軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

610:試運転

「《ワイドレンジ》、《練命剣》【煌命撃】」

新たなテクニックを覚えてからすぐの戦闘。

少し試してみただけでは分からないため、俺はさっそくこれの試運転を行うこととした。

相手とするのは、悪魔やスレイヴビーストではなく、最初からこの辺りに生息していた魔物である。

名前はオーアクロウラー。その姿は、赤茶色の岩石を背中に背負った巨大なダンゴムシか。

背中がこんもりと岩に覆われているため、どちらかというと岩の塊なのだが、裏返すと大変気色の悪い姿である。

そのため、地面を這っている状態のまま仕留めてしまいたい相手なのだが、何とも頑丈であるため斬撃で仕留め切るのは難しい。

「確かに、こういう時には便利だな、っと!」

こいつらの主な攻撃方法は、丸まった上での高速の体当たりだ。

コミカルな見た目であるが、間違いなく岩石の塊であるため、直撃したら相当な痛手である。

そうして突撃してくるダンゴムシに対し、俺は正面から【煌命撃】を振るって対抗した。

《ワイドレンジ》を使用した【煌命撃】は、まるで電柱を抱えているかのような様相である。

これで重さは無いのだから、何とも不思議な感覚であった。

斬法――剛の型、中天。

幾度か使って感覚は分かってきているため、恐れることなく正面から一撃を振り下ろす。

黄金の軌跡を描くその一閃は、ダンゴムシの殻を砕きながら地面へと陥没させるように叩き潰して見せた。

やはり、手応え以上の威力があることは間違いないらしい。

(この軽さでこの威力ってのが、何とも不思議な気分だが)

通常、こういった鈍器は重さを利用して相手を叩き潰す武器だ。

だからこそ先端部に重心が集中し、遠心力を利用して相手を叩き潰せるような構造となっているのだから。

一方で、【煌命撃】は生命力の塊であるため、重さはない。それは【命双刃】の時と同じであるため、今更疑問に思うほどのことではないが、それでも手に違和感があることは事実だ。

何しろ、重さのない柱を振るって、ハンマーを叩きつける以上の破壊力を生み出しているのだから。

「軽いからこそ高速で振るえるし、その分破壊力も上がるか。いや、おかしなテクニックだな」

まあ、軽いといっても本来の餓狼丸の持つ重さはあるため、幾らでも振り回せるというわけではないのだが。

しかしそれでも十分な威力を発揮した【煌命撃】の一閃は、オーアクロウラーの岩石を粉砕しながら仕留め切ってみせた。

次いで、狙うのはもう一つの攻撃用テクニックである。

「《ワイドレンジ》、《奪命剣》【冥哮撃】!」

黄金の光が霧散した餓狼丸に、今度は黒い闇が収束する。

しかし、現れるのは先ほどのような柱ではなく、切っ先の上に収束する黒い球体だ。

最初は困惑したものだが、一度使ったため今度は混乱するようなことはない。

俺はそのまま、こちらへ近寄ろうとしていたダンゴムシに対し、通常では届かない位置から餓狼丸を振り下ろした。

瞬間、黒い球体が突如として巨大化し、巨大な鉄槌となって敵の体を押し潰す。

《ワイドレンジ》を使っているからというのもあるが、まるでビル解体用の巨大な鉄球でも振り回している気分であった。

「上々、だが――流石に威力は劣るか」

《練命剣》で攻撃した時とは違い、オーアクロウラーはまだ生き残っていた。

打撃の方が効くとはいえ、流石に威力で劣る《奪命剣》では仕留め切れなかったようだ。

尤も、大きくダメージを受けていることに変わりはない。

トドメを刺しておこうと思いつつ接近し――その前に、シリウスの前足が瀕死のダンゴムシを叩き潰していた。

「おっと……まあいいか」

叱っておこうかとも思ったが、別にこちらが仕留めそこなった敵を潰すことは悪いことではない。

そもそも、テクニックの試運転目的で戦っていた相手であり、楽しむほどの戦いではなかった。

この程度の相手であれば、横取りされようとも気にすることも無いだろう。

『《ワイドレンジ》のスキルレベルが上昇しました』

他のメンバーも倒し終わったらしく、戦闘終了のメッセージが流れた。

正直、大して強くもなく退屈な相手ではあったが、打撃攻撃の確認という点ではちょうどいい魔物であっただろう。

まあ、魔法攻撃は行ってこないため、【砕魔撃】の確認は行えなかったのだが。

あちらはあちらで少々特殊なテクニックで、エフェクトそのものは先ほどの【冥哮撃】に近い性質を持っていた。

しかし、叩き付けると同時にスキルのエフェクトが弾け、周囲に飛び散ってしばし浮遊するという性質を持っていたのだ。

これらには通常と同様魔法吸収の効果があり、短い時間ではあるが魔法を受けづらい空間を作ることができる。

魔法破壊の性能そのものもそこそこ高いため、状況によっては使い所も出てくるだろう。

(まあ、エリザリットの戦いで持っていたら便利だったんだがな)

周囲にいくつも魔法を展開する奴の戦い方とは、中々に相性のいいテクニックだっただろう。

昨日の戦いの前にもう少しだけレベルを上げておけばよかったかと、今更ながら後悔することになった。

尤も、後悔とは得てしてそういうものであるが。

「さてと……緋真は普段と変わりなかったが、アリスはどうだった?」

「結構便利よ。鈍い魔物が相手なら、初撃を当ててもこちらを捉えられなかったし」

右手に短剣を、左手にクロスボウを持ったアリスは、普段通りの無表情ながら、どこか楽しげな様子でそう声を上げる。

まあ、今回の敵はアリスにとって相性の悪い相手であったのだが、それでも一定の効果を上げることができたようだ。

「一発目に弓を使って《肉抉》を当てて、弱点を付与したところを突き刺す、なんて戦い方もできたわね。遠距離攻撃ならまず間違いなくこちらを捉えられないわ」

「そりゃまた、戦略の幅が広がりそうだな」

「強力な敵が相手だと、攻撃のチャンスはどうしても少ないから。こういう強化はありがたいわね」

攻撃した後でも敵から捉えられ辛い、というのは驚くべき効果だろう。

アリスの戦闘スタイルは、どうしても攻撃した後のリスクが非常に大きい。

一撃で仕留め切れなければ、反撃を受けて倒されてしまう可能性も高いのだ。

だからこそ、瞬時に離脱する《ブリンクアヴォイド》や《闇月魔法》、相手の動きを止める《闇月の魔眼》などが重宝しているのである。

だが、そもそも攻撃した後も位置がバレづらいのであれば、これらを温存することも可能となる。

アリスの攻撃は強力だ。それを当てる機会が増やせるのは、非常に大きなプラスとなることだろう。

それに――

「矢を使う戦法を組み込みやすくなる。その辺り、考えておいてもいいかもな」

「さっき言ったのの他にも?」

「ああ、お前さんは毒も使えるし、他にもスキルの組み合わせ次第で何かできるかもしれん」

「毒はともかく、後はだいぶ適当じゃない。まあ、考えておくけど……」

流石に、俺も弓を使った経験は無いし、クロスボウも触ったことがある程度だ。

関連するスキルも分からんとなると、どのようなことができるのかはさっぱり分からない。

先ほどアリスが言ったような、弱点を付与する戦い方ぐらいならともかく、より複雑なスキルの組み合わせとなると難しいものだ。

「緋真、何か思いつかないか?」

「いきなり無茶ぶりしますね!? 今のアリスさんのスキル構成の場合、単純な暗殺狙い以外なら、やっぱり薬品を使った状態異常か、即死付与とかじゃないですか?」

「即死ねぇ……まあ、《死神の手》を使う時にも気づかれづらくはなっているけど。スキルエフェクトも出ないし」

元より低確率のものを意図的に狙うのも難しい。

先日は活用していたが、本人曰く『偶然上手くいった』という程度のものでしかないらしい。

尤も、それが狙い易くなるならば、戦力としても期待できるようになるだろう。

「まあ、思いついたら試してみたらいいさ。とりあえず、もう一つぐらいレベルを上げるまでは粘るとしようか」

ここまでレベルが上がってくると、なかなか上がりづらくなるものだ。

もう少し強い敵を求めて、動き回ってみることとしよう。