軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

064:臨時パーティ

「さーて、それじゃあそろそろ始めるぞ」

「は、はい……」

緋真たちと合流し、準備を整えた俺たちは、再び森の中へと足を踏み入れていた。

普段の三人に加え、パーティにはシェパード、そして彼のテイムモンスターであるマギキャットのミーア、そしてフェアリーのシルフィが仲間に加わっていた。

編成からも分かる通り、シェパードたちは完全に後衛だ。まあ、前衛戦力はもう十分であるし、加えるとしたらあの熊程度だっただろう。

尤も、俺たちは壁役をあまり必要とはしていないし、回復の手間もあるためこちらの方が都合が良かったのだ。

緊張している様子のシェパードに、俺はにやりと笑いながら声を上げる。

「なぁに、お前さんは後ろで《呪歌》を使っていればいい。そこの 猫(ミーア) は回復だけやらせておけ」

「ええまあ、分かってますが……」

《呪歌》というスキルは、少々特殊なスキルである。

特殊な効果を持つ曲を奏でることにより、その音が届く範囲に効果を発揮するスキル。

効果は演奏、歌唱のどちらでも発揮することが可能であり、両方を同時にこなすことでより高い効果を得ることが出来る。

まあ、歌唱と言っても歌詞があるわけではなく、ただのハミングになるらしいが。

スキルを発動することで目の前に楽譜が表示され、その通りに演奏、歌唱することでスキルは効果を発揮する。

この時、演奏についてはオートかマニュアルのどちらかを選ぶことが可能であり、マニュアルで上手く演奏するとより効果が高くなるそうだ。

そして、シェパードの場合はマニュアルで、しかも歌まで追加しているため、中々に高い効果を発揮するのである。

また、奏でることのできる曲には限りがある。

《呪歌》はスキルを取得した時点で一つ、その後はスキルレベルが5の倍数に達するたびに一曲ずつ選んで曲を習得できるとのことだ。

シェパードの《呪歌》のスキルレベルは16であり、現在の所四つの曲を習得していることになる。

尤も、最近覚えた曲はまだ練習不足であるらしい。そのため、高い効果を発揮できるのは三曲までということになるだろう。

既に聞いているのは回復効果を持つ【ヒーリングサウンド】と、AGI強化の効果を持つ【マーチ】。

そして、まだ聞いたことの無い残りの一曲。これこそが、今回の作戦の要であった。

「……僕は【バラード】を使い続けます。その間はずっと敵の動きが鈍りますが、僕はそれ以外のスキルは使えません。僕自身の魔法支援はまず無いと思ってください」

「いや、それでいい。相手の動きが鈍るだけで十分だ」

シェパードがもう一つ習熟している《呪歌》が【バラード】だ。

その効果は、敵対する存在のAGIを弱体化するというもので、結果的に相手の動きを鈍らせることになる。

それほど大きな効果があるわけではないのだが、目に見えて動きが鈍るだけでも十分と言えるだろう。

連中を片付けるにも、その効果は助けになる筈だ。

「一度軽く戦って感覚を掴むといい。調子が出てきたら……本格的にやるとしよう」

敵の気配が近寄ってくる。目論見通り、どうやら猿がまた群れを作り始めているようだ。

練習相手としては、実にちょうどいい手頃な獲物だ。

口元に笑みを浮かべ、俺は太刀を抜き放っていた。

その直後、木々の間から猿が姿を現し――その瞬間、ルミナが光の弾丸を放っていた。

薄暗い森の中を斬り裂いた閃光は、瞬く間に猿の身へと直進し、その肩を撃ち抜く。

剣術に傾倒してきてはいるが、それでも精霊としての魔法の能力は十分に高い。

その一撃によって大きくダメージを負った猿は、いつも通りに周囲へと響き渡る叫び声を上げていた。

「キキャ――――――――ァッ!!」

「よし……シェパード、準備だ」

「了解です」

頷き、シェパードは竪琴を構える。

それと同時に、森の奥からは何匹もの猿たちが姿を現し、こちらへと殺到してきていた。

全方位から襲われないことはせめてもの救いだろう。その状況になったら、流石にシェパードのカバーは難しい。

まあ、来ない以上はその条件を利用させて貰うまでだ。

向かってくる猿共を迎え撃ち――それと共に、シェパードの演奏が響き渡っていた。

「《呪歌》――【バラード】」

その音色は、どこか物悲しいゆったりとした音色。

音と共に響き渡るハミングは、この戦いの場にはそぐわぬ落ち着いた旋律に色を加える。

その音色が周囲を満たすと共に、向かってくる猿共の動きに変化が生まれていた。

「キ、キィ……?」

勢いづいて向かってきていた猿共が、その足並みを狂わせる。

周囲に響く音を気にしているためなのか、連中はどこか集中力を欠いた様子で動きを鈍らせていた。

単純に動きが遅くなるのかと思ったが、こういう効果になるのか。

まあ、何にせよ――

「随分とやり易くなるな、これは」

「ですね」

「ん……っ」

集中力を欠いた猿へと肉薄し、一息にその首を斬り落とす。

動かぬ的に当てることなど容易い。俺にとっては少々物足りぬ相手だが、まあルミナの練習相手にはちょうどいいかもしれない。

とは言え、効率が上がることは紛れもない事実だ。返す刀で別の一匹を逆袈裟に斬り裂きながら、俺は猿の群れの中へと飛び込んでいた。

普段であれば全方位を囲まれることはなるべく避けるが、この状況ならば十分に対処できる。

「動きが鈍っていると言っても、戦意を失っているわけではないか――」

打法――流転。

殴りかかってきた猿の一撃を受け流しつつその勢いで投げ飛ばし、そのまま反対側にいた猿へと衝突させる。

もつれるように倒れた二匹は踵で踏み砕き、その踏み込みと共に薙ぎ払った横薙ぎの一閃でもう一体の首を刎ねる。

スキルを使わずともこの体たらくだ、動きが鈍っているとやはり物足りない相手だな。

次の獲物を睥睨しながら、俺は周囲の状況の気配を探る。

緋真は一体倒し終わって次なる獲物に取り掛かっており、ルミナももうじき一体倒し終わると言った所だ。

やはり、以前よりも効率が上がっている。物足りなさはあるが、効率面でいえば上々であるようだ。

「ふむ……援護は必要なさそうだな」

前の戦闘までは、まだルミナには不安要素があった。

だが、今の相手ならばルミナでも十分に対処できている。一対一の戦闘経験を学ぶのであれば、ちょうどいい状況であると言えるだろう。

攻撃力はまだ物足りない状況ではあるが、しっかりと相手を見て、動きを読み、そして体勢を崩すことなく確実に攻撃を重ねている。

基本を押さえた、堅実な戦い方だ。子供によくありがちな、無理に術理を使おうとする姿勢も無い。

業とは使うものであって、使われるものではない。その辺りが分かっていない連中は中学生程度までならばそこそこの数いるのだが、ルミナはきちんと緋真の言いつけを守っているようだ。

(本当に素直で優秀な生徒だな……妖精の頃の好奇心がそのままだったらどうしたものかと思っていたが)

まあ、今の練習状況は実に理想的だ。

ルミナの方には余計な数が行かぬよう、こちらで受け持っておくべきだろう。

ひらひらと猿の攻撃を回避しながら斬りつけているルミナの方へは行かせぬよう、向こうへと視線を向けていた猿を横合いから斬り捨てる。

そのまま、更に隣にいた猿へと一刀を放とうとし――その瞬間、横から飛来した風が、猿の体にいくつもの斬り傷を残していった。

飛んできた方向へと一瞬だけ視線を向ければ、そこにあったのはシェパードの傍を飛んでいる小さな妖精の姿。

どうやら、シルフィが風の魔法で援護をしてきたようだ。まあ、レベル1の妖精では大したダメージにはならなかったようだが、それでも注意を引くには十分だったらしい。

突風のように駆け抜けていった風の刃は、その進路上の猿共に少しずつダメージを与えていった。

結果、ルミナに意識を向けていた猿共は、今の攻撃に意識を取られ、シェパードたちの方へと向き直っている。

無論、それをただ見送ることはない。進路上を遮るように立ちはだかれば、猿共の敵意はあっという間にこちらに集まっていた。

「五匹か……さっさと来な、相手をしてやる」

挑発が理解できているのか、歯を剥き出しにした猿共は、一斉にこちらへと向かってくる。

こちらに掴みかかろうとしてきた猿は袈裟懸けに斬り伏せ、身を沈めるようにしながら前へと足を踏み出す。

それによって飛び掛かってきた二匹目の腹の下をすり抜け、同時にそれより後ろの連中の視界から外れながら、頭上を越えていった猿の足を掴んで地面に叩き落とす。

そして、そのままそいつは一旦放置し、こちらを一瞬見失って動きを止めた猿へと突撃する。

斬法――剛の型、穿牙。

放った突きは猿の心臓を貫き、そして突き刺さった体を盾にしながら前進、太刀を引き抜きつつその死体を蹴り飛ばす。

水平に吹っ飛んだ猿の死体は、そのまま後方にいた猿へと衝突、その動きを止めていた。

その様子を確認しながら太刀を振るって血を払い、隣から迫ってきていた猿を返す刃で斬り伏せる。

猿の首筋から血が噴き出るのを横目に確認しながら、俺は後方へと跳躍、地面に叩き付けられようやく起き上がってきていた猿の背中を蹴り飛ばしていた。

「本当に鈍くなっているな。あまり弱体化しすぎるのも考え物か」

再び地に伏した猿の頭を踏み砕き、俺は正面へと向き直る。

先ほど蹴り飛ばした猿の死体の下敷きになっていた一匹は、ようやくその下から這い出してきた所だ。

無論、それをただ見守るつもりも無く、即座に肉薄した俺は、その首を一閃で刎ね飛ばしていた。

そして即座に周囲を見渡し――小さく嘆息する。どうやら、残りは緋真の受け持っている二体と、ルミナが相手をしている一体だけか。

最早俺が手を出すまでも無く、戦闘は終わるだろう。小さく嘆息しつつ、それでも周囲の気配から意識を離さぬようにしながら、俺は二人の戦いを見守っていた。

苦戦するような要素も無く、二人はあっさりと敵を片付け――そして、インフォメーションが耳に届く。

『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』

『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』

『【テイマーズアイ】のテクニックを習得しました』

『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

「おん? 【テイマーズアイ】?」

「あれ、クオンさん、《テイム》のレベルが10になったんですか?」

「む……ああ、そのようだな」

ステータスを確認すると、シェパードの指摘通り、《テイム》のスキルレベルが10に到達していたようだ。

それでこのテクニックとやらを覚えたようだが――何だこれは?

「あー、先生の三魔剣ってテクニックは出ないタイプなんでしたっけ。それだとテクニックは初めてですか」

「え? 魔導戦技(マギカ・テクニカ) だってありますよね?」

「先生が取ってるマジックスキル、《強化魔法》ですから……えーと、先生。テクニックの習得っていうのは、魔法のスキルレベルが上がって、新しい魔法を覚えるような感じのものです」

「ふむ。そういうのを覚えるスキルもあるのか」

「モノによってですけどね。全てのスキルにテクニックが存在するわけではないみたいです」

まあ、確かに《生命の剣》といったスキルではテクニックとやらが出現したことはない。

俺の他のスキルはパッシブスキルが多いし、テクニックを習得する機会が少なかったのだろう。

「で、このテクニックはどんな効果なんだ?」

「簡単に言えば、《テイム》可能な魔物を識別するためのテクニックですよ。僕は結構多用してます」

ふむ、確かにシェパードの場合は頻繁に使いそうな技ではある。

だが、俺はあまりテイムモンスターを増やそうとも思っていないし、それほど有用なテクニックというわけでもなさそうだ。

まあ、機会があったら使ってみる程度だろう。

「……よし、とりあえず一度休憩だな。シェパードのMPが回復したらまたやるぞ。緋真はそれまでルミナの稽古だ」

「了解です」

「ははは……シルフィのレベルもどんどん上がりそうですね、これ」

引きつった表情のシェパードには軽く肩を竦めて返し、俺は緋真たちの様子を眺め始める。

今の戦闘は、思った以上にいい調子だった。これならば、多少慣らしていけば、以前敗走することになったあの連中相手にも戦えるかもしれない。

俺は小さくほくそ笑みながら、脳裏で戦略を組み立て始めていた。