軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

066:更に奥へ

「さぁて……まだまだ、終わりじゃねぇぞ」

辺りに散乱する蟻の死骸を踏み越えて、俺は横薙ぎに刃を振るう。

今の攻撃力ならば、二体程度なら《生命の剣》を使う必要はない。

とは言え、たまに抜けてくる攻撃もあるため、HPが一切減らないというわけではないのだが。

まあ、その辺りは《収奪の剣》を使えば済む話であり、それほど困ることはない。

(慣れてきたが……蟻共の数も減ったようには見えないな)

群がる蟻共を斬り飛ばし、蹴り飛ばし、とにかく近寄らせないように始末し続ける。

シェパードの使う《呪歌》のおかげで、今の所戦いは安定している状態だ。

相変わらず蟻共の数は多いものの、それによって押し込まれるようなことは無く、きちんと拮抗できている状態である。

それどころか、戦闘に慣れてきたこともあり、徐々にこちらから押し込むことも可能になってきた。

これならば、少しずつでも前進することができるだろう。

「よし……前進だ、行くぞ」

「はい、了解です!」

力強い了承と共に、緋真とルミナの範囲魔法が放たれる。

それによって開いた空白地帯へと足を踏み入れ、再び襲い来る蟻共を押さえれば、少しずつながら前へと進むことができるのだ。

とは言え、あまり踏み込み過ぎるわけにもいかない。下手に前進すれば、周囲全体を囲まれることにもなりかねないからだ。

そのため、少しずつ前進しては、左右に広がった蟻共を片付けるという作業を行う必要がある。

遅々とした歩みではあるが――それでも、前に進めていることは紛れもない事実であった。

「しかし、こいつらは一体どこからここまで増えて来やがるんだ」

「蟻って言うからには、巣でもあるんじゃないですか……っと!」

「巣ねぇ……じゃあ、そこが空になるまではこいつらは出現し続けるってか?」

「分かりませんけど、こいつらが向かってくる方向に進めば、何かあるんじゃないですかね」

「成程な、試してみるとしよう」

緋真の言葉に頷きつつ、俺は頭上から落ちてきた蟻を真っ二つに断ち割る。

今の所、危険と言えばこの頭上からの落下攻撃ぐらいだ。

一匹程度ならば喰らっても大したことは無いのだが、それでも動きが鈍るのは少々面倒だ。

そのため、頭上の連中を意識的に迎撃しながら、俺は前へと足を踏み出していく。

蟻共が進んでくる方向は一定だ。やはり、その向こうに何かがある可能性は高い。

まあ、これだけ大きい蟻であっても、俺たちがその巣の中に入り込むことは不可能だろう。

しかし仮に巣を見つけたとして、それを破壊できるのかどうかは不明だが――まあ、やれるだけやってみるか。

(流石に、猿や蜂相手より負担は大きい……このままだと、いずれ息切れするか)

奴らを相手にしていた時とは違い、こいつら相手には派手に魔法を使用している。

シェパードの《呪歌》も、緩やかとは言えMPを消費しているのだ。

この安定した状況も、いつまでも続けられるというものではない。

こちらが息切れするよりも先に、この蟻の群れを始末しなければならないのだ。

しかし、未だ蟻の群れが途切れる気配はない。まだ多少余裕があるとはいえ、いつまでもこの戦闘を続けることはできないだろう。

そういう意味でも、前に進んだのは正解だった。

「だが……まだ終わらないか、ったく!」

打法――槌脚。

踏み込んだ足の衝撃で吹き飛んでゆく蟻共の姿を眺めながら、舌打ちと共に刃を振るう。

視界が悪いこともあり、先の様子は見通せない。

気配についても、こいつらは若干掴みづらいのだ。そのことだけに集中すれば何とかなるが、この戦闘中ではそれも難しい。

あまり考えたくもないが、退却のタイミングも考えておくべきだろう。

――そう考えた、瞬間だった。

「ッ――!?」

斬法――柔の型、流水。

突如として、横から飛び掛かってきた蟻の一撃を、受け流して地面へと叩き落とす。

そのまま足で踏み潰そうとしたが、機敏に反応した蟻はそこから転がるように後退し、俺から距離を取っていた。

これまでの、ただ我武者羅に向かってくる蟻とは全く異なる反応だ。

よく見れば、大きさ自体も他の蟻より二回りほど大きい。どうやら、別の個体か、進化した個体であるようだ。

■レギオンアント・ナイト

種別:魔物

レベル:24

状態:アクティブ

属性:土

戦闘位置:地上・地中

「ナイト……上位個体か!」

どうやら以前予想していた通り、レギオンアントはチェスの駒に合わせて上位の種族が存在するようだ。

最下位のポーンの群れだけでも厄介だというのに、戦闘能力の高い個体が出てくるのは拙い。

だが――その存在を予想していた以上、慌てるということは無かった。

「緋真、火力を上げろ!」

「っ……《スペルチャージ》、【フレイムバースト】ッ!」

緋真が、威力を増した範囲魔法を発動させる。

刹那、吹き上がった炎が広範囲を蹂躙し、距離を離していたナイトを含めて吹き飛ばす。

俺自身も若干炎に煽られて後退しつつ、それでも油断せず視線を細めて炎の向こう側を睨み続けていた。

今の一撃で結構な数のポーンが消し飛んだはずだが、果たして――

「っ、先生! 何か、見たことのない奴が!」

「……やはり、他にもいたか」

消えていく炎の中から姿を現したのは、ポーンと比べれば数倍の大きさを持つ巨大な二体の蟻だった。

大きささえ無視すれば、他の蟻共とそれほど大きな差はない姿をしているが、そのゴツゴツとした甲殻はいかにも頑丈そうであり、周囲の炎を意に介した様子も無くこちらへと近づいてくる。

■レギオンアント・ルーク

種別:魔物

レベル:24

状態:アクティブ

属性:土

戦闘位置:地上・地中

やはり、ナイトがいるならば他の駒がいるのも当然か。

どうやら防御に秀でているらしいその個体は、巨大なあごをガチガチと鳴らしながらこちらへと近づいてきていた。

そして、その後ろには先程のナイトの姿を確認することができる。

どうやら、奴はルークの後ろに隠れて緋真の魔法を回避したらしい。

「他の連中と違って、知恵も回るか。だが――」

「お父さま、あの後ろ!」

「分かってる。どうやら、ゴールに到着したようだな」

緋真の炎によって照らされた木々の向こう側。

そこに、ドーム状に盛り上がった物体がその姿を現していた。

遠目で見えづらいが、どうやらその頂点に空いた穴から、蟻たちが姿を現してきているらしい。

つまり、あれこそがこの蟻共の巣。俺たちの目的地というわけだ。

であれば、やることは一つ。あの巣を潰して蟻共を殲滅するのだ。

「緋真、炎で巣穴を塞げ! ルミナ、周りの雑魚は任せるぞ! シェパード、猫にルミナの援護をさせろ!」

「お父さまは?」

「当然、あの三匹の相手をするさ」

ルミナの言葉に笑みと共に答え、俺は刃を構える。

あの三匹は、他の蟻に比べれば明らかに別格だ。数でばかりを相手にして、強敵に飢えていた所には、格好の獲物であると言える。

無論、油断するつもりは無い。初見の相手だからこそ、全力で挑むまでだ。

「行きます、《スペルチャージ》【フレイムウォール】」

緋真の魔法が蟻の巣を包み、群がる蟻や、その中から出てくる蟻を纏めて燃やし始める。

ルミナは肩に飛び乗ってきた猫と共に上空へと浮かび上がり、木の上の蟻を刃で斬り裂きながら地上の蟻共を狙い打ち始める。

シェパードは変わらず《呪歌》を奏で、近づいてきた蟻はエアロファルコンの風によって吹き飛ばしていた。

そして俺は――緋真に注意を向けたルークへと向けて、瞬時に肉薄して刃を振るっていた。

「《生命の剣》ッ!」

金の燐光を纏う太刀が、その軌跡を虚空に描きながらルークの足へと叩き付けられる。

狙うは足の関節、そこを裏から差し込むように刃を振るう。

威力を増幅させたその一閃は――しかし、蟻の足を断ち切ることは叶わなかった。

(チッ……何て頑丈さだ)

刃を取られることは無かったものの、一撃で断ち切れなかったことは痛い。

舌打ちしながら後退すれば、三匹の蟻の注意は全てこちらに集まっていた。

想像以上の頑丈さだ。見た目からして防御に秀でていることは分かっていたが、まさか《生命の剣》を使った上で細い脚関節を断ち切れないとは。

だが、それでも刃は通った。場所さえ選べば、攻撃が通じないということは無いだろう。

「――――ッ」

刹那、ルークの腹の下から影が襲い掛かる。

それは、その六つの足を霞むほどに素早く動かして地を這うナイトだ。

攻撃力と素早さに秀でたこいつは、中々にいやらしい動きをしている。

防御力に秀でたルークを盾に動き回るその立ち回りは、実に理に適っており、それだけに厄介だ。

だが――

斬法――柔の型、流水・逆咬。

『ギ――――!?』

足元から這い上がるように襲い掛かってきた一撃に、こちらの一閃を合流させる。

それとともに相手の攻撃のベクトルを上向きにずらし――俺は、ナイトの体を空中へと放り上げていた。

いくら素早かろうと、羽の無い蟻では空中で動き回ることはできまい。

斬法――剛の型、衝空。

空中で身動きの取れぬ相手へと、天を衝くかの如き刺突を放つ。

相手の落下の勢いと、地を踏みしめるこちらの勢い。その二つのエネルギーを合わせ、ナイトの頭部を一撃で貫いた。

そしてそのまま、俺は体を回転させ、俺の胴へ噛みつこうとした蟻の一撃を躱していた。

「硬いが――ま、やりようはある」

打法――侵震。

ルークの頭部へと手を添えて、渾身の衝撃をその内側へと通す。

それは、鎧の上から相手の肉体に直接ダメージを与える打法。

肉体の内部に直接衝撃を与える寸哮とどちらを使うか悩んだが、この外皮の硬さだ、こちらの方が効果的だろう。

側頭部に直接衝撃を受けたためか、ルークは意識を朦朧とさせるかのように崩れながら地面を滑る。

その様子を横目に見つつ、刃に突き刺さったナイトを振り落としながら、俺は目の前のルークの足を足場に跳躍していた。

そしてその瞬間、俺が居た場所をもう一体のルークが通り抜ける。

「多少強力でも、所詮は虫か」

まあ、剣が通じ辛いだけでも厄介ではあるのだが、そういうのが相手の時に打法は便利だ。

俺はそのままルークの上に着地し――それと共に、着いた右足へと全身の力を叩き付けていた。

打法――槌脚。

その瞬間、凄まじい衝撃音と共に、ルークの頭がガクンと落ちる。

ルークはその巨大な頭を地面に埋めたまま、完全に動きを止めた。

放り出された俺は近くの木を足場にして体勢を整えつつ着地し、ゆっくりとルークの傍に近づいていた。

動けぬようではあるが、どうやらまだ生きているらしい。

「はぁ……ルミナ、こいつは片付けていいぞ。剣は通じんだろうから、魔法を上手く使え」

「分かりました!」

頷きつつ、小太刀に光を宿して向かっていく姿を見送り、俺はもう一体のルークの方へと視線を移していた。

こちらは、侵震を頭に食らった程度。人間だったら死んでいてもおかしくはないが、この大きさの虫だ。

どうやら、まだ戦う意欲はあるらしい。

尤も――こちらにしてみれば、既に消化試合であるが。

「――《生命の剣》」

歩法――縮地。

俺は蟻へと即座に肉薄し、刃を横薙ぎに振るう。

その一閃によって、ルークの右前足は綺麗に千切れ飛んでいた。

がくりと体勢を崩すルークに対し、俺はその下へと潜り込み――その体の節を、思い切り蹴り上げる。

打法――柱衝。

相手の崩れた勢いを利用したその一撃は、蟻の首元へと突き刺さり、その甲殻に確かな罅を走らせる。

そして――

「《生命の剣》――これで終いだ」

黄金の光を纏う刺突は、甲殻の罅を貫き――その巨大な頭部の内側を、確実に抉っていた。

その一撃には耐えられるはずも無く、ルークはその巨体をゆっくりと横たえる。

『《強化魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』

『《識別》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』

戦闘の終了がインフォメーションによって告げられたのは、その直後のことだった。