軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

620:風の歩む先、凍れる城塞あり その7

『――確認しました。確かに、四つあった紋章のうち、右上の紋章が消えています』

「やはりか。あれで正解だったようだな」

祠に合った円盤から光が飛び去ったのち、確認のために通話したアルトリウスからの返答は、俺たちが望んでいた通りのものであった。

円盤に触れようとした瞬間に飛び出した光と、そのものが崩壊した円盤。

これ以上アクションのしようもなかったし、あれだけで封印の一つを解くことができたのなら好都合だ。

「辿り着くまでに結構時間がかかったが、正解が分かったのは大きな前進だな。そっちはどうだ?」

『こちらも、風を頼りに進んでいます。ただ――』

「まだ辿り着いていないか。もうそろそろ構造変化だぞ?」

『ええ。かなり遠回りさせられてしまったようです。残念ですが、変化した後に再出発ですね』

嘆息の混じったアルトリウスの声に、さもありなんと肩を竦める。

確かに、進む道は風によってはっきりしているが、目的地まで直線距離で進めるわけではない。

構造によっては、恐ろしく遠回りをする羽目になる可能性もあるだろう。

残念ながら、今回は運が悪かったということだ。

「とはいえ、近付いていることは事実だろうさ。そのまま続ければ何とかなるだろう」

『そうですね。そろそろ変化ですが、こちらも継続して動きます。クオンさんも――』

「分かってる、次に向かうさ。情報の周知はそちらに任せるぞ」

『はい、手配しておきます。引き続きよろしくお願いします』

簡潔に情報を共有し、通話を終了する。

――ダンジョン全体に揺れが走り始めたのは、ちょうどその直後であった。

「っと……来たか」

「封印は一つ解けましたけど、何か大きな変化はありますかね?」

「さてな。そういう要素は分からんが、さっさと次の風を見つけられたらラッキーだ」

まあ、封印を一つ解いた程度で何か大きな変化があるとも思えんが。

何にせよ、構造変化を避ける手立ては存在しない。メンバーが一塊になり、分断されないよう注意することぐらいだ。

揺れと共に至る所で壁が崩れ、或いはせり上がり、全体の構造がことごとく変化していく。

分断されてしまえば合流するまでに恐ろしく手間がかかることになるだろうが、こうして注意していれば恐れるほどのことではない。

そう大した時間を必要とはせず、構造の変化は終わり――特に変わり映えのない景色が目の前に広がった。

「……まぁ、何か変わるわけでもないわな。定期的な変化だし」

「とりあえず、また進みますか」

「そうだな。アリス、頼む」

「了解、行きましょ」

一区切りではあるのだが、迷宮の攻略はまだまだ続く。

残り三つの封印も解いてしまいたいところではあるが、果たして上手くいくかどうか。

何にせよ、まずは次の風を発見しなければなるまい。

道しるべとなる風については、まず発見しないことにはなにも始まらない。

それを見つけるまでは、適当に歩き回って探すしかないのだ。

「せめてある程度の位置が分かればいいんだがな……現在地は城のお陰で何となくわかるし」

「まあ、少なくとも南側は望み薄じゃないかしら? 私たちが見つけた分と、『キャメロット』が捕捉している分があるわけだし」

「ふむ……一理あるな。北側を目指してみるか」

アリスの言う通り、『キャメロット』が現在探している分を除けば、南半分に他の封印がある可能性は低いだろう。

どちらかといえば、北側の方が発見の可能性も高いと思われる。

無論、南側に集中している可能性も否定はできないのだから、向かう途中も風の存在には注意しておくべきだろうが。

「けど、一つ見つかったら後は簡単かもしれませんね。構造変化で遠回りはありそうですけど」

「……さてな」

「お父様? 何か気になることでもあるんですか?」

「いや、大した懸念じゃない。単純に、祠の前に仕掛けられている罠を全然検証していなかったから、まともに攻略しようとするとどのぐらいの難易度なのかが分からなかっただけだ」

俺たちが選択したのは、シリウスによる強引な突破だ。

攻略できたのだから方法は何でもいいと思うが、この方法は他のプレイヤーには不可能だろう。

同じく真龍を仲間にしているアルトリウスとて、あの光属性の真龍はシリウスほどの防御力は無いだろう。

シリウスほどレベルも高くないだろうし、《変化》のスキルを覚えている可能性も低い。

となると、アルトリウスは正攻法での攻略をするしかないというわけだ。

「まぁ、アルトリウスなら何とかするとは思うが……他のプレイヤーがどうかと思ってな」

「ここまで来ているんだから、それなりに強いプレイヤーじゃない?」

「奥まで来れるなら、パーティ編成もきちんと考えている人たちでしょうしね。罠程度なら、時間さえあれば何とかなるんじゃないですか?」

正直、『キャメロット』とウチのクラン以外の連中を、あまり戦力として当てにしていない部分はある。

仮にもプロの戦争屋が所属している組織とそれ以外を比較すること自体が間違っているのだが、信頼感というものはどうしてもあるものだ。

とはいえ、緋真たちの言う通り、このダンジョンを奥まで進めている時点で実力者であることに変わりはない。

そんな者たちならば、あの多数の罠も突破することはできるだろう。

(――本当に罠だけで済むのなら、だけどな)

胸中の言葉は口には出さず、俺はアリスの後に続いて迷宮を進んでいったのだった。

* * * * *

「あ、先生、これ風じゃないですか?」

「でかした、ようやく見つけたか」

――あれから二度の構造変化を経て、俺たちはようやく次の風を発見した。

二つ目の封印は、アルトリウスたちが辿り着いて解除。それと共に、解除の方法は掲示板等で周知されることとなった。

自分たちが解決するまで秘匿しているのは中々に強かであるが、クランとしては当然の措置だろう。

これは仮にもワールドクエスト、ポイントを稼ぐためには何らかの貢献をする必要がある。

そういう意味では、情報を公開したこと自体が破格の行動であるとも言えるだろう。

可能なら、アルトリウスが公開する前に次なる封印を発見できればよかったのだが、流石にそう都合よくはいかなかった。

「まだ三つ目の封印は見つかっていないんだったよな?」

「はい、少なくとも解除はされていませんね。誰かが風を見つけているかもしれませんが……」

「まぁ、それは仕方あるまい。結局は早い者勝ちだからな」

どちらかといえば、こちらがスタートダッシュしている立場だ。

他のプレイヤーに封印の解除をされたとしても、それはこちらの動きが鈍かったというだけの話だろう。

称賛しこそすれ、それに反感を覚えることなどありはしない。

「何はともあれ、風が吹いてるってことは、まだ解除されていないってことだろう。さっさと追って行くとするか」

「ですね。いい加減迷うだけなのも飽きてきましたし」

やはり、当てもなく迷宮を彷徨うのは徒労感が強い。

度々罠や悪魔に遭遇するため、決して暇というわけではないのだが、それでも目的地が見つからないのは精神的な疲れが出てくる。

風を見つけられたおかげで、精神的にもかなり楽になったほどだ。

しかしながら、デルシェーラの作り上げた迷宮の中で、雑な動きをするなど命とりに他ならない。

ギミックを見つけられず気が急いても、そして見つけられて気が楽になっても、決して浮足立ってはならないのだ。

「しかし……多少は急いだほうがいいかもしれんな」

「何故ですか、お父様?」

「人の気配がする。悪魔ではなく、他のプレイヤーだな」

どうやら、この辺りに他のプレイヤーが近付いてきているらしい。

先に進んでいるのかどうかは分からないが、ここの封印は捕捉されてしまっていると見るべきだろう。

さて、果たしてどちらが先に辿り着くことになるか――焦らず、だが可能な限り足を速めて進むとしよう。