軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

629:風の歩む先、凍れる城塞あり その16

「氷の鎧を纏った人型の魔物、ねぇ」

「人型の魔物って、アンデッド以外に見たことありましたっけ?」

「悪魔は別としても、ゴーレムとかは一応。ダンジョンにはゴブリンとかもいたんじゃなかったかしら?」

「血が出たんなら生物なんだろうけどな。まぁ、実際に行ってみればわかる話だ」

尤も、問題はそこまで辿り着くのが大変だという話なのだが。

ディーンから齎された、三番目のボスに関する情報。

正直、情報量としては非常に少ない。分かっているのはボスの姿と、一ヶ所に留まったまま移動しないという性質だけだ。

戦闘では氷で作り上げた様々な武器を振るう姿が確認されているが、数分と経たずにパーティが全滅してしまったためそれ以上の情報が無いのだ。

危険度の高いダンジョンを進んだが故の消耗は致し方のない話だろうが、もう少し頑張ってほしかったところだ。

「戦闘エリアは広い円形の空間。トラップの配置は無し。それだけはありがたいな」

「戦闘に集中させて貰えるのは助かるわね」

「探し回ってたら、アリスさんは戦闘に参加できませんしね」

アリスの攻撃力は、格上の敵との戦いでも非常に有効だ。

その手札を封じられないだけでも助かるものである。

逆に言えば、地形の効果や移動という要素を全て含めずに他のボスと同格ということになる。

それだけ、強大な戦闘能力を持っているということだろう。

「けど、結構遠いわね。殆ど北の端っこじゃない」

「だからこそ今まで見つかっていなかったんだろうが……これは移動だけで結構かかりそうだな」

内部に入ってきてエリアが狭まっているとはいえ、相変わらずの迷宮だ。直線距離で判断することはできない。

更に言えば、目的地に近づけば近づくほど、敵やトラップの危険度は増してくるという。

恐らくは、進むだけでも一苦労となるような場所だと考えられる。

だからこそ、このボスだけは移動を行わないということなのかもしれないが。

「ま、文句を言っていても始まらんし、進んでいくしか無かろう。『キャメロット』が虎に本腰を入れているなら、北を先に取られるということも無いだろうからな」

幹部級まで動員しているということは、アルトリウスは本気で虎を狩りに来ていると考えられる。

苦労はしている様子だが、あいつが本気で戦っている以上、あれが倒されるのは時間の問題だろう。

どうせ倒した後で、その方法は他のプレイヤーにも共有するのだろうし、そうなれば虫についても倒すことは可能だと考えていい。

その二つが為されるまでに北のボスが倒されるとは考えづらいし、慎重に進んでも問題は無いはずだ。

「日程的にもまだ余裕はある。今日中に北のセーフティエリアを探して、明日本腰を入れて挑むでもいいだろう」

「移動だけで一日使うのも勿体なくないかしら?」

「一番疲労するのはお前さんだぞ? 強敵に挑む以上、万全の態勢で臨むべきだ」

正直、敵の強さを掴み切れていないため、挑む際は慎重を期した方がいい。

もしも相手が侯爵級悪魔相当の能力を持っていた場合、相性次第では俺たちだけでは倒せないという可能性も考えられる。

だからといって全滅する気はさらさら無いのだが、一度撤退すると再度辿り着くまでに長い時間を要する場所だ。

できる限り一度の挑戦で仕留め切りたいところである。

「そういうわけだから、目的地まできっちり頼むぞ」

「……了解。大仕事になりそうね」

軽く嘆息するアリスであるが、その声音は真剣そのものだ。

何しろ、彼女のミスでパーティが全滅しかねない。このエリアのトラップは全てそんな危険度だというのに、北に向かえばそれが更に高まるのだから。

多少時間をかけてでも、慎重に進んでいくべきだろう。

(そう考えると、七日間という時間は中々絶妙かもしれんな)

外周区の仕掛けについては別にいい。トラップの危険度も敵の強さもそこそこだが、だからこそ時間をかければクリアは難しくないエリアだ。

しかし、この内部区画は迷宮そのものの難易度もさることながら、ボス戦の難易度が非常に高い。

虎と虫については全滅の可能性は低いものの追い詰めるには工夫が必要。そして北の戦士については、もし全滅したら戻ってくるまでに一日かかりそうなエリアだ。

もし、俺たちが明日倒すのに失敗したとしたら、七日目までに攻略できるかはギリギリの時間になってしまうことだろう。

だからこそ、焦るべきではない。慎重に、かつ確実に、ボスを仕留め切れるよう動くべきだ。

(苦労はしそうだが……アルトリウスの期待には応えるとしよう)

あいつは、俺ならば北を攻略できると確信している。

それさえあれば、デルシェーラへの挑戦に余裕ができるとも。

ならば精々、その期待には応えておくことにしよう。

* * * * *

幾度か回り道をさせられつつ、ようやく足を踏み入れた北のエリア。

その間にも攻略は進められている筈なのだが、一向に北のボスに関しての情報は出てこなかった。

一応、『キャメロット』は北のボスに関しての情報を公開、それを見て挑みに行ったプレイヤーの数は少なく無いはず。

にもかかわらず、まるで情報は出てきていない。どういうことなのかと文句を口にしていたものだが、その疑問は北のエリアに足を踏み入れれば氷解した。

「《練命剣》、【命輝一陣】!」

こちらへと迫る狼のスレイヴビーストの一体へと生命力の刃を飛ばし、その動きをけん制する。

だが、俺の方へと向かってきているのはその一体だけではない。回り込むようにしてもう二体、こちらへと接近してきているのだ。

歩法――陽炎。

横合いから、こちらに食らいつこうと飛び掛かるスレイヴビースト。

その一撃を緩急をつけながら回避し、接近するのは最後の個体だ。

斬法――剛の型、刹火。

「『生奪』」

斜め前方から襲い掛かる一撃。それを回避しながら、狼の胴へと刃を通す。

連携は面倒ではあるが、単体の能力はそこまで高くはない。二色のオーラを纏う一閃は、狼の体を容易く両断してみせた。

とはいえ、それで戦闘が終わるわけではない。他のメンバーが悪魔やスレイヴビーストを倒している間に、この二体は片付けなくては。

斬法――柔の型、流水・流転。

こちらへと迫る狼の攻撃を、刃を立てながら受け流す。

自ら刃に飛び込む形となった狼は、深く傷を受けながら地面に落下し――

打法――槌脚。

その頭蓋を、振り下ろした足で踏み砕いた。

残りは一体。瞬く間に二体を倒されたためか、最後の一体は体勢を立て直しながらこちらを警戒している。

獣に判断力など求めるものではないだろうが、こいつらを使役していた悪魔の元へは緋真が向かっているため、程なくしてこの群れは瓦解することになるだろう。

だが、生憎とそこまで待ってやるつもりもない。俺は重心を落とし、餓狼丸の切っ先を敵へと向けた。

「《ワイドレンジ》――《練命剣》、【命衝閃】!」

斬法――剛の型、穿牙。

切っ先を突き出すと同時、刃が生命力を纏う。

それと共に形成された長大な突撃槍は、数メートルの距離をものともせずに、狼の顔面を貫いた。

閃光の如き刺突。本来であれば届くはずのないアウトレンジからの攻撃に、狼は反応することもできずに絶命する。

攻撃の範囲が広がる《ワイドレンジ》は実に便利だ。このスキルを勧めてくれたランドには感謝しなければならないだろう。

特に今回の場合、あまり大きく移動せずに攻撃できるという点が非常に大きい。下手に動き回ると、致命的なトラップに引っかかりかねないのだ。

「しかし……敵が多いな」

あまり広くはない迷宮の通路であるため、それほど多くの敵が出ないのがここまでの印象だった。

しかし、北のエリアに足を踏み入れてからは、普通に外で戦うような数の敵が出現するようになってきているのである。

しかも、小回りが利くようにか小型の敵が多い。何とも面倒な陣容であった。

仕掛けられているトラップも、危険度はそのままに広範囲化してきている。

シリウスに発動させた際、思わぬ範囲で効果が発動して巻き込まれかけたこともあった。

幸い、シリウスならば十分耐えられる威力ではあるのだが、十分に距離を離さなければこちらも危険だ。

(確かに、この状況じゃ情報が集まらないのも納得だ。『キャメロット』のパーティも良く一組だけで最奥まで行けたもんだ)

もしかしたら、最初は一組ではなかったのかもしれないが。

何組かが途中で脱落したと言われても納得できてしまうほどの難易度だろう。

情報の少なさを悩んでいたが、これでは無理のない話だったか。

『《奪命剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《練命剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《ワイドレンジ》のスキルレベルが上昇しました』

戦闘が終了し、とりあえず一息吐く。

敵は強くなってきているが、勝てないわけではない。

問題は、戦闘中にトラップを発動させてしまわないか、常に気を使いながら戦う必要がある点だ。

気疲れからか、普段以上に疲労が溜まっている自覚はある。俺でさえそうなのだから、他のメンバーはなおさらだろう。

「もう少しでセーフティエリアだ。苦労を掛けたが、何とかなったな」

「全くですよ。一歩間違えただけで全滅ですし」

「これ、戻りはスクロールを使いたいわ」

アリスにしては珍しい弱音であるが、こちらも否定はせずに肩を竦めるに留める。

その言葉には同意せざるを得ない。こんな面倒なエリア、二度も通りたくはないのだ。

「とにかく、そこで休もう。ボスに挑むのは、しっかり休養を取ってからだ。それでいいな?」

「はい。このまま挑んでもロクなことにならなさそうですし」

「賛成だわ……ちょっと甘く見過ぎだった」

疲労困憊な様子のアリスには苦笑しつつ、先へと進む。

セーフティエリアはすぐそこだ。最後まで油断はせずに、安全圏でログアウトする。

少し時間は早いが、これ以上無理をしても得られるものは少ない。明日、万全の状態で戦うこととしよう。

――『キャメロット』によって虎が討伐されたとの情報が周知されたのは、その夜のことであった。