軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

704:成長と一時帰還

『――テイムモンスター《シリウス》のレベルが上昇しました』

大型のワニを倒したことでそこそこの経験値が手に入ったのか、ようやっとレベルが上昇した。

新しいスキルもようやく上がったが、これを育てていくのは中々手間がかかりそうだ。

とはいえ、目下の狙いはシリウスの進化。今のレベルアップによって、その目標も目前にまで迫ってきている状態だ。

しかし――

「流石に、今日はそろそろ時間だな」

「いい調子だったんですけどね。でも、切りはいいかと」

こういう、作業的な戦いというものは、中々止め時を見出すことが難しい。

少し時間があるからとあと一度戦ってしまうと、勿体ないからとそのままずるずると続けてしまいかねないのだ。

であれば、ここで切りよく終わりにしておいた方が気持ちよく中断できるだろう。

「大目標はフィノの成長武器の強化、中目標はシリウスの進化ってところか」

「じゃあ、小目標は?」

「ルミナたちのスキル成長だな。もう少しだから」

今のレベルアップで、ルミナとセイランのレベルは39まで育った。

今までの例からすれば、レベル40で何かしらのスキル成長が見込めるだろう。

尤も、これまでの傾向からして、40は控えめな成長になるかもしれないが。

それでも、成長は成長だ。これから強敵と戦うに当たって、少しでも力をつけておきたい。

ドラグハルトたちがいつ動き出すか、分かったものではないのだから。

「……ログアウトする前に、一度アルトリウスと話をしておきたいんだがな」

ファムを動かしているということは、諜報を密にしているということでもある。

あのクソアマのことは気に入らないが、能力は間違いなく高い。

奴ならば、既に何かしらの情報を手に入れていたとしても不思議ではないだろう。

しかしながら、メールを確認してもアルトリウスからの返信は入っていなかった。

マメなあいつにしては珍しいことであるが、それだけ忙しい状況ということなのだろう。

逆に、やたらと大量にメールを送ってきているのはアンヘルであった。要件に関しては文面を確認するまでもないだろう。

(まあ確かに、隕鉄剣を一番上手く扱えるのはアンヘルだろうけどな……)

大剣を使うプレイヤーは数あれど、あいつほどの戦闘センスを持ち合わせているものは他にいないだろう。

ディーン辺りでも扱えそうだとは思うが、彼は既に成長武器を持っている。

現状では隕鉄剣の方が強いだろうが、成長武器を使った方がメリットは大きいだろう。

小さく嘆息しつつ、間に添えられていた申し訳なさそうな様子のランドのメールだけ確認しておく。

「……籍を入れたってのに、相変わらず落ち着きのない奴だな」

「えっと、何かあったんですか?」

「ログアウトする前に、昔馴染みの馬鹿と少し話をするってだけだ。スキルの確認は大丈夫か?」

ちなみに、こっちは《立体走法》が50になったため、《空歩》へと進化させられた。

これでようやく空中でのジャンプが可能になるが、流石に今のレベルでは歩数が少ない。

もっと使いこんで、レベルを上げておかなくては。

それに、《昇華魔法》の新しい呪文も習得できたのだが――

「私の方は、特にスキル進化は無いですね。新しい呪文も」

「こっちもそんなところね」

「そうか……スキルはともかく、呪文の方はな」

「何か新しいものを覚えたんですか?」

新たに習得した呪文の名は【ファントムブレード】。

前回習得した【ファントムアーマー】は実に使える呪文であったため、何かしら使い易い効果があるかと期待していた。

実際、かなり強力な呪文であることは間違いなかったのだが――

「単純に言うと、攻撃の射程が伸びる。伸びた部分は威力が下がるが、あらゆる防御をすり抜けてダメージを与える。物理的な破壊は行えず、魔法ダメージだけが残るみたいだな」

「……《ワイドレンジ》っぽいですね」

「防御をすり抜けるところとか、魔法ダメージ化するところは差別化されてるんじゃない?」

「それはそうなんだがな……咄嗟に使おうとしても詠唱しておかないと間に合わんだろ」

《ワイドレンジ》は単純に射程が伸びるだけなのだが、威力の減衰はほぼ無いし、しかも瞬時に使うことができる。

防御をすり抜けて魔法ダメージだけを与える点は強いと思うが、扱いはどうにも難しいな。

よほどのことがない限りは《ワイドレンジ》を使用することだろう。

「……まあいいか。使える時が来たら使ってみよう」

それまでに忘れている気がしないでもないが。

正直、呪文が増える度に手札が増えるのはいいが、扱いきれないものが多くなってきている。

その辺り、何でもかんでも取り込める緋真とは得意分野が異なるということだ。

ともあれ、確認は完了した。恐らく面倒臭いことになるとは思うが、アンヘル達に会いに行くとするか。

* * * * *

「ハァイ、シェラート! あの剣を貸して――痛っ!?」

「一言目に言うことじゃないだろ馬鹿」

ランドに連絡を入れ、『エレノア商会』の店舗でアンヘル達と合流する。

そして俺の顔を見るなり、アンヘルは興奮した様子でそう話しかけてきたのだ。

溜息を吐いたランドが後ろから拳骨を落としていたが、この直情型の馬鹿は気にした様子もない。

釣られるように嘆息しつつ、俺は二人の後ろに控えていた勘兵衛の方に声をかけた。

「わざわざ商会まで呼び出した上にアンタまでいるってことは、購入する算段が付いたってことなのか?」

「いや、データを見せて貰ったけど、とてもじゃないが例の大剣は値の付けられない武器だよ。現在の価値じゃ、個人で購入できるプレイヤーはいないだろうさ」

どうやら、その辺りの結論は変わっていないらしい。

とはいえ、ここまで来たってことは、何かしら解決する手段があるってことなのだろう。

そう考えつつ先を促すと、勘兵衛は小さく笑みを浮かべながら続けた。

「その場合、大まかにだけど取れる方法は二つだ。つまりローンか、レンタルかってことだな」

「ローン、分割払いねぇ……価値の変動しやすい武器でか?」

「ああ、その懸念は尤もだ。ことゲームにおいて、武器の価値なんてものは変動しやすい。特にその武器は、事実上は複数手に入れることが可能だしな」

隕鉄剣は貴重だが、成長武器とは違いオンリーワンの代物ではない。

ティエルクレスに安定して勝利することができるならば、複数手に入れることも可能だろう。

まあ、それがどれだけ困難であるかは言うまでもないのだが。

「だから、そういう使用寿命の短いアイテムでは分割払いは基本的に行わない。そこで登場するのがレンタル契約さ。所有権はあくまで元のプレイヤーのもので、一定期間ごとに契約規定した金額を自動的に送金するシステムだ」

「そんなもんがシステム化されてるのか……」

「サブスクみたいなもんですかね?」

「サブスクの契約はまた別で、あれは消費アイテムでも使えるな。今回のパターンはあくまでレンタル、損耗した場合は補填する義務が発生する」

緋真が発した素朴な疑問に、勘兵衛はそう回答してくれた。

その辺りもスキルでサポートして貰えるのなら、また何とも便利なものだ。

自分で売買を行っている生産系のプレイヤーは皆習得しているということだろうか。

そんな実情はともかくとして、システムで保証されているレンタル契約ならば問題は無いだろう。

「一応、条件は詰めてきたから確認してくれ。問題無いようだったら契約を結ぶから」

「感謝する。正直俺では使わん代物だし、貸し出すのは全く問題ないさ……しかしレンタルでも結構な値段だな」

「値段については随時契約更新に応じるぞ。現状、それだけの金額じゃないと契約が釣り合わないと判断されたってだけだ」

「つまり、二本目以降がプレイヤーの手に渡ったら価値が変わるってことか」

果たして、システムはどのように計算しているのやら。

それはともかくとして、正直別に金には困っていないのだが、強力なアイテムを死蔵させておく方が気分的に良くない。

俺はレンタル費とインベントリの空きが手に入り、アンヘルは強力な武器を存分に振るえる。

どちらにとってもメリットのある契約だろう。

「こちらは問題ない。金が入ってこなかったら自動的にレンタル解除されるらしいから、気を付けろよ」

「分かってますよ、勿論! ランドが気を付けます」

『お前も気を付けろ馬鹿』

思わず、俺とランドの言葉が重なる。

しかしアンヘルの言う通り、ランドがいればそれを見逃すということもないだろう。

どうせ元々、財布の紐はランドが握っているんだろうからな。

「なら、契約は成立……こいつがティエルクレスの剣だ」

「ヒュー! データは見てましたけど、本当に凄いですね!」

取り出し、机の上に置いた隕鉄剣を、アンヘルは意気揚々と持ち上げる。

かなりの重量がある筈の大剣だが、彼女の膂力ならば十分に扱えるようだ。

様々な角度から大剣を眺めているアンヘルの様子に、思わず苦笑を零しつつ、ランドの方へと向けて声をかける。

「ったく……今にも試し斬りに行きそうだが、その前に情報交換だ」

「分かってるよ。こっちも、この剣に関しての情報を少し確認したいと思ってたからな」

アルトリウスは手が離せない様子だが、ランドでも多少は内部の事情に通じているだろう。

あいつが何をしているのか、今のうちに確認させて貰うこととしよう。