作品タイトル不明
658:当てのない移動
ポイントの交換も済ませ、先へと出発する。
今回の件で、果たして成長武器の使い手はどの程度増えたことだろうか。
相変わらず相応のポイント数を要していた様子であるし、かなり活躍しなければ得られなかったことに変わりはない。
成長武器は上位の悪魔と戦う際の切り札にもなるし、できるだけ多くのプレイヤーに手に入れて貰いたいものだ。
まあ仮に手に入っても使えるレベルになるまで育てるにはそこそこの手間がかかるのだが、そこはそれ、今回の経験値ジェムなどを活用して貰いたいものだ。
「それで先生、どういう風に移動しますか?」
「ふむ……敵が強い北側に向かうのはいいんだが、あまり大公を刺激したくないのも事実だ」
ここから北は、大公アルフィニールの領域だ。
足を踏み入れただけで全面戦争に発展するとまでは思えないが、流石に何かしらの反応はあるだろう。
下手に刺激して次なるイベントに発展させてしまうと、そのままなし崩し的に次のワールドクエストへ、などと言う可能性も否定はできない。
というか、ドラグハルトのせいでただでさえ次への展開が加速してしまっているのだ。
これ以上に状況を搔き乱してしまうのは、流石に戦局から考えてもマイナスにしかならないだろう。
「とりあえず、大公の領域の隙間を狙うような感じで、北東に向かうか」
「エインセルを刺激しないかしら?」
「変に近付き過ぎなければ問題は無いだろうさ。ドラグハルトはいい抑止力でもある」
女神と魔王の間に約定が結ばれたことから、大公たちもドラグハルトの離反については周知されているだろう。
恐らく最初に戦うのはアルフィニールになるだろうが、大きな隙を晒していたのであればその限りではない。
もしも今の状況で異邦人との戦争状態に突入した場合、背後から狙ってくれと言わんばかりの状態になってしまうのだ。
エインセルがどこまで対処できるのかは分からないが、安易に隙を晒すような真似はしないだろう。
「お互いに睨み合っている状況だが、その時間が俺たちにとってはありがたい。どこまで保てるかは分からんがな」
「あんまりゆっくりしててもいいのか、って思っちゃうけど?」
「本来、時間をかけた方が有利なのはこちらなんだがな。霊峰を確保できている現在、急いで侵攻する必要はないんだ」
アリスの疑問に、俺は肩を竦めながらそう答える。
アルトリウスも、元々の計画ではもっとゆっくりと戦いを進めるつもりだったのだろう。
だが、プレイヤーの成長にはどうしても霊峰の確保は必要不可欠で、そのままなし崩しにここまで戦争を続けてしまった。
結果として勝利できたのだからよいのだが、下手をすればまた霊峰を奪われていた可能性もある。
俺も目の前の敵に集中し過ぎてしまった部分はあるし、反省せねばなるまい。
「今の膠着状況はこちらにとっても有利ではある。俺たちにとって一番困るのは、今の状況で敵から攻撃されることだからな」
「でも、どれぐらい今の状況が続きますかね?」
「さてな、分からんとしか言えん。ドラグハルトが動き始めるまで、だからな」
奴は完全なる新勢力だ。今の段階でどの程度の準備を整えているのかは不明である。
すぐにでも戦争を始められる準備を整えているとすると、それは少々拙い状況だ。
アルトリウスやエレノアには、できるだけ早く戦線を整えて貰いたいところである。
「……まあ、とにかく状況は不明確で複雑だが、やれることは少ない。今はただ、戦力を強化するだけだ」
「結局はレベリングですか」
あと二つほどレベルを上げれば、次なるスキル枠が手に入る。
習得するスキルも、今のうちに考えておいた方がいいだろう。
その間に、成長武器の経験値も溜まり切るだろうし、レベルも元々の9にまで戻しておきたいところだ。
次なるレベルに到達するための素材については――まあ、情報が手に入ることを期待しよう。
「とにかく、出発だ。デルシェーラの分の経験値繰り越しはあるだろうし、さっさと一つはレベルを上げちまうとしよう」
「ですね。今日中にもう一つは上げたいですし」
「次のイベントまでに、シリウスの進化は間に合うかしらね?」
「これでも、結構楽しみにしてるんだ。そこは間に合わせるさ」
今回の戦いでも、シリウスは要所要所で活躍してくれた。
第五段階の真龍、その力をこの目で確かめてみたいのだ。
やはり、ドラゴンは存在そのものがロマンであるということだろう。
まずは北東へ、そこから効率の良い狩場を探して歩き回る。現在位置には気を付けつつ、移動していくこととしよう。
* * * * *
『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』
『《刀神》のスキルレベルが上昇しました』
『《武王》のスキルレベルが上昇しました』
『《昇華魔法》のスキルレベルが上昇しました』
『《神霊魔法》のスキルレベルが上昇しました』
『《致命の一刺し》のスキルレベルが上昇しました』
『《MP自動超回復》のスキルレベルが上昇しました』
『《奪命剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《練命剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《蒐魂剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』
『《HP自動超回復》のスキルレベルが上昇しました』
『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』
『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』
『《魔技共演》のスキルレベルが上昇しました』
『《クロスレンジ》のスキルレベルが上昇しました』
『《回復特性》のスキルレベルが上昇しました』
『《超位戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』
『《剣氣収斂》のスキルレベルが上昇しました』
『《見識》のスキルレベルが上昇しました』
『《血の代償》のスキルレベルが上昇しました』
『《立体走法》のスキルレベルが上昇しました』
『《会心破断》のスキルレベルが上昇しました』
『《 再生者(リジェネレイター) 》のスキルレベルが上昇しました』
『《ワイドレンジ》のスキルレベルが上昇しました』
『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』
『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』
『テイムモンスター《シリウス》のレベルが上昇しました』
外に出てから適当に近くにいた悪魔を狩ったところで、早速レベルが一つ上昇した。
流石は公爵級悪魔、保有していた 経験値(リソース) はかなりの量であったらしい。
まあ、流石にこの後は地道にレベルを上げて行かなければならないだろうが。
ともあれ、レベルが上がったことは喜ばしいことだ。今回は特に進化するスキルもないし、さっさと先に進みたいところだが――
「お前たちは何か変化はあったか?」
「あ、私は魔法が節目レベルなので、新しい呪文が出ました。後は 魔導戦技(マギカ・テクニカ) も」
「まあ、正直使わないんだけどね」
称号で強化されている緋真はともかく、アリスは殆ど 魔導戦技(マギカ・テクニカ) を使用しない。
矢を遠距離に届かせるため、たまに使う程度だ。
それよりも、大きな強化に繋がりやすい緋真の呪文の方が有用だろう。
「それで、どんな呪文が出たんだ?」
「呪文は【ブレイズハート】……発動時に状態異常回復、それから継続的なHP回復ですね」
「リジェネ系の魔法ね。火属性にしては珍しいじゃない」
「大体攻撃ばかりだったからな」
火力に偏った火属性の魔法は、攻撃には優れているがその他の呪文はあまり有していない傾向にあった。
だからこそ、【ブレイズハート】は珍しい回復手段に当たるのだ。
とはいえ、回復したいならルミナの魔法があるため、そこまで必要というわけではないのだが。
「緋真が自分で回復できるようになるなら、ルミナの手間も省けるがな……ところでそれ、《夜叉業》の効果中にも使えるのか?」
「あー、どうなんでしょう。多分後から発動しても効果はないと思いますけど」
《夜叉業》は、攻撃力を大きく高める代わりに、回復魔法の効果を受け付けなくなる性質を持っている。
その代償に相応しいだけの性能はあるのだが、やはりデメリットとしては大きいものだ。
しかし、その間でも回復し続けられるのであれば、中々のプラスになることだろう。
緋真の言う通り、《夜叉業》の発動後に呪文を唱えても無効化されてしまうだろうが、あらかじめ効果を受けている状態なら無効化されないのではないか。
――そんな期待はあったのだが。
「《夜叉業》……あ、ダメですねこれ。効果が消えました」
「ふむ、流石にダメだったか」
「《夜叉業》は『発動中は回復魔法の効果を受けない』ですからね。これが『発動中は回復魔法を弾く』とかだったら行けたかもしれませんけど」
「そうか……まあ、仕方あるまい。回復が便利であることに変わりはないからな」
《夜叉業》の発動中には使えないが、それ以外のタイミングでは十分に活用できる。
どの程度の回復になるのか、実戦で確かめてみることとしよう。
言いつつ、俺は北東側へと視線を向ける。このまま山脈に沿うように移動していけば問題ないだろうが、もう少し山の裾野に寄った方が敵とも多く出会うことができるだろう。
通行の邪魔にならない程度に、山に近付いて移動していくこととしよう。