作品タイトル不明
611:武器強化
その日はひたすら成長に勤しんだ結果、終わり際には成長武器の経験値を限界まで溜めることができた。
自分たちのレベルもそうだが、成長武器に要求される経験値も中々に増えてきている。
解放には最大値に対しての割合で経験値を消費することになるため、発動するための経験値を溜めるのも一苦労になってきた。
とはいえ、戦い続けていれば相応にゲージは増えるし、そこまで意識しなければならないという程でもないのだが。
ともあれ、経験値が溜まり切ったからには武器を成長させなければなるまい。
その判断と共に、俺たちは再び『エレノア商会』を訪れていた。
尤も、武器の強化自体はすぐに終わるし、目的はそこ以外にもあるのだが。
「お疲れ様、クオン。注文の品は用意してあるわよ」
「サンキュー、思ったより早かったな」
「同じことを考えるプレイヤーはそこそこいるからね。在庫品のリサイズで何とかなったわ」
成長武器を預けた後、顔パスで通ってきたエレノアの執務室。
その机に置かれていたのは、小ぶりな篭手であった。
肘の手前までを覆うそれは、篭手にしては少々分厚く、奇妙な四角い装置が備え付けられている。
「ほら、アリス。お前さんにだ」
「え? 私の?」
「ああ。このサイズは俺たちには装備できんだろう?」
「それはそうだけど……何これ?」
鎧の肘から先の部分だけが残っているような見た目のこれは、一見しただけだと何だか分からないような装備だ。
それを手にしたアリスは、困惑した様子で確認している。
元々、アリスはあまり大仰な篭手などは装備していない。仮にするとしても、左手だけというのは奇妙な装備だろう。
そんな様子の彼女に、エレノアは苦笑しつつ告げた。
「アリスさん、その篭手の上の部分、四角いところにスイッチがあるでしょう? ちょっと押してみて」
「スイッチ? ああ、これ――きゃっ!?」
瞬間――バチンと音を立てて、四角い箱部分の横から金属の部品が飛び出してきた。
緩やかな曲線を描くそれの正体は、一目瞭然だろう。
「これ、弓……小型のクロスボウなの?」
「そう、矢を発射する機能を持った暗器篭手よ。あまり射程も長くないし威力も高くないけど、不意を打つ能力は高いわ。後ろの蓋を開けると、矢を五本まで入れておけるわよ」
「へぇ……弦は勝手に引かれるのね」
「展開した時に、自動的に引かれた状態になるわ。逆に言うと、一度発射すると戻す必要があるけど」
いかにしてそのような仕掛けを作ったのかは謎だが、自動巻き上げと自動装填の機能を実現しているらしい。
五発までなら大した手間もなく射撃できる点もポイントが高いだろう。
アリスならば、《トキシックエッジ》を使えばいちいち矢を装填し直さなくても毒を付与することができるし、《魔技共演》ならば《肉抉》を併用することも可能だ。
これそのもののダメージは全く大したことも無いのだろうが、ほんの僅かでもダメージを与えられれば十分。
ただそれだけで、アリスの攻撃の布石となるのだから。
「なるほど……いいわね、これ。弓を取り出して狙うよりも手っ取り早いわ」
「射程や威力が必要なら、普通のクロスボウを使った方がいいわ。でも、瞬時に使うならこっちも便利だと思うわよ」
その辺りは使い方次第だろう。
今回の強化で、アリスは弓による攻撃を行い易くなった。
使った方がいいと判断できる場面において、瞬時に攻撃行動へと移れるメリットは大きい。
まあ、扱い方はアリス次第だ。実際に運用してみて、活かせるかどうかを判断すればいいだろう。
「これの料金は?」
「ああ、気にしなくていいぞ。使えるかどうかも分からんものだったから、こっちで払っておいた。試してみないことには判断もできんしな」
「……流石に悪いわよ」
「別に大した額じゃないんだし、気にしなくてもいいさ。どうしてもって言うなら矢を追加購入しておいてくれ」
「専用の矢だから、ちょっと短いのよ」
俺たちの言葉に、しばし眉根を寄せていたアリスであったが、やがて相好を崩して頷いた。
とりあえず、これは明日にでもアリスに確認して貰うこととして――
「で、エレノア。靴の方はどんなもんだ?」
「採算度外視の、コストカット前の品なら、ある程度目途は立ってきたわよ。一般に売り出せるものじゃないけど」
「ふむ……まあ、この際それでもいいか」
まずは理想の性能を実現できる品物を作って、そこからコストカットして量産可能なものを作り上げる。
この場合、最初にできるものはハイクオリティである可能性が高い。
尤も、機能に対して金額が釣り合っているかと問われればそんなことはなく、結構な無駄遣いをすることになるだろうが。
だが、今回は急ぎの案件だ。多少高かったとしても、要求機能を満たせているのならば十分だろう。
「明日には形になると見ていいか?」
「多少余裕は欲しいわね。でも、明日中には何とかするわ」
「了解だ。期待して待ってることにしよう」
「じゃあ明日は成長武器の経験値溜め?」
――唐突に、部屋の扉が開く。
やってきたのは、俺たちの成長武器を抱えたフィノであった。
まあ、俺は気配を捉えていたのだが、唐突な登場に驚いたエレノアは、半眼を彼女へと向けつつ声を上げる。
「フィノ、ドアはノックしなさいと言ってるでしょう」
「ごめんちー。はい、成長武器は強化できたよ」
「ああ、感謝する」
相変わらず、武器以外には興味が無い様子だ。
そんな彼女の様子には苦笑しつつ、俺たちは改めて武器の性能を確認した。
■《武器:刀》餓狼丸 ★9
攻撃力:80
重量:23
耐久度:-
付与効果:成長 限定解放
製作者:-
■限定解放
⇒Lv.1:餓狼の怨嗟(消費経験値10%)
自身を中心に半径38メートル以内に黒いオーラを発生させる。
オーラに触れている敵味方全てに毎秒0.6%のダメージを与え、
与えた量に応じて武器の攻撃力を上昇させる。
⇒Lv.6: 強制解放(リミットブレイク)
餓狼の怨嗟による攻撃力上昇が最大値に到達した状態で、
現段階で蓄積している全経験値ゲージを消費して発動。
五分間の間、全ての攻撃力を大幅に上昇させる。
発動終了後、強制的に成長段階が一段階下降する。
→ 餓狼呑星(がろうどんせい)
発動残り時間を一分消費して発動。次に行う攻撃のダメージを十倍にする。
残り一分未満で発動した場合、攻撃後に強制解放状態が終了する。
■《武器:刀》紅蓮舞姫 ★9
攻撃力:76
重量:20
耐久度:-
付与効果:成長 限定解放
製作者:-
■限定解放
⇒Lv.1:緋炎散華(消費経験値10%)
攻撃力を上昇させ、攻撃のダメージ属性を炎・魔法属性に変更する。
また、発動中に限り、専用のスキルの発動を可能にする。
専用スキルは武器を特定の姿勢で構えている状態でのみ使用可能。
→Lv.1: 緋牡丹(ひぼたん)
上段の構えの時のみ使用可能。
斬りつけた相手に周囲から炎が集まり、爆発を起こす。
→Lv.2: 紅桜(べにざくら)
脇構えの時のみ使用可能。
横薙ぎの一閃と共に飛び散った火の粉が広範囲に爆発を起こす。
→Lv.3: 灼楠花(しゃくなげ)
霞の構えの時のみ使用可能。
突き刺した相手に特殊状態異常『熱毒』を付与する。
→LV.4: 灼薬(しゃくやく)
正眼の構えの時のみ使用可能。
全身に炎を纏い、ステータスを向上させる。
→LV.5: 朱椿(あけつばき)
下段の構えの時のみ使用可能。
周囲の炎を吸収して、HPとMPを回復させる。
→LV.6: 火日葵(ひまわり)
脇構えの時のみ使用可能。
振り上げと共に放つ火球が大爆発を起こす。
→LV.7: 緋岸花(ひがんばな)
下段の構えの時のみ使用可能。
突き刺した地面を中心に、触れるとダメージを与える炎の華を咲かせる。
→LV.8: 火嘆芥子(ひなげし)
中段の構えの時のみ使用可能。
相手に纏わり付き、一定時間ダメージを与え続ける赤紫の炎を刃に纏う。
→LV.9: 緋桐(あかぎり)
霞の構えの時のみ使用可能。
渦状の炎を直線に生み出し、相手を捕えながら高速で移動できる。
⇒Lv.6: 強制解放(リミットブレイク)
緋炎散華を発動している状態で、
現段階で蓄積している全経験値ゲージを消費して発動。
緋炎散華の専用スキルの威力を上昇させ、クールタイムが全て五秒となる。
また、相手の耐性を無視してダメージを与えられるようになる。
発動終了後、強制的に成長段階が一段階下降する。
■《武器:短剣》ネメの闇刃 ★9
攻撃力:72
重量:17
耐久度:-
付与効果:成長 限定解放
製作者:-
■限定解放
⇒Lv.1:暗夜の殺刃(消費経験値10%)
発動中は影を纏った状態となり、敵から認識されづらくなる。
また、発動中に限り、認識されていない相手に対する攻撃力を大きく上昇させる。
更に、4秒に一度、1秒前にいた場所に幻影を発生させる。
⇒Lv.3:夜霧の舞踏(消費経験値5%)
《暗夜の殺刃》の発動中のみ使用可能。
周囲に霧を発生させ、敵からの発見率を大幅に下げる。
⇒Lv.5:無月の暗影(消費経験値10%)
《暗夜の殺刃》の発動中のみ使用可能。
2秒間の間だけ体を透過させ、相手の攻撃をすり抜ける。
⇒Lv.7:孤影の毒刃(消費経験値5%)
《暗夜の殺刃》の発動中のみ使用可能。
発動後一度だけ、攻撃を命中させた相手を『致死毒』状態にする。
⇒Lv.9:死境の淵(消費経験値5%)
《暗夜の殺刃》の発動中のみ使用可能。
自身の『即死』付与成功率を上昇させる。
⇒Lv.6: 強制解放(リミットブレイク)
暗夜の殺刃を発動している状態で、
現段階で蓄積している全経験値ゲージを消費して発動。
発動後、敵一体を攻撃してから一分間、自身のHPがゼロにならなくなる。
一分経過時、発動中に受けたダメージを十倍にして相手に与える。
発動終了後、強制的に成長段階が一段階下降する。
「俺は相変わらず、二人のはいつも通りのスキル追加か」
「私の方は分かりやすいけど、緋真さんのは使ってみないと感覚が分からなそうね」
「一度は発動させた方がいいですね、これは」
しかし、紅蓮舞姫は随分と説明文が長くなったものだ。
緋真は使い分けている姿を目にするが、俺にはこれだけ能力があっても使いこなせなかっただろう。
スキルや魔法であっても持て余している部分が多いのに、こんな複雑なものは扱っていられない。
「とりあえず、明日は少し慣らしだな。フィノ、エレノア。次の成長素材はいつも通り――」
「あ、それなんだけどね、先生さん。次の成長、ちょっと大変かも」
普段と同じ依頼を出そうとした俺の言葉を遮り、フィノが声を上げる。
その言葉に、俺たちは揃って首を傾げた。
確かに、次は大台となる★10だ。何かあっても不思議ではないと思っていた。
しかし、果たしてどのような要素があるというのか――そんな疑問に、フィノは期待を込めた瞳で答えたのだった。
「たぶんだけど、次のレベルアップ……ネームドモンスターの素材、必要かも」