軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

683:不明の怪物

「今度は複数か……手分けしていくぞ、耐性には気を付けろ。あとシリウスは一旦止まっておけ」

「グルゥ……」

視界にノイズが走り、映像が切り替わるように景色が変質する。

耳に入る音も、冷たい静寂からざわめく喧騒と悲鳴へと。

再び眼前に現れた、過去の映像。目に入ったのは、暴れ回る三体の怪物であった。

今回は街中であるためか、兵士の姿も見て取れる。一旦は彼らが相手取っているようであるが、優位な戦況であるとは言い難い様子であった。

(街中でシリウスが動きづらいのが難点だな……)

誰もいない町の中であれば、遠慮なく暴れられたのだが。

生憎、人々がいるこの状況では、シリウスは足の踏み場もない状態だ。

正直、この過去の映像に対して物理的な干渉がどこまで意味があるのかは分からないのだが、それでもシリウスを暴れさせるのはリスクが高いだろう。

たとえ小さくなっていたとしても、その重さと鋭さは危険なのだから。

「さて……とりあえず、引き付けて貰ってる間に片付けるか」

兵士たちは有利な状況というわけではないようだが、辛うじて命は繋いでいるようだ。

そう長くは持たないだろうが、今ならばまだ間に合う。

早急にあの化け物共を倒し、救助するべきだろう。

歩法――間碧。

周囲の住民の数は多い。突如としての襲撃だったということだろう。

情報の伝達が遅いのは、その辺りが未発達な世界だからこそか。

或いは、この化物が予想だにしない形で出現したからなのか――今の状況からでは、得られる情報はあまり多くはない。

真相を探るためには、もっとイベントを進めるしかないのだろう。

「『命呪衝』!」

逃げ惑う人々の群れをすり抜けて、暴れ回る化け物へと接近する。

その姿は、先ほど見たものとそう変化はない。細かく見れば大きさやら模様やらに変化はあるのかもしれないが、そこまで細かくチェックはしていなかったのだ。

ともあれ、同種であることは間違いないだろう。倒すことを躊躇う理由はない。

その判断と共に、俺は餓狼丸の切っ先を化け物へと向けて突き出した。

斬法――剛の型、穿牙。

化け物の注意は兵士たちの方へと向いていた。だからこそ、こちらの動きに反応することなどできるはずもなく、生み出された生命力の槍によって貫かれることとなった。

びくりと体を震わせた化け物は、ようやくこちらの姿を捕捉する。

だが、既に槍はその身を完全に貫いた後だ。どうなっているのかは分からないが、体内に臓腑があることは事実であるらしく、そのダメージは完全に致命傷であったらしい。

俺へと反撃しようとするも、それが形になることはなく、化け物はどろりと溶けるように消滅した。

「……こいつ、本当に物理攻撃だけなのか? 何か、他に攻撃行動がありそうなもんだが」

今の様子だけならば、複数人で囲んで槍で突いていれば倒せないことはないと思うのだが。

そう思いつつ兵士たちの様子を確認し――彼らの持つ武器が、不自然に錆びている様子が目に入った。

切っ先から刀身の半ばまでが錆びていて、そこから柄までは新品同様という、不可思議な錆び方をしていたのだ。

「ルミナ、攻撃する時は武器を使うな! 装備を錆びさせる可能性がある!」

「っ、分かりました!」

俺が問題なかった以上、成長武器を持つ緋真とアリスは問題ないだろう。

だが、通常の武器ではないとはいえ、ルミナの武器はどうなるか分からない。

問題はないとは思うのだが、こんなところで武器を破損させるわけにはいかないし、念を入れるに越したことはないだろう。

しかし、そのような能力を持っているのであれば、兵士たちが苦戦するのも頷ける。

錆びてしまった武器は、恐らく刺突にすら使えないだろう。こいつらと戦えば戦うほど、彼らは驚くべき速さで消耗していくことになるのだ。

そんな兵士たちは、どうやらこちらの姿を認識しているようだ。過去の映像ということで、果たしてどこまで干渉できるのかと思っていたのだが。

(だが、何だこれは。声が聞こえない……いや、認識できない?)

彼らが何かを喋っているのは理解できる。それが、こちらに理解できる言語であることも分かっている。

にもかかわらず、彼らが話している言葉を認識することができない。

一体何がどうなっているのか、耳を澄ませて少しでも聞き取ろうとし――次の瞬間、視界に走ったノイズと共に、俺の見ていた光景は消え去っていた。

「っ……戦闘が終わっていたか」

全員で当たっていれば、三体程度ならそう時間のかかる相手でもなかったか。

ともあれ、この場における過去の映像もクリアということのようだ。

だが、過去やティエルクレスに関する情報を余り得られなかったのは困りものだ。

もう少し、何かしらのデータは得られるかと思っていたのだが。

「ねえクオン、これ何かしら?」

「お? 何かあったか?」

次にどこへ進むべきか、それを悩んでいたところに、アリスの言葉が耳に入る。

見れば、彼女の視線が捉えていたのは、地面に無造作に転がっていた青紫色の結晶体であった。

淡く光を放っているそれは、明らかに見覚えのない物体である。それが道のど真ん中に落ちていれば、先程歩いてた時に気付いていた筈だ。

つまり、これは今しがた出現したものということだろう。

「何だこりゃ……アリス、危険性はあるか?」

「いや、ただのアイテムみたいね。名前は、『嘆きの記憶Ⅰ』?」

「記憶? その結晶がか。クエストに関係があることは間違いなさそうだが」

困惑しつつも、罠が無いのであればとその結晶を拾い上げる。

その瞬間、俺たちの目の前に、輪郭だけの淡い人影が出現した。

物理的な存在感は一切ないそれに、持ち上げかけた刀を降ろす。

こいつは敵ではない。それどころか、こちらを認識すらしていない。

過去の映像すら俺の姿を認識していたというのに、この影からはその気配すらも無いのだ。

『この化け物共はどこから現れたんだ』

『くそっ、剣が効かない。それどころか、あっという間に錆びちまう!』

『槍だ、槍を持ってこい! 使い捨てだが、まだマシだ!』

『早く市民を誘導しろ! 奴らは東から来るぞ!』

『ああ、ティエルクレス様――』

こちらに聞かせるためのものではない、ただの音声記録のようなもの。

或いはこれこそが、本当の過去の記憶ということなのかもしれない。

先ほどの映像の時は手に入らなかったが、ナンバリングがⅠであるなら問題はないだろう。

「要領を得ない話だったが……戦い方のヒントと、東から来たって話ぐらいか」

「これを集めていくことがクエストの趣旨になるなら、次は東に向かえばいいんですかね?」

「分からんが、他にヒントも無いしな。とりあえず行ってみるしかあるまい」

問題は、どのように東を目指すかだ。

この場から直接東を目指しても、建物の隙間を縫うような動きになってしまう。

人々の記憶を集めることがクエストであるならば、より人の多そうな場所を選んで移動していくべきだろう。

「とりあえず、広い通りをメインで、東を目指すルートで行ってみるか。道が通れるかどうかも分からんが」

「建物とかはどうするの?」

「入れそうなものが残っていたら、調べてみるのもいいかもな。正直、どこでイベントが発生するかも分からんし」

このような形式でクエストが進むのであれば、建物の内部にイベントが発生する可能性も否定はできない。

まあ、形が残っている建物がそもそも少ないため、そのような機会もほとんど無いだろうが。

ヒントを出してくれないことには、どう進んでいいかも分からなくなってしまう。

できるだけテンポよく過去の映像を発見したいところであるが――とりあえず、挑戦してみないことには分からないか。

「今の感じだと、進めるごとに敵の数も増えてきそうだな。映像は突然発生するし、注意しろよ」

「私はともかく、攻撃手段が結構限られてますしね」

「準備していてもやり辛い相手なのよね……スキルのクールタイムが悩ましいわ」

ぼやきながらも、崩壊した街の中を進んでいく。

ただティエルクレスと戦うためだけに来たのだが、思った以上に興味深い体験になりそうだ。

(尤も、あまり愉快な光景にはならないだろうがな)

胸中でそう呟き、自嘲を零す。

過去の出来事を暴いた果てに、何があるのか――それを確かめに行くとしよう。