軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

630:風の歩む先、凍れる城塞あり その17

イベント開始から五日目、そろそろ期限に追われ始めている頃合いだ。

そんな中で、苦戦していたボスの討伐に成功したという知らせは、紛れもなく朗報であっただろう。

尤も、実績を得たい他のクランからすれば素直に歓迎しがたい内容であっただろうが。

「しかしまぁ……こりゃ、他のプレイヤーの参考にはならんだろ」

「アルトリウスさんならではですよね、これは」

緋真が見ていた画面を覗き込み、思わず呆れを交えた声を上げてしまう。

アルトリウスが取った作戦は、一言で言ってしまえば人海戦術だ。

レイドを組んで多数のプレイヤーを動員し、あの虎を城壁側まで追い込んだのである。

奴が通り抜けることができる壁は、氷によって作り上げられた壁のみ。元々存在している城壁を通り抜けることはできないのだ。

つまり、城壁傍まで追い込んでやれば、奴が抜けられる場所は片面のみとなるわけである。

後は、氷壁側に移動しないよう複数のパーティでエリアを制限しながら戦うだけ――とまぁ、口で言う分には楽なもんである。

「普通は、そこまで上手く敵を誘導できないわよね?」

「どのタイミングで逃げるのかもよく分からんし、必ずしも狙った方向に移動してくれるとも限らない。一度でも失敗すれば追込みルートの再計算だ。面倒なんてもんじゃないぞ」

アルトリウスとて、これを一発で成功させたわけではないだろう。

試行錯誤と再挑戦を繰り返し、一日かけてようやく得ることができた戦果だ。

そのせいでか、狩場の独占であると非難の声を上げている連中が一部いるようだが、思ったほど大きい声ではない。

恐らく、『キャメロット』が北のボスに関する情報を発表したからだろう。

一つのパーティで狙おうとしても面倒極まりない虎より、北のボスの方がよほど狙い易く見える。

尤も、実態はひたすら面倒臭いエリアを進まなければならないわけだが、それでも逃げ回り続ける虎や虫よりは勝算があるだろう。

「情報の周知があったなら、ここまで辿り着いているパーティもいるかと思ったが……」

「殆どいないっぽいですね。一応、少しはいたみたいですけど、ボスに敗退してます」

「結構な数が挑戦しに来ただろうに。そいつらはどうしたんだ?」

「諦めたのか一時撤退なのか……どっちにしろ、ここまで辿り着けているパーティが本当にごく僅かですよ」

ボスとの戦場手前にあるセーフティエリア。ここは、あのボスに挑むための最後の休憩所だろう。

ここまでワープする手段があったなら話は別だっただろうが、生憎とそのような便利な手段は存在しない。

苦労してここまで辿り着いたとしても、ボスに敗北すればまた最初からだ。

その条件は俺たちとて同じ――正直、もう一度ここまで来させられるのは勘弁してほしいため、ここで確実に決着をつけたい。

「ま、ここまで来られる奴が多いにしろ少ないにしろ、そいつらに譲ってやるつもりもない。挑みに行くとするか」

「そうですね、しっかり休めましたし」

昨日は疲労困憊な様子であったアリスも、一晩休養を取って回復している。

ボスエリアまでは多少移動しなくてはならないが、その程度ならば問題は無いだろう。

それでも油断はせずに、アリスにしっかりと探索をして貰いながら先へと進む。

「そういえば、虫の方はどうなったんだ?」

「今のところは『キャメロット』も狙うつもりはないみたいですけど、今日中に倒し切れなかったら手を出すんじゃないですかね?」

「ふむ。しかし、アルトリウスの作戦も真似できるもんじゃないだろうしな」

あの追い込み漁作戦は、アルトリウスの部隊運用能力があってこその成果だと言える。

単純に真似をしようとしたところで、隙間から逃げられるのが関の山だ。

相手が逃げづらい場所に追い込むという方法自体は間違ってはいないのだろうが、口で言うほど容易い方法ではない。

ついでに言えば、虫の方は虎と違って重戦車のような存在だ。攻撃をしても簡単に動きを止められるようなものではない。

素早くても怯みやすかった虎とは違い、逃亡を阻止することが可能なのかどうか。

(方法はないわけではないんだが……)

ちらりとアリスの横を歩いているシリウスを眺め、軽く溜め息を吐く。

俺でも思いつくことであればアルトリウスでも気づいているだろうが、さてどうしたものか。

請われれば手を貸すこともやぶさかではないのだが、上手くいくかどうかの確証はない。

何しろ、俺たちはまだ虫とは相対していないのだ。その能力がいかほどのものであるのか、現状では測ることもできない。

(……とりあえず、後で考えるか)

面倒な話であるため、アルトリウスに丸投げすることにする。

単純な戦闘だけならまだしも、人間関係やら政治的な話はよく分からん。

その辺が絡む話であれば、アルトリウスにバランスを取って貰った方がやり易いだろう。

とにかく、今はこちらのボスに集中する。虫のことは後回しだ。

「先生、そろそろですよ」

「ああ、分かってる。右手側の氷の壁、この向こう側だな」

俺たちの右手側を塞いでいる氷壁は、他の壁よりも随分と高く形成されている。

分厚いため向こう側を詳しく覗くことはできないが、広い空間が広がっていることだけは見て取れた。

ディーンから貰った情報と比較しても、この先が目的地であることは明白である。

後は、このまま氷壁沿いに進んで行けば――

「……入り口、ありましたね」

「ああ。他のプレイヤーもいなさそうだ」

少なくとも、近辺には気配を感じない。悪魔や魔物の動く気配はあるが、積極的には動いていない辺り、戦闘中ではないのだろう。

この状況なら、遠慮なくボスに挑むことができるだろう。

入り口はアーチ状の氷の門となっており、俺たちを歓迎するかのように開け放たれている。

その柱からちらりと中を覗き込めば、広い円形の広場の中央に、大剣を地面に突き立てながら仁王立ちする人影があった。

「あれがボスか……こちらの気配は捉えているようだな」

「見える範囲にはトラップは無さそう。情報通り、この中には仕掛けられていなさそうね」

「戦いに集中できるし、助かりますね」

流石に距離があるためステータスの確認はできないが、この距離からこちらのことを捉えている辺り、中々に高い感知能力を有していそうだ。

それに、その立ち姿からしても隙が無い。先に戦った虎と比較しても、コイツの実力は確かであるようだ。

トラップを警戒せずに戦えるのであれば、中々楽しい殺し合いになりそうなものである。

「準備はいいか?」

「はい、いつでも」

「こっちも大丈夫。いつも通り、やってやりましょう」

アリスはここまでの進行でフラストレーションが溜まっていそうではあったが、戦いに対しての姿勢はいつも通りだ。

気が逸っていたら危険だったかもしれないが、これなら問題は無いだろう。

二人の返答に満足し、俺は呪文の詠唱を開始しながらエリア内へと足を踏み入れる。

俺たち全員が内部に入った時点で、後方の入口は氷の門によって閉ざされる。

どうやら、どちらかが死ぬまでここを解放するつもりは無いようだ。

『――――』

それと共に、ボスもまた動きを見せる。

地面に突き立てていた大剣を引き抜き、何とそれを片手で振るい、重心を低く構えてみせたのだ。

アリスの身の丈を超えているであろう巨大な剣を、ああも容易く片手で振れるだけの膂力。あれを受ければひとたまりもないだろう。

「【アダマンエッジ】【アダマンスキン】【武具神霊召喚】【ハイエンハンス】《剣氣収斂》」

「《術理掌握》――《オーバースペル》【インフェルノ】、【ミスリルエッジ】、【ミスリルスキン】、【エンハンス】!」

消耗を一切考慮しない、全力の強化。

消費したMPはポーションで回復させ、俺と緋真は刃を構える。

テイムモンスターたちはその機動力を生かして広く展開し、そのボスを半包囲するように移動した。

■オーガウォーリア・ヒーロー

種別:魔物

レベル:??

状態:??

属性:??

戦闘位置:??

レベルすらも閲覧することができない、かなり強力な魔物。

氷の全身鎧に身を包んでいるため判別が難しいが、あれでオーガであるらしい。

さて、果たしてどれほどの怪物であるのか、お手並み拝見と行こう。