作品タイトル不明
675:警戒網を抜けて
「チッ、時間をかけ過ぎたか」
地面に散らばっているのは、無数の魔物の死骸だ。それらはアーミービーという種類の、要は蜂の魔物であった。
場所が悪かったのか、運が悪かったのか――山の裾野を進んでいた俺たちは、偶然こいつらの巣に行き当たってしまったのだ。
蜂の巣というだけあってか、出現した数は非常に多く、しかも移動速度も速い。
普通の蜂だったなら、巣にちょっかいをかけなければ積極的に攻撃をしてくることはなかっただろうが、こいつらは魔物だ。
周囲に接近したというだけでも、攻撃する理由には十分だったということだろう。
尤も、それだけならば別に問題はなかった。撤退しながら戦闘を継続した結果、最早こちらに向かってくる蜂の姿は無い。
だが――それでも、戦闘終了の合図は通達されていなかった。
「連戦だ、後ろから来るぞ!」
「もう、トラップ過ぎません!?」
後方から近づいてくる気配。これは間違いなく、こちらの存在に気付いた悪魔たちによる襲撃だろう。
俺たちが蜂と戦っている間に、こちらの姿を捕捉してしまったようだ。
それを警戒して移動し続けていたのだが、流石に振り切れなかったらしい。
「既に捉えられているなら仕方ない、やるしかないか」
「……クオン、敵の後ろは抑えるわ」
「任せた。ここはアリスの得意なフィールドだろうしな」
障害物が多く身を隠しやすい森の中は、アリスにとって有利な条件だ。
これ以上増援を呼ばれてしまっても困るし、こちらの情報を持ち帰られることも避けなければならない。
既にある程度伝わっている可能性はあるが、これ以上の詳細情報を渡してやるわけにはいかないのだ。
そのためにも、奴らの後方は抑えておかなければなるまい。
アリスが姿を消すのを確認しつつ、俺は敵の気配を捉えながら前に出る。
「小隊が三つ、ってところか。こちらを包囲するつもりのようだ」
「でも……向こうの、私たちが来た方向からしか来ませんね?」
「運が良かっただけか、或いは……まあいい、とにかく向かってきてる連中を片付けるぞ。シリウス、お前は正面を当たれ。敵の部隊を分断しろ。緋真とルミナは右手、俺とセイランが左手だ」
少々気になる点はあるが、今は向かってきている敵に専念しなくては。
小さく嘆息を零しつつ、向かって左手側の敵小隊へと向けて駆けだした。
数からして、先ほど見たサイを含んだ戦車兵――機械化小隊といったところか。
「分かっちゃいたが、部隊間で連携してくるか」
以前にも見ていたが、エインセルの兵士たちは部隊で連携しながら攻撃してくる。
個としての能力を上回る、恐ろしい戦闘技能だ。
だからこそ、まずはシリウスに部隊を分断させた。少なくとも波状攻撃を受けることが無いよう、その射線を遮らなければなるまい。
そして――その上で、一気に各個撃破を狙わなくては。
「『破風呪』」
《蒐魂剣》を付与した【咆風呪】を放ち、目くらましをすると共に奴らの魔法発動を阻害する。
眼前を覆う影のせいで目標を見失ったのか、砲塔からの砲撃が飛んでくることはなかった。
そんな真っ只中に、俺とセイランはそれぞれ敵を挟み込むようにしながら突撃する。
「《ワイドレンジ》、『煌餓閃』!」
まずは初手、こちらの手を把握できていない今だからこそ、全力で攻撃を叩き込む。
黒を纏う生命力の軌跡、スキルによって大きく押し広げられたそれは、近くにいたアークデーモンの二体を胴から真っ二つに切断する。
瞬間、こちらの姿を捕捉したであろう残りの三体の悪魔が注意を向けてくる。
仲間が倒されてもまるで動揺せず、即座に行動できるのは悪魔らしい動きだと言えるだろう。
だが、だからこそ分かりやすいとも言える。視界を塞がれた中、唯一感じた気配へと注意を向けるのは当然だ。
しかし、それでも奴らは気にするべきだったのだ――最初に突っ込んで来ていたのは、俺だけではなかったということを。
「ケエエェッ!」
大きく跳躍して悪魔たちの頭上を取っていたセイランが、急降下すると共にその前肢を叩きつける。
解放された嵐は雷となり、サイの上に乗っていた悪魔を磨り潰すと共に、巨体を誇るサイを痺れさせた。
周囲に伝播した紫電は少なからず悪魔たちに衝撃を与え、その足並みを崩させる。
歩法――縮地。
悪魔の意識が一瞬逸れた瞬間に、一気に距離を詰める。
狙う相手はグレーターデーモンだ。こいつを放置しているのが一番面倒臭い。
相手も接近したこちらの気配に気が付いたようだが、セイランの魔法による衝撃から立ち直り切れてはいない。
そのうちに、俺は相手の懐にまで肉薄した。
「『生奪』」
斬法――剛の型、穿牙。
あえてテクニックを使う必要もないのであれば、使わなくても問題はない。
懐まで潜り込んだ上で放った刺突は、グレーターデーモンの心臓を刺し貫く。
そのまま強引に刃を振り上げれば、血を吹き上げたグレーターデーモンは倒れ伏しながら黒い塵へと還って行った。
そして、最後の一体の悪魔もサイの上から飛び降りたセイランによって叩き潰され、残るは痺れて動きが鈍っているこのデカブツである。
「マトモに相手をするのは面倒だが――《会心破断》」
硬い相手ならば、防御力を無視すればいい。
動きの鈍っている相手だからこそ、この攻撃は使い易いのだ。
斬法・奥伝――剛の型、鎧断。
全身の動き、その力の全てを刀身へと集中する。
それと共に振り下ろされた一閃は、頑強極まりないサイの外皮を断ち割り――太い首を、一刀の下に切断した。
「……ふむ。首を落とすだけなら《会心破断》は要らんか」
頑強な外皮がある以上は弱点部位への攻撃にはならないだろうし、刃が通りさえすれば斬ることができる。
そういう意味では、《会心破断》を使うまでも無かっただろう。
普通に倒すのなら、アリスの弱点付与をしたうえで《会心破断》を使った方がいいだろうが。
『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』
『《刀神》のスキルレベルが上昇しました』
『《武王》のスキルレベルが上昇しました』
『《昇華魔法》のスキルレベルが上昇しました』
『《神霊魔法》のスキルレベルが上昇しました』
『《致命の一刺し》のスキルレベルが上昇しました』
『《MP自動超回復》のスキルレベルが上昇しました』
『《練命剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《蒐魂剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』
『《HP自動超回復》のスキルレベルが上昇しました』
『《魔技共演》のスキルレベルが上昇しました』
『《クロスレンジ》のスキルレベルが上昇しました』
『《回復特性》のスキルレベルが上昇しました』
『《超位戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』
『《剣氣収斂》のスキルレベルが上昇しました』
『《見識》のスキルレベルが上昇しました』
『《血の代償》のスキルレベルが上昇しました』
『《立体走法》のスキルレベルが上昇しました』
『《会心破断》のスキルレベルが上昇しました』
『《 再生者(リジェネレイター) 》のスキルレベルが上昇しました』
『《ワイドレンジ》のスキルレベルが上昇しました』
『《三魔剣皆伝》のスキルレベルが上昇しました』
『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』
『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』
『テイムモンスター《シリウス》のレベルが上昇しました』
耳に延々と届くレベルアップの通知。
喜ばしいそれであるのだが、生憎と素直にそれを受け取ることができる状況ではなかった。
面倒な連中に追いつかれてしまったし、さっさと距離を離さなくてはならない。
とはいえ――進行方向から追撃が無いお陰で、ある程度安心はできそうだが。
「もしかしたら、警戒網を抜けられたのかもしれんな」
ここまでで警戒網が途切れた、その理由を考える必要があるだろうが――予想が当たっているならば、一段落はできそうだ。