軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

627:風の歩む先、凍れる城塞あり その14

アイスガーディアン・ビースト。名前は長いので虎でいいが、その形式からして他のボスの名前もアイスガーディアンなのだろう。大方、例の虫の方はインセクトか何かか。

名前はともかくとして、戦闘能力については流石にボスに相応しいものであるようだ。

その体格の大きさもそうだが、纏う魔力もかなり強い。先ほどの大型ゴーレムとは比較にならない大きさだ。

とはいえ、侯爵級悪魔と比較すると流石に見劣りするため、奴らほどの力はないのだろうが。

「緋真、安全が確保できている範囲内で戦え」

「言われなくてもそうしますよ」

アリスが探し回っているが、まだトラップが残っている可能性は高い。

ある程度の範囲までは安全を確保できているし、そこから離れないように戦うしかないだろう。

一方で、虎の方はそんなこちらの都合など知ったものかと、魔力を滾らせながらこちらに向かってくる。

体力を削られて逃げてきたはずなのだが、そんなことなどおくびにも出さない。

見れば、相手の体力はほぼ全快に近い状態まで回復している様子だった。

「《練命剣》、【煌命閃】」

突然の遭遇であったため、まだ魔法の詠唱は完了していない。

とりあえずの足止めにと放った【煌命閃】であったが、虎は大きく跳躍してそれを回避した。

俺たちの頭上を飛び越える形で背後に回り、再びこちらに襲い掛かろうと振り返る。

だが、着地地点が分かっているのならばそこに攻撃を叩き込めば済む話だ。

「《オーバースペル》、【ボルケーノ】!」

奴がこちらに振り返るよりも早く、緋真の魔法が発動する。

発動地点を素早く変更したであろうその一撃は、俊敏な虎であっても避け切れない範囲で発動し、その全身を炎で包み込んだ。

炎に飲み込まれた虎であるが、ダメージは受けつつも平然と動いてはいる。

しかし、表面の霜をまとめて吹き飛ばされたからか、その体は透明な氷の彫像へと変貌していた。

先ほどの見た目は生き物そっくりであったが、やはりゴーレムの一種であるらしい。

「【アダマンエッジ】【アダマンスキン】【武具神霊召喚】《剣氣収斂》」

こちとら緋真のように詠唱関連のスキルなど取っていないため、複数の魔法を並行しているとどうしても時間がかかる。

【ハイエンハンス】は一旦後回しにし、俺は炎の中からこちらに向かってくる虎へと向け、一歩前へと踏み出した。

事前に攻撃を置いても回避される。反応速度は速く、それに対するモーションも的確だ。

ならば――攻撃を避けられないタイミングで叩き込むまで。

「《練命剣》、【煌命撃】」

斬法――剛の型、刹火。

氷の虎がこちらへと飛び掛かってきた瞬間、俺はその攻撃を掻い潜るように前に出た。

それと共に放った一閃は虎の顔面に突き刺さり、凄まじい衝撃音を響かせる。

だが、流石に一撃で頭を砕くには至らず、再び互いに擦れ違う形で交錯することとなった。

トラップを排除しきれていないため、こちらはまだ自由に動き回ることができない。

故に、こうして迎撃する形で戦うのが最も安全といえるだろう。とはいえ、いつまでもそう上手くいくとは思えないが。

「【ハイエンハンス】――《奪命剣》、【咆風呪】」

防御力を無視できる【咆風呪】を広がるように放ち、虎の体を飲み込む。

減った分の体力はそれである程度回復できるが、やはりどうにも効率が悪い。

それに、ゴーレムであるとはいえ、相手も多少は考える頭がある様だった。

『――――ッ!』

体を再び霜で覆いながら、虎はその強靭な前足を振り下ろす。

瞬間、膨れ上がった魔力の気配に、俺と緋真は同時に左右へと散開した。

その刹那――冷気を纏う真空の刃が、俺たちのいた場所を斬り裂いて行ったのだった。

「遠距離攻撃もあり……頑丈さはそこそこか」

「《術理掌握》――《オーバースペル》、【インフェルノ】」

ここまでの戦闘で、虎の体力は一割ほど削れている。

恐らくは弱点と思われる部位に攻撃を叩き込んだとはいえ、この程度の攻撃でここまで削れているのだから、あまりHPの総量は高くないのだろう。

虫の方がタフであると聞いているし、こちらは機動力がある代わりに防御力は低めということか。

緋真もそう見たか、虎の飛ばしてくる風の刃を躱しながら虎へと向けて前進している。

今、奴がいる場所は既に確認が完了している。あそこまでならば、接近しても問題はない。

「《ワイドレンジ》、《奪命剣》【冥哮撃】」

俺も緋真と共に駆けながら、虎の一挙手一投足を観察する。

奴の意識は、攻撃を加えた俺と緋真に集中している。トラップを探しているアリスの方には意識は向いていないようだ。

その辺りの動き方は、単純なモンスターらしいものであると言えるだろう。

風の刃を放っていた虎は、その攻撃ではこちらを捉えられないと理解したのか、より大きな魔力を集中させ始めた。

恐らく、広範囲に広がる攻撃でも放とうとしているのだろう。

流石に、初見の攻撃を正面から対処するのは難しいが――今ならば問題はない。

「ケェェエッ!」

『――――!?』

何故なら、完全に注意が外れていたセイランが、横合いから虎の顔面を殴り飛ばしたからだ。

風をシャットアウトすることによって音や空気の流れを悟らせなかったのだが、あんな器用な真似もできたのか。

ともあれ、予想外の痛打を喰らった虎は、大技の動作をキャンセルさせられることとなった。

体勢を崩し死に体となっている今ならば、存分に攻撃を叩き込むことができる。

歩法――烈震。

緋真とともに一気に加速、虎へと肉薄する。

蜻蛉の構えに掲げた刃を、俺たちは共に虎の両前足へと叩き付けた。

膨れ上がった【冥哮撃】の一撃と、熱量を増した緋真の一閃。そのどちらもが、虎の前足へと亀裂を走らせる。

《練命剣》ではなかったとはいえ、一撃で破壊するには至らなかったか。攻撃自体は通るが、体の強度は相応にあるらしい。

(アリスが弱点付与をしてくれれば一撃で壊せるか? だが、流石に足に当てるのは厳しいかもな)

HPは回復していないが、亀裂は徐々に修復されて行っている。

どうやら、肉体の損傷は素早く回復する性質があるらしい。

俺は虎からの反撃を避けるために距離を取りつつ、相手の様子を観察した。

俺たちの攻撃を受けて怯んでいた虎は、まるでこちらを拒絶するように魔力を放ち、周囲を風で薙ぎ払う。

どうやら、接近している相手を遠ざけるための技であるらしい。

恐らく、遁走する際に周囲を引きはがすのに使っていたのもこれなのだろう。

(ということは、まさかとは思うが――)

削ったHPは三割にも届いていない。これで逃亡するようなことはないだろう――そう思っていたのだが、現実は違った。

何と、俺たちが離れたことを確認した瞬間、虎はすぐさま逃亡を選択したのだ。

それほど離れていないとはいえ、機動力は相手の方が上。しかも、周囲にトラップがあるためこちらも自由には動けない。

「くっ、光よ!」

逃亡を阻止するため、ここまで控えていたルミナが魔法を放つ。

しかし、氷の風を纏った虎は光の鎖に対して抵抗し、僅かな時間でそれを粉砕してしまった。

一瞬だけ足止めはできたものの、自由に動けない俺たちではその距離を縮めることはできない。

拘束を解いた虎は、あっという間に氷の壁に突撃、そのまま壁に飲み込まれるようにこの場を去ってしまった。

『《ワイドレンジ》のスキルレベルが上昇しました』

戦闘状態が解除され、俺は溜め息と共に餓狼丸を降ろす。

とりあえず、一当てができたことは良い。良いのだが――

「……思った以上に逃亡の判断が速いな」

「はい。まさかあれだけしか削られていないのに逃げるなんて」

「申し訳ありません、お父様。私が止められていれば――」

「ああ、それはいい。相手は格上だし、刻印でも使わん限りは長時間の拘束はできんだろうさ。それに、今回は様子見のつもりだったしな」

申し訳なさそうに頭を下げるルミナであるが、元よりその責任を問うつもりなどない。

最初から、今回の戦いで仕留め切れるとは思っていなかったのだから。

それよりも、問題はそこ以外の点である。

「勝てるかどうかで言えば確実に勝てそうではあるが、いかに逃がさずに戦うかだな」

「追いかけますか?」

「他に目標も無いしな。奴が逃げて行った方向に向かうとしようか」

度々他のパーティと遭遇しながら進んでいるのであれば、追いかけるパーティとかち合うことがあるかもしれない。

情報交換ができれば考察もし易そうだが――さて、どうなるか。

何はともあれ、まずはあの虎を追いかけることとしよう。