軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

696:不滅の剣

不滅の剣、ティエルクレス。

その強さの本質は、スキルによって底上げされた圧倒的なまでのステータスだ。

いくつのスキルを重ね掛けしているのかは知らないが、少なくとも攻撃系のスキルは先ほどの見覚えのない剣術しか確認していない。

逆に言えば、それ以外の全てをステータスアップに費やしている可能性もあるのだ。

とてもではないが、身体能力でこいつに勝つことはまず不可能だろう。

(しかも、攻撃スキルが少ないとはいえ、あのテクニックだけでおつりが来るぐらい強力……マトモに相手なんぞしてられん)

斬法――柔の型、流水。

襲い掛かってくる一閃を、不動を併用した流水で受け流し、それと共に前へと踏み出しながら一閃を繰り出す。

だが、瞬時に反応したティエルクレスは後方へと跳躍し、俺の攻撃は空を斬った。

そこに上空のルミナとセイラン、地上の緋真が十字砲火になるように魔法を放つが、反撃を受けない十分な距離を取っているため、ティエルクレスは悠々とそれらを回避してしまう。

俺が態勢を整える時間を稼ぐことはできているのだが、未だティエルクレスは殆どダメージを受けていない状態であった。

(発動にタイムラグがあるテクニックを使う余裕はない。効果はあるだろうが視界が制限される【咆風呪】も危険性が高い。結局、何とかしてコイツに刃を届かせるしかないわけだ……!)

ただひたすらに強い、それがこの不滅の剣だ。

もしも、正気を保てていないティエルクレスが相手であったなら、幾らでもやりようはあっただろう。

どれだけ強力なスキルを持っていたとしても、それを使いこなせないのであれば付け入る隙はある。

だが、このティエルクレスにはそれが無い。どこまでも冷静に、正確に、途切れることなくスキルを連ねてこちらへと襲い掛かってくるのだ。

僅かに距離を取ったティエルクレスへ、今度はこちらから襲い掛かる。

相手に主導権を握られていては、とてもではないが勝てる相手ではないだろう。

「『生奪』」

扱いの難しいテクニックを使っている余裕はない。

必要なのは、少しでもティエルクレスに刃を届かせることだ。

そう思いながら駆ける俺に対し、ティエルクレスは回避動作の直後から刃を振るい始めた。

『――【 双穹(そうきゅう) 】』

――その声に、背筋が粟立つ。

正体不明のテクニック、何のスキルなのかは分からないが、とにかく強力な一撃であることは間違いない。

その発動と共に振るわれる大剣には強大な魔力が込められ、刀身が陽炎のように揺らめく。

(いや、これは――)

歩法――烈震。

戦慄と共に、白影の性質を高めて一気に加速する。

ティエルクレスが振るう刃、その軌跡が二つに分裂したのだ。

交差するように振り下ろされる二つの剣閃――これを横に回避することは不可能だ。

故に、俺はその刃が身に届くよりも早く、ティエルクレスの懐まで潜り込んだ。

一気に駆け込んだため、刃を振るう余裕はない。そう判断し、俺は餓狼丸の柄をティエルクレスのみぞおち目がけて突き出した。

『ッ、やるな……!』

だが、ティエルクレスは瞬時に反応すると、半身になってその一撃を回避してみせた。

攻撃を中断したため中途半端な体勢であるが、このタイミングで回避を成功させるとは。

しかし、これならば次なる一撃は避け切れないだろう。

打法――寸哮・衝打。

本命はこちら、左手で叩き込む打撃だ。

流石に体勢を泳がせたタイミングでは避け切れず、俺の一撃はティエルクレスの脇腹へと突き刺さる。

それと共に叩き込んだ衝撃によって、彼女は確かに呼吸を詰まらせた。

(死んでるのに呼吸ってのもどうなんだとは思うが――)

ダメージを受け、しかしティエルクレスはそれで怯まず、体勢を立て直す。

単なるやせ我慢と言えばその通りなのだろうが、どうやら純粋にタフであるらしい。

あんな無茶な動きが成り立つほどにステータスを高めているのだから、それも当然ではあるだろう。

有利な状況での追撃は無理、だが体勢は五分だ。

(つまり俺が不利ってわけだ)

五分の状況では、俺の方が弱い。このティエルクレスが相手では、否定のできない事実だろう。

しかし、それはまともに相手をしていれば、の話である。

ゆらりと体を揺らし、半歩ほど横にズレ――その隙間を、俺の背中側から飛んで来た矢が通り抜けた。

『……!』

歩法――縮地。

俺の後ろへと回り込んでいたアリスからの、俺を囮とした矢の一撃。

流石にそこから攻撃が来ることは予想外だったようだが、ティエルクレスは完璧に反応して矢を防いで見せた。

だが、防御に大剣を使ったことで数瞬の隙が生まれる。その間に、俺はスライドする様にティエルクレスとの距離を詰めた。

「しッ!」

『はぁッ!』

斬法――剛の型、中天。

小細工などない、正面大上段からの一閃。

単純故に速く、そして芯を捉えたその一閃は、ティエルクレスの反射速度、身体能力とて躱しきれるものではない。

ティエルクレスは咄嗟に大剣を掲げて俺の一撃を受け止め――まるで大岩に打ち込んだかのような手応えに、俺は思わず眉を顰めた。

「微動だにしないとはな……体まで鉄で出来てるのか!」

『そんなわけがあるまい!』

鍔迫り合いでは勝負にならないとは分かっていたが、まさか衝撃すら与えられないとは。

膝が折れるどころか小揺るぎもしない足腰に驚嘆し、俺は刃重に繋げることなく距離を開けた。

本来であればこのまま肉薄した方がいいのだが、先の一撃でティエルクレスは既に警戒している。

俺が刃を返した瞬間にフリーにした左手は、飛び込んできた俺を捕まえるためのものだったのだろう。

だが、片手になったからと言ってティエルクレスの戦闘能力が落ちるわけではない。

重量のある大剣だが、彼女はそれを悠々と片手で操り、こちらへと向けて振り下ろしてきた。

リーチは若干届かない筈だが、その大剣は刀身が伸びる。離れていたとしても安心できるものではない。

事実、伸びた刀身は俺を唐竹割にしようと頭上から襲い掛かってきた。

「だが、流石にそこまで甘くはないぞ、不滅の剣」

斬法――柔の型、流水。

いかにティエルクレスの身体能力が優れていたとしても、片手で振るう剣には大いに制限がかかる。

右手だけで振るった刃は、先程よりも容易く地面へと流し落とすことができた。

勢いを増させたため地面にまで衝突したその一撃は、硬い足場を割るように断面を走らせる。

ほんの一瞬だけでいい、そこから横薙ぎに繋げさせなければ、こちらは反撃が可能なのだ。

ティエルクレスは大剣を本来の長さに戻し――しかし、そこから攻撃に繋げるよりも俺の接近の方が早い。

「『生奪』!」

幾度目かの交錯。ティエルクレスは刃を戻した状況であるため、次なる攻撃に繋げるには体勢が整いきっていない。

だが、それでも尚、彼女は攻撃のために刃を振るった。

俺の防御力がそれほど高くは無いことを理解し、十分な一撃でなくとも俺を屠れると判断したのだろう。

――そんなティエルクレスへと向けて、上空から光の槍が撃ち放たれた。

『ち……ッ!』

半歩、完全に軌道を見極めて、ティエルクレスは光の槍を紙一重で回避する。

だが、それでも体勢は僅かながらに泳ぎ――俺は、動きの鈍ったティエルクレスの刃を掻い潜りながら、餓狼丸の刃を振るった。

斬法――剛の型、刹火。

刃が、ティエルクレスの身に届く。

餓狼丸の切っ先がティエルクレスのボディアーマーを斬り裂き、その胸へと一筋の傷を走らせた。

既に人間ではないからか、血が流れ出すようなことはなかったが、まるで血飛沫のように薄い灰色の煙が飛ぶ。

刃は確かに届いた。だが――今のタイミングでさえ、ティエルクレスは瞬時に反応してみせたのだ。

「浅いか……!」

『ぐっ……やるな、クオンよ!』

ダメージは通ったが、ギリギリで反応したティエルクレスは身を反らし、致命傷を避けてみせた。

そのまま体勢を崩すかと思いきや、彼女は跳躍して空中を足場に、まるで横向きに吸いつくように立ちながら刃を構え直す。

空中で横向きになることによって、重い刃の位置を変えないまま、体勢の方を刃を振るえる状態に変化させたのだ。

スキルは恐らく《空歩》だろうが、まるで重力の向きを変えたかのようなあのスキルは――

『――【 断慨(だんがい) 】ッ!』

こちらも刃を振り切った体勢、すぐに次の動作へと繋げられはするが、ワンテンポ相手の方が早い。

ティエルクレス相手のその一拍は、あまりにも長すぎる時間だ。

身を投げ出してでも回避しようと体を沈め――その瞬間、巨大な影が俺の頭上を横切った。

「ガアアアアアッ!」

『む――!』

ティエルクレスが振るう大剣が、割り込んだシリウスの尾と激突する。

瞬間、眩く火花が走り、甲高い金属音が空気を震わせる。

謎のテクニックを発動したティエルクレスの大剣と、魔力を帯びたシリウスの尾。

一瞬の拮抗の後――二つの攻撃は、弾かれるように後方へと軌道を変えた。

「グルル……ッ!?」

「……おいおい、マジか」

何とか体勢を立て直し、後方へと弾き飛ばされたティエルクレスへと向き直る。

だが、彼女のことを警戒しつつも、俺は驚愕を隠しきれずにいた。

シリウスの攻撃を真っ向から受け止めたことだけではない――シリウスの体の中でも最も頑丈な尾の刃、その刀身に一筋の罅が走っていたが故に。

あの一撃はダメだ、シリウスの体ですら斬り裂かれる。俺はどの攻撃を受けても耐えきれはしないが、シリウスすらも耐えられないような攻撃があろうとは。

「シリウス、修復に専念しておけ。あいつの攻撃を真っ向から受けるなよ」

「グルッ」

身を低く、警戒したように唸るシリウス。

その姿に頷きつつ、俺は改めて体勢を立て直したティエルクレスへと意識を集中させた。

彼女はスキルで魔力を消耗している様子もない。長期戦になれば相手の方が有利だろう。

全く――

「最高の相手だよ、アンタは」

口元に浮かぶ笑みを自覚しつつ、俺は再び地を蹴ったのだった。