軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

068:アルトリウスからの連絡

蟻の群れとの戦いの後、俺たちはもう二度ほど蟻の群れとの戦闘をこなしていた。

数こそ多いものの、一度戦った相手である以上、片付けるのはそこまで難しい話ではない。

まあ、緋真とシェパードは疲労困憊な様子ではあったが、その実入りは十分だったと言えるだろう。

上位種であるナイトとルークの素材、そしてその巣穴から採れる蟻酸鉱。

特に、蟻酸鉱については作成の失敗を考慮に入れても十分すぎるほどの量を確保することができた。

更に、その一度目の際にはルミナのレベルが14に上昇、これで進化まであと2レベルだ。

その次の戦闘で大きく経験も稼げたであろうし、目標には大きく近づいたと言えるだろう。

それだけの戦いを重ねたこともあり、俺は実に満足しながらログアウトしていた。

そして、翌日――

「よし、こんなもんだろう」

『お、お疲れ様でした……』

師範代たちとの乱取りを終えた俺は、上機嫌に彼らの様子を眺めていた。

全員、這う這うの体と言った所である。まあ、今日は俺も調子が良かったから、少々やりすぎてしまったかもしれないな。

明日香はこの後、俺が直接稽古をつけてやるわけだから、ここで体力を使わせすぎるのも良くない。

しかし、体力面を考えると、体を動かさずに実戦に近い経験が積めるあのゲームはやはり有用だ。

師範代たちは、それぞれ剛の型、柔の型、打法、薙刀術の高い技術を持った面々である。

それぞれの得意分野に限って言えば、全員が奥伝まで修めた実力者だ。

まあ、歩法の奥伝については柔の型の師範代しか使えないため、俺からすればまだまだと言った所なのだが。

ちなみに、俺は薙刀術は一通りの術理を修めた程度であるため、これに関しては師範代の方が技術は高い。

薙刀術は元々、旧家の子女向けに門戸を開いている型であり、正直なところ戦場で扱う型という側面は若干薄い。

それに、あのジジイに勝つならば刀でなければならないと考えていたため、薙刀術に関してはあまり積極的ではなかったのだ。

久遠神通流が門戸を開いているのは、戦刀術、薙刀術、護身術の三種。

しかし、身も蓋もない言い方をしてしまえば、後ろの二つは久遠一族の資金繰りのために開かれているものだ。

薙刀術は先ほど説明した通り。そして護身術は、柔の型と打法の一部のみを護身術として教えるという方法を取っている。

まあ、今時時代錯誤した剣術を本気で覚えようなどという突飛な人間はそうそういない。

一族の運営のためにも、そう言った敷居の低い指導が必要なのは理解できるが――久遠神通流の成り立ちを考えると、若干納得しづらい所だ。

「おい、本庄……師範の奴、一体どうしたんだよ? 何でこんな上機嫌な上に、腕まで上がってるんだ?」

「さ、さあ……私には何とも」

師範代たちから問い詰められている明日香の様子に苦笑しつつ、木刀で軽く肩を叩く。

調子がいいことは間違いない。久方ぶりの戦いで、実戦の勘を取り戻せてきている感覚がある。

だからこそ、今度のイベントが楽しみなのだ。襲撃ともなれば、数多くの敵を相手にすることになるだろう。

まるで、戦国の世の合戦のような、命と命のぶつかり合い。銃で武装したゲリラ共を相手にするのとは訳が違う。

磨きぬいた業を思う存分振るえる戦場――それは、求めてもそうは手に入らぬものだ。

「ほれ、無駄話は後にしろ。今日もいつも通りだ、特に用事もない。無駄な話をしてる暇があったら稽古に移れ」

『はいッ!』

この通り、返事についてはいい調子なのだ。

まあ、実力差についてはよく理解できているからだろう。

こいつらも、若輩の俺に対して素直に従ってくれるのだ。

「ほれ、明日香。今日も白輝の稽古だ……死ぬなよ?」

「それならもうちょっと手加減してくださいよ!?」

「阿呆、限界まで手加減してアレだ。これ以上力を抜いたら術理の体を成さんだろうが」

明日香を引き連れ、俺はいつも通りのルーチンワークをこなしていく。

――その退屈な日々に加えられたスパイスに、心を躍らせながら。

* * * * *

再び山間の砦からログインする。

イベント、《悪魔の侵攻》の発生まで残り二日。

正直、エレノアの所で装備を整えることを考えると、今日中には王都まで戻りたいところだ。

幸い、ルミナのレベルは後2上げれば目標に達する。ある程度敵を倒したら、後は王都に戻りがてら敵を倒していけばいいだろう。

そう判断して、俺は従魔結晶からルミナを呼び出していた。

「ん……おはようございます、お父さま」

「ああ、おはよう、ルミナ。少ししたら緋真が来るから、また調子を確かめておけ」

「はい、それまでは素振りをしておきます!」

あの幼女だった頃の子供らしさはすでになく、随分としっかりした受け答えである。

見た目については、既に中学生ほどにまで成長してきている。

子供が成長するのは早い――というのとは、少々違うだろうか。まあ何にせよ、こいつが立派に成長してくれるのは喜ばしいことだ。

勤勉なルミナの様子に満足しつつ、俺はインベントリから木刀を取り出し、ルミナに手渡していた。

(さて……今日はどうレベルを上げたものか)

素振りを始めるルミナの様子をぼんやりと眺めながら、今日の計画を練り始める。

今日中には王都まで戻りたいというのもあるし、可能な限り効率的にレベル上げを進めたい。

流石に、開始ギリギリになってフィノに作成を頼んでも、完成が間に合わなくなってしまうだろう。

であれば、やはりまた蟻を相手にするべきか。フィノへの土産も多くなることだしな。

と――そう胸中で呟いているうちに、隣のテントの中に気配が生じていた。

どうやら、緋真がログインしてきたようだ。

「お待たせしました、先生。ルミナちゃんは――ああ、もう始めてるんですか」

「まずは調子を見てやれ。進化までは微修正でいいだろう」

「そうですね。穿牙も多少は形になってきましたけど、実戦投入はまだ早いです」

「烈震はどうだ?」

「短距離ならもう十分ですね。まあ、先生なら縮地を使うような距離ですけど」

「流石に、いきなりあれで長距離を移動しろとは言わんさ。むしろよくやってる方だろうよ」

俺の苦笑交じりの言葉に、緋真は同じような表情で首肯する。

学び始めてそれほど経っていないというのに、これほどの完成度に到達していること自体が異常なのだ。

それを考えれば、あまり高望みするものではないだろう。

「じゃあ、稽古をつけてきますね」

「ああ。シェパードが来るまでは待ちだ、しっかりやってこい」

シェパードとは待ち合わせをしているが、彼がログインしてくる時間よりはいくらか早く来ているのだ。

稽古の時間を確保するという理由もあったが、純粋にログイン時間の差でもある。

現実世界よりも時間が早く過ぎるこのゲームの中では、待ち合わせというのは中々にやり辛いのだ。

まあ、稽古に使えるのであればこの待ち時間も無駄にはなるまい。

「……穿牙と烈震は形になるか。その後は……進化の様子次第だな」

やはり体格によって、術理の向き不向きというものはある。

特に、己の体重を利用するタイプについては、女性には少々不利であることは否めないだろう。

今のルミナは成長してきているとはいえまだ子供であり、そういった術理を覚えさせるのは時期尚早だろう。

進化後の姿が大人になっているかどうか、それによって覚えさせる術理は変わってくる。

果たして、どのような姿になるものか。そして、どのように成長させたものか。

その様を想像し――その時、唐突に耳元で電子音が鳴り響いていた。

「――っ!? これは……フレンド連絡か」

あまり使う機能ではないため忘れていたが、どうやらフレンド機能を利用したメッセージを受信したらしい。

慣れない操作でフレンドリストを表示させてみれば、そこには確かに見覚えのある名前からのメッセージが表示されていた。

ただし、その名前は少々予想外なものであったが。

「アルトリウス……あいつが?」

同盟を結んだとは言え、このような形でメッセージを送ってくるとは思わなかった。

まあ、あの男のことだ、個人的な事情ということは無いだろう。

そう予想しながらメッセージを開いてみれば、そこに記載されていたものは、やはり事務的な連絡事項だった。

どうやら、イベント時の配置について相談したいようだ。

「ふむ……『キャメロット』の本拠地で作戦会議ねぇ」

一応、地図についてはメッセージに添付されている。

位置は――どうやら、王都の大通りに近い位置の屋敷を改装したようだ。

しかしまぁ、通りに面した場所でないとはいえ、よくこの段階で大きな建物を借り受けられたものだ。

エレノアほどでないにしろ、それだけの資金力は流石というべきか。

会議の目的は、実際のイベント時の配置、および作戦について。

『キャメロット』のメンバーの内、上位のメンバー、つまりは幹部に相当する者たちを部隊長と呼称しているらしい。

その部隊長の内、前線に出る予定の者たちと顔合わせを行うことも目的の一つのようだ。

先日アルトリウスと顔を合わせた時、彼の後ろについていたメンバーがそれだろう。

見た感じ、そこそこの実力者は存在していた。どこまでやれるのかはもう少し見てみなければ分からないが、幹部として取り立てるからには相応の実力があるのだろう。

(しかし、俺の行動を制限するつもりは無いようなことを言っていたが……どうするつもりだ、あいつは)

大まかな方針程度ならば構わないが、細かな指示に従うつもりは無い。

俺の目的は戦いを楽しむことだ。その邪魔をするつもりであるならば、同盟は破棄させて貰う所である。

だがまぁ、あのアルトリウスが、そのような浅慮をするとは思えないが。

「……まあ、戦場を共にするんだしな。顔合わせぐらいはしておいた方が効率的か」

顔も名前も分からん奴と戦場を共にした経験はあるが、あれはどうにも効率が悪い。

せめて、戦う前に顔合わせぐらいはしておかないと、誰が何をやっているのか判別がつかないのだ。

ああなると、有能な者でさえ足を引っ張り始める。やはり事前準備とは重要なものだ。

日時を確認すれば、指定されているのは現実時間で明日の午後三時。ちょうど、イベントが開始する二十四時間前である。

まあ、この時間ならば行けないことは無いだろう。一応、無理であれば日時は調整すると言っているが、これで問題はあるまい。

とりあえず、その時間に伺う旨を連絡し、画面を閉じる。

さて、果たしてどのような話になるものか――それは、少しだけ楽しみでもあった。

(しかしそうなると、明日は準備に追われそうだな)

ログイン時間の全てを使うとは言わないが、アルトリウスとの会合と、エレノア商会での装備の調整。

他にも現場の確認やら何やらをやっておきたいし、あまり戦闘に出る時間は無いかもしれない。

それに関しては少々残念ではあるが、それも戦いにおける準備のためだ。

準備に手を抜くような真似をすれば、足を掬われる可能性は大きく増す。準備段階もまた、一つの戦いだと考えておこう。

「しかし……緋真を連れていけないのは、やはり残念だな」

稽古をつけている様子を眺めながら、俺はそう呟く。

戦場が分かれてしまうことは仕方がないことだ。そこは偶然なのだし、文句をつけるつもりもない。

だが――俺はまだ、本気の殺し合いというものを弟子に見せたことが無い。

ジジイとの戦いはさんざん見てきたであろうが、あれはあくまでも殺し合いではなかった。

弟子にはいずれ見せてやらねばならないと思っていたのだが……中々、ままならないものだ。

「……まあ、続けていればいずれは機会もあるか」

このゲームの中でなら、戦いはいくらでもある。

そして都合のいいことに、幾ら潰しても問題はない、悪魔という敵対種族も。

であれば、いずれはその機会は訪れるだろう。

――久遠神通流の全てを掛ける、その戦いを見せる時が。