軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

671:山脈東側

峠を越え、一気に山を降り、地上の傾斜が分からなくなった辺りで着陸する。

少し急いだおかげかは分からないが、幸いなことに悪魔と遭遇することはなかった。

まあ、遭遇してもそれはそれで何とかなるとは思うのだが、そうだとしてもあまりリスクを背負いたいわけではない。

遭遇せずに進むことができるなら、それに越したことはないのだ。

「さてと……シリウス、少し小さくなっておけよ。木々に隠れられる程度にはな」

「グルッ」

ここまで見つからずに来たものの、シリウスの巨体はどうしたところで目立つ。

こいつが木々を薙ぎ倒しながら歩いていたら、流石にそのうち見つかってしまうことだろう。

ある程度見つかることは仕方ないとしても、積極的に発見されるような動きは避けねばなるまい。

「ところで緋真、こっち側の情報はないのか?」

「ある程度進出しているプレイヤーはいたみたいですけど、流石にそこまで詳細な情報は無いですね。こっちには拠点になるような場所も無いですし」

「いくらなんでも、長時間補給無しで戦い続けることは不可能か。エインセルの悪魔も強大だしな」

プレイヤーのスタイルは千差万別であり、未踏のマップを探索することに心血を注いでいる連中もいる。

とはいえ、こちら側のエリアは、まだプレイヤーが拠点として利用できる町などが存在しない。

それ故、補給を受けることができず、長期間の活動は難しい状況なのだ。

エインセルの軍勢の強大さもあり、まだこちらのエリアについてはあまり詳細な情報を得られてはいない。

ともあれ、今はあまり当てにできる情報はないと認識しておけば相違はないだろう。

「アリス、とりあえずマップの状況は確認しておいてくれ。このまま、山脈沿いに北上していく」

「了解。変に逸れることがあったら報告するわ」

ここからは、とにかく北に進んでいくこととなる。

無論、できるだけ育成はしたいため、敵を見かけたら積極的に仕掛けていくことに変わりはないが。

とにかく、ここからが時間のかかる工程だ。無駄に消耗品を使いすぎぬように意識しながら進むとしよう。

「完全に情報が無いってのも久しぶりだな」

「こういう手探りっていうのも、それはそれで面白いんですけどね。でも、流石に今回は別に目的がありますし」

「当てもなくうろついていたら、流石に時間の無駄だな」

単純なレベル上げが目的ならば寄り道も良かったのだが、今回は別に目的がある。

第一目標はあくまでもティエルクレスの素材回収であり、他の探索をするのはその後であるべきだろう。

そのティエルクレスの素材回収にしろ、一度で完了するかどうかは分からないのだから、長丁場になる可能性は十分にある。

ティエルクレスはネームドモンスターであるし、一日経てばまた復活する。泊りがけで何度か挑むことも想定しておくべきだろう。

「……流石に、気が早いな」

己が胸中の考えに対し、思わず自嘲を零す。

いくらなんでも、気が急きすぎているというものだ。

ティエルクレスがどれほどの力を持っているのかは不明であり、安定して倒せる保証などどこにもない。

仮に倒すことができたとして、何度も安定して倒すことができる保証はない。

もしも 強制解放(リミットブレイク) を使わざるを得ない相手だった場合、二度戦うのは難しいだろう。

まあ、その辺りは実際に戦ってみて判断するしかないか。

「けど、クオン。いくら悪魔に見つかり辛いとはいえ、このまま林の中を移動でいいの? 結構な時間がかかると思うわよ?」

「別に、ゆっくりとしか進めないってわけじゃないし、構わんさ。この程度の木々なら、少し走りながらでも十分余裕がある」

今のところ、俺たちは木々の疎らな林の中を進んでいる状態だ。

セイランに乗ったまま、小走り程度の足取りで走っているが、ここでは普通に走らせることは難しいだろう。

まあ、それでも徒歩に比べれば十分に速いし、消耗も少ない。

全速力で急がなければ間に合わないという事情もないし、ここは多少急ぎ足程度で進めば十分だ。

「それに、あまり急ぎ過ぎると魔物がこちらを捕捉できないかもしれんからな」

「……まあ、戦うのは別にいいんだけどね。戦闘になったら降りるのが面倒な程度だし」

さて、こちら側にはどのような魔物が存在しているのか。

見たところ霧が出ている様子は無いし、こちら側にはミスティックトレントは存在していないのだろう。

あいつらがいると大変視界が悪かったため、セイランで走るのにも邪魔になるところだった。

地上での移動がメインになるこちら側では、出現しないでいてくれることは大変助かるところである。

「こっち側は、もう少し稼ぎやすい敵が出てきてくれると有り難いんだがな」

「流石に、トレントたちよりはマシじゃないですかね?」

「そうだな。まあ、多少は期待させて貰うとしようか」

ともあれ、まずは移動だ。

果たしてどのような魔物が出現するのか、楽しみにさせて貰うとしよう。

* * * * *

「……成程、こう来たか」

こちらへと飛来した攻撃を餓狼丸の一閃で跳ね返しつつ、俺はそう呟く。

硬質な、しかし弾力のある物体を跳ね返した感覚に、眉根を寄せながら餓狼丸を構え直し――しかし、相変わらず敵の姿が見当たらない。

この魔物は、どうやら透明になる能力を持っているらしい。

先ほど奇襲を受け、反射的に攻撃を受け流したものの、その正体を掴むことはできなかったのだ。

尤も、気配は掴めているため、一方的に攻撃を受けるということはないのだが――

「……牛並みのサイズのカメレオン、しかも短距離転移能力持ちと来たか」

先ほどから飛んできている攻撃は、恐らくカメレオンの舌によるものだろう。

受けた場合は絡めとられてしまうのか、そのまま飲み込もうとしてくるのか。

良くは分からないが、カメレオンらしく外皮の色を変えているだけで、存在そのものが透明になっているわけではないらしい。

舌は同じく透明なのだが、舌を撃ち出す際の口腔内は普通に眼で見えていた。

「透明化と短距離転移とか、まさにアリスさんみたいですね」

「反撃しようとすると途端に逃げるのが面倒だな」

こうして対面すると、アリスの戦法の厄介さを再確認することになる。

このカメレオンっぽい魔物の攻撃は、奇襲を受けた際に対処するのは非常に困難だろう。

最初に攻撃を受けたのが俺だったのが不幸中の幸いだったか。緋真なら気付けただろうが、他のメンバーでは少々厳しかったかもしれない。

「さて……どうやって仕留めるかだな」

「転移を止めないことには……っと、捕まえても逃げますしね」

跳んできた攻撃を弾き返し、緋真がそう答える。

位置を探ることは難しくはない。単純に、攻撃が飛んで来た位置を探るなり、アリスのスキルで看破するなりすればよいのだから。

問題は、位置を探った後でもすぐに移動してしまう点だろう。

まるで、優秀なスナイパーのような動きである。

「一度攻略法が分かれば楽そうなタイプではあるんだがな――っと、来たか」

「マークが付いたら分かりやすいですね」

カメレオンの位置を捉えていたアリスが、クロスボウの一撃で弱点を付与する。

それによって刻まれた赤い紋章が、カメレオンの位置を明白に伝えていた。

攻撃を受けたカメレオンは、すぐさまその場から転移して移動する――が、生憎とその位置は紋章によってバレバレだ。

俺と緋真ではなかったとしても、位置さえ分かっているなら苦戦するような相手ではない。

「クェエエエッ!」

今回は、偶然最も近い位置にいたのがセイランであったようだ。

紋章によって位置を確認したセイランは、一瞬の迷いすらなく嵐を纏って突撃、その紋章へと向けて強靭な前足を叩きつけた。

「ギュェエエ!?」

その衝撃によって、木々をへし折りながら姿を現したのは、予想通りカメレオンの魔物であった。

スナイパーカメレオンというらしいその魔物は、見た目こそ若干黒っぽいカメレオンだったが、サイズは想像通り牛並みだ。

あの特徴的な目はそのままであるため、何ともインパクトのある姿である。

とはいえ、そんなことを気にしていては、また転移で逃がしてしまう。

ここはさっさと仕留めてしまうべきだろう。

「《ワイドレンジ》、『命餓閃』!」

歩法――烈震。

衝撃によって動きを止めているカメレオンへ、俺は一息に突撃する。

放つのは、黄金の中に黒の混じる巨大な刃。

多少の距離など物ともしないその一閃は、横倒しになっていたカメレオンの首を断頭台の如く切断した。

「……ふむ。アリスにマークを付けて貰って、転移後の攻撃前に攻めればいい感じか」

「初撃を防げるかどうかですね」

「普段なら修行に使うところだが、ここで変に消耗もしていられんしな。俺もお前も、気付いたらさっさと伝えるとするか」

こちらに来て最初に出会った魔物がこれというのは、幸先がいいのか悪いのか。

良い狩場になるかどうかは、他の魔物も含めて確認してみることとしよう。