作品タイトル不明
679:狩りと北上
『《武王》のスキルレベルが上昇しました』
『《昇華魔法》のスキルレベルが上昇しました』
『《致命の一刺し》のスキルレベルが上昇しました』
『《HP自動超回復》のスキルレベルが上昇しました』
『《回復特性》のスキルレベルが上昇しました』
『《超位戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』
『《剣氣収斂》のスキルレベルが上昇しました』
『《見識》のスキルレベルが上昇しました』
『《血の代償》のスキルレベルが上昇しました』
『《立体走法》のスキルレベルが上昇しました』
『《ワイドレンジ》のスキルレベルが上昇しました』
サーベラスビーストのもたらす経験値は、想像していたよりは多かったと言えるだろう。
おかげで、そこそこにスキルのレベルは上がった。尤も、流石にキャラクターのレベルを上げるには足りなかったようだが。
先ほど上がったばかりでは、そうそうすぐに上がるようなものでもないだろう。
「狩りが目的なら、この辺りを延々と歩き回っても良かったんだがな」
「ここでそれをするのも流石に怖いでしょ」
「だな。もうちょっと西側に寄っていれば少しは安心できるんだが」
少し西方面に逸れてきているとはいえ、この辺りはエインセルの支配領域だ。
先ほどのように、巡回する悪魔の群れと遭遇する可能性も否めない。
稼ぎたい気持ちは山々だが、いつまでもここで足踏みをしているわけにもいかない状況なのだ。
「しかし、面白い能力の魔物だったな。地属性は金属も操れるのか」
「かなり上位の魔法です。それをあんな風に扱うとは……」
「ふむ……こいつの素材を元に武器を作ったら、少しぐらいあの能力を使えんもんかね」
細かな金属の粒子を使う、ほぼ不可視の攻撃。
流石に、サーベラスビーストほど器用に操ることはできないだろうが、ちょっとした遠距離攻撃のように活用できたら面白い。
ちょうど、この腕の刃が能力の起点になっていたようであるし、これを元に武器を作ったらちょっとぐらい使えないものだろうか。
「魔物素材を使った武器に、付与効果としてその魔物に関する能力が付くことはありますけど……そのまま再現っていうのは中々難しいと思いますよ? 不可能とまでは言いませんけど」
「あまり聞いたことが無い、ってか?」
「無いことはない、ぐらいな感じですね。そこまで強くない魔物の素材なら結構成功例もありますけど……ほら、蟻の鉱石で刀を作った時のやつとか」
「ああ、腐食か……確かに、あり得ないというわけじゃないんだな。それなら、数を集めてフィノに渡してみるか」
上手くいけば、何か面白い武器が完成するかもしれない。
尤も、それが成功するかどうかも分からないし、仮に成功しても活用できるものになるのかどうかも不明だが。
正直なところ、純粋な性能としてはシリウスの鱗で作った刀の方が優秀だろうしな。
(そう言えば、シリウスの鱗の武器は一応特殊能力があったな)
耐久力を僅かに消費し、攻撃力を上昇させる《研磨》の能力。
まあ、普段は成長武器を使用しているため、それを活用することは殆ど無いのだが。
真龍の能力としてはあまりぱっとしない部分を再現していたが、少なくとも再現が不可能ということはないだろう。
「そうと決まれば、少しでも狩りながら北上するとするかね」
「あんまり派手に魔物を呼び寄せるような真似はしないでくださいよ?」
「そりゃ分かってるさ。悪魔を呼び寄せるわけにはいかんからな」
サーベラスビーストの素材による武器には興味はあるが、絶対に必要というわけではない。
純粋な能力についてもシリウスの素材には遠く及ばないだろうし、ちょっとしたお遊び程度だ。
無論、何かに使えるような場面はあるかもしれないし、そこは能力を確認してからなのだが。
「進むぞ、敵の気配には注意しておけ」
「積極的に襲いに行くからですか?」
「ま、その通りだな。進行ルートから外れない程度には狩りをしていくぞ」
尤も、悪魔共に捕捉されない程度に、ではあるが。
あいつらに追い回されながら北上するのは避けたいところだ。
この辺りに出現する魔物も、サーベラスビーストだけということはないだろう。
何か、他にも強い能力を持った魔物は存在するはずだ。
「この辺りまで来ると、普通の魔物も一筋縄じゃ行きませんね。サーベラスビーストは耐久は大したことなかったから良かったですけど」
「どうするのよ、あのサイみたいなのが群れでいたら」
「……砲塔はないだろうが、流石にあれの群れと戦うのは勘弁だな」
スレイヴビーストになっていたため名前は分からないが、あの鎧のような体を持ったサイは大層戦いづらい相手だ。
既に戦っているし、対処法は確立してはいるのだが、それでも狙い易い相手かと問われれば話は別である。
こちらから通じる有効な攻撃手段が少ないため、どうしても倒すのに時間がかかってしまうのだ。
一頭だけならばともかく、複数相手にするなど考えたくもない。
「しっかし、普通に出てくる魔物も強くなってきましたね。さっきまではこのレベルの魔物はいなかったのに」
「魔物の生態系はさっぱり分からんが、トレントやらテントウムシやらとは比べ物にならんな。俺たちのレベルにはこの辺りの方がちょうどいいだろうが」
「逆に言うと、ここより強くなられたら移動も面倒になるわよ? ティエルクレスは、本当に今の段階で倒せる敵なのかしら?」
アリスの言葉に、俺は軽く肩を竦める。
弱腰な言葉ではあるが、それは決して無視することのできない懸念であった。
ネームドモンスターは、普通の魔物とは別格の能力を持っている。
今回は事前にある程度の情報を仕入れることができたが、分かっていることは『日を跨ぐと復活する』ぐらいなことだ。
まあ、元人間、人型の存在であることは確かであるし、巨大な魔物と比べれば戦いやすい部類ではあるだろうが。
「確かめてみないことには分からん。南にいて情報を集めようとしても、やはり限度はあるからな。直接この目で確かめないことには始まらんさ」
「……まあ、偵察を依頼しても戻ってくるのはいつになるか分からないしね」
「今の状況じゃ、アルトリウスに余分な負担をかけるわけにもいかんからな」
ドラグハルトが出現した以上、次こそは大公との本格的な戦闘に突入する可能性が高い。
奴が引っ掻き回しているせいで、どのような戦いになるのかは皆目見当がつかないのだが、その辺りの情報収集を含めてアルトリウスは動き回っている。
そんな中で、俺たちの個人的な事情に巻き込むわけにはいかないだろう。
「時間があるかどうかも分からんからな。出来ることならこちらが主導権を握って戦いたいところではあるが――」
「難しい、ですか?」
「状況的にはな。今、最も状況を動かす力を握っているのはドラグハルトだ。女神と魔王がその存在を黙認した以上、イニシアチブを握っているのは奴だと考えていい」
こと戦争のような大規模な戦いにおいて、戦いの主導権を握るのは非常に有利に働く。
俺たちが行っているような個人レベルの戦いにおいてもそれは否定できないのだが、戦いの規模が大きくなればなるほど、その主導権を奪うことが難しくなるのだ。
特に今回の場合、俺たち、大公、ドラグハルトの勢力での三つ巴の戦いになってしまう。
その場合、最初に戦いを仕掛けるのは、それだけでリスクの高い行為なのだ。
「勢力として、俺たちは数こそ多いものの、個としての能力は最も劣っているだろう。最上位の悪魔が出てきたら容易に覆されるからな。だからこそ、下手に仕掛けることができない」
「漁夫の利を狙われるから、ってことね」
「そうだ。そして、それこそが俺たちが狙わなければならないもの。つまり――」
「ドラグハルトが仕掛けてから、隙を見て人間側が仕掛ける……」
「そうじゃなけりゃ、俺たちは一方的に不利な状況になるだろうからな」
そもそも、人間側は大公の勢力と正面衝突するのは難しい。
拮抗することができたとしても、余力が無ければ後からドラグハルトがやってきて、すべてを持っていかれてしまうだろう。
漁夫の利を狙いたいのは、むしろ俺たちの方なのだ。
「逆に言えば、ドラグハルトが動き始めたら、俺たちも動かなけりゃならん。タイムリミットがいつまでになるのかは、現状ではわからんのさ」
どれだけの時間的余裕があるのかは不明。そうである以上、俺たちはできるだけ早い内にティエルクレスに勝たなければならない。
本格的に戦いが始まってしまえば、ティエルクレスの元まで行くことはできなくなってしまうだろう。
今のうちに見つけ出し、何としてもその素材を手に入れなくては。
「とはいえ、いつになるか分からん以上は焦っても仕方ない。今は確実に、ティエルクレスに勝つことに専念するとしようか」
目指す道筋は、すでに半分を超えていることだろう。
果たして目論見通りに行くかどうか――その答えは、自らの目で確かめてみることとしよう。