軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

007:フィールドボス

「あ、もうこの辺りまで来ちゃいましたか」

「何だ、あの集まりが何なのか知ってるのか?」

「ああ、はい。あの辺り、いくつか石の柱みたいなのが立ってるでしょう? あそこから先はフィールドボスとの戦闘エリアです」

「ほほう」

ボスということは、先ほどの奴よりも強い敵がいるということか。

緋真の言う石の柱とは、ガードレールほどの高さの石柱が並んでいるあれだろう。

幾人かのプレイヤーがその前で立ち止まり、何かを待っている様子だった。

「で、そのフィールドボスの手前で、あいつらは何をしてるんだ?」

「同時にフィールドボスに挑めるのは1パーティだけですからね。順番待ちだと思いますけど」

どうにも面倒な決まりがあるらしい。

まあ、強い敵と戦えるならば、順番待ちすることもやぶさかではないが。

そう思いながら接近したところで、向こうもこちらに気づいたらしい。

最初に視線があったのは、弓を装備した男のプレイヤーか。

そいつは俺に視線を向けた後、隣にいる緋真を見て、あんぐりと口を開いて硬直していた。

「んな……あ、あ、《 緋(あか) の剣姫》!?」

「何!?」

「嘘、何でこんな所に!?」

弓の男が叫び声を上げた途端、他の五人のプレイヤーもこちらへと視線を向け始める。

どうやら、トッププレイヤーと評判の緋真がこんな所にいることに驚いた様子であるが――

「おい緋真。お前、今の仰々しい呼び名は何だ?」

「……し、知りません」

「そういえば、さっきのあのフリードとかいうのも似たようなものを名乗ってたな。何だ、ああいうのが好きな年頃か?」

「ち、違いますから! 私が自分で名乗ってるわけじゃありませんから! ま、前に行われたイベントで、上位入賞したら公式からそういう称号スキルを貰ったんです!」

「称号スキル?」

「これですよ、これ!」

そう言って、緋真は己のメニューを操作すると、スキル欄にある一つのスキルを俺に対して表示させてきた。

……というか、称号スキルって何だ。俺のスキル欄にはこんな欄はないんだが。

■《 緋(あか) の剣姫》

紅の髪と緋き炎を纏う暁の剣士。

彼女に救われた人々は、緋の剣姫の名を謳う。

刀を利用した火属性の 魔導戦技(マギカ・テクニカ) の威力が15%上昇する。

「お前、これは流石に痛々しいんじゃ――」

「だから、私が自分で言ってるわけじゃないですから! でも強いから外せないですし……!」

「あー、分かった、分かったから。つーか、称号スキルって何だよ」

「称号を手に入れたら表示されるようになりますよ。ここまで効果のある称号はそうそう無いですけど……」

つまり、この称号も含めて上位入賞の賞品ということなのだろう。

俺にもこんな称号が付く可能性があるってことか?

正直、止めてほしいところなんだが……十年前ぐらいならまだしも、二十代も半ばになってこれというのは少々辛い。

まあ、イベントで上位入賞するかどうかも分からんし、あまり気にしなくてもいいだろう。

そんなことを考えているうちに、俺たちはフィールドボスの手前、他のプレイヤーが待機している場所まで辿り着いた。

待っているプレイヤーの数は六人。まあ、一般的なフルメンバーのパーティのようだ。

「お、おう、まさか《緋の剣姫》が今更こんな所にいるとはな……」

「今日はこの人の付き添いですので。皆さんはフィールドボスの順番待ちですか?」

「いや、恥ずかしながら一度撤退してな。今は回復待ちだ」

そういって、リーダーらしき大剣を背負った男は、空になったポーションのビンをぶらぶらと揺らす。

ふむ、どうやら、こいつらもまだ初心者の領域を出ないプレイヤーのようだ。

一部の装備だけではあるが、初心者装備を纏っている部分もある。

「回復したらまた挑むのですか?」

「いや、撤退のための回復だ。もうちょっとレベルアップして出直してくるよ。そちらは、ボス素材の収集かい?」

「いえ、私はあくまでもこのクオンさんの付き添いですから」

「……付き添いねぇ」

緋真の言葉に対して、リーダーを初めとした幾人か――特に男四人が値踏みするような視線を俺に向けてくる。

さっきの反応からしても、緋真は随分と名が知れ渡っている様子だし、関係性を疑っているんだろう。

流石に、あのフリードのような奴はそうそういないだろうが。

そんなことをぼんやりと考えていたところ、袖口を引っ張りながら緋真が抗議の声を上げてきた。

「ちょっと先生、私にばかり説明を任せないでくださいよ」

「いいだろう? お前は人気者なんだ、手ぐらい振ってやったらどうだ?」

「そういうのはいいですから!」

「あー……まあ、リアルの詮索をするつもりはないが、知り合いではあるみたいだな?」

「否定はしない。そんな所だ」

男の言葉に、俺は肩を竦めながら首肯する。

その言葉のおかげか、連中の視線の強さは幾分か和らいだ。

大方、俺がこいつのことを騙して利用しているとでも疑っていたのだろう。

アイドルに男が近づいたら偏見の視線を向けてしまうというのは、まあイメージできないわけではないが。

しかし、それでもまだ疑念は晴れていないのか、杖を持った魔法使いらしき女が緋真に声をかけていた。

「でも、緋真さん。知り合いだからって、あまり面倒を見すぎるのは良くないですよ。確かに、緋真さんのレベルならこの辺りは楽勝でしょうけど」

「あはは……それじゃあ、見てみます?」

「え?」

「……先生、どうせここまで来たら、ボスに挑むつもりなんでしょう?」

「ああ。雑魚ばかりなのもつまらんからな。あの柱の先に行けばいいのか?」

「はい。それじゃあ皆さん、お先に」

緋真が会釈をする横を抜けて、俺はボスの領域へと歩き出す。

ここまで雑魚の魔物ばかりで、不完全燃焼もいいところだった。

だが、流石にボスともなれば多少は骨のある敵が出現するだろう。

今度こそは楽しませて貰おうと、俺はボスのフィールドへと足を踏み入れた。

瞬間――

『オオオォォォ――――ン!』

響き渡ったのは、狼の遠吠え。

そして、草原の中からにじみ出るように姿を現したのは、五匹のステップウルフ。

さらに、その後ろに現れたのは――

■グレーターステップウルフ

種別:動物・魔物

レベル:8

状態:アクティブ

属性:なし

戦闘位置:地上

体高だけで1メートルは超える、後ろ足で立ち上がれば3メートルはありそうなほどの巨大な狼。

その図体は、それだけでかなりの脅威となり得るだろう。

少しは骨のありそうな敵が出現したことに笑みを浮かべながら、俺は即座に駆け出す。

まずは、周囲にいる雑魚共を片付けねばなるまい。

「緋真、獣との戦いについて、さっきから話していたことは聞いていたな」

「は、はい?」

相手が動くよりも先に、俺は右端にいた狼へと肉薄した。

狼は一瞬面食らったように動きを止め、それでも俺の攻撃を迎撃しようと飛び出そうとする。

だが――

「四足歩行の動物は、前に進むことは速くとも、後ろに進むのはあまり得意ではない。構造上の問題だな。つまり、こちらから距離を詰めてやると、相手はやりづらいということだ」

一瞬の逡巡があればそれで十分。

掬い上げるように放った一閃は狼の下顎を斬り上げ、返す刃がその首を斬り落とす。

ただの狼の動きは既に慣れた。この程度ならば一呼吸あれば仕留めることができる。

だが、その一呼吸であろうとも、他の狼は既に動き始めていた。

どうやら、あのでかい狼がいる場合、普段よりも行動に移るまでが早くなるらしい。

まあ、そうでなきゃ面白くないんだがな。

「次に、動物の攻撃ってのは一部を除いておおよそ直線的だ。こいつらの攻撃手段は爪と牙と体当たり。爪についてもそこまで広い範囲を攻撃できるわけではないから、槍による攻撃のようなものだと捉えろ」

突っ込んで体当たりを狙ってくる狼は横に躱し、続けざまに襲い掛かってきたもう一匹の爪の一撃を篭手を使って受け流す。

体勢が十分ではなく、完全に威力を殺し切れはしなかったためか、若干HPを削られる。

だがまぁ、この程度ならば許容範囲内だ。

「最初に敵がいた位置と、自分が今いる位置を直線で結び、その直線から離れてやれば対処は容易い――《収奪の剣》」

HPが減る機会というのも少ないので、せっかくだから例のスキルを使用する。

その宣言の瞬間、俺の握る太刀は黒い靄のようなオーラを纏う。

そんな刀の変化を視界の端で確認しながら、俺は続けて噛み付こうと飛び掛ってきていた狼に対し、上段から兜割りに刃を振り下ろした。

絶好のタイミングで放たれた剣閃は、目論見どおりに切っ先を狼の脳天へと振り下ろし、その頭を真っ二つに叩き斬る。

これで二匹――ついでに、先ほど減らされたHPは全快していた。

そして、振りぬいた刃の勢いに乗って体を横へとずらし、そのまま回転によって遠心力のエネルギーを得つつ蹴りを放てば、押し倒そうと飛び掛ってきていた狼を弾き飛ばした。

「そして、複数の敵を同時に相手にする場合だが、最初は全ての敵を視界内に収めるように動くのが簡単だ。が、効率的に倒すことを考えるとそれを続けるのは難しい」

でかい狼を視線で牽制しながら、俺は残る三匹との接近戦を続ける。

少しでも離れれば、あのでかい狼は襲い掛かってくるだろう。

だが、こいつらが傍にいる場合、奴は部下を巻き込むことを恐れて攻撃がやりづらい状態になるようだ。

背後から襲いかかってきた狼を半身になって躱しつつ太刀を振り下ろし、その後ろ足の腱を切断しながら、俺は言葉を続ける。

「だから、読むべきは相手の息遣い、足音、空気を切る音――聴覚を頼りにするのが次に簡単な方法だ」

倒れこんだ狼はひとまず放置し、後ろから俺の脚に噛み付こうとしていた一撃を足を振り上げて躱し、ついでにその頭へと踵を振り下ろす。

せめて唸り声ぐらいは消しておかんと、あっさり気づかれるに決まってるだろうが。

「まあ、俺からすれば気配や殺気を読んだ方が分かりやすい。殺気は読めるようになって三流、殺気で攻撃を回避できるようになって二流、殺気によるフェイントに対処できるようになって一流だ」

頭を蹴られて動きの止まった狼は一度置き、先ほど蹴り飛ばした狼への対処へ戻る。

といっても、やることは変わらない。相変わらず直線的に突っ込んできた狼の攻撃を横に動いて回避しながらその首を斬り裂き、続く一閃で足元でうめいていた狼の頭を落とし、最後に左手で小太刀を抜き放ち――

「サブウェポンは持っておけ。小太刀はこういう風にも使える」

それをこちらへ向かってこようとしていたでかい狼の目へと投げつけながら、俺は太刀の切っ先を転がる狼の心臓へと突き立てた。

でかい狼は反射的に目を閉じて顔を傾けたため、小太刀が刺さることはなかったが、それだけ時間があれば十分だ。

瞳への攻撃というものは、効果的だがどのような生物であれ本能的、反射的に対応してしまう。

逆に言えば、反射的に反応をさせられるということだ。

今のタイミングなら一瞬でも時間を稼げればそれで十分、転がっていた一匹を仕留めるのにはそれだけでよかったのだ。

「さて、残るはボスか」

『ゥゥゥ……!』

「っ、先生、こいつが咆哮するとまた仲間が現れて――!」

でかい狼は息を吸い、遠吠えをしようと顎を上げる。

その、刹那――俺の踏み込みによって、足元に転がる狼の死骸が吹き飛んでいた。

「――《シャープエッジ》」

歩法――烈震。

前に倒れるようにしながら自らの体重、そして刀の重さ全てを推進力へと変える歩法。

その勢いのまま、俺は霞の構えを保ちつつ狼へと直進した。

息を吸い終わり、巨大な咆哮が周囲へと放たれる――その、ほんの寸前。

「わざわざ喉笛を差し出すとは、舐めてんのかお前は」

斬法――剛の型・穿牙。

前に進む推進力の全てを切っ先に集めた神速の突き。

その一撃は、俺の狙いを外すことなく、狼の喉、声帯へと突き刺さっていた。

『ッ、……ァッ!』

「おっと」

かなり固い感触ではあったが、一応喉は貫けた。

だがそれ以上進むことはできず、俺はすぐに刀を抜いて後退する。

その一瞬後、俺の体を吹き飛ばさんといわんばかりに、爪の一撃が俺のいた場所を薙ぎ払っていた。

「硬い毛と皮だな。斬るのは難しいか」

まだ俺のステータスが低いというのもあるが、中々ダメージを与えづらい相手のようだ。

穿牙で喉を貫いてから引き裂いてやろうと考えていたのだが、あのまま刀を払うのは不可能だった。

となると、一撃で殺しきるようなダメージを与えるのは難しいのだが――

『――ァッ!』

「ま、どうとでもなる」

飛び掛ってくる狼。

その図体がでかいため、先ほどの連中よりも大きく回避する必要があるが、やることは変わらない。

俺は右横へと回避しながら太刀を横向きに構え、その峰に左の篭手を押し当てる。

斬法――柔の型・筋裂。

横に躱しながら配置された切っ先は、狼が自ら飛び込んできたエネルギーを利用し、その毛並みと筋肉の筋に沿いながら体を斬り裂いていく。

赤い血を迸らせながら着地する狼は、しかしそれでも戦意を曇らせることはない。

これなら斬れることは斬れるが、そのうち警戒して飛び掛ってこなくなるだろう。

「やっぱり、こっちから攻めるか――っと」

俺が刃を降ろしているのを見てか、今度は今と同じのを受けることは無いとばかりに、狼は再び突撃してくる。

上から押しつぶそうというのか、高く跳躍した狼は、その爪を俺の頭へと向けて振り下ろそうとしていた。

まあ、わざわざでかい動きで攻撃してくれるというなら、それを利用するまでな訳だが。

「四足歩行の連中の弱点は、まあ足だな。一本潰してやればそれだけで戦いやすくなる」

爪の一撃を前へと踏み込んで回避、そのまま落ちてくる狼の後ろ膝へと向けて、俺は拳を叩きこんでいた。

打法――逆打。

本来であれば関節を逆にへし折る一撃だが、流石にこの大きさが相手となるとそこまでは難しい。

だがまぁ、それでも膝の骨をへし折るぐらいは簡単だ。

後ろ足を潰され、機動力の大半を失った狼。

それでも懸命に、俺へと殺意の篭った視線を向けてくるその姿に、俺は思わず笑みを浮かべた。

「仲間を殺されたからか、群れの長としての矜持か――嫌いじゃないぜ」

足を引きずりながらもこちらへと牙を向ける狼。

その戦意に免じて、そろそろ終わりにしてやるとしよう。

俺に頭から噛み付こうとしてきたその牙を下に潜り込むようにして回避し、俺は左足で強く地面を踏みしめる。

打法――柱衝。

放つのは、股を180度開脚するほどに高い打点を持つ蹴り。

地面から足先までを一直線に、まるで柱のように蹴り抜くことで、地面からのエネルギーを余すことなく蹴り足へと伝えることができる。

その一撃によって狼は大きく仰け反り――体勢を戻した俺は、左手で構えた太刀を狼の首元にある傷へと突きつけた。

「――終いだ」

斬法――柔の型・射抜。

右手によって柄尻を打ち据えられた太刀は、一直線に狼の顎下からその体内へと潜り込み、一直線に狼の脳を破壊する。

びくりと狼の巨体は痙攣し――そのまま、崩れ落ちるように事切れていた。