作品タイトル不明
667:組み合わせ検証
「《ワイドレンジ》、『命餓一陣』」
俺が刃を横薙ぎに振るうと共に、その切っ先からは黒い光の混じった生命力の刃が飛び出していく。
その一閃は、木からこちらへと突進しようとして来ていた、バスケットボール大のテントウムシを真っ二つに斬り裂いた。
瞬間、《奪命剣》の効果で生命力を吸収した【命輝一陣】が、その大きさを増しながら更に奥へと向けて飛翔し、その先にいたミスティックトレントの幹を半ばまで断ち斬った。
何やら妙に連携して襲ってくるテントウムシ、セブンスターズについては別に特筆するようなことはない。
連携といっても、個々がそれほど強くないため、普通に各個撃破できてしまうからだ。
「……予想外の効果だったな、こりゃ」
《三魔剣皆伝》の効果により、テクニックに他の三魔剣の効果を付与できるようになった。
それによる効果を試しているところなのだが、色々と予想外の効果を発揮しているのだ。
今の【命輝一陣】の変化などはまさにそうで、攻撃によって俺のHPが回復するのかと思いきや、まさかの【命輝一陣】の威力自体の強化に繋がっていたのである。
まあ、理屈は分からんではない。《奪命剣》の効果で俺のHPに変換されたものを、即座に利用して威力を上げているのだろう。
驚きではあるが、効果自体は有用だ。使い所を見極めて利用していきたいところである。
(……これ、バイアクヘーを出していたデルシェーラに使ってみたかったな)
敵を倒すほど威力が上昇する飛び道具。となれば当然、多数の雑魚を召喚するようなタイプの敵と相性がいいだろう。
大量の敵の生命力を吸収し続けた場合、果たしてどのような威力の【命輝一陣】が完成するのか。
まあ、射程という限界はあるのだが、《ワイドレンジ》で伸ばしているためそこそこ遠くまで届くことだろう。
「次は――『破風呪』!」
次に放つのは、【咆風呪】に《蒐魂剣》の効果を付与した一撃である。
基本は普段の【咆風呪】と同じ、黒い靄を放つような一撃なのだが、今回はそこに青い光が混じっている。
広範囲に広がるように放ったこの一撃は、周囲の霧をまとめて消し去りながらトレントの生命力を吸収していく。
射程や威力に変化はなく、どうやら単純に魔法破壊の効果が付与されただけな様子である。
――と、そう思っていたのだが。
「妙に持続してるな?」
「ちょっと先生、見づらいんですけど」
「俺に言うな、効果が分かりづらいんだ」
《奪命剣》は魔力を糧に発動するスキルだ。だからこそ、《蒐魂剣》を組み合わせれば何かしらシナジーが発生するかと思ったのだが、まさか効果時間に影響を及ぼすとは。
【咆風呪】はそれほど長い時間は持続しないテクニックだったはずなのだが、今こうしている間もゆっくりとしか薄れていない。
トレントの吐き出していた霧から魔力を吸収し、その効果を持続しているのだろう。
驚くべきは、その間ずっとトレントの生命力を奪い続けているところだ。どうやら、靄が残っている間はずっと生命力を吸収できるらしい。
やがて、トレントが枯死したことで魔力を吸収できなくなり、【咆風呪】の黒い靄も姿を消していった。
『《蒐魂剣》のスキルレベルが上昇しました』
どうやら、広範囲に効果が残り続けたことによって、他の魔物も全滅したらしい。
中々に興味深い検証結果であった。
「ふむ。魔力を供給し続けてやれば、その間ずっと効果が持続するのか?」
「試してみてもいいんじゃないですかね? 使い勝手がどうなのかは分からないですけど」
「一度放ったら制御はできんからな、これ」
【咆風呪】は便利なテクニックではあるのだが、一度放てばそれ以降の操作は利かないため、効果範囲外に出られてしまえば意味は無い。
今回は移動できないトレントが相手だったため、ずっと効果を発揮し続けていただけだ。
それに単体としての威力もそこまで高くはないため、魔法破壊の効果もそれほどではないだろう。
とはいえ、持続時間が長くなるなら、それはそれで活用できる場面はある。使い方は考えておいた方がいいだろう。
「で、組み合わせてみた感じどうなんですか?」
「そうだな……まず、《練命剣》に《奪命剣》、《奪命剣》に《蒐魂剣》、それと試してはいないが《蒐魂剣》に《練命剣》はシナジーがあるようだな」
「最後のはあるんですか?」
「他の二つのようなシナジーはないが、単純に威力が上がるだけで便利だからな、あれは」
威力が高ければ高いほど、相手の魔法を消し去りやすくなる。
《蒐魂剣》は素の威力上昇が見込めないところがネックなのだ。それを解消できるだけでも大きい。
だが、それ以上に強力なのは、それ以外の二つの組み合わせだろう。
「《練命剣》に《奪命剣》を組み合わせることで、吸収した生命力で威力を上昇させる効果。《奪命剣》に《蒐魂剣》を組み合わせることで、効果を拡大する性質。全てのテクニックがそうなのかは分からないが、これは中々に面白いぞ」
「……前者はともかく、後者は使えそうなタイミングがあるの?」
「相手が防御魔法を使っていたりとかだな。一番使い易いのは【咆風呪】だが」
後は【呪衝閃】などで活用できるだろうか。
あれならば威力も高いため魔法破壊もやり易く、直線に伸びる性質が拡大すると思われる。
その辺りも、まだまだ検証不足だ。しばらくは色々と試してみるしかあるまい。
基本的には、《練命剣》を組み合わせれば威力上昇、《奪命剣》を組み合わせれば体力吸収、《蒐魂剣》を組み合わせれば魔法破壊の効果を追加する。
特殊なシナジーを発揮する組み合わせでなかった場合には、基本的にこの効果が出てくると考えておけばいいだろう。
「これから強敵と戦うって時だったし、ちょうど良かったわね」
「そうだな。まぁ、確かめなきゃならん組み合わせがいくつも出てきたのは面倒だが」
「目的地に到達するまでには検証できるでしょう。それより、そろそろじゃないですか?」
「っと、そうだな」
俺たちが今いる場所は、山脈へと続く街道だ。
元々山脈沿いを移動していたため、少し移動すればすぐに山へと登る坂道に差し掛かることだろう。
この道をたどりながら、山脈の向こう側まで移動する必要がある。
「よし、それじゃあ当初の予定通りいくぞ。シリウス、お前はサイズを少し小さくしておけ。小回りが利かんから」
「グルルッ」
普段の半分程度のサイズまで縮んでいくシリウスの様子を確認しつつ、セイランの背中へと跨る。
ここから、山道の真上を移動する形で飛行し、山脈を越えていく。
まあ、厳密に山道を辿る必要はないのだが、上からだとどうしても見逃しやすいし、できるだけ見失わないように注意しながら進むべきだろう。
見失ってしまったら、結局山を飛び越える形で移動するしかなくなってしまうからな。
「行くぞ。セイランはスピードを出し過ぎるなよ?」
「クェ」
セイランとしては、低空をゆっくりと飛ぶことにはあまり肯定的ではない様子だが、コイツに好きなように飛ばせてしまうとすぐに地上の様子を見失ってしまう。
戦闘中には自由に飛ばせることになるのだから、ここは我慢して貰うしかないだろう。
合図を受けたセイランは勢い良く地を蹴り、助走と共に翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がった。
とはいえ、地上からは20メートル程度の高さではあるのだが。
「この位なら大丈夫だろう。アリス、一応地上の様子は見ておいてもらえるか?」
「ええ、大丈夫よ。高所恐怖症だったら厳しかったでしょうけど」
「殆ど体を固定していないからな……身を乗り出し過ぎないように、一応気を付けろよ」
耐荷重の問題で、アリスはセイランの方に同乗している。
緋真のペガサスも強化しているが、それでもワイルドハントのスペックに及ぶものではないからな。
ともあれ、アリスが地上を確認してくれているのであれば、こちらは周囲の警戒に集中できる。
このまま、比較的ゆっくり目に山脈を越えていくこととしよう。