軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

619:風の歩む先、凍れる城塞あり その6

風を追って辿り着いた先にあった小さな祠。

あれこそが門を解放するためのギミックであると思われるが、どうにも見た目ほど単純な話ではなさそうだ。

一見すれば、何も無い一本道。祠まで敵の姿もなく、ただ直進すれば辿り着けるようにも見えるだろう。

しかしながら、《看破》系スキルを持つアリスの目には、異なる光景に映っているようであった。

「床から壁から、びっしりと罠だらけね。解除しながら進んでいたら、かなり時間がかかると思うわ」

「まぁ解除はできないわけだが……どうしたもんかね」

俺たちには罠解除系のスキルがないため、罠を解除しながら進むという選択肢は取れない。

必然、罠を避けるか発動させるかの二択しかないわけだが、この様子では回避することも難しそうだ。

となると、必然的に発動させながら進むしかないわけだが、これにも二つの選択肢が存在する。

即ち、安全に発動させるか、強行突破かの二択だ。

「どう足掻いても避けられなさそうなものを、一つ一つ発動させながら進むか、あるいは全部無視して強行突破するか」

「強行突破って可能なんですか?」

「いや、分からんが……そろそろ構造変化が近いからな。あまり悠長にもしていられない」

何だかんだで、風の捜索と追跡には結構な時間を要してしまった。

のんびりと進んでいては、再び構造変化が発生してしまうことだろう。

それ自体は避けようのない話であるし仕方がないのだが、問題はその時に再びここに辿り着けるかどうかという話だ。

下手をすれば、延々と遠回りをさせられかねない。

「本来ならば慎重に進みたいところだが、構造変化前には片をつけたい」

「それは確かにそうですけど、本当に大丈夫なんですか?」

「分からんが、これでこの通路から締め出されて、外周区を逆回りで一周して来いと言われても嫌だぞ俺は」

「そりゃ私だって嫌ですけどそんなの」

まあ、とりあえずは試してみる他に道はないか。

小さく嘆息しつつ、俺はゆっくりと前に進み出ながら、通路を観察していたアリスに問いかける。

「とりあえず、一番手前のトラップはどれだ?」

「そこね。発動させるつもりなの? 他のトラップが連動するかもしれないわよ?」

「その通りだが、生憎と確かめている余裕もないからな。その時はその時で、何か別の方法を考えるさ」

餓狼丸を抜き、《蒐魂剣》を発動させておく。

幸いというべきなのか、このダンジョンのトラップは氷を変質させることによって作り上げられたものだ。

つまり魔法による効果であるため、《蒐魂剣》での迎撃が可能なのである。

尤も、踏んだら即座に発動してしまうため、通常なら迎撃することはまず不可能なのだが。

「ちょっと離れてるけど、気を付けなさいよ」

「分かってるさ。まず、物は試しだ」

アリスが安全圏まで後退したことを確認し、俺は罠の魔法陣へと一歩足を踏み出す。

そして、即座に足を戻そうとし――刹那の内に、踏み出した右足を氷によって拘束された。

「……っ!」

ほんの少し触れただけだというのに、一瞬で足を拘束されてしまった。

せり上がってくるどころか、瞬時に足首まで氷で包み込まれてしまった形だ。

これでは、発動させてから回避することは不可能だろう。

そして――

「クオン!」

「チッ……!」

前方の床に棘が生え、こちらを挟みこもうとするかのようにせり上がってくる。

まるで本が閉じようとしているような見た目だが、栞にされそうになっているこちらからすれば堪ったものではない。

舌打ちと共に、俺は正面から真っ直ぐに餓狼丸を振り下ろした。

俺を叩き潰そうとせり上がってきた氷は、《蒐魂剣》の一閃に触れると共に真っ二つに分かれ、俺の両側を叩き潰すに留まる。

このトラップの威力まで、デルシェーラの魔法攻撃力を元にしていたとしたら、これでは対処しきれなかっただろう。

思わず舌打ちしながら足元の氷を破壊して、一度通路から離れる。

「大丈夫ですか、先生?」

「ああ、ダメージはない。しかし、これじゃあ発動させて避けるのも厳しそうだな」

全ての罠が拘束してからの発動ということはないだろうが、途中で一つでも混ざっていれば致命的だ。

これでは、俺でも強行突破することはまず不可能だろう。

行けそうと判断した後に途中で混ぜられなかった点だけは不幸中の幸いか。

「普通に強行突破することは不可能。一つ一つ注意しながら発動させる場合も、時間が間に合うか分からないと来たか」

「どうするの? 遠くまで離されないことに賭ける?」

「いや、さっさと最後の手段を使ってしまうことにする」

「何ですかそれ?」

説明もしていなかったため仕方のないことであるが、何のことだかさっぱり分からなかったのだろう。

首を傾げる緋真の様子に、俺は軽く肩を竦めてから視線を横にずらした。

緋真たちも俺の視線を追って――復元する壁を爪でガリガリと削っているシリウスの姿を目にし、納得した様子で手を打った。

「成程、強行突破以上の力押しですね」

「できそうではあるけど、何だか腑に落ちないわね」

「グル?」

視線が集まっていることに気付いたのか、大型犬サイズのシリウスは首を傾げる。

この大きさだと愛嬌があるように見えるが、形は普段と変わっていないため物々しい姿だ。

逆に撫でられそうなサイズでいることの方が危険であるため、手を摩り下ろしてしまう被害者を出さないためには威圧感のあるサイズのままでいた方が良いのだが。

「シリウス、こっちに来い。そして、この通路ギリギリぐらいのサイズまで大きくなれ」

「グルルッ」

その言葉でおおよそ何をするか理解したのだろう、シリウスは鼻息荒く頷いて、通路をぎっしり埋める程度のサイズまで巨大化した。

そしてそのまま、俺が指示するまでもなく、のしのしと通路の先へと向かって歩き始める。勇敢なのはいいが、何とも性急だ。

「ルミナ、シリウスでもダメージは受けるだろうから、回復は頼む」

「はい、分かりました」

「アリスはトラップの残りがないかどうか見ておいてくれ。余りがないとも限らないからな」

「了解。あの様子だとそこまで心配は要らなそうだけど」

遠慮なくトラップの群れの中に踏み入れたシリウスだが、向かってくる氷の刃や棘を、その体で受け止めては打ち砕いている。

トラップの攻撃力はデルシェーラの魔法攻撃力そのものではない。であるならば、シリウスの防御力なら十分に受け止めることが可能だ。

魔法であるため多少はダメージを受けている様子だが、ルミナによる回復が十分に間に合うペースでしかない。

さながら、ブルドーザーで邪魔な構造物を撤去しているかのような様相だ。

時折足を拘束されている様子が見て取れるが、シリウスは力任せに足を引き抜いて前へと進む。

氷による拘束では、シリウスのパワーと重量を押さえ込むことは不可能なのだろう。

「これ、いいのかしら……?」

「やれるんだからいいだろう。攻略できているなら正解だ」

「まぁ、力任せの強引な攻略なんて今に始まった話でもないですし」

シリウスの後に続きながら、通路の奥へと進んでいく。

次々にガラスの砕けるような音が響いているが、シリウスは特に気にした様子もない。

我ながら内心ちょっと強引過ぎるだろうかとは考えていたのだが、シリウスとしては楽な仕事であったようだ。

そのまま通路の奥まで辿り着いたシリウスは、もうトラップの発動がないことを確認すると、先程と同じ大型犬サイズまで体を縮小させた。

「グルルルッ!」

「ああ、よくやってくれた。助かったぞ、シリウス」

撫でると手がボロボロになるため撫でられないが、心からの称賛を込めて首筋を叩く。

誇らしげに首を振るシリウスの様子には苦笑しつつ、俺は改めて祠の方へと向き直った。

小さな石造りの祠であるが、さてこれをどうすればよいのだろうか。

「アリス、罠はあるか?」

「いいえ、反応はないわ」

とりあえずは何も見えないのだろう。その言葉に頷きつつ、俺は祠の扉を開いた。

さほど抵抗感もなく開いた祠。その中に安置されていたのは、円盤状の蒼い石であった。

表面には何やら複雑な紋章のようなものが刻まれており、淡く明滅を繰り返している。

「これは……緋真」

「はい。スクショで見ましたけど、例の封印された門に刻まれていた紋章と一緒です」

「やはり正解のようだな。しかし、コイツをどうすりゃいいのか」

眉根を寄せつつも、その石へと手を伸ばす。

しかし俺の指が石に触れる直前、急に眩く輝き始めたそれは、空中へと三つの光の玉を吐き出した。

空中に弧を描くように軌跡を残しながら、蒼い光の玉は何処かへと飛び去ってゆく。

そして、光を吐き出した後の円盤は、まるで力を失ったかのように、さらさらと砂となって崩壊したのだった。

「……これで良かったのか?」

「たぶん、いいんじゃないでしょうか」

「どうせ監視してるんだろうし、『キャメロット』に問い合わせてみたら?」

アリスの提案も尤もである。

とりあえず進展があったとして、アルトリウスに状況を確認してみることとしよう。