軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

680:山脈の果て

ちょくちょく休憩を挟みながら、山に沿うような形で北上した。

あれ以降は悪魔に遭遇することもなく、代わりに幾度となく魔物と戦いながら進むことしばし。

その果てに俺たちが辿り着いたのは、なだらかな丘陵地帯であった。

既に山の姿は無く、木々もまばらにしかない、広い草原だ。

それは即ち、俺たちがついに山脈の果てまで辿り着いたことを示していた。

「はぁ、流石に長かったですね」

「所々休憩していたとはいえ、歩きづめだったな。流石に、少し疲れた」

「二人とも、本当に体力お化けよね」

呆れたように声を上げる当のアリスは、いつも通りセイランの背中の上に乗っている。

まあ、歩幅が違う以上はこうしておかないと効率が悪いため、セイランに乗っていること自体は否定するつもりは無いのだが。

とはいえその状態で言われても揶揄されているようにしか聞こえない。じろりと半眼を向ければ、アリスは視線を逸らしてセイランの背中に顔を埋めた。

「ふぅ……まあいい。とりあえず、そろそろちょうど良さそうな場所を見つけてログアウトだな」

「流石に、街道でもないから夜になったら何も見えませんしね」

「魔法で照らすことはできるが……遠くは見えないからな。マップと睨めっこしながら進むのも面白くない」

光の魔法に秀でるルミナならば、ある程度の視野を確保することはできるだろう。

しかし、光が届く距離にも限りはある。人の作り出した光など一切存在しない山の果て、この場所を手探りで進むのはリスクが高い。

大人しく野営――もといログアウトして、翌日先に進むべきだろう。

「けど、日が落ちるまでによくここまで来られましたね。結構戦ってましたけど」

「そうだな。進むことだけに専念していれば、目的地まで辿り着けていたかもしれん」

「まあ、レベル上げも目的だったし、それはそれでいいんですけどね。疲れた状態でボスとは戦いたくないし」

俺としても、一日中歩き続けた後で強敵と戦うのは勘弁してほしいところだ。

まあ、戦えないほどではないのだが、やはり強敵とは万全の状態で戦いたいところだ。

尤もそれを言い始めると、ティエルクレスの下に辿り着くにはもう少し歩く必要はあるのだが。

「目的地までは……やはり、ここから東か。まあ、このエリアのどこにティエルクレスがいるのかはよく分からんのだが」

「具体的な位置は聞いてこなかったんですか?」

「ある程度のところまでだな。侵入したら勝手に出てくるって話ではあったし」

ティエルクレス、かつての国を守り続けている亡霊。

であれば、そこに足を踏み入れればいずれは発見できることだろう。

それに――少しではあるが、考えていることもある。

「けど、ティエルクレスって、本当にただ戦うだけの相手なのかしらね?」

「……アリスも同じことを考えていたか」

「ああ、やっぱりやたらと背景設定がありましたし、何かしらイベントはありそうですよね?」

どうやら、これに関しては全員同意見であったらしい。

ネームドモンスターとは何度か戦った程度であるが、同じように背景設定があったのは天月狼マーナガルムだろう。

同じように設定があるティエルクレスにも、何らかのイベントが発生する可能性はあるだろう。

尤も、マーナガルムについてもイベントと言うほどのイベントはなかったのだが。

「とはいえ、この辺りにはもう生存している現地人はいないだろうし、カエデからもクエストの発行はなかった。誰かから依頼されるという形にはならないんだろうな」

「イベントの発生パターンも色々ありますからね。足を踏み入れたらいきなり発生、っていうこともありますし」

「……まあ、そこは実際に行ってみてからだな。今以上の情報は仕入れられないから、実際に探索してみない限りは分からんさ」

イベントが発生するならば、それに応じて対応を考えればいいだろう。

逆に、何も無いのであれば、素直にティエルクレスへと挑めばいいだけだ。

どちらでも構わない。最終的に素材が手に入るならば、別に問題は無いのだから。

「とにかく、本番は明日だ。今日はゆっくり休んで、万全の状態で先に進むようにしよう」

「こうして野営をするのも久しぶりですね。まあ、野営っていうべきかどうかは微妙ですけど」

「外でログアウトすることが滅多になかったからな。これも拠点の少ない北ならではだ」

外でログアウトするためには、聖火のランタンを始めとした魔物避けのアイテムを使う必要がある。

それに加えて、ログアウト用のテントなどを設営しなければならないのだ。

その辺りの面倒事を避けようとした場合、街でログアウトするのが一番手っ取り早いのである。

「復活のポイントが遥か彼方だし、一回で決めてしまいたいところね。この道をもう一回辿るのは面倒だわ」

「確かにな。まあ、悪魔の出現傾向は分かったし、次は飛べるところは飛んでしまえばいいと思うが」

とはいえ、ここまで足を運ぶのが面倒であることも事実。

負け戦をするつもりもないし、ティエルクレスとは全力で戦うこととしよう。

* * * * *

ログアウトした後は、素振りをして自らの型を調整する。

いつも通りの調整の後――俺は一人、誰もいない道場の中心で座禅を組んでいた。

意識を研ぎ澄ませれば、遠くで動き回る家の者たちの気配を感じ取ることもできる。

だが、今この周辺には誰もいない。誰一人、何一人――俺の瞑想の邪魔になるものはなかった。

「……」

耳に五月蠅いほどの静寂。呼吸の音さえも抑えれば、自らの鼓動すらも感じられてしまうほど。

その中で――俺は、己に触れる総てに集中する。

(強敵、か。悪魔のような、ただ強いというだけの敵じゃない。国を守り、戦い抜いた英雄、英霊となった者。明日、それと相対する)

絶大な力で破壊を撒き散らす、強大な悪魔とはまた違う。

人として戦い、人として果てた存在。果たして、彼女が生前とどの様に異なっているのかは不明だが――その技量には、どうしても期待してしまう。

まあ、期待というのもおかしな話ではあるのだが。

(だが、俺は期待している。あと少し……俺には、まだ足りないものがある。それを手に入れることができれば、俺は――)

確信には至らない。だが、予感はあった。

この世界に関わるようになり、手に入れることができたもの。

数年間停滞していた、己自身への苛立ちも今はない。

正直に告白すれば、俺は求めてやまなかったのだ。

しがらみも、怒りもない。ただ純粋に、技を競い己を高めることができる相手。

滅多に出会うことのないそれが、これから目の前に現れようとしているのだ。

(――逸るな)

自らに言い聞かせ、心を鎮める。

やるべきことは分かっている。やらねばならないことも、己に課していることも。

悪魔との戦いも後付けに過ぎない。俺が初めから、求めていたものは――生涯を懸けて追うと誓ったものは、もう決まっているのだから。

「不滅の刃、護国の英雄。相手にとって不足はない」

ならば、俺も全霊を以て相手をしよう。

私怨でもなく、大義でもなく、ただ己のために。

それこそが、このゲームという世界に、俺が最初に望んでいたもの。

先日のイベントで出会った中ボスもそれなりではあったが――きっと、今回の相手には及ぶものではないだろう。

「どうか、見せてくれ。その力を……俺はそれを、全力を以て打倒しよう」

未だ相対していない敵に対し、届くはずもない言葉を告げる。

一方的な期待であると知りながら、それでも。

――俺は、期待せずにはいられなかったのだ。己の成長、その果てに目指すものに近付くことを。