作品タイトル不明
647:風の歩む先、凍れる城塞あり その34
「――中天より我らを見下ろせ、青天の輝き!」
その声を上げたのは、いつの間にか柱の一本の上に立っていた金髪の偉丈夫。
高々とその大剣を掲げながら、ディーンは巨大な悪魔へと向けて堂々と告げる。
彼の声の中には、己の方へと向かってくる巨人に対する恐れなど、まるで含まれていなかった。
「此の身は太陽の現身となりて、至高の黄金を此処に示さん!」
それは間違いなく、 強制解放(リミットブレイク) の詠唱。
『キャメロット』の大幹部であるディーンならば成長武器は持っているだろうが、解放可能なレベルまで育っていたか。
しかし、その性質は俺もまだ聞いていない。果たしてどのような能力なのか――その疑問に答えるかのように、眩い光が上空に展開された。
直視できぬほどの、眩い輝き。それは言葉の通り、太陽の輝きであった。
輝く太陽は、紫に染まっていた空を塗り替え、その光を浴びるディーンの大剣は同じ黄金の光を宿す。
それはまるで、大剣の刀身が太陽そのものと化したかのように。
「陽光の導きよ、我らの王道を導き給え! 『 中天戴く破邪の陽光(ソルブレイズ・ガラティーン) 』ッ!」
大きく振り下ろした、黄金に輝く大剣の一閃。
それは、刃の宿す黄金の輝きを線の如く撃ち放ち――迫ろうとしていたデルシェーラの胸元にて炸裂した。
半径十メートルはあろうかという、極小の太陽。膨大なまでの熱量を誇る一撃を叩きつけられ、巨体を誇るデルシェーラですら後方へと吹き飛ばされた。
柱を巻き込みながら倒れ込むデルシェーラの胸元は、今の一撃による膨大な熱量によって焼き焦がされている。
流石に、 強制解放(リミットブレイク) の一撃ともなれば、公爵級が相手でも大きなダメージを与えられるのだ。
とはいえ、流石にゲージを一気に削るほどには至らなかったが。いや、それどころか、今の一撃を受けても四分の一も削られていないようだが――
「……単発タイプのように見えて、そうでもないってことか」
見上げた空には、未だに太陽の光が輝いている。
その光を受けている俺たちは、常にステータスの強化とHPの回復を受けているようだ。
単発攻撃を始動とした、長時間の全体強化能力。どちらにしても有用な、非常に便利な能力であると言えるだろう。
とはいえ、それがいつまで持つのかはよく分からないため、あったら便利程度の意識でいた方がいいだろう。
既にディーンの成長武器は輝きを失っており、 強制解放(リミットブレイク) が完了していることを示している。成長武器のレベルも下がってしまっていることだろう。
そんな彼の傍に、俺はセイランを操って接近した。
「よう、使っちまってよかったのか?」
「ええ、あの怪物を足止めするには、この位の出費は必要でしたから」
仰向けに倒れたデルシェーラを見つめ、ディーンはそう呟く。
奴も大ダメージを受けたとはいえ、その体力は健在。奴を倒すには、まだまだ火力が足りていない状況だ。
やろうと思えば、もっと効率的にダメージを与えられるタイミングがあったのかもしれないが、それでもディーンは――そしてアルトリウスは、ここで切り札を切る判断を下したのだ。
「クオン殿。このエリアの柱のいくつかが、あの悪魔を強化しています」
「緋真が柱をぶっ壊したのはそれが理由か。どれがその柱なのか分かるのか?」
「ええ、貴方のお仲間のレディが見れば……正確にはその種族のプレイヤーが見れば明らかだと」
「……ユキか」
一瞬誰のことかと思ったが、種族でアドバンテージを得られているとしたらユキだろう。
あいつの種族ならば、氷の柱に秘められたギミックに気が付いたとしてもおかしくはない。
そのユキは、どうやら緋真のペガサスに同乗し、破壊する必要のある柱をマーキングして回っているようだ。
そして、実際にそれらを破壊するのは、周囲に展開したプレイヤーたちに任せているらしい。
「成程、あの動きのギミックはそれか。壊す必要のある柱をすべて破壊したら、あのスピードが弱まるのか?」
「さて、どのような結果になるかは分かりませんが――どうやら、あの悪魔は柱を破壊させたくないようですね」
「そのようだ」
ディーンの攻撃を受けて仰向けに倒れていたデルシェーラであるが、早くもそのスタンから逃れ、起き上がろうとしている。
ラミティーズが攻撃を当ててはいるが、流石にそれで怯むほど体力は低くないだろう。
しかし、奴を自由に動かすわけにはいかない。柱の破壊を妨害させるわけにはいかないのだ。
ならば、ここで奴を釘付けにするほかに道は無いだろう。
「ディーン、アルトリウスには他にも手があるのか?」
「あるにはあります。ですが……確実を狙うならば」
「俺に切り札を切れ、ってわけか」
小さく苦笑し、向き直る。
ディーンの 強制解放(リミットブレイク) ですら、デルシェーラの動きを一分程度留めたに過ぎない。
その間にも柱の破壊は進んでいるが、全てを破壊しきるにはまだ時間が必要だろう。
ならば――こちらを無視できないだけの攻撃力を、奴に示すほかあるまい。
「いいだろう。一度たりとも邪魔はさせん。柱を破壊しきるまで、あのデカブツをここに釘付けにしてやろう」
告げて、餓狼丸を構え直す。
ディーンから極大の一撃を喰らったというのに、奴の意識は柱へ攻撃するプレイヤーの方へと向いている。
本来であれば、こいつの猛攻を躱しながら柱を破壊していく必要があるのだろう。
だが、そんな邪魔などさせはしない。俺を無視して他の連中を狙うというならば、その間に俺が奴の首を落としてやろう。
「――我が 真銘(な) を告げる」
デルシェーラの命を喰らい、餓狼丸の刀身は切っ先まで漆黒に染まっている。
光を反射しない漆黒は、俺の告げた言葉に胎動を返した。
柄より滲みだした漆黒は俺の掌へと絡みつき、腕を這い上がり頬まで伸びる。
「我が爪は天を裂き、我が牙は星を砕く。されど我が渇きは癒されず、天へと吼えて月を食む」
それは、炎の如く揺らめく漆黒の紋様。
俺の腕と頬を染め上げた黒い炎は、ついに刀身から実態となって噴き上がる。
それはまるで、貪欲なこの刃が咆哮を上げるかのように。
「怨嗟に叫べ――『真打・餓狼丸重國』ッ!」
黒き炎が波動となって叫びを上げると共に、俺の視界の端でカウントダウンが開始される。
僅か五分の効果――しかし、その効果は絶大だ。
一撃の威力は単発のそれに届かなかったとしても、決して無視できるようなダメージにはなるまい。
俺が餓狼丸を真に解放したことに、デルシェーラも気づいてはいるようだった。
しかし、その気は明らかに柱の方へと逸れている。それほどまでに、この柱たちが重要だということなのだろう。
無論――気もそぞろであるならば、容赦なくその隙を突かせて貰うまでだ。
「《夜叉業》」
額より光の角が伸び、攻撃力が大きく上昇する。
その状態で、俺はセイランを駆って一気に宙を駆けだした。
狙うは、奴の足元。《デコイ》を出して奴の目を惑わしながら、俺は刃を構えながらデルシェーラの右足へと飛翔する。
「《ワイドレンジ》、《練命剣》【煌命閃】――【餓狼呑星】ッ!」
全力で生命力を注ぎ込んだ餓狼丸が、黄金から漆黒へと染め上げられる。
ディーンクラッドとの戦いの時には無かった、射程の強化と種族スキル。
その二つを加えた一撃を、俺は体ごと飛び込むようにデルシェーラの右足へと叩き付けた。
斬法――剛の型、輪旋。
遠心力を伴う一閃は、黒く染まった【煌命閃】を大きく押し広げる。
《ワイドレンジ》によって更なる射程強化を受けたその一撃は、強靭極まりない公爵級悪魔の肉体すらも斬り裂き――
『ァ――――!?』
青黒い巨人は、悲鳴を上げながら地へと片膝を着いたのだった。