軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

063:シェパードの妖精

シェパードとの取引を成立させた俺は、その足で森の中へと出発していた。

向かう先は、先程シェパードが逃げてきた方向だ。

別にそちらでなければいけないという理由は無いのだが、今の状況で敵に絡まれるのも面倒だ。

敵が減っているそちらの方向へと向かった方が楽だろう。

「しかし、いいんですか? 緋真さんたちを連れてこなくて」

「まあ、別にいいだろう。時間を無駄にもできんしな」

緋真には、ルミナに対する稽古を続行するよう言い渡している。

ルミナのレベルを16にすることを目指す以上、稽古の時間は無駄にはできないのだ。

まあ、こちらでやることは妖精を見つけるだけであるし、それにわざわざ付き合わせることも無いだろう。

ルミナがいた方が見つけやすいかもしれないが、称号の効果があればいなくても何とかなる。

「それにお前さんも、ルミナの進化は見てみたいだろう?」

「ええ、それはまあ……明らかに特殊進化ルートですからね」

あれから移動の間に、シェパードとはいくつかの情報交換を行っていた。

妖精から精霊への進化、そして精霊のレベルアップの特性と武器スキルの取得。

シェパードからは様々なテイマー関連の情報を得ている。

シェパードが連れているテイムモンスターについての情報や、テイマーギルドで購入できるアイテムの話。

特に、騎乗可能なテイムモンスターの話はなかなか興味深かった。

このアルファシアの隣にある、あの関所の先にある国。ベーディンジアと呼ばれるその国では、特に騎馬や騎兵で高名であるらしい。

その国では、非常に優秀な騎乗モンスターを購入することも可能らしく、シェパードも馬を《テイム》していなかったら購入したかったらしい。

確かに、優秀な足が手に入るというのは、中々に魅力的な話だ。今も長距離の移動にはなかなか時間がかかっているしな。

今のパーティは半分しかメンバーを埋めていないわけだし、騎乗用の魔物を《テイム》するのも悪くはないだろう。

しかし、こいつは本当に、テイムモンスターに関しての情報を持っているな。

どうやら、少々凝り性な所もあるらしく、妖精の進化ルートについてはかなり気にしているようだ。

そもそも、精霊まで含めるとかなり分岐するだろうし、それを全て把握するのは難しいだろうが。

「精霊への進化……しかし、精霊化だけで近接型になるわけではなく、魔法の能力が高いまま。けれど、武器の習熟を進めてウェポンスキルを手に入れる……これ、明らかに特殊進化ルートですよ」

「まあ、我ながら変わったことをしている自覚はあるがな」

元々、ルミナは俺にできない後衛としての役割を果たしてもらうつもりだった。

ステータスは完全に後衛型であり、前に出て戦うようなものではなかったしな。

しかし何の因果か、元々積極性のある性格をしていたルミナは、俺の剣に憧れて剣に生きる道を選んだ。

しかも並大抵の覚悟ではなく、妖精女王との繋がりを断ち切ってまで掴み取った道だ。

今となっては、最早ルミナの選んだ道を違えるような選択肢は存在しなかった。

「そのルートも興味はありますが、僕にできるかどうかは微妙なところですね。本人……というか本妖精の意志もありますし」

「……ま、そいつが望んだら考えてやればいいと思うぞ。お前さんが自分で教えずとも、いくつか方法はあるだろうさ」

ファウスカッツェにも剣術を教えている道場があったのだ。やりようはあるだろう。

まあ、このようなスタイルを目指す妖精は変わり種も変わり種だろうが。

さて、そこそこ森の奥まで足を運んできた。

普段はあまり気にしていないが、妖精というものは割とそこら辺に存在しているものらしい。

妖精たちは、基本的に好奇心旺盛で、同時に警戒心が強い。

そんな性格をしているためか、あいつらは基本的に人里には姿を現さず、こういった自然豊かな場所に出没するのだ。

そして、木々の間などから、遠巻きにこちらのことを眺めている。時々近づいてくる奴もいるが、戦闘を行っている場合は離れていくため、結局接触する機会はあまりないのだ。

ともあれ、今回はそんな妖精を発見することが目的だ。

今は魔物の数も減っているし、見つけやすい状況であるだろう。

実際、既に周囲から敵意の無い視線を感じている。詳しく探れば、妖精の位置を掴むことができるだろう。

「……気配が増えてきたな。この辺りで待っていれば、寄ってくると思うぞ」

「成程。それなら――」

頷いたシェパードは、近くに横たわっていた倒木に腰かけ、その商売道具である竪琴を取り出していた。

俺は音楽には詳しくないが、先程聞いた腕前はそこそこに良かった気がする。

ゲーム的なアシストもあるのだろうが、現実でも似たような楽器に触れているのではないだろうか。

そんな俺の考察を他所に、シェパードは竪琴の弦を爪弾き始めていた。

「《呪歌》――【マーチ】」

竪琴の繊細な音でありながら、紡がれる音色は軽快なメロディー。

その音の流れの中に、歌詞を伴わぬシェパードの歌声が色を添えていた。

ステータスを確認してみると、どうやらこれはAGIを強化する効果を持つ《呪歌》であるようだ。

その軽快で楽しげな音色に誘われてか、周囲からは無害な動物や虫たち――そして、遠巻きにこちらを観察していた妖精たちも集まってくる。

それどころか、音色に乗せられた妖精たちは、空中で輪になって踊り始めていた。

以前、妖精郷で見た妖精たちのような、そんな楽しげな姿に苦笑を零す。

「だが、これなら行けそうだな」

妖精は気分屋だ。機嫌が良ければ、その分だけこちらに対する態度も気軽になってくる。

既に妖精たちはノリノリだ。この音色を奏でるシェパードに対しても、大きな関心を抱いていることだろう。

そんな、目を輝かせている妖精たちの様子を眺めている内に、シェパードの歌は終わっていた。

ゆっくりと目を開けた青年は、空中に集う妖精たちの姿を見上げ、僅かながらに笑みを浮かべながら声を上げる。

「こんにちは、妖精のみんな。僕はシェパード……僕の演奏を聞いてくれて、どうもありがとう」

一応、妖精たちもこちらの言葉はきちんと理解できているらしい。

まあ、喋ることはできないのだが。しかし妖精女王は喋っていたことだし、進化を繰り返していればいずれは喋れるようになるのかもしれないな。

ともあれ、喋れない妖精たちは、大きく手を振ることでシェパードの言葉に応えていた。

何匹か、臆病な連中は逃げ出していたようだが、それでもそこそこの数が残っている。これならば問題は無いだろう。

「僕は、僕と共に冒険をしてくれる仲間を探しているんだ。僕と仲良くしてくれる子がいたら、どうか僕の仲間になってほしい」

シェパードの言葉に、妖精たちは顔を見合わせる。

そのまま、彼女たちはしばし、俺たちには聞き取れない声で相談を行っていたようだ。

音が無いのに妙に喧々囂々としたやり取りを交わし――やがて、その中の一匹が前へと進み出る。

緑色の髪をした、どこか優しげな風貌の妖精だ。活発な様子のルミナとは、また少々違った趣がある。

その緑髪の妖精は、ふわりとシェパードの前に進み出て、彼の額に対して口づけを贈っていた。

「――っ、称号を……ということは、君が僕と共に来てくれるのかい?」

どうやら、シェパードも《妖精の祝福》の称号を取得したらしい。

まあ、称号が無ければ妖精を見ることもできないわけだし、無駄な心配だったかもしれないが。

というか、称号を与えるときに額に触れる動作、あれはキスをしていたのか。流石に気付かなかったな。

そんな俺の葛藤を他所に、シェパードは笑顔でその妖精を《テイム》していた。

「ありがとう。君は……風魔法が得意なのか。じゃあ、君のことは『シルフィ』と呼ぶよ。いいかな?」

「――――♪」

緑髪の妖精――シルフィと名付けられたそれは、上機嫌に首肯する。

どうやら、その名前を気に入ったようだ。

名前を気に入らなかったらどういう反応をするのかは知らないが、まあシェパードならばおかしな名前を付けることは無いだろう。

「うん、よろしくね、シルフィ。みんなも、話を聞いてくれてありがとう」

シェパードの言葉に妖精たちは頷き、そしてシルフィのことを祝福するように手を振りながら去っていった。

その様子を見送って、シェパードは一息ついてから声を上げる。

「成功ですね。ありがとうございます、クオンさん」

「何、取引の結果だ。こちらにも益があるんだから、気にする必要はない」

こちらにも都合のいい約束を交わしているのだ、協力することに否は無い。

尤も、ここまで思い通りの展開になるとは思っていなかったが。

「それで、《妖精の祝福》は手に入ったのか?」

「はい。これで、僕でも同様に妖精を見ることができますね」

「さっきの様子を見るに、俺よりも効率的に妖精を見つけられるんじゃないか?」

「あはは……彼女たちにとって、《呪歌》は楽しいものであるみたいですね」

今は俺の持つ称号の効果もあるためあまり実感は無いだろうが、今のシェパードは一人でも妖精を目視できるようになっている。

その上、あれほど妖精たちに人気を博した《呪歌》のスキルだ。

その気になれば、どんどん新たな妖精を仲間にすることができるだろう。

まあ、そこまで多くなると管理しきれないかもしれないが。

「まあ、それが手に入ったのなら僥倖だ。他のテイマーの面倒については――」

「勿論、僕の方でやりますよ。一度集会のようなものでも開けば、称号の取得者も増えるでしょう。けど、いいんですか? この称号はかなりの発見ですよ」

「その辺りの裁量はお前さんに任せるさ。名声なんぞにはあまり興味は無いからな」

俺の目的はあくまでも実戦で剣を振るうことであって、金を得ることでも栄誉を得ることでもない。

気が向いたら人助けもするだろうが、不特定多数の人間に良く思われることに魅力など感じていないのだ。

むしろこちらの行動を阻害されそうであるし、その辺りを押し付けられるなら万々歳だ。

「さて、目的を果たしたなら一旦戻るとするか」

「そうですね。けど……本当にやるんですか?」

「そういう交換条件だろう? 何、そっちにとっても有益だ」

「まあ、確かに……僕としてもレベリングは望むところではありますけど」

俺がシェパードに対して交換条件として提示したのは、彼を一時的にパーティメンバーとして加え、このエリアでの修行に参加させることだ。

シェパードは支援に優れており、前衛ばかりに偏っている俺たちにとっては貴重な存在だ。

当初は、先程戦闘した時のような『レイド』とやらを組んでみようかと思っていたのだが、あれはあまり効率が良くないらしい。

レイドというのは、緋真が言うにはパーティ同士で組むパーティのようなもののようだ。

二つのパーティであればミニレイド、五個のパーティであればハーフレイド、十個のパーティであればフルレイド。それほどの大人数を管理できるようにするシステムのようだが――これには、メリットとデメリットの両方がある。

まず、メリットとしては、パーティ全体にかかるタイプのスキルが影響を及ぼすようになること。

そしてデメリットとしては、取得できる経験値が減少することだそうだ。

組んだパーティの数だけ減少率も上がるらしく、この人数であれば普通にパーティを組んだ方が効率がいいらしい。

あの時は緊急時だったため、パーティを組みなおすよりも手っ取り早く行えるレイド結成をやったらしい。

「前衛は俺たちがやるんだ、そこまで気負う必要はない。お前さんは、後ろからしっかり援護を飛ばしてくれ。妖精も仲間になって、魔法支援の選択肢は増えただろう?」

「まあ、シルフィにとっては凄いパワーレベリングになりそうですけど……ええ、約束ですしね。微力を尽くします」

「ルミナの進化までは付き合って貰うぞ? お前さんも気になるだろうし」

俺の言葉を受けて、シェパードは苦笑する。

どうやら、その言葉を否定しきれなかったようだ。

今のペースで行けば、初の二段階目進化となるテイムモンスター。

しかも、シェパード曰く特殊進化のルートに乗っている存在だ。

果たして、どのような姿になるものか――それは、俺としても楽しみであった。

「そら、戻るぞ。さっさとレベル上げだ」

「了解です、クオンさん」

まずは、どの程度戦えるのか、調子を確かめる所からだな。

果たしてどこまで効率化できるか――それを楽しみにしながら、俺はシェパードを伴って緋真たちの方へと戻って行った。