軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

626:風の歩む先、凍れる城塞あり その13

「シリウス、大丈夫か?」

「グルルゥ」

鋭い氷の槍――というか最早柱といっていい太さの杭による直撃を受けたシリウスは、しかし平然とした表情で頭を振った。

狭い通路を塞ぐように設置されていたトラップ。迂回路を探すには一本道が続いていたため、仕方ないとシリウスに作動させたのだ。

結果として出現したのは、通路のあらゆる場所から包み込むように殺到する氷の杭。

逃げ場もなく、これに引っかかれば俺でも対処することは不可能だったかもしれない。

来ると分かっているならともかく、無警戒の状態で受けていたら確実に死んでいたことだろう。

「しかし、本当に頑丈だな、お前は」

「グルゥ?」

というわけで、ある程度大きさを戻したシリウスにトラップを踏ませたわけなのだが、杭に包まれたシリウスは平然とそれらを振り払って見せた。

元よりとにかく頑丈極まりないシリウスであるが、スキルの成長と共に魔法への耐性も伸びてきている。

そのおかげで、最近は体力が半分以下まで削られるような状況がない。

まあ、ある程度ダメージを通してくる相手にはルミナに援護をさせているからというのもあるが、それにしても堅牢極まりない防御力であった。

「シリウスがいてよかったわね。この子がいなかったら、迷宮を半分も進めてないわよ」

「そうだな。俺が引っかかって解除するのも、ちょっと難しいレベルになってきた」

迷宮が後半に入ってから、仕掛けられているトラップの危険度は格段に上昇している。

こうやって面で攻撃されると俺でも対処は厳しく、わざと発動させる時にも相当な警戒が必要だ。

このエリアの攻略が難航しているのは、そういった状況もあってこそだろう。

封印を担っているボスは、この迷宮内を闊歩している。即ち、罠のあるエリアを平然と移動しているのだ。

そいつ自身が罠に引っかからないのは仕方のない話かもしれないが、戦っている間でもトラップ自体は有効である。

そのような状況では、普通に戦うだけでも一苦労だ。『キャメロット』ですら仕留めるのに難航しているのは、そういった事情もあるだろう。

「ところで、一つ気になってることがあるんだが。緋真、情報はまだ集めてるか?」

「はい、それは随時やってますが、何が気になるんです?」

「ボスは追い詰められると氷の壁から移動するんだろ? その通り抜けた先に他のプレイヤーがいたら仕留め切れるんじゃないかと思ってな。そういうパターンはなかったのか?」

最前線のクエストとはいえ、このワールドクエストには多数のプレイヤーが参加している。

今いるこのエリアは難易度が高いとはいえ、それで怯むようなプレイヤーはそうそういない。

当然ながら、このエリアにも多数のプレイヤーが存在している筈なのだ。

故に、移動先でも他のプレイヤーに遭遇する可能性は高く、そうなれば必然的にボスを追い詰められる――筈なのだが。

「ああ、それなんですが……はっきりと確証があるわけじゃないんですが、壁抜けを使用した際に回復している可能性が高いそうです」

「単なるエリア移動に回復効果までついてるのはずるくないかしら」

「しかもそれが遁走だからな。どれぐらい回復してるのかは分かるのか?」

「はっきり検証できたわけではないですから、正確なところは何とも。ですけど、かなりの量を回復していることは間違いなさそうですね」

まあ、追い詰められて逃げた筈なのに、逃げた先で平然と戦っているのだから、相当量の回復をしているのだろう。

何とも厄介な性質だ。やはり、逃げられる前に仕留めるのが最善だとは思うのだが――さて、果たしてどこまで都合よく行くものか。

そこまで考え、俺は嘆息を零した。何にせよ、一度当たってみないことには判断がつかない。

とりあえずは一度戦ってみたいものだが、その時にトラップに当たらないようには注意しなければならないだろう。

「ここまでアリスに依存する形になるとはな。デルシェーラも面倒なことをしてくれる」

「仕事があるのはいいことだけどね。隠れてはいられないけど」

トラップを探すだけならばともかく、それをこちらに伝えるとなると姿を隠している意味がない。

トラップに気付かずに引っかかったらその時点で全滅しかねないし、アリスの責任は重大だ。

負担が集中してしまうことは申し訳ないが、ここは苦労して貰うしかない。

「……ふむ」

「先生? 見つけました?」

俺の気配が変わったことに気付いたのだろう。意識を尖らせた緋真がこちらに問いかけてくる。

対し、俺は周辺へと意識を広げたまま声を上げた。

「まだ離れているが、戦っている気配だな。実際はさっきから戦っていたが、思っていたよりも戦闘時間が長い」

「通常の敵に苦戦しているわけではなく?」

「ここまで入ってきた奴が、そこまで戦闘を長引かせるとは思えんな」

この内部のエリアに辿り着いただけでも、そこそこに実力のある証だ。

通常の敵との遭遇戦では、トラップにさえ引っかからなければ負けることはないだろう。

まあ、大通りでの大量の敵との戦闘は長引いてしまう可能性もあるが――

「音と気配からして、範囲魔法を使っている様子がない。大通りの戦闘ならその辺りも使いそうだが……しかし、まだ確証はないな。可能性があるっていう程度だ」

「でも、目印にはなりますね。近付いてみます?」

「そうだな、当てもなく歩くよりはいくらかマシだろう。そっちに向かうとするかね」

とはいえ、望んだ方向に都合よく進めるわけではないのだが。

迷宮であるため通路を迂回する必要はあるし、その度にトラップや潜んでいる敵に警戒しなければならない。

トラップも解除しているわけではないため、逆戻りする時には同じ場所に注意が必要だ。

幸い、行き止まりに当たることはなかったが、それでも音の方向に進む足は遅々としたものだろう。

それでも、多少近付いたことで、緋真たちにも戦闘音が届き始めたようだ。

「確かに、戦ってますね。まだ続いてたんですか」

「私じゃ数とかは分からないけど……クオン、どうなの?」

「パーティ一つだな。そして、相手は一体――しかも大型だ。こりゃビンゴかもしれないな」

ここまで、大型の敵とはあまり遭遇していない。迷宮自体が狭いため、それも仕方のない話ではあるのだが。

今回の気配は、あの大型ゴーレムほどではないとはいえ、そこそこの大きさはありそうだ。

それとの戦闘が続いているということであれば、この気配の主がボスである可能性は十分にある。

そんな期待を込めながら角を曲がり、アリスにトラップの捜索をさせ――気配が大きく揺れたのは、その直後であった。

「これは……!」

強力な魔力の発露と、気配の移動。

どうやら、魔法か何かで周囲を吹き飛ばし、その直後に逃走を開始したようだ。

話に聞いていた通りの動き。予想通り、コイツがボスの一体で間違いなかったらしい。

その気配の主は、壁があるであろう方向へと向かい――運がいいのか悪いのか、こちらへと向けて移動してきた。

瞬間、建物ではない氷の壁が、バキバキと音を立てながら変形していく。

「アリス、トラップの捜索は続けろ。見つけたらシリウスに解除させるんだ」

「了解、できるだけ急ぐわ」

「頼むぞ。トラップがゴロゴロしてる中で戦うのは流石に勘弁だ」

遭遇できたのは僥倖だが、トラップを排除できていないタイミングというのはいただけない。

だが、出会ってしまった以上はやるしかない。壁から生えるように姿を現した、白い巨大な虎。セイランと比べても一回り以上は大きいそれは、壁から抜け出しながらこちらを睥睨し、敵意を剥き出しにしながら魔力を滾らせた。

『――――ッ!』

声は発さない。だが、凍えるような風がビシビシと肌を叩く。

どうやら、コイツもゴーレムたちと同じく、生物というわけではないようだ。

霜に覆われた体は正しくホワイトタイガーそのものであったが、その霜の下は氷の塊であるらしい。

■アイスガーディアン・ビースト

種別:魔法生物

レベル:130

状態:アクティブ

属性:??

戦闘位置:??

閲覧できる情報の限りでは、そこそこに格上の能力。しかし、思っていたほどではない。

さて、まずは小手調べ。どれほどの能力を持っているのか、身をもって確かめることとしよう。