軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

712:一人の刀匠

アルトリウスとの話し合いから二日。その間、俺たちは特に変わりのない日々を送ることとなった。

ログインしたら、ひたすらにワニの素材収集――いい加減飽きが来ている相手ではあったが、フィノのことを考えるとわがままも言っていられない。

フィノは朝から晩まで自分の工房に篭りきりで、今がどのような状態になっているのかは分からなかった。

だが、セールになっているワニ素材の装備からして、ひたすら武器を作り続けているのは間違いないだろう。

――フィノ本人から連絡が来たのは、そんな時であった。

「はい、とりあえずこれね」

作業場を訪れるなり、フィノが差し出してきたのは一振りの小太刀であった。

刀身は若干黄土色がかっており、あまり光沢がない。しかし造りは見事なもので、フィノの技術の向上が見て取れた。

どうやら、刀としての完成度そのものも、フィノ自身の技術によって影響を受けるらしい。

「こいつは……サーベラスビーストの刃で作ったのか」

「うん。まあこれは練習がてらで、解放を使ったってわけじゃないけど。そこそこ上位の素材だし、熟練度稼ぎにいいかなって」

サーベラスビーストも、単体として見てみるとあのワニ共よりよほど強い魔物である。

しかし、場所が悪い上に単体でしか出現しないため素材効率も悪い。

仮に安定して手に入れる手段があったとしても、今ほど効率的にフィノの強化を行うことはできなかっただろう。

■《武器:刀》砂刃獣の小太刀

攻撃力:54(+16)

重量:15

耐久度:160%

付与効果:攻撃力上昇(大) 耐久力上昇(大) 砂刃

製作者:フィノ

「この砂刃とやらが、あの魔物の使っていた金属粒子の攻撃か?」

「そう。流石にその魔物程自由自在に扱えるわけじゃないけど、遠距離に対して攻撃ができるよ」

「成程、大体予想していたような効果か」

魔力を込めてみると、刀身が僅かに輝いて、周囲に金属粒子が発生し始める。

その状態で、部屋の隅に設置されている試し斬り用の木人へと向けて刃を振るうと、鞭のように伸びた粒子の斬撃がその胸を斬り裂いた。

こちらは金属粒子で攻撃していると分かっているから分かりやすいが、初見ではこれを見切ることは困難だろう。

単純に遠距離攻撃をするというだけであれば【命輝一陣】で十分だが、相手の不意を突くという点ではかなり有効だろう。

「中々面白い効果ではあるがな……さて、どうしたもんか」

「もう一つの方もあるんでしょ、フィノ」

「うん、勿論。こっちは凄い経験値になったよ」

言いつつ、フィノが取り出して机に置いたのは、黒みがかった銀色の刃。

これは、シリウスが提供してくれた鱗より作り上げられた刃である。

《不毀》のスキルによってまるで壊れることが無くなったシリウスの鱗であるが、自らの意思で剥がすことは可能なのである。

シリウスもフィノは顔馴染みであり、彼女に対して素材を提供することは問題なかったらしい。

とはいえ、際限なく渡すつもりもないようで、提供したのは鱗三枚程度であったが。

《不毀》のスキルは魔力が通っている時のみその効果を発揮する。

逆に言えば鱗単体では効果を発動しないため、加工することも可能なのだ。

尤も、単体でも十分すぎるほどに頑丈であるため、加工はそれでもかなりの難易度ではあるのだが。

「今回の鱗は、武器だけじゃなくて防具にもきちんと使える性能だった。だから一枚は盾を作るのに使っちゃった」

「提供したもんだから、余りをどう使っても自由だけどな。武器は作れたんだろう」

「ん……でも、今回はあくまでも間に合わせ。本番はここからなんだから」

フィノの要件も把握している。俺たちをここに呼び出したということは、ついに準備が完了したということだろう。

何しろ、あの素材は俺たちが常に持ち歩いているのだから。

シリウスの素材は確かに強力なものではあるが、それでもあの素材――龍王の爪と比べれば劣ることは否めないだろう。

それによる武器が完成するならば、そちらを使うことになるのは自明の理だ。

とはいえ、今日だけで全ての武器が完成するわけでもないだろうし、しばらくはシリウスの装備を使うことになるだろう。

■《武器:刀》不毀龍鱗の野太刀

攻撃力:79(+24)

重量:27

耐久度:160%

付与効果:攻撃力上昇(大) 耐久力上昇(大) 不毀

製作者:フィノ

■《武器:刀》不毀龍鱗の小太刀

攻撃力:65(+19)

重量:27

耐久度:160%

付与効果:攻撃力上昇(大) 耐久力上昇(大) 不毀

製作者:フィノ

「武器効果の不毀はどんな性質なんだ?」

「MPを消費し続けている間は武器耐久度が減らない。逆に言うと、効果発動中はどうやっても破損しない。限定的には成長武器と同じ、破壊不可の装備だね」

「武器はともかく、防具にするならかなり強力な効果ね」

装備をしげしげと眺めながら呟くアリスであるが、実のところ武器にとってもかなり強力な効果だ。

何しろ、強引な使い方をしても折れることも、曲がることもない。

多少の無茶をしてでも相手に刃を突き立てる、その選択肢が取れるということはかなり有用なのだ。

まあ、あまりそのような使い方に慣れていると、いざという時に刀を折ることになりかねないため注意が必要だが。

「とりあえず、前置きはこれぐらいにして……改めて、協力してくれてありがとう。私の武器も、★10まで上げることができた」

「お前さんもだいぶ無茶をしたもんだな。★10へのレベルアップはティエルクレスの素材だったのか?」

「うん、恐らく運が良かっただけだとは思うけど。全部があの素材だとは思えないし」

フィノの言う通り、全ての成長武器が同じ条件で進化するということはないだろう。

そうであれば、成長武器の持ち主は全てあのティエルクレスに挑まなければならないということになる。

まあ、他の条件だったとしても、同じぐらいの難易度になるのかもしれないが。

「 強制解放(リミットブレイク) ……ううん、 限界突破(リミットオーバー) か。とにかく、解放を使ったのは一回だけだけど、効果は分かってる。だから、扱うことに不足はない」

「ふむ。だが、これ以上ないほど貴重な素材だ。失敗はできんぞ?」

「勿論、それは当然のこと。その上で、私は今ここで挑みたい……だって、もう時間がないんでしょ?」

フィノの言葉に、小さく首肯を返す。

アルトリウスからは既に連絡があった。ドラグハルトたちが、ついに動き始めたと。

まだ軍を始動させた程度ではあるが、程なくして奴らは戦闘状態に突入することになるだろう。

悠長にしていられる時間は、最早残されていないのだ。

「残念だけど、今は何度も挑めるほどの余裕があるわけじゃない。次の戦いに間に合わせられるのは一度きり……だからね、先生さん。私は、姫ちゃんの小太刀を造りたい」

「えっ、私? 先生のじゃなくて?」

「勿論、最終的には先生さんのも造る。でも、一番最初の武器は、姫ちゃんのために造りたい」

普段はぼんやりとした、フィノの真剣な言葉。

その声の中に込められていたのは、確かな決意の色であった。

俺は、彼女と緋真の馴れ初めまでは知らない。だが、イベントでの同道を誘うほどには、二人は仲の良い友人同士だ。

ならば、それを否定するのは野暮というものだろう。

「分かった、思うようにやってくれ」

「い、いいんですか先生? 他のみんなが気にしません?」

「 職人(・・) の意向なんだ、無下にはできんさ」

確かに、本来であれば師範である俺が最優先されるべきであろうと、そう考える門下生は多いだろう。

だが、職人がそう言っているのであれば、その意向を無視することはできない。

それに、どうせ俺がメインで使うのは餓狼丸だ。二刀流で小太刀も同時に使う緋真の方が、有用に扱えることだろう。

頷きつつ、俺はインベントリから赤龍王の爪を取り出す。

この一部を削り、造り上げる小太刀。果たしてどれほどの力になることか、期待を否定することはできなかった。

「頼むぞ、フィノ」

「ん……勿論。全身全霊で、一振りを造り上げる」

赤龍王が折って渡してきた、巨大な爪。

それを目の前にして、フィノは己が成長武器であるハンマーを取り出した。

柄に精緻な彫刻がされながら、実直な鉄塊を備えた槌。使いこまれた風情を醸し出すその武器を手に、フィノは告げた。

「――刃金を奏でよ、『ウルカヌス』」

刹那、フィノの成長武器が炎を上げる。

まるで赤熱するかのような輝きを纏うハンマーは、胎動するように赤い色を明滅させていた。

そして、それを握るフィノの顔には、右目を覆う黒い眼帯が。

出で立ちまでもを変化させる解放だが、これは通常の解放だろう。彼女の成長武器の真の姿は、その先にある。

「完成したら呼ぶから、待っていて。本気で集中するから」

「……了解だ。全て、お前さんに任せよう」

これまでのフィノとは、言葉の重みが違う。

今の声の中に含まれていたのは、俺たちにとっては馴染みのある重みであった。

即ち――ひとつの生き方に命を捧げると誓った、求道者の声。

(……見違えたな。ここに来るまでに、何か得るものがあったか)

言っちゃ悪いが、フィノは腕はいいものの、名工と比較できるレベルではなかった。

それは仕方のない話だ。彼女は素人で、決して長い年月の研鑽を積んだ職人ではなかったのだから。

けれど、先程見せられたあの刃。あれは間違いなく、長年の研鑽の末に導き出したかのような代物だった。

少し見ない間に、どのような経験と心境の変化があったのか。分からないが――今の彼女は、一端の刀匠だと言えるだろう。

故に、俺は心の底から彼女の仕事に期待しつつ、彼女の工房を後にしたのだった。