるべく広範囲を吹き飛ばすんだ」

「グルルルルルルッ!」

俺の指示の真意は良く分かっていないだろうが、シリウスは特に疑問を抱くこともなく大きく息を吸う。

そして首を横へと振りながら、その衝撃波のブレスを広い範囲に解き放った。

拡散するブレスは前方の何もない空間を薙ぎ払い、飛び出ていた岩や木々を削り取って薙ぎ倒し、そして地面を捲り上げ――緑色の血飛沫が、空中に舞って吹き飛ばされる。

「地面の下――!」

状況を理解し、舌打ちと共に結論付ける。

地面の下、地下に潜んでいた……否、地下の地層に悪魔を融合させていたのだ。

そして、まるで根を伸ばすかのように、周囲を侵食していたということだろう。

その状況を理解し――次の瞬間、地面の下に潜んでいた悪魔は唐突に動き出した。

巨大な触手、或いは肉の塊。蛇が鎌首をもたげるように起き上がった融合悪魔は、そのままこちらを薙ぎ払わんと唸りを上げる。

「シリウス!」

「ガアアアッ!!」

俺たちをまとめて吹き飛ばそうとしたその一撃を、前に出たシリウスは正面から受け止めた。

凄まじい衝撃に地面が爆ぜ、重心を落としてバランスを保つ。

シリウスの鱗に触れた巨大な触手は傷つき血を流しているが、それでも痛みを感じているような様子はない。

シリウスが脇で抱えるように受け止めているため動きは止まっているが、これが暴れ始めたら軍勢でも危険だろう。

「ルミナ、セイラン!」

「はいっ!」

「クェエエッ!」

このままコイツを放置するわけにはいかない。とにかく、目の前のコイツだけでも処理しなければ。

俺の号令に応じて放たれたルミナの魔法が、触手を撃ち貫いて傷をつける。

そして間髪入れずに舞い降りたセイランが、風と雷を纏う前足を振り下ろし、太い触手を半ばまで斬り裂いて見せた。

「グルァアアアッ!」

それを確認したシリウスは、爪に魔力を纏わせ、セイランが付けた傷に合わせるように腕を振り抜く。

両側から傷をつけられ、大量の血を流す融合悪魔。それに対しシリウスは、強く大地を踏みしめて、思い切りその触手を引っ張った。

瞬間、ブチブチと耳障りな音を立て、巨大な触手は力任せに引き千切られる。

大量の血が大地を汚し、ちぎれた先の触手は塵となって消滅していく。

そして引き千切られた触手は、肉が膨らむように傷口を覆い、出血はすぐに収まってしまった。

「ちッ……いったん後退するぞ!」

「は、はい!」

「あれはどうしようもないわね……」

想像だにしなかった状況に、一時退却を決断する。

まずは、これをどうやって攻略するか、作戦を立てる必要があるだろう。

蠢く触手に顔を顰めながら、その場から踵を返したのだった。