軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

062:始まりの調教師

「しッ!」

「やあああっ!」

でかい熊が抑え込んでいた二匹の猿を、緋真とルミナが一匹ずつ斬り捨てる。

その様子を気配で感じ取りながら、俺はその先にいる猿の群れの中へと飛び込んでいた。

斬法・剛の型――扇渉。

スライディングと共に放った一閃が、猿共の胴や足を薙ぐ。

動きを鈍らせた猿共へと追撃を与えようとし――俺は、後ろから近づいてくるものの気配に目を見開いていた。

「ロウガ、リオン! あの人の援護を! ミーアは緋真さんたちに魔法支援! チーコは上空待機!」

後方から響いた声と共に、猿共を相手に戦闘を行っていたテイムモンスター――狼とライオンが俺に追従するように向かってくる。

どうやら、トドメを刺す手間は省けるようだ。この猿共相手には、いかに効率よく敵を倒すかが重要となる。

一匹一匹トドメを刺して回るのは、正直な所あまりよろしくはない動きだ。

そこを受け持ってくれるというのであれば、遠慮なくその助力に頼るとしよう。

「さて、となれば――」

動きを止めるだけでいいのであれば、面倒さはかなり軽減される。

殴りつけてくる猿の攻撃を回避しながらアキレス腱を斬りつけ、その動きを止めて奥へ。

この猿共は数で押してくるが、接近戦における連携というものは無い。

精々が、波状攻撃で押し込もうとしてくる程度だ。

HPも大して高くはないため、一匹一匹を確実に対処できれば囲まれても問題はない相手なのだ。

殴りつけてきた拳を流水で受け流しつつ斬りつけ、腕を押さえたところで側頭部へと柄尻を叩き付ける。

「《生命の剣》ッ!」

気絶した猿はそのままに、強引に振り抜くように刃を横薙ぎに振るう。

横薙ぎに放たれた一閃は、猿の脇腹に食い込んで、そのまま両断する。

《生命の剣》で強化された一撃ならば、猿のHP程度ならば一撃で削り切ることが可能だ。

急所を狙えばそこまでせずともいいのだが、混戦ではそうも言っていられないのが実情だ。

「《収奪の剣》」

とは言え、《生命の剣》ならば一撃で斬れるというのは実に楽である。

減ったHPは《収奪の剣》で回復すればいいし、実質減少するのはMPだけだ。

黒い靄を纏った一閃が猿を袈裟懸けに斬り裂き、返す一刀が胴を薙ぎ払う。

それでHPが尽きた猿は、崩れ落ちるようにその場に倒れる。

敵の数は、普段俺たちが戦う時よりは少ない。これならば、それほど苦労もしないだろう。

既に緋真たちも前線に出てきている。最早、苦戦するような要素は無い。

「んじゃ、さっさと終わらせるとするか」

駆け回る猛獣たちの動きを観察しつつ、俺は残りの猿の処理へと移っていった。

* * * * *

『《MP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』

移動しながら戦っていたためなのか、妙に多く引っかかった猿共を片付け、一息つく。

慣れた相手とは言え、知らぬ連中の隣で戦うのは少々気を使うものだ。

しかも、戦いを共にしていたのは大半がテイムモンスターだったからな。間違えて攻撃しないように気をつけねばならなかった。

そして、ここまで逃げてきた当の本人はと言えば、何やら竪琴を弾いてスキルを発動させていた。

「《呪歌》――【ヒーリングサウンド】」

竪琴が涼やかな音を鳴らすと共に、周囲に緑の燐光が舞い、それに触れている俺たちのHPが徐々に回復していく。

どうやら、楽器を使って効果を発揮するスキルであるようだ。

楽器を鳴らしている間はずっと効果があるらしく、彼の連れているテイムモンスターたちのHPもまとめて回復しているようだ。

範囲で、持続的に回復するというのは中々に面白い効果だと言えるだろう。

「スキルを使いながらで失礼。ご迷惑をおかけしました、皆さん」

「いえ、突然このエリアに来たらああなっても仕方ないですよ」

「確かに、最初は面食らうわな、あれは」

緋真の言葉に、俺は肩を竦めて同意する。

数の力というものは恐ろしいものだ。どれほどの実力があったとしても、手が足りなくなれば圧殺されるのだから。

しかし、そんな環境に放り込まれながら、初見であれだけ対処できたのは中々のものだろう。

戦闘中に飛ばしていた指示は中々に的確だった。決して、名前だけが先行したプレイヤーというわけではないらしい。

青年は、改めて申し訳なさそうに頭を下げてから、俺たちへと自己紹介を行っていた。

「クオンさんと、そこの彼女とは初めてお会いしますね……僕はシェパード。《テイム》をメインにしてるプレイヤーです」

「テイマーの第一人者とも言われてる人ですよ。戦闘スタイルは……まあ、さっき見ていたから分かりますよね」

「ああ、随分と忙しそうではあるが、堂に入ったもんだった。有名なのも納得だな」

《テイム》一本で食っている、という話を聞いたことがあったが、その変わったスタイルを実現できるだけの実力があることは間違いないだろう。

本人が魔法と《呪歌》によって支援を行いながら、テイムモンスターたちが戦闘を行う。実に分かりやすいスタイルだ。

シェパードが連れているのは、狼、熊、ライオン、猫、鳥という組み合わせだ。

《識別》して見えた種族は、それぞれホワイトウルフ、ファイティングベアー、アサルトレオン、マギキャット、エアロファルコンだ。

正直、見たことがあるのはエアロファルコンしかいない。実に興味深い陣容だった。

先ほどの戦闘を見るに、狼とライオンは前衛で攻撃、熊は敵の攻撃を受け止めて動きを止め、猫と鳥は魔法による援護を行う、と言った所か。

中々、バランスの良い組み合わせであるのだろう。

「それでお前さん、俺たちに何か用事でもあるのか?」

「え?」

「お前さん、さっきから俺やルミナに随分と注目しているみたいだからな。ルミナに興味があるのは分かるが、俺にまで興味があるというのは、何かしら用事があるのかと思ってな」

シェパードの意識は、先程から俺とルミナに向けられている。

特に、ルミナよりも俺に対する興味の方が強いように思われる。

だが、この男の性質からして、ルミナよりも俺に興味を持っているのは少々おかしな話だ。

俺の問いに対し、シェパードは苦笑を浮かべる。どうやら、図星であったらしい。

「参ったな……まさかいきなり見抜かれるとは」

「ほう、誤魔化しはしないんだな」

「ええ、この状況で誤魔化しても意味はないでしょう? 僕は確かに、貴方に会うためにここまでやってきました」

「ふむ。となると、理由はルミナに関してか?」

「ルミナ……その妖精、いや精霊ですね? ええ、その通り。僕は妖精の情報を聞かせてもらいたくて、貴方のことを追いかけてきたんです。まあ、それで身の丈に合わないエリアに足を踏み込んでしまったわけですが」

自嘲するシェパードの言葉に、軽く肩を竦める。

否定はできまい。俺たちが手を出さなければ、あの猿共に負けていたかもしれないのだから。

尤も、シェパードの腕ならば何とか勝つことも可能だったかもしれないが――それでも、このエリアでの連戦は難しいだろう。

賢い選択とは言えないが、あの猿の性質を知らなければ無理からぬことでもある。

「無茶をしたもんだな。まあ、話をするぐらいなら構わんが――情報をただで渡す、というわけにもいかんぞ?」

「それは勿論。それに、助けていただいた借りもありますから……情報には情報で、僕の持つ情報をお譲りします。テイマーとしての情報なら、誰よりも持っている自負がありますよ」

シェパードが胸を張って言い放った言葉は、大言壮語というわけではないのだろう。

実際、プレイヤーの中で最も《テイム》に関するノウハウを持っているのは彼で間違いあるまい。

であれば、確かに俺にとっても有効な情報を有していることだろう。

しかし、こちらからの貸しか。それについては、少し考えていたことがあるし――協力して貰うこととしよう。

まあ、俺は元々、あまり自分の持っている情報を利益に替えようとは思っていない。

必要な情報さえ知れれば、あとは向こうがどう情報を使おうと気にするつもりは無かった。

……尤も、《妖精の祝福》の称号効果を求めて人が群がってきても困るから、それは制限させて貰うつもりだが。

「じゃあ、情報交換と行くか。まず、何を聞きたい?」

「……そうですね」

俺の問いに対し、シェパードはしばし黙考する。

どうやら、どのように質問するか悩んでいるらしい。

まあ、別にそこまで意地悪な返答をするつもりは無いのだが。

「……では、僕でも妖精を《テイム》できる方法はご存知でしょうか」

「ああ、知っているぞ」

元々、それを問われるだろうとは予測していた。そもそも、この青年が俺に質問するとしたら妖精関連以外には存在しないだろう。

とはいえ、俺が妖精を《テイム》した方法はあまりにも特殊過ぎるし、それをそのまま教えることに意味はない。

小さく苦笑しつつ、俺はシェパードに対して返答していた。

「俺はルミナを《テイム》した際、《妖精の祝福》という称号スキルを取得した。その効果で、俺の周囲では妖精を可視化することができる」

「っ……成程、称号スキルでしたか。何かしら得ているとは思っていましたが、まさか称号だったとは」

「アレには俺も驚いたがな。つまり、俺の周囲であれば妖精の《テイム》が可能というわけだ。とは言え――この称号を持っているプレイヤーが少ない状態で、これに関する情報が広まることは望まない。それは理解できるな?」

「ええ、それは勿論です。僕も、称号では少し苦労しましたから」

少々視線を強めて告げれば、シェパードは深く頷いていた。

確かこの青年も、他にはない特殊な称号を有しているのだったか。

その苦労を経験しているのであれば、下手な真似はしないだろう。

「では、次はこちらから質問するぞ。テイムモンスターの進化についてだ」

「進化ですか。貴方の精霊も、妖精から進化したのでしょう?」

「まあな。俺が聞きたいのは二度目の進化のタイミングについてだが……まだ、お前さんのテイムモンスターも、そこまでは行っていないか」

「それはまあ、確かに。けれど、次がいつなのかは知っていますよ」

その言葉に、俺は僅かに目を見開く。

まだそのレベルに達していないというのに、果たしてどこでその情報を手に入れたというのか。

そんな俺の疑問を読み取ったのだろう、シェパードは小さく笑いながら続けていた。

「王都には、テイマーのギルド――現地人の互助組織があったんですよ。そこの人と話をしたら教えて貰えました」

「成程、現地人からの情報か。それなら情報としても信頼できるだろうな」

「ええ。二回目の進化に必要なレベルは16であるとのことですよ。今から楽しみです」

「ふむ、レベル16か」

今のルミナのレベルは11だ。ペースが落ちることも考えて、まあギリギリ間に合うかと言った所だろう。

ルミナの修行もあるため、ペースは考えなければならないだろうな。

とは言え、目標ができたのはいいことだ。進化でどのような姿になるのかも気になるし、目指してみるべきだろう。

しかしこいつ、テイマーギルドという有用な情報まで話してくれているな。本人は気づいていないようだが。

「では、次の質問、というよりお願いですが……クオンさん。僕は、妖精を《テイム》したいと思っています。それには、クオンさんの協力が必要不可欠です」

「まあ、そう言うだろうとは思っていたさ。協力してほしいんだろう?」

「はい……お願いできますでしょうか」

じっと、こちらを見つめてくるシェパードの瞳に、俺は僅かに視線を細める。

さて、協力することには別に否は無い。先ほど意図していない追加の情報まであったわけだしな。

とはいえ、折角の機会だ。見所のありそうな青年であるし、少し注文を付けてみるとしよう。

「そうだな、いくつか条件がある」

「条件、と言うと?」

「まず、俺が協力するのはお前さんだけだということだ。他のテイマーに協力する義理は無いからな」

「……分かりました」

自分の意志で面倒を見る分にはいいのだが、不特定多数に押しかけられるのは気に入らない。

俺はどうも、自分のやりたいことを邪魔されることが苦手なのだ。

この青年のことは多少気に入ったから面倒を見ることに否は無いが、流石に何人も面倒を見るつもりは無い。

もしもこいつが称号を得られたら、後は全て任せるつもりだ。

得られなかったとしたら――まあ、気が向いた時程度は協力するか。

「そして、もう一つの条件だが――」

にやりと口元を歪め、俺は告げる。

それこそが、彼を助けたことに対する対価。

その言葉に、シェパードは表情を引き攣らせていた。