軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

721:戦場の変化

「はぁ……何か、とんでもない悪魔が出てきましたね」

「あいつ、お前たちの方でも出たのか?」

「私たちの方はあそこまで大きくなかったけどね」

ポイントα、戦場からはある程度離れた高所の地形。

そこまで撤退してきた俺は、先に撤退していた緋真たちと合流して状況の確認を行うこととした。

俺はプレイヤー側を、そして緋真たちはアルフィニール側を、それぞれ誘導して対面の陣地に食い込ませた。

当然ながら突出した者たちは敵の陣営に囲まれることとなるわけだが、陣地に杭を打たれたことに変わりはない。

単純な思考しかできないアルフィニールの悪魔や、戦場の熱に当てられたプレイヤーたちは我武者羅に周囲の敵へと攻撃を行ってしまう。

そうなれば発生するのは泥沼の混戦だ。今起こっているのは、まさにそのような光景である。

「ドラグハルト側は悪魔じゃなく、人間を狙ったのはそういう理由か。相変わらず悪辣なことを考えるな、軍曹」

「おいおい、そもそもお前が言い出した突飛な作戦を形にしてやっただけだろ?」

快活に笑う軍曹は、時折ライフルの引き金を絞り、遥か彼方へと弾丸を放っている。

流石にこの場から銃弾を追うことはできないが、やっていることは明白だろう。

軍曹は、この混乱をさらに深めようとしているのだ。

「プレイヤー側は統制が取れていない。いや、ドラグハルトの細かな指示が瞬時に行き渡らないというべきか。小隊単位はともかく、中隊まで行くとまるでまとまりがないな」

「まあ、普段からそんな統制の取れた動きなんぞできていない……というか、そんな訓練をしてるのは『キャメロット』ぐらいだろ」

「情報レベルで知識があるクランは他にもあるでしょうけど、訓練や演習までやってるのは『キャメロット』ぐらいですよねぇ」

俺の言葉に、隣で戦場を眺めていた緋真が苦笑交じりに同意する。

ゲームをプレイしているのは、あくまでも娯楽目的の一般人なのだ。

それに意欲を持たせて訓練や演習を行うなど、口で言うほど簡単な行為ではない。

アルトリウスはそれを、『キャメロット』が最強のクランであるという価値を持たせることによって成り立たせているのだ。

所属するプレイヤーに求められる質の高さ、そしてその肩書によって得られる優越感。

それで人を操れるのだから、あいつも中々に悪辣なものだ。

「まあ、だからこそ暴走させるのも簡単なんだから、こちらとしては助かるがな……やはり、だいぶ混戦地帯が増えたか」

「上位の悪魔まで引っ張り出せたなら最高だったが、流石に今すぐその状況にはならんだろうな。だが、互いにある程度攻め手が食い込んだことで、動きは活発化してるぞ」

軍曹の言葉に頷き、再び戦場を俯瞰して眺める。

まるで太極図のように、最前線が混ざり合ってしまった戦場。

後続は最前線の状況を知らず、最前線は後続が入ってくるため撤退もできない。

アルフィニールの悪魔たちは、そもそも撤退するという考えを持たないイノシシばかりだ。

結果として、戦場はただひたすら混乱し続けるしかないのである。

「……しかし、アルフィニール側は本当に戦力の切れ目が見えんな。悪魔を量産するにしても、何か制限はないのか」

「正直、私はあっちの方が不気味ですよ。やってることは単純ですけど、底が全く見えないですし」

アルフィニールは、ただひたすら数の暴力で攻めてくる以外の行動をしていない。

だが、その数がとにかく強力なのだ。

一体、どうやってその数を用意しているのか。そして、その数に限界はあるのか。

その本質は、未だに見えてきていない――それが、何処までも不気味だった。

「あの塊になった悪魔の分もすぐに補充されたようだしなぁ。結果的には、ドラグハルト側の消耗が大きい状況だな」

「目標達成は大丈夫なのか?」

「問題は無いだろうよ。何しろ、削れているのは向こうに付いたプレイヤーだけだ。つまり、ドラグハルトの本隊である悪魔は全くの健在だ。そして――」

「そいつらは布陣を変えてきている。どうやら、プレイヤーはそのための時間稼ぎに使われているようだな」

軍曹とランドの言葉に、俺は視線を再前線から離し、その周囲へと走らせる。

見れば、確かに二人の言う通り、悪魔たちは布陣を広げて迫ってきたアルフィニールの軍勢を半包囲できるようにしているようだ。

突出したプレイヤーたちはまだ持ちこたえてはいるようだが、援護が少ないため直に押し潰されることになるだろう。

そうして彼らが敗走している間に態勢を整え、一気に叩き潰す算段か。

「さぁて……この場合、被害は大きいように見えるがドラグハルト側の損失は実質的にはほぼ無し。アルフィニールはそれなりに多くの戦力を消費した状態ってわけだ。この場合、大公サマはどう出てくるかね?」

楽しそうに笑う軍曹は、潰し合いの戦場となっている全域を見渡してそう口にする。

ドラグハルト側は、実質的に失った戦力はプレイヤーのみ。

戦力自体が低下していることは事実だが、後で容易に補充ができる範囲内だ。

一方で、アルフィニールはいくらでも補充はできるものの、消費している事実に変わりはない。

果たして、その戦力は本当に無尽蔵なのか――いや、本当の意味での無尽蔵などあり得るはずがない。少しずつだとしても、アルフィニールは消耗している筈だ。

であれば、ただ一方的に消耗するだけの戦いはアルフィニールにとっても意味は無い。

「ランド、どう出ると思う?」

「……さっき既に見せたんだ、ならその手札は切っても損は無い。むしろ、最初から使うつもりでいただろうな」

「なら、アルフィニール側もただ潰され続けるだけとはいかないか」

噂をすれば影――と言ったところか。再び、アルフィニール側の陣で異変が発生し始める。

押し寄せるようにやってきていた悪魔たちが絡み合い、一つの塊へと変貌しようとしていたのだ。

向かっている場所は、俺たちが戦場を荒らした二ヶ所。二体の巨大な塊となりつつある悪魔は、遠くから見ると非常に気色の悪い姿をしていた。

「うわ、キモッ……」

「手足が沢山生えた大玉っていうか……子供の絵を無理矢理前衛作品にしたというか」

「まだ変化はしているみたいだな。やはり、あの塊が完成した形態ってわけじゃなかったのか」

顔を顰めている緋真たちの感想は、実に率直なものであった。

基本的に人型である悪魔たちだが、まるで出来の悪い粘土細工のように形を崩しながら一つの塊を形成していく。

無数の手足の生えた、一つの肉塊。それは、徐々に形を変え、手足のようなものを形成し始めた。

下半身は無く、体を引きずるようにして進む肉塊。徐々にワニのような巨大な口が形成されるが、顔に当たる部分は見当たらず、不出来な化け物のオブジェが姿を現した。

「本来はああなるはずだった、ってわけか」

「シリウスと同じぐらいのサイズがありますよね、あれ……」

「ふむ……数で押すだけじゃなく、強力な個体を生み出すことも可能、か。重要な情報だな、こりゃ」

泡立ち、肉を弾けさせながら体を形成していく悪魔――と言うか最早化け物。

巨大化したその姿は良く見えているのだろう、いくつもの魔法がその巨体へと殺到しているが、化け物は歩みを止めようとはしない。

そして、プレイヤーたちの軍勢にまで到達した化け物は、その巨大な前足をプレイヤーたちへと向けて振り下ろした。

瞬間、ここまで届くほどの地響きと共に地面が爆ぜ、玩具か何かのようにプレイヤーたちの体が吹き飛んでいく。

「耐久力は高く、攻撃力は見た目以上。取り込まれたすべての悪魔の能力を合計しているのか?」

「ランド、そっちよりも後方を注意しておけ。アルフィニール側はまだ補充が来てるか?」

「ああ、軍曹。切れ目が見えないな。いくらでも集まって来そうだ」

あの化け物は、アルフィニールにとっては切り札の一つであるだろう。

だが、いくら使っても惜しくはない程度の、大した消耗は無い札とも考えられる。

あれを生み出すために利用された悪魔たちも、数はすぐさま補充されてしまったのだから。

「ただ単純に数で押してくるだけならどうとでもなったんだが、あんな手札まであったとはな」

「単体ならまだしも、いくつも出てくるとなると結構骨が折れそうですね」

「シリウスなら正面から相手にできるだろうが、流石に手間がかかるだろう」

融合悪魔に踏み荒らされ、ついにプレイヤーたちの陣営は瓦解する。

そうなれば、当然あの化け物はドラグハルトの悪魔たちへと向けて前進するだけだ。

無論、既に展開を終えていた悪魔たちは無数の攻撃を融合悪魔へと集中させるが、その程度では動きを止めることなく前進していく。

――だが、その前に立ちはだかるものが存在していた。

「お、どうやら爵位悪魔のお出ましのようだぞ? ふむ……恐らくは伯爵級だな」

「つまり、ここで切れる程度の手札で伯爵級が配下にいるってことか。だが軍曹、これで目的は達成できたんじゃないか?」

「そうだな。お互いの陣営のそれなりに大きい戦力を引きずり出せた。ここからは、本格的な戦いになるだろうよ」

色々と気になることはあるが、目標自体は達成できた。

とりあえず、これでアルトリウスが攻める時に不利になるということはないだろう。

「よし、俺たちはしばらくここで情報を収集する。シェラート、お前たちは戻って本隊に合流しておけ」

「……了解。ここからは、本格的にアルフィニール攻めか」

「こっちも頃合いを見て撤退するが、それまでに道はこじ開けといてくれよ」

無責任に言い放つ軍曹には軽く溜め息を零しつつ、帰還のスクロールを取り出す。

色々とあったが、まだ本番に指先も掛かっていない。

やるべきことはまだまだ数えきれないほどにあるのだ。

さっさと次の仕事に取り掛かるため、俺たちはアルトリウスたちの本隊へと帰還したのだった。